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第三十七話「策謀と共闘について」
もしもの備え
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海上を低空飛行で突っ切って飛ぶ、全長八メートルの西洋鎧の集団があった。グレーの機体を先頭に、赤、水色、黒、それから多数の玉虫色の順で陣形を組んで進んでいる。
その中の赤い西洋鎧の中、分厚い防寒着型のパイロットスーツに身を包んだアリサは、僚機であり親友である真木に、自身の意気込みを話していた。
「あの侍女がいないって言うのは残念だけど、白鴎の仇はいるって言うじゃない、あいつの仇はしっかり取ってやるわ!」
『いや、白鴎君死んでないし。それに、その自衛官が今回の捕獲対象なんでしょ? あんまりボコボコにしたら不味いんじゃない?』
真木のもっともな意見に、アリサは「うっ」と返答を詰まらせた。が、次の瞬間には思い直したように首を振った。
「だ、だったら死なないようにボコればいいのよ!」
などと返す。真木に『勢いだけで考えてるでしょ、アリサ』とじと目で見られていた。再度「ううっ」と呻く。そのやり取りを聞いていた隊長機。グレーの西洋鎧、川口機が通信が割り込んできた。
『二人とも、無駄話はそこまでにして、対象の確保も大事だけど、それ以上に一緒にいる部隊が厄介なんだから、それも忘れないで』
「わ、わかってるわよ!」
『了解です川口さん。それで作戦は?』
真木の問いに、川口は少し沈黙した。作戦について答えようと思ったが、答えようがないのだ。何故ならば、
『……上からの作戦指示は特に無し、ただ現場に急行して目標を確保、ついでに周囲にいるであろうロシア軍と自衛隊を殲滅せよ。としか聞かされてないわ』
『それってつまり……具体的な作戦はないってことですか?』
少女の呆れたような言葉に、川口は肯定するように頷く。
『そうなるわね……本当に、場当たりに急に決まった作戦みたいだから、臨機応変かつ、柔軟に対応せよってことかしらね』
彼女はそこまで話してから、溜息を吐いた。何が「急遽決まりましたが、それでも重要な任務です」だ。この組織の指揮官は、時折、本当に思いつきだけで作戦を決めることがある。突拍子も無い作戦指示は、理詰め派の川口にとっては、大きな悩みの種であった。
脳筋のジェロームであれば、何の疑いもせずに肯定するだろうが、彼女はそこまで単純にはなれなかった。何せ、部下という体で、まだ年若い若者の命を預っている立場なのだ。慎重になるのが普通だろう。
『ともかく、戦闘でやることはいつもと一緒よ。貴方達はなるべく人を傷つけないように戦いなさい。支援に徹しててもいいから』
「えー、なんでよ」
暗に後方にいろと言われ、不満そうなアリサ。そんな彼女を諭すように、しかし厳しい口調で川口は告げる。
『私は、貴方達みたいな子供に手を汚して欲しくないの、従えないなら今からでもジュエリーボックスに戻りなさい。返事は?』
「……りょうかーい」
『了解です』
川口はこの命令を、自分が預かる部隊の中でも唯一の未成年パイロットである二人に、これまで徹底させてきていた。
自分達がしていることは戦争。いや、ほとんどテロと同じだ。その行為に、適正があるという理由だけで、少年少女を加担させていることすら、川口からすれば腹立だしい。その上に人殺しという咎を被らせるのは、余りにも酷だ。
大人として、彼女はせめて、子供である二人に業を重ねさせないように努力する。それが、せめてもの自分の責務であると考えているのだ。
『では、全機。これより予定の攻撃ポイントに到達する。到着は速やかに周辺を包囲。対象を逃すことないように、敵戦力を無力化する』
そう副官の男性が告げて、彼が操る黒色が一機と、玉虫色の機体が総勢十二が編隊を組む。それらの「了解」の声を耳にしながら、川口は自機、ユーディアライトを加速させた。それにアリサのスピネルも続いた。
***
海上からOFMの強襲という報告を受けて、演習場では整備班の速やかな離脱が行われようとしていた。が、その前にと、トレーラーの運転席に勝手に乗り込んでクレーンを操作した森が、荷台からコンテナをいくつか降ろす。
怪訝そうな様子でトレーラーの脇を通りかかったロシア軍人に、英語で「荷下ろしですよ、逃げるには軽い方がいいでしょう」と言って、次に通信機をTkー7改二に繋ぎ、こちらには日本語で告げる。
「もしもし比乃? ここに万が一のために用意しておいた装備置いて行くから、好きに使っていいよ。あ、ただし紛失だけはしないこと、これ絶対ね」
『万が一の装備って……実弾とさっき言ってた装備ですか? ロシア政府の許可は?』
「そんなん取れるわけないでしょ」
『ええ……それ使ったら国際問題になるんじゃ……』
「部隊長がなんとかしてくれるから大丈夫だって、それじゃ、自分達は先に港に戻ってるから、無事に帰るんだよ」
