種の期限

ながい としゆき

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二日目

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 「信じられない・・・。こんなことが現実に起こるなんて・・・」
すぐに閣僚が首相官邸の四階大会議室に召集され、大型スクリーンで神武と名乗る男とのやり取りが流されている。
「日本だけじゃない。アメリカには初代大統領のジョージ・ワシントン、ロシアにはイヴァン雷帝、イギリスはアン女王、韓国は李成桂(イ・ソンゲ)太祖、中国は始皇帝、フランスはフィリップ二世、インドはマハトマ・ガンジー、その他の国でも各国政府にその国の建国者や英雄達が姿を現して神武天皇と同じことを告げて目の前から忽然と消えてしまったらしい」
「本当なんだろうか?この世に神が本当にいるなんて・・・」
「こうしてしっかりとビデオにも男が写っているじゃないか。これは私と官房長官が夢や幻を見ていたんじゃないという証拠だ」
「しかもパッと消えるところもちゃんと映っている」
「総理、官房長官と二人で私達をからかっているんじゃありませんよね。ビデオも編集すれば瞬間で消えることだって可能ですし」
「冗談で私達がこんなに狼狽えることができるだろうか。それに、ビデオを良く観てほしい。写っている時間も日付もついさっきじゃないか?」
閣僚が集まってもなお堂々巡りで無益な話が延々と続けられている。誰も心からは信じ難いようだ。
 その間にも執務室の電話は鳴り続けており、各国から確認のための情報交換がなされていた。
「オーストラリア首脳のところにはネッド・ケリーが現れたそうです」
電話の対応をしていた官房長官の言葉に、みんな頭を抱えずにはいられなかった。
「まさか、中国やロシアが軍事目的で開発した三次元CGじゃないですよね」
防衛大臣が懸念を声に出す。
「まさか。私は彼に肩を触れられて、近くで彼の息をこの肌で感じたんだ。CGであるはずがない。あれは生身の人間だった」
総理の言葉に官房長官も頷く。
「解りませんよ。科学技術はここ数年で急激に進歩していますからね。特に中国は通信分野での成長は目を見張るものがあるし。そのテクノロジーを軍事転用して我々の想像もできない最新兵器の研究・開発をしている可能性は十分に考えられます。これはその実験とかデモンストレーションかもしれません。各国に知らしめるために」
「この万全なセキュリティーが施されている部屋のどこにプロジェクターが設置できると思う?いくら最新で最小の機器が開発されたからといってこの部屋や各国首脳の執務室に忍び込んで誰にも知られずに設置することなんて不可能だろう?それに中国やロシアの首脳のところにだって現れているんだぞ」
「カモフラージュかもしれません。騙されてはいけませんよ。ここは慎重に対応を見極めないと」
「私達が話した相手が作り物であるはずがない。神武と名乗る男は間違いなく生身の人間だったんだ・・・」
蒼い顔をしながら総理は同じ言葉を繰り返した。
「じゃあ、総理は本当に神武天皇が天之御中主神様の命令でここに現れたと思っているんですか?」
「わからん・・・」
誰もが苦悩の表情を浮かべる総理大臣に注目している。
「わからないが・・・そう考えるしか説明がつかないじゃないか」
 閣僚全員が頭を抱えるしかなかった。この議論は延々と続けても終わりそうもなかったからだ。
「まるで童話やファンタジーの世界ですな。魔法や透明マントを使って『エイっと・・・』。アリの子一匹は入れないところを平然と出入りするなんて」
総務大臣が振り付きで場の緊張を解こうと試みたが、誰も話に乗ってくる者はいなかったので、咳ばらいを一つしながら椅子に深く腰をかけなおした。
「防衛大臣の言うことも理解できるが、まずはこの情報によって他の国々がどのような動きをするか慎重に見極めていこう」
「おかしな動きがないようにしっかりと監視しなければなりませんね。各国の大使館に伝えましょう」
「極秘にな。外にこの情報が漏れないように慎重に動けと伝えろ」
「かしこまりました」
外務大臣が連絡するために席を立つ。
「それと」
みんなが口を開いた官房長官に注目した。
「神武天皇の持ってきた情報が本物であった場合に備えて、どの民族を選択することが我が国にとって最も影響が少なくて、なおかつ最大限の国益があるかも同時に考えなければなりません。これは内閣府を中心として総務省と連携して調査していきましょう。どんなことがあっても我が国が犠牲にならないようにしないといけませんから」
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