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第二十八話「戦場での再会と奪還作戦について」

熾烈な歓迎

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 《十一時方向 対空車両 数三》

 着地した機体のほぼ真正面。敵の自走式対空砲が三両見えた。履帯式の車体の上に四門の機関砲を備えた砲塔。HMD上に情報が表示される。ロシア製自走対空砲。対空戦車と言えども、備えている三十ミリ砲は、AMWに取っても大きな脅威となる車両だった。

 それら三両が、着陸したこちらの一団を睨みつけて、今まさに砲弾の豪雨を降らせようとしてきていた。

「させるかっ!」

 それよりも早く、背中で羽根の役目を終えた二門の滑腔砲と、手にしていた短筒が対空車両の方を向き、一斉射。装弾筒付翼安定徹甲弾(APFSDS)二発と、徹甲弾一発がほぼ同時に着弾。大穴を開けた対空戦車は瞬時に爆散した。

『流石、やるわね!』

『先輩さっきからすごーい、ウルトラC連発じゃない?』

 今まさにライフルを撃とうとして、比乃と心視に出番を奪われた形となったメイヴィスとリアが賞賛の声をあげる。

「そんな言葉どこで覚えたの……次が来るよ!」

 格納庫から飛び出すようにして、新たに現れたのは、もはや見慣れたペーチルS。数は十二機。それらが列を成して、ライフルを連射しながらこちらに駆けて来る。それに向けて、砲台と化したTkー11が再度、背中の滑腔砲を撃ち放つ。直撃、胴体からほとんど真二つになった二機のペーチルSがもんどり打って転がる。

 その間にも、上陸に成功した友軍機、グレーの塗装をしたM6が跳躍して火線を避け、ペーチルSと距離を詰める。至近距離でライフルを発砲。また別の機体は、高振動ブレードを敵機の大柄なボディに突き立て、ペーチルSを次々に撃破していく。

 心視も負けじと、照準、発砲、直撃。比乃が機体を跳躍させて敵の射撃を回避する。更に空中へと伸びた曳光弾の線を再跳躍して避け、その間に短筒を照準、撃発。更にもう一機撃破。

 数も機体性能もこちらが上だ。殲滅は時間の問題だった。

 しかし、状況はまだ序盤も序盤である。まだ例の青いAMW、キャンサーの姿は見えない。それに、第三師団のメンバーと、米軍の中でも勘が良い何人かが感じている、共通の違和感があった。今掃討されつつあるペーチルだが、動きがどうにも、ぎこちないのだ。

 回避運動のパターンが一定だったり、近接戦闘に対応できていない。いや、対応しようとしなかったり、まるで新兵でも乗っているかのような動きをしていた。これまで、米軍を苦しめてきたテロリストのパイロットにしては、手応えが無さ過ぎる。

『妙ね……でも、確実に敵戦力は削れているわ。各機、このまま前進。空港を抑えるわよ!』

 奇妙な違和感を胸にしながらも、更に増援で現れた対空戦車を蜂の巣にしながら、メイヴィスは号令を出した。



 米軍と自衛隊が上陸した地点からは、西に主滑走路と繋がる橋、東に副滑走路が伸びている。その間には、ぽっかりと海が広がっている。米軍と自衛隊はどちらかのルート。恐らくは海上からの強襲の可能性が低く、障害物となる施設も多い東側から、侵攻してくるだろう。海中に潜む壮年の男は、そう判断した。

「“ネーレーイス“の具合はどうだ。ドーリス」

 海に沈むスティンレイのコクピットの中、オーケアノスは専用機を与えた部下に事の具合を聞いた。自身の副官、ドーリスが乗っている機体“コキュートス”は、ステュクスの乗っている同型機とは異なる装備をしていた。背中に、レドーム状の大型センサーらしき物を背負っている。

『まだ試験段階でしたから、さしたる成果はあげられませんでした。しかし、足止めにはなったかと……それに、次に活かせれば中々面白いことができそうですが』

 その返事を聞いて、オーケアノスは「そう上手くはいかんか」と呟く。その顔には、これっぽちも残念そうな表情を浮かべていなかった。結果は分かりきっていたようにも見える。所詮、無人機ではな、と更に小さく呟いた。

「だが、それならそれで十分だ。次に活かせるように生き残れよ……オーケアニデス大隊、作戦行動を開始する」

 その静かな号令に、少年少女たちの「了解」の返答が返って来る。彼ら彼女らの静かな、しかしやる気に満ちた返答に、彼は楽し気に笑みを浮かべて言った。

「お楽しみの時間だ。存分に殺戮の限りを尽くせ」



 それは、最後のペーチルSを撃破した直後のことだった。

『こちらBravo1、多数のAMWの反応を探知!  十二時方向、前方の海面から!』

『Teacher1、後方から同じく多数のAMWの反応。上陸してくるのを感知しました』

 部下と安久からの報告、メイヴィス機は思わず足を止めた。前方も後方もあるのは海。それに未だに姿を表さないキャンサー。その機体特性を考えれば、この状況に対する答えは明白だった。

『ステルス?!  今まで隠れていたっていうの?!』

 各々の機体が、突如として前後に展開された敵AMW部隊にどう対応するか戸惑う中、その敵機群は、海面から陸地へと姿を表した。
 青い機体に丸みを帯びた胴体。そして不自然に長い両腕に一対のクローアーム。それは、米軍呼称“キャンサー”の群れだった。その群の中に、見慣れない細身のAMWが二機、混ざっていた。

 その機体は全体的に細く、しなやかな印象を受けるフォルムをしいる。Tkー11とは別の方向性で、神像か何かのような印象を受けるが、その手には大型の長砲身ライフルが握られていて、紛れもなく兵器であることを示していた。

 前後に十五機ずつ。合計三十機のキャンサーと、詳細不明の機体が二機。完全に挟み撃ちをされる形になった米軍と自衛隊の前で、先頭に立った敵機。キャンサーが右腕を胸にやって、恭しく頭を下げた。

『ようこそ、米陸軍に自衛隊の戦士達』

 比乃はその声に聞き覚えがあった。オーケアノス、あの男の声だった。硬直するこちら側を前に、まるで演説でもするように、彼は続ける。

『自分達から死地へと踏み込んでくるその勇猛さ、実に素晴らしい……故に、さよならだ。先にあの世で待っていろ』

 次の瞬間、前後からキャンサーの群れが、波となって一斉に米軍機と自衛隊機に飛び掛かって来た。遮蔽物も何もない滑走路の上は、一瞬で銃弾と斬撃が飛び交う、大乱闘の闘技場へと変貌したのだった。
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