媛神様の結ぶ町

ながい としゆき

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十四

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 「お世話になりました。ご期待に応えられなくて本当に申し訳ありませんでした」
「いやいや、こちらこそ本当に大切なことを教えていただきました。これからはこの取り組みがずっと続いていくようにみんなで力を合わせていきます。本当にありがとうございました」
 その日の午後、旅館前の公園広場に、帰る私達を見送りに来ていただいた町長をはじめ、数名の町民の皆さんや動物達(ほとんどが人間に変身していたが、元のままの姿の動物達もいた)が集まってくれた。
「今度は取材ではなく、プライベートで遊びに来ます」
「いつでもどうぞ。大歓迎しますよ。第一日目の夕食は大宴会になることを覚悟しておいてくださいね」
集まってくれたみんなが笑っている。
「ありがとう。お陰でクマも幸せでいてくれたってことがわかって安心できたよ」
スーパーの琴美さん、そしてその隣には神社の燦太さんも来てくれている。
「ぜひ、またクマさんをお参りにいらしてください」
二人とハグしながら、近いうちに遊びに来ることを二人に約束する。
 これはもっと後になって知ったことだが、あの時、私が帰ってしばらく経ってから、琴美さんはスーパーをパートのオバサンに任せて神社に走ったそうだ。居ても立ってもいられなかったのだろう。そして、燦太さんに案内されてクマさんのお墓に手を合わせたとのことである。琴美さんは、クマさんに家族がいたこと、当時の墓標が綺麗に手入れをされて残っていたことに感激して、燦太さんと泣き合いながらクマさんの話をしたらしい。それからは週二回のペースでお墓に通っているらしく、燦太さんを自分の孫のように思って暮らしているとのことだった。特に二人には幸せになってほしい。
 「巫女ギツネさんはやっぱり来てくれなかったな・・・」
周りを見渡してポツリと呟いた私に、
「声をかけたんですが『どうせ近いうちにまた戻ってくるんだから見送りする必要なんてないじゃないか』って言って社の下に戻ってしまいました」
と燦太さんが答えてくれた。
「巫女ギツネさんらしいですね」
「つかの間でも別れるっていうのが苦手なんでしょうね。強がっているのが見え見えでしたよ」
クスクスと笑い合っていると、私の心がまたドキドキしだしてきた。
 キツネがキューピッドになるなんて話は聞いたことがないので、
『期待してはいけない』
と言い聞かせる一方で、巫女ギツネの言っていた
『菊理媛神様は縁結びの神様』
という言葉が顔を紅潮させる。
『まぁ、年の差もあるし、可能性は限りなく小さいだろうけど、そうなったらなった時』
と、せめぎあう気持ちに対して半ば開き直りながら、心の高鳴りを力ずくで落ち着かせる。燦太さんの屈託のない笑顔に
『そよ風みたいな人だな・・・』
と改めて思う。

 本当に来た時と大違いの光景だ。三日前は通りに誰もいなくて、もの凄く不安だったことが嘘のように、町中に活気があふれていて優しい。
 皓太は、少し離れた所で光恵さんと話をしている。別れ難いんだろう。ちょっぴり羨ましくもあるが、皓太が運命を感じられた出会いに立ち会えたことが嬉しくもある。
「辛そうだから、このまま置いて行っちゃおうか?」
皓太に聞こえるように呼びかける。
「ま、待ってくださいよぉ」
皓太が慌てて駆け寄りながら、
「メール送るから。絶対、返事待ってるから。俺もちょくちょく通うから」
光恵さんに向かって手を振って全身で呼びかける。彼女は少し頬を赤らめながら、控えめに手を振り返している。ぜひ上手くいってほしい。
 町長をはじめ、周りのみんなが二人を冷やかした。光恵さんは顔がMAXに赤くなった。同性の私から見ても、やはりカワイイ。
「お兄ちゃんもお姉ちゃんも、また来てね」
奈々也くんが大きな声をあげながら飛び跳ねている。
「お兄ちゃんとオバサンね」
皓太の返事に、私は思い切り背中をつねってやった。
 町長が皓太に近寄り、握手をしながら
「光恵くんと一緒になる覚悟があるなら、この町に住む覚悟をしておいてもらわなければいけないな。彼女はこの町から離れないだろうし、この町も彼女を放さないだろうから」
皓太の顔が引き締まる。
「私がプライベートで来るのが早いか、キミが光恵さんと結ばれるのが早いか。競争しよっか」
「先輩の温泉好きったら、明日にでも戻って来そうな勢いだからなぁ。俺の方が絶対不利っす」
「どちらが早くても、町には嬉しいニュースですよ」
周りのみんなも町長に同意の声を上げた。
 私達は再びみんなにお礼を言って車に乗り込み、会社へと戻るために車を走らせた。
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