乙女ゲームやったことないのに悪役令嬢だそうでスルーした所

宝子

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15 王家の内情

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 ノアとフロリーの婚約発表。

 既に、王太子であるジェイムズ・マシュー・ノア・ドラモンドと、コンスタンツェ・マリー・フローレンス・ドラモンドの婚約は公に知られている事である。

 ちなみに王家の名前は、(偉大な先祖、あるいは尊敬する人物の名)・(洗礼名)・(通称)・ドラモンドの配列で決まっている。
 ノアについているこの場合のジェイムズは、実にクインドルガ建国の王者ジェイムズ一世の名前であり、グランドン公爵とは関係ない。グランドンはグランドンで、中興の祖ジェイムズ・パウルの方から取っているらしい。

 フロリーの方のコンスタンツェは養蚕農家の育て親である大刀自から直接もらっており、特に歴史的な偉人という訳ではない。

 そんな奇妙な落差のある名付けの二人だったが、今まで婚約は正式発表されていない。所謂、公然の秘密という奴だ。
 王家の婚姻と言うトップシークレットがいつの間にやらクエンティン中に漏れているというのはとんでもない出来事であるのだが、皆がのほほんとしているのは、そうなっても仕方のない事情があったのである。

 一言で言うと、先代国王が手癖が悪かったのだ。

 言い方を変えると、艶福家。

 もう少し詳しく言うと、フロリーはノアの伯母である。年下でありながら。

 ちなみにクインドルガでは、貴族階級以上の婚姻で、伯父と姪、伯母と甥などは特別に法に触れる事はない。財産や権力の分散を防ぐための措置である。



 もう少し詳細な事実を調べてみると、大体こんなストーリーが出来上がる。

 現国王ヘンリーの父がジョージ。
 ジョージの孫、ヘンリーの息子がノアである。

 ジョージは元々、非常に能力の高い男であった。容姿端麗でありながら頭脳明晰、スポーツ万能、頭の回転が非常に速く空気が読める上に、モチベーションの高い仕事ぶりで成果を上げている君主だったのだが、たった一つだけ欠点があった。

 女性に対して見境がなかった。

 言葉通りの意味で、英雄色を好むというタイプだったのである。

 そのため、正妃である糟糠の妻ジェシカは若い頃から随分泣かされてきた。それ故に、ジョージは決して憎いと思っている訳ではないジェシカに、これ以上、女性は作らないと夫婦だけの約束を取り交わした。それも中年以降になってからの話なのだが。
 まあ、そういう約束を、おおっぴらに口にすることはしなかった。何しろ国王夫妻である。

 しかし、ジョージはどうした訳か、静養地で出会った女性に手を出してしまった。魔が差したと本人は言っている。
 そしてそれが大当たり!

 その愛人、エマが妊娠してしまった。
 ジョージはジェシカの目を逃れてこっそりエマに出産させる。それがフローレンスである。しかし、人の口に戸は立てられず、結局、ジェシカに全部バレてしまった。

 ジェシカは当然ながら大泣きに泣いた。エマを攻撃するような事はしなかったが、約束を裏切られた悲歎に暮れて部屋に籠もり、食事も喉を通らなくなってしまった。
 そのジェシカの悲しみぶりは、当然愛人の方にも耳に入り、ジョージに問い詰めたところ、実は夫婦のそういう約束があったことが分かった。

 エマは、ジョージの艶福家ぶりの事は知っていたため、当然、正妃は黙認しているんだろうと甘い考えで交際し、その上娘も産んでしまったのである。自分が、半ば嫁のような立場になってみれば、ジェシカの裏切られた気持ちは想像も出来る。

 かといって、今更、交際も、出産も、くつがえせることではあるわけがない。生まれた命は生まれた命なのである。

 煩悶を繰り返すうちに、エマの方が、気がついたら鬱状態になっていた。鬱状態のまま乳飲み子の子育て、当然ながら生活が乱れていき、気がついたら体のあちこちに故障を起こし、フローレンスが物心が付く前に病死した。

 こうして生き残ったのがフローレンスである。
 ジョージはフローレンスの身分を秘匿した上で、エマの係累の中では最も羽振りのよい金持ちで、それでいて目立たない身分の地方名主の元に送り込んだ。
 ジェシカがエマへの攻撃に走らなかったのは幸いだったが、こんな状態でいきなり王家の仲間入りをさせるには、あまりに外聞が悪すぎた上に、エマが一般階級の出身である事がネックであった。
 実家がしっかりしている貴族の出ならまだしも、エマは静養地の商家の娘であり、正妃である以上大貴族の出のジェシカに到底太刀打ち出来る存在ではなかったのである。

 その地方名主が巨大な養蚕農家で、大刀自であるコンスタンツェを中心に、何不自由ない生活をフローレンスに与えたし、ジョージも密かに援助して、娘に不幸が訪れないように気を配っていた。


