14 / 15
十四
しおりを挟む
「お世話になりました。ご期待に応えられなくて本当に申し訳ありませんでした」
「いやいや、こちらこそ本当に大切なことを教えていただきました。これからはこの取り組みがずっと続いていくようにみんなで力を合わせていきます。本当にありがとうございました」
その日の午後、旅館前の公園広場に、帰る私達を見送りに来ていただいた町長をはじめ、数名の町民の皆さんや動物達(ほとんどが人間に変身していたが、元のままの姿の動物達もいた)が集まってくれた。
「今度は取材ではなく、プライベートで遊びに来ます」
「いつでもどうぞ。大歓迎しますよ。第一日目の夕食は大宴会になることを覚悟しておいてくださいね」
集まってくれたみんなが笑っている。
「ありがとう。お陰でクマも幸せでいてくれたってことがわかって安心できたよ」
スーパーの琴美さん、そしてその隣には神社の燦太さんも来てくれている。
「ぜひ、またクマさんをお参りにいらしてください」
二人とハグしながら、近いうちに遊びに来ることを二人に約束する。
これはもっと後になって知ったことだが、あの時、私が帰ってしばらく経ってから、琴美さんはスーパーをパートのオバサンに任せて神社に走ったそうだ。居ても立ってもいられなかったのだろう。そして、燦太さんに案内されてクマさんのお墓に手を合わせたとのことである。琴美さんは、クマさんに家族がいたこと、当時の墓標が綺麗に手入れをされて残っていたことに感激して、燦太さんと泣き合いながらクマさんの話をしたらしい。それからは週二回のペースでお墓に通っているらしく、燦太さんを自分の孫のように思って暮らしているとのことだった。特に二人には幸せになってほしい。
「巫女ギツネさんはやっぱり来てくれなかったな・・・」
周りを見渡してポツリと呟いた私に、
「声をかけたんですが『どうせ近いうちにまた戻ってくるんだから見送りする必要なんてないじゃないか』って言って社の下に戻ってしまいました」
と燦太さんが答えてくれた。
「巫女ギツネさんらしいですね」
「つかの間でも別れるっていうのが苦手なんでしょうね。強がっているのが見え見えでしたよ」
クスクスと笑い合っていると、私の心がまたドキドキしだしてきた。
キツネがキューピッドになるなんて話は聞いたことがないので、
『期待してはいけない』
と言い聞かせる一方で、巫女ギツネの言っていた
『菊理媛神様は縁結びの神様』
という言葉が顔を紅潮させる。
『まぁ、年の差もあるし、可能性は限りなく小さいだろうけど、そうなったらなった時』
と、せめぎあう気持ちに対して半ば開き直りながら、心の高鳴りを力ずくで落ち着かせる。燦太さんの屈託のない笑顔に
『そよ風みたいな人だな・・・』
と改めて思う。
本当に来た時と大違いの光景だ。三日前は通りに誰もいなくて、もの凄く不安だったことが嘘のように、町中に活気があふれていて優しい。
皓太は、少し離れた所で光恵さんと話をしている。別れ難いんだろう。ちょっぴり羨ましくもあるが、皓太が運命を感じられた出会いに立ち会えたことが嬉しくもある。
「辛そうだから、このまま置いて行っちゃおうか?」
皓太に聞こえるように呼びかける。
「ま、待ってくださいよぉ」
皓太が慌てて駆け寄りながら、
「メール送るから。絶対、返事待ってるから。俺もちょくちょく通うから」
光恵さんに向かって手を振って全身で呼びかける。彼女は少し頬を赤らめながら、控えめに手を振り返している。ぜひ上手くいってほしい。
町長をはじめ、周りのみんなが二人を冷やかした。光恵さんは顔がMAXに赤くなった。同性の私から見ても、やはりカワイイ。
「お兄ちゃんもお姉ちゃんも、また来てね」
奈々也くんが大きな声をあげながら飛び跳ねている。
「お兄ちゃんとオバサンね」
皓太の返事に、私は思い切り背中をつねってやった。
町長が皓太に近寄り、握手をしながら