そう告げて森は通信を切った。そして助手席にずれると、そこに慌てた様子のロシア兵が滑り込んで来た。彼はすでに掛かっていたエンジンに驚いて、隣の整備士を睨んだ。睨まれた方はそっぽを向いて口笛を吹いている。
兵士はどうやって、という言葉を飲み込み、助手席の日本人を睨んだまま、
「……緊急事態だから見逃すが、あまり勝手な真似はしないで貰おうか」
「はいはい、それより、さっさと逃げましょ、戦うのは自分達の本分じゃないですし」
英語で忠告するロシア兵だが、それでも森は飄々とした態度を貫いた。兵士は舌打ちすると、トレーラーを前進させた。
「とりあえず、装備を出してみるかな」
走り去るトラックを見送ってから、比乃は不審げに思いながらも機体をコンテナに近づけて、丁寧にかつ強引にこじ開けて中を改める。そこにあったのは、事前に知らされていた通りの物だった。
「……さっきも思ったけどこれ、持ち出したってバレたら国際問題だけでは済まないんじゃないかな」
整頓されたコンテナ内には実弾が入っているであろう短筒と大筒、それに高振動ナイフ。これだけならまだ問題はない。問題なのは、その横に鎮座している光分子カッターにフォトンバンカー、それにフォトンシールド。その脇にある弾倉の中身は、恐らくフォトンバレットだろう。
日本の軍事機密の塊が、そこには満載されていた。部隊長の差し金、相変わらずとんでもないことをするな、と比乃は呆れて溜息が出た。
「確かに、紛失は絶対に許されないな……」
『おーい比乃ー、早くコンテナの中身くれよー』
『早く、戦闘準備するか、逃げないと』
「ああ、うん。少なくとも逃げる必要は無さそうだよ」
言いながら、コンテナの中身を二人の機体に手渡す。渡された装備を見て、志度と心視はそれぞれ『おおう……』『……大丈夫なの、これ』とコメントした。
「紛失したら割と大惨事だから、大事に使ってね。大貫三尉と大関三尉は……」
生身では危険なので、退避してもらおうと外部音声で告げようとしたところ。
『俺達もTkー7改持ってきてあるから、それで迎撃に参加する』
『背中は任せてくれていいぞ』
返事が返ってきた矢先、別のコンテナから二機のTkー7改が起き上がった。
あの二人が機体を持ち込んできていたことまでは知らなかった比乃が、またも溜息を吐いた。ロシア軍が見ている目の前で、隠していた戦力を展開して良いものなのか、と比乃が苦悩し始めたところで、そのロシア側から通信が入った。
『日比野軍曹、見る限り、備えは万全だったと見るべきかね』
アバルキンの淡々とした声が、若干皮肉めいた物に感じられて、比乃はどう返した物か口籠って、
「ああ、えっと……はい、そのようでした。すいません」
『何、謝らなくていい。おかげでOFMを返り討ちにする算段が立てられるのだからな。それに、こちらも実弾くらいは持ち込んできている。万が一のためにだったがな』
アバルキンがあっさりと、自分達の機密事項であろうことを話す。比乃はしかし、そのくらいの用意は向こうもしていただろうな、と特に驚かなかった。むしろ、お互い様ということで少し気が楽になった気さえする。
『私もペーチルで迎撃に参加する。この人数だ、なんとかなるだろう。演習内容を実践するチャンスでもある』
そう言って少佐は頰を釣り上げて笑う。この人もとんだ大物だな、と比乃が思った時、センサーが多数の正体不明の機影を感知した。
「敵影を確認しました――それでは皆さん、これより実戦によるレクチャーの総仕上げに入ります。お覚悟を」
その中の赤い西洋鎧の中、分厚い防寒着型のパイロットスーツに身を包んだアリサは、僚機であり親友である真木に、自身の意気込みを話していた。
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『いや、白鴎君死んでないし。それに、その自衛官が今回の捕獲対象なんでしょ? あんまりボコボコにしたら不味いんじゃない?』
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『それってつまり……具体的な作戦はないってことですか?』
少女の呆れたような言葉に、川口は肯定するように頷く。
『そうなるわね……本当に、場当たりに急に決まった作戦みたいだから、臨機応変かつ、柔軟に対応せよってことかしらね』
彼女はそこまで話してから、溜息を吐いた。何が「急遽決まりましたが、それでも重要な任務です」だ。この組織の指揮官は、時折、本当に思いつきだけで作戦を決めることがある。突拍子も無い作戦指示は、理詰め派の川口にとっては、大きな悩みの種であった。
脳筋のジェロームであれば、何の疑いもせずに肯定するだろうが、彼女はそこまで単純にはなれなかった。何せ、部下という体で、まだ年若い若者の命を預っている立場なのだ。慎重になるのが普通だろう。
『ともかく、戦闘でやることはいつもと一緒よ。貴方達はなるべく人を傷つけないように戦いなさい。支援に徹しててもいいから』
「えー、なんでよ」
暗に後方にいろと言われ、不満そうなアリサ。そんな彼女を諭すように、しかし厳しい口調で川口は告げる。
『私は、貴方達みたいな子供に手を汚して欲しくないの、従えないなら今からでもジュエリーボックスに戻りなさい。返事は?』
「……りょうかーい」
『了解です』
川口はこの命令を、自分が預かる部隊の中でも唯一の未成年パイロットである二人に、これまで徹底させてきていた。
自分達がしていることは戦争。いや、ほとんどテロと同じだ。その行為に、適正があるという理由だけで、少年少女を加担させていることすら、川口からすれば腹立だしい。その上に人殺しという咎を被らせるのは、余りにも酷だ。
大人として、彼女はせめて、子供である二人に業を重ねさせないように努力する。それが、せめてもの自分の責務であると考えているのだ。
『では、全機。これより予定の攻撃ポイントに到達する。到着は速やかに周辺を包囲。対象を逃すことないように、敵戦力を無力化する』
そう副官の男性が告げて、彼が操る黒色が一機と、玉虫色の機体が総勢十二が編隊を組む。それらの「了解」の声を耳にしながら、川口は自機、ユーディアライトを加速させた。それにアリサのスピネルも続いた。
***
海上からOFMの強襲という報告を受けて、演習場では整備班の速やかな離脱が行われようとしていた。が、その前にと、トレーラーの運転席に勝手に乗り込んでクレーンを操作した森が、荷台からコンテナをいくつか降ろす。
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「もしもし比乃? ここに万が一のために用意しておいた装備置いて行くから、好きに使っていいよ。あ、ただし紛失だけはしないこと、これ絶対ね」
『万が一の装備って……実弾とさっき言ってた装備ですか? ロシア政府の許可は?』
「そんなん取れるわけないでしょ」
『ええ……それ使ったら国際問題になるんじゃ……』
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そう告げて森は通信を切った。そして助手席にずれると、そこに慌てた様子のロシア兵が滑り込んで来た。彼はすでに掛かっていたエンジンに驚いて、隣の整備士を睨んだ。睨まれた方はそっぽを向いて口笛を吹いている。
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「……緊急事態だから見逃すが、あまり勝手な真似はしないで貰おうか」
「はいはい、それより、さっさと逃げましょ、戦うのは自分達の本分じゃないですし」
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「……さっきも思ったけどこれ、持ち出したってバレたら国際問題だけでは済まないんじゃないかな」
整頓されたコンテナ内には実弾が入っているであろう短筒と大筒、それに高振動ナイフ。これだけならまだ問題はない。問題なのは、その横に鎮座している光分子カッターにフォトンバンカー、それにフォトンシールド。その脇にある弾倉の中身は、恐らくフォトンバレットだろう。
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『おーい比乃ー、早くコンテナの中身くれよー』
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「ああ、うん。少なくとも逃げる必要は無さそうだよ」
言いながら、コンテナの中身を二人の機体に手渡す。渡された装備を見て、志度と心視はそれぞれ『おおう……』『……大丈夫なの、これ』とコメントした。
「紛失したら割と大惨事だから、大事に使ってね。大貫三尉と大関三尉は……」
生身では危険なので、退避してもらおうと外部音声で告げようとしたところ。
『俺達もTkー7改持ってきてあるから、それで迎撃に参加する』
『背中は任せてくれていいぞ』
返事が返ってきた矢先、別のコンテナから二機のTkー7改が起き上がった。
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『日比野軍曹、見る限り、備えは万全だったと見るべきかね』
アバルキンの淡々とした声が、若干皮肉めいた物に感じられて、比乃はどう返した物か口籠って、
「ああ、えっと……はい、そのようでした。すいません」
『何、謝らなくていい。おかげでOFMを返り討ちにする算段が立てられるのだからな。それに、こちらも実弾くらいは持ち込んできている。万が一のためにだったがな』
アバルキンがあっさりと、自分達の機密事項であろうことを話す。比乃はしかし、そのくらいの用意は向こうもしていただろうな、と特に驚かなかった。むしろ、お互い様ということで少し気が楽になった気さえする。
『私もペーチルで迎撃に参加する。この人数だ、なんとかなるだろう。演習内容を実践するチャンスでもある』
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