 そして本人が老齢になった頃、当たり前だが、嫡男であるヘンリーへの譲位問題が持ち上がる。

 ジョージは若い頃から体を鍛えていたため丈夫であったが、ちょっとした風邪も治りづらくなってきた事を感じ取った頃合いで、息子に位を譲ることにした。そのことについては、本人も納得していたのだが……。
 そこで、息子ヘンリーに、実はこういうことがありましてと、正直に白状したのであった。

 何故なら、王家の問題であることは確かであったし、本人も体が弱ってきた上に、退位をする以上、今まで通りのワンマンが通用する訳がないのだ。

 ワンマンな上にこの通りの女性問題で、どうして引きずり下ろされる事がなかったのかというと、本当に、業績だけは良かったのだ。
 単純に言うと、「30年前の戦争」で、国を勝利に持っていった立役者が実にジョージ国王なのである。その程度に仕事だけは出来た。


 ヘンリーの方は最初は驚いたが、話を聞いているうちに、あんたならそんなこったろうと思いましたと、新しい妹の存在を認めた。

 ちなみに、ヘンリーも、正妃アイラとの間にノアという一人息子が生まれていた。フローレンスとわずか一歳違いである。
 そろそろ王立学院に入学しようという年頃であった。

 そこで父子は話し合い、王家の財産や権力を分散することを防ぐためという名目で、ノアとフロリーを結婚させるという変化球を投げる事にしたのである。l

 名目は内実を伴ったものであるが、そうすれば、ジョージが孫の婚約者という立場になったフロリーと顔を合わせる事も出来るし、可愛がる事もまあ不可能ではないだろうという判断であった。
 ジェシカの方も、その頃には落ち着いていた。エマの事件があって以降、流石にジョージはこりごりになってしまって、女性に手を出す事は全くなくなったし、愛人の大半にも手切れ金を渡して別れたのであった。
 それに、ジェシカの方も、生まれた娘は何も悪くないということぐらい、分かっていた。


 ヘンリーの正妃アイラの方は、ノア以外に子どもが恵まれなかった。
 ノアがかなりの難産だったためと推測されている。
 アイラは何度か身分を隠してコンスタンツェの養蚕農家を訪れ、フローレンスの様子を見て見たが、おっとりしていて可愛い娘であったし、少なくとも、ブライアンのような凄い兄はいなかった。

 リヴィの事件で度肝を抜かれていた事もあり、ドラモンド王家の内情も内情であり、何よりアイラは元々女の子が欲しかったのだ。
 それで、アイラはヘンリーからの話をよく聞いた上で、王室にフローレンスを迎え入れる事を決めた。その後は、自ら、ノアにとって良いサポート役、クインドルガの王妃としてフローレンスを教育している。

 そういう訳で、フローレンスは僻地の養蚕農家から、王立学院に迎え入れられ、一応、身分は秘匿されていたのだが……。



 どういう訳か、少しずつヒミツはこぼれだし、今ではフローレンスが前国王の娘であるということは、学院中で知らぬ者はいないのであった……。



 公爵家の方は、リヴィとの縁談が消えた件については、他にも政治的に込み入った事情がいくつかあったので、別に惜しくはない。
 それに、王家のフローレンス姫の内情を聞いてみれば、確かに困ったもんだと思うし、うっかりフローレンスが別の貴族の家にでも縁づいて、国が荒れる元になったりするよりは、ジョージの目の届く範囲内で養育されるのは当然の事と思えた。


 しかし。
 それと、収穫祭の恩寵(リード)の(オブ)姫(ミディアム)で、ノアとフローレンスの婚約発表をする際に、リヴィとメルがぶっちぎりで欠席して、他の貴族筋から痛くもない腹を探られるのは御免被りたいのである。

 そういう訳で、収穫祭では、リヴィがフローレンスよりも目立つ事も、フローレンスに見劣りする事も、どっちもNG!
 それはメルも同様!
 そういう、針の目を通すようなイベントなのである。何の針かはわからんが。

 そのことを、ブライアンが任されるのは、「他の政治的に込み入った理由」を省けばどう考えたって妹の王家への縁談を潰したのはブライアンだからである。

 そんなことは、ブライアンだって、言われなくたって知っている。



(考えようによっては、リヴィとフロリーは、ノアを巡って三角関係になってもおかしくないんだが……そうなんだが)
 ブライアンは、日頃の、リヴィに対するフロリーの態度を思い返した。
 懐きすぎるぐらいに懐きすぎている。

(そういう対立が起きる様子もないけれど、ここで、公爵家の立場がこじれたり、あるいは変な噂がまたリヴィの周りで起こったりすることだけは避けなければな……)

 ブライアンは心密かにため息をついた。
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