「光恵くんと一緒になる覚悟があるなら、この町に住む覚悟をしておいてもらわなければいけないな。彼女はこの町から離れないだろうし、この町も彼女を放さないだろうから」
皓太の顔が引き締まる。
「私がプライベートで来るのが早いか、キミが光恵さんと結ばれるのが早いか。競争しよっか」
「先輩の温泉好きったら、明日にでも戻って来そうな勢いだからなぁ。俺の方が絶対不利っす」
「どちらが早くても、町には嬉しいニュースですよ」
周りのみんなも町長に同意の声を上げた。
私達は再びみんなにお礼を言って車に乗り込み、会社へと戻るために車を走らせた。
「いやいや、こちらこそ本当に大切なことを教えていただきました。これからはこの取り組みがずっと続いていくようにみんなで力を合わせていきます。本当にありがとうございました」
その日の午後、旅館前の公園広場に、帰る私達を見送りに来ていただいた町長をはじめ、数名の町民の皆さんや動物達(ほとんどが人間に変身していたが、元のままの姿の動物達もいた)が集まってくれた。
「今度は取材ではなく、プライベートで遊びに来ます」
「いつでもどうぞ。大歓迎しますよ。第一日目の夕食は大宴会になることを覚悟しておいてくださいね」
集まってくれたみんなが笑っている。
「ありがとう。お陰でクマも幸せでいてくれたってことがわかって安心できたよ」
スーパーの琴美さん、そしてその隣には神社の燦太さんも来てくれている。
「ぜひ、またクマさんをお参りにいらしてください」
二人とハグしながら、近いうちに遊びに来ることを二人に約束する。
これはもっと後になって知ったことだが、あの時、私が帰ってしばらく経ってから、琴美さんはスーパーをパートのオバサンに任せて神社に走ったそうだ。居ても立ってもいられなかったのだろう。そして、燦太さんに案内されてクマさんのお墓に手を合わせたとのことである。琴美さんは、クマさんに家族がいたこと、当時の墓標が綺麗に手入れをされて残っていたことに感激して、燦太さんと泣き合いながらクマさんの話をしたらしい。それからは週二回のペースでお墓に通っているらしく、燦太さんを自分の孫のように思って暮らしているとのことだった。特に二人には幸せになってほしい。
「巫女ギツネさんはやっぱり来てくれなかったな・・・」
周りを見渡してポツリと呟いた私に、
「声をかけたんですが『どうせ近いうちにまた戻ってくるんだから見送りする必要なんてないじゃないか』って言って社の下に戻ってしまいました」
と燦太さんが答えてくれた。
「巫女ギツネさんらしいですね」
「つかの間でも別れるっていうのが苦手なんでしょうね。強がっているのが見え見えでしたよ」
クスクスと笑い合っていると、私の心がまたドキドキしだしてきた。
キツネがキューピッドになるなんて話は聞いたことがないので、
『期待してはいけない』
と言い聞かせる一方で、巫女ギツネの言っていた
『菊理媛神様は縁結びの神様』
という言葉が顔を紅潮させる。
『まぁ、年の差もあるし、可能性は限りなく小さいだろうけど、そうなったらなった時』
と、せめぎあう気持ちに対して半ば開き直りながら、心の高鳴りを力ずくで落ち着かせる。燦太さんの屈託のない笑顔に
『そよ風みたいな人だな・・・』
と改めて思う。
本当に来た時と大違いの光景だ。三日前は通りに誰もいなくて、もの凄く不安だったことが嘘のように、町中に活気があふれていて優しい。
皓太は、少し離れた所で光恵さんと話をしている。別れ難いんだろう。ちょっぴり羨ましくもあるが、皓太が運命を感じられた出会いに立ち会えたことが嬉しくもある。
「辛そうだから、このまま置いて行っちゃおうか?」
皓太に聞こえるように呼びかける。
「ま、待ってくださいよぉ」
皓太が慌てて駆け寄りながら、
「メール送るから。絶対、返事待ってるから。俺もちょくちょく通うから」
光恵さんに向かって手を振って全身で呼びかける。彼女は少し頬を赤らめながら、控えめに手を振り返している。ぜひ上手くいってほしい。
