種の期限

ながい としゆき

文字の大きさ
19 / 23
六日目

しおりを挟む
 長い沈黙が続いた。神々も生き物達も誰も口を開くものはなかった。
「地球で生きる私の息子達、娘達よ。他に意見はないだろうか。人間に寄生して生きる者達や深海に住む者達の声を聴いて、この者達の意見に反論や否定の言葉はあるか?」
創造主の問いかけに人間以外の生き物達はみんな口を閉ざしてしまった。
「それで、間に合うのでしょうか?」
天使達が不安げに口を開いた。
「私なら大丈夫。人間達が協力さえしてくれればマイナスエネルギーも減りますし、人間達が発信するプラスエネルギーが多くなれば物凄い力になります。人間達だけでなく、私の所に住んでいる皆さんの力を借りることができるのであれば、私ももう少し頑張ってみようと思います」
地球が喘ぎながら答えた。
 その喘ぎ声を聞いて、人間達は地球がかなり弱っているということを改めて知らされたのであった。
「ごめんなさい」
「私も自分の生活のことしか考えていなかった」
「それで精一杯だったんだ」
「本当に知らなかったの」
「どうか許して・・・」
人々は地球に、周りの生き物達に謝り続けた。この言葉が心から発せられた言葉であると生き物達にも伝わり、罵声を浴びせていた生き物達も口をつぐんでいき、それぞれのすすり泣く声だけが世界を包んでいた。
 みんなが創造主の答えを待った。人間達も創造主の答えを待った。
「人間に地球時間で一〇〇年の猶予を与えることにしよう。地球も再生しようと頑張っているところでもあるから、人間に授けた知恵と力で、地球が再び万物が豊かで暮らしやすい環境となるように。人間達は傲慢な気持ちや欲得を捨て、すべての命と種族を超えて、心から歓びを分かち合いながら、この星を守り、治めていかなければならない。私は、一〇〇年後の地球の姿によって、この決定を行なうことにしよう。人間達よ、最も小さな者、最も弱い者達によって、その命が救われたことを心に刻んでおきなさい。その身体は、自分一人だけの物ではないことを、そして、この地球は人間達だけの物ではないことをよくよく心に刻みなさい。助かったのではない。審判はすでに下っているのだ。これからの一〇〇年は心の目を開いて、周りにいる種族と共に助け合いの心を持って歩みなさい」
 「あぁ、神様教えてください。私達はこれからどう生きていけば良いのでしょうか。具体的に何をすれば良いのでしょうか?」
一人の若い娘の問いに、創造主は答えた
「第一に、あなたの心の目を常に開いておきなさい。神々の光は天から降り注ぐものである。光に向かって進みなさい。そうすればあなたの見えるところに影ができることはないから、闇に惑わされずに進めるであろう。第二に、夜を照らすことを止めなさい。夜は大地が休む時間であるから、大地の眠りを妨げてはいけない。夜の闇を照らすことは、闇に住む者達の安らぎを奪ってしまうことになるから。暗闇に住む者達は、暗闇の中でしか生きられない者達である。闇に生きる者達にも、それぞれこの世界の一員として、果たすべき役割があるのだから。闇の中に安らぎがある限り、その者達は闇から出ることはないのだから。第三に、この世界に住むすべての者に慈しみの心を持って接しなさい。空を飛ぶ者、水を泳ぐ者、光の中と闇の中に生きる者達それぞれに神々の祝福があることを知りなさい。第四に、宗教に惑わされてはいけない。どの宗教にも優劣はないからである。真理は教祖を騙る者達の言葉の中にあるではなく、私や私の息子達の魂の中にあるのだから。あなたの生まれ育った国や地域、あなたと共に生きる家族や友人達を悲しませるものは宗教とは呼ばない。真理は、あなたの生まれ育った国や地域、あなたと共に生きる家族や友人達の歓びの中にあることを心に刻みなさい。第五に、あなた達の口から出る言葉には、実現するための想いと力が宿っていることを知りなさい。言葉を口に出す時は、よくよく考え、否定の言葉や相手を罵る言葉を使ってはいけない。一度口から出た負の言葉は波動となって宇宙に広がり、いくら撤回してもそれは二度と消えることはないからである。その言葉が相手だけではなく、あなたにとっても毒となり刃(やいば)となって、あなたの未来や来世、またはあなた達の子孫の未来において実現することになるからである。第六に、これからはあなた達一人ひとりが救世主であることを心に刻みなさい。あなた達はそれぞれの種族を代表して、今、私と対話しているからである。どんなに小さき者にも、どんなに弱き者にも、どんなに命が短き者にも、神々の愛と祝福が与えられていることを知りなさい。第七に、目に見えない者達に対して心を配りなさい。私が創造した神々、天使、精霊達があなた達の周りに存在し、あなた達を愛と慈しみをもって祝福していることを知りなさい。第八に、この世界は神々の愛と祝福であふれていることを知り、これから命をつないでいく者達に語り伝えていきなさい。どの宗教が優れているかではない。どの国が、どの民族が優れているかではない。また、男が優れている、女が優れているではない。スターシードだろうと一国の王だろうと一匹の小さなアリであろうと畑に生える雑草であろうと魂に優劣はない。みんな私から生まれた可愛い息子・娘達である。それは、たとえ闇に蠢く魔界の者達であっても同じである。私はこれから先も今までしてきたことと同じように全ての者に対して等しく愛情を注ぐであろう。であるから、あなたはどんな状況であっても安心して進みなさい。あなたがどう感じ、どう思い、社会や次の世代に伝えていくかが大切であり重要なのである。あなたの胸の内にある神の御心に従って生きなさい。第九に、宿命や運命に惑わされてはいけない。そのようなものは、元々あるはずがないのだから。生きる上で必要なものは、生まれる時に私と約束して決めた今生においての果たすべき課題だけだからである。宿命や運命という言葉に縛られずに、その課題を乗り越えるために一日一日を精一杯過ごしなさい。第十に、自分の御心を信じなさい。あなた達の魂の中に私がいることを感じなさい。周りの出来事や他人の言葉に惑わされず、頭で考えることを止め、御心が正しいと思うことを行ないなさい。常識だからではない。誰かに言われたから、命令されたから行なうのではない。頭で考えるということは、立ち止まるための理由を探すことであり、再び進むことができなくなるからである。考えることは他の者に任せて、あなた達は自分の決断にすべての責任と真心を持って、自由に物事を行ないなさい。」
 人々の多くは涙を止められなかった。そして、誰も口を開く者はいなかった。
 しばらく間をおいて、創造主は話しはじめた。その声は、微笑んでいるような優しさに溢れていた。
「これからの一〇〇年、私は再び口を開くことはないであろう。あなた達人間が、他の生き物達と力を合わせて、地球の再生に取り組む妨げにならないために。そして、私の創造した世界をあなた達人間が、自分達の愛と祝福で治めるために」
 そして、光は消え、日常の音が周りに戻った。鳥や木々や昆虫達の声、創造主の声ももう聞こえない。
 人々はお互いに顔を見合わせ、夢や幻ではなかったことを確認し合っていたが、誰も口を開くものはいなかった。現実に戻った時、神々の存在や目に見えない物達の存在を信じてこなかった者達の多くが、『神』という言葉や他の生き物達と共有した一連の出来事を、口に出すことを躊躇したためである。
 やがて、人々は止めていた足を動かし、一人、また一人と日常の生活に戻って行った。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし

かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし 長屋シリーズ一作目。 第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。 十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。 頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。 一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

睿国怪奇伝〜オカルトマニアの皇妃様は怪異がお好き〜

猫とろ
キャラ文芸
大国。睿(えい)国。 先帝が急逝したため、二十五歳の若さで皇帝の玉座に座ることになった俊朗(ジュンラン)。 その妻も政略結婚で選ばれた幽麗(ユウリー)十八歳。 そんな二人は皇帝はリアリスト。皇妃はオカルトマニアだった。 まるで正反対の二人だが、お互いに政略結婚と割り切っている。 そんなとき、街にキョンシーが出たと言う噂が広がる。 「陛下キョンシーを捕まえたいです」 「幽麗。キョンシーの存在は俺は認めはしない」 幽麗の言葉を真っ向否定する俊朗帝。 だが、キョンシーだけではなく、街全体に何か怪しい怪異の噂が──。 俊朗帝と幽麗妃。二人は怪異を払う為に協力するが果たして……。 皇帝夫婦×中華ミステリーです!

別れし夫婦の御定書(おさだめがき)

佐倉 蘭
歴史・時代
★第11回歴史・時代小説大賞 奨励賞受賞★ 嫡男を産めぬがゆえに、姑の策略で南町奉行所の例繰方与力・進藤 又十蔵と離縁させられた与岐(よき)。 離縁後、生家の父の猛反対を押し切って生まれ育った八丁堀の組屋敷を出ると、小伝馬町の仕舞屋に居を定めて一人暮らしを始めた。 月日は流れ、姑の思惑どおり後妻が嫡男を産み、婚家に置いてきた娘は二人とも無事与力の御家に嫁いだ。 おのれに起こったことは綺麗さっぱり水に流した与岐は、今では女だてらに離縁を望む町家の女房たちの代わりに亭主どもから去り状(三行半)をもぎ取るなどをする「公事師(くじし)」の生業(なりわい)をして生計を立てていた。 されどもある日突然、与岐の仕舞屋にとっくの昔に離縁したはずの元夫・又十蔵が転がり込んできて—— ※「今宵は遣らずの雨」「大江戸ロミオ&ジュリエット」「大江戸シンデレラ」「大江戸の番人 〜吉原髪切り捕物帖〜」にうっすらと関連したお話ですが単独でお読みいただけます。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

処理中です...