町長をはじめ、周りのみんなが二人を冷やかした。光恵さんは顔がMAXに赤くなった。同性の私から見ても、やはりカワイイ。
「お兄ちゃんもお姉ちゃんも、また来てね」
奈々也くんが大きな声をあげながら飛び跳ねている。
「お兄ちゃんとオバサンね」
皓太の返事に、私は思い切り背中をつねってやった。
町長が皓太に近寄り、握手をしながら
「光恵くんと一緒になる覚悟があるなら、この町に住む覚悟をしておいてもらわなければいけないな。彼女はこの町から離れないだろうし、この町も彼女を放さないだろうから」
皓太の顔が引き締まる。
「私がプライベートで来るのが早いか、キミが光恵さんと結ばれるのが早いか。競争しよっか」
「先輩の温泉好きったら、明日にでも戻って来そうな勢いだからなぁ。俺の方が絶対不利っす」
「どちらが早くても、町には嬉しいニュースですよ」
周りのみんなも町長に同意の声を上げた。
私達は再びみんなにお礼を言って車に乗り込み、会社へと戻るために車を走らせた。
0
あなたにおすすめの小説
玄関フードの『たま』
ながい としゆき
キャラ文芸
吾輩は『たま』である。だけど、子猫の頃に去勢されたので、タマはもうない。
なんて、すごい文学作品の真似をしてみたけれど、僕には『たま』っていう名前があるし、同居人が変わってもこの名前は引き継がれているから、僕は一生『たま』なんだと思う。それに僕は吾輩というガラでもないし、哲学的な猫でもない。アレコレ難しく考えるよりも、目の前の出来事をあるがままに受け止める方が僕の性に合っているし、何より気楽で良い。(冒頭)
現在の同居人夫婦は、前に住んでいた家で外通いの生活をしていた僕のことを気遣ってくれて、寂しくないようにと玄関フードから外を眺められるように玄関のドアを開けっ放しにしてくれている。
そんな僕が地域のボス猫『海老蔵』とタッグを組んでニャン格を上げるために頑張るハートフルでスピリチュアルでちょっぴりファンタジーな不思議なお話。
処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜
放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!?
「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」
不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
あやかし店主の寄り道カフェへようこそ!
美和優希
キャラ文芸
人を寄せ付けないイケメンクラスメイトは、実は漆黒の狼のあやかしだった。
ひょんなことからその事実を知った高校二年生の綾乃は、あやかし店主の経営する“寄り道カフェ”でバイトをすることになって──!?
人間もあやかしもわけ隔てなく迎え入れる、寄り道カフェには、今日もここを必要とするお客さまが訪れます……!
初回公開*2019.08.07
アルファポリスでの公開日*2020.12.31
*表紙イラストは、たっくん様に描いていただきました。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
烏の王と宵の花嫁
水川サキ
キャラ文芸
吸血鬼の末裔として生まれた華族の娘、月夜は家族から虐げられ孤独に生きていた。
唯一の慰めは、年に一度届く〈からす〉からの手紙。
その送り主は太陽の化身と称される上級華族、縁樹だった。
ある日、姉の縁談相手を誤って傷つけた月夜は、父に遊郭へ売られそうになり屋敷を脱出するが、陽の下で倒れてしまう。
死を覚悟した瞬間〈からす〉の正体である縁樹が現れ、互いの思惑から契約結婚を結ぶことになる。
※初出2024年7月
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる