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フロリーストームと王室
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フロリー……フローレンス姫にとって、最大の悩みは、アメリア・グランドンとの関係である。
どうして、こんなに、メルの事が好きになってしまったのか、フロリーにもよく分からない。
よく分からないけれど、メルの燃えるような赤毛や、真っ青な瞳や、強気な笑顔や(フロリーには意地悪そうではなく、意志が強く決断力のある顔に見えた)、好きな事にいつも夢中な様子や、お喋りの仕方や、負けん気の強さやプライドの高さ、それ全てが、フロリーにとっては大切な大切な、「女神様からの贈り物」のように思えたのであった。
それはきっと、初めて会った時からそうだったんだと、最近になって、フロリーは反芻している。
誰にも言えない気持ちだけに、心の中で奥深く、メルの言葉や記憶を噛みしめ直す事は、フロリーにとってはよくあることだった。
それはフロリーにとって誰にも言えない悩みだったが、もう一つ、彼女には大きな問題と悩みがある。
誰が言ったか「フロリーストーム」である。
魔力漏れの問題で、フロリーは常に、自分が災難や災害を周囲にもたらす性質だという事を知っていた。
しかも、子どもの頃はちょっとした不運を呼び込む程度の能力だったが、成長していくごとに増大し、今では、学校の街路樹を打ち倒したり、大聖堂の屋根を吹っ飛ばしたりと、全くとんでもない出来事ばかり起こしている。
その上、自分自身でコントロールしたくても、自身の体内の霊素が魔力が合わないということについては、クインドルガの現在の魔道学で、解決することは望み薄であった。
フロリーは、自分が、将来の王妃の立場でありながら、不本意に災害を起こして人を傷つけていくのかもしれないと、内心では恐れていた。
それは家族であるドラモンド王室全員が危惧している事であった。皆が皆、フロリーストームの次第に高まっていく威力について、言い知れない不安を抱いていた。事と場合によっては、フロリーを王室から外し、孤独に戻してしまう事になるかもしれないからだ。だが、厳然とドラモンドの血筋を引き、だからこそ人間離れした高い魔力を持ち、それを自分で制御出来ない人間を、どうして「外」に出す事が出来るだろうか?
フロリーの高すぎる魔力故の災害は、それこそが、生粋のドラモンドである証拠、そして、歴代ドラモンド王をも追い越すほどの巨大な才能を持っている証拠なのである。
家族達は、大変に、フロリーを愛した。
彼らは、王家の人間として、何も弱音のような事は言わなかった。フロリーも、少なくとも人前で泣きじゃくるような事はしなかった。
ただ彼らは、本当にわずかであっても希望があるなら手探りで、フロリーの霊素障害を解決しようとしていた。
それは内々で行われた事であり、王室の人間同士だけで、フロリーの霊素の問題をしらみつぶしに調べ、それを外部に漏らさないようにした上で、悲しい顔は見せず、次に起こる災害から守ろうとした。
そして、フロリーを責める事はしなかった。
霊素における問題は、別に、フロリーのせいではないからである。
フロリーは、自分が好きで霊素障害を持って生まれた訳ではないし、わざと災害を起こしたい訳でもない。
むしろ彼女は、反対に、健康で優しい精神を持っていたし、言わないでいいことは言わず、やらないでいいことはやらないで、平穏にいき、両親達のあとをついで立派にクインドルガを統治したいと思っていた。
無論、それは、力を与えられた人間にとって最も大事な事であった。言うべきを言い、言わなくていいことは言わない。やるべきはやり、やらなくていいことはやらない。そのための判断力を身につける事こそが、ノアとフロリーという子ども達に与えられた教育であった。
そういう訳で、フロリーは、「愛され、必要とされているから」、その場にいるべき人間として迎え入れられ、そのための治療と教育を受ける事になったのだ。
王室の人間達は、魔道において、いわば手術のような事を行い、霊素の取り替えを計画していたが、それはすぐには出来るような事ではなかった。霊素を取り替えるといったところで、「霊素」は自然界の固有の素体。確かに、木石から霊素を引き剥がしたりすることは出来るが、同じ事を人間にする訳にはいかない。
そんな事をしたら、相手が死んでしまうかもしれない。
だから、王室の人間が、望んでいたのは、「霊素」を作り出すという荒唐無稽な方法であった。もちろん、どこからともなく勝手に霊素という自然固有の不可思議な物質が、人間のために勝手に発生してくれる訳がない。それは、どこからともなく空から宝石が降ってくるというぐらいありえない話である。
そんな夢想に近い希望を持ちながら、ジョージもジェシカも、ヘンリーもアイラも、ノアも、そしてフロリー本人だって、そんなかすかな希望を持ちながら、霊素の研究を行っていた。
その研究が、滅多に外部に語られる事がなかったのは、フロリーストーム問題を無闇に外部につつかせたくはないということと、もしもその研究が成功したならば、(成功していなくてもとっかかりだけでもつかめたのなら)、ドラモンドの専売特許にして持ち出し禁止にするためである。
フロリーは、そのことを十分に理解していたため、王室の人間として、自分に関する研究を口外にすることはなかったし、常に、自分の行動については、責任がもてないストームの事であっても、愛情や礼儀、誠意は忘れないように心がけていた。
いつだって、ノアや、ほかの大勢の人間が自分を見ている、見守っている、その事を忘れないように。
そして、心密かに思っているアメリアに、いつか、認めてもらえるように、そのために。
言うべきは言い、言わなくていい事は言わずにいた。
ただ、そのときそのとき、やるべきことをやるように、心がけていた。
どうして、こんなに、メルの事が好きになってしまったのか、フロリーにもよく分からない。
よく分からないけれど、メルの燃えるような赤毛や、真っ青な瞳や、強気な笑顔や(フロリーには意地悪そうではなく、意志が強く決断力のある顔に見えた)、好きな事にいつも夢中な様子や、お喋りの仕方や、負けん気の強さやプライドの高さ、それ全てが、フロリーにとっては大切な大切な、「女神様からの贈り物」のように思えたのであった。
それはきっと、初めて会った時からそうだったんだと、最近になって、フロリーは反芻している。
誰にも言えない気持ちだけに、心の中で奥深く、メルの言葉や記憶を噛みしめ直す事は、フロリーにとってはよくあることだった。
それはフロリーにとって誰にも言えない悩みだったが、もう一つ、彼女には大きな問題と悩みがある。
誰が言ったか「フロリーストーム」である。
魔力漏れの問題で、フロリーは常に、自分が災難や災害を周囲にもたらす性質だという事を知っていた。
しかも、子どもの頃はちょっとした不運を呼び込む程度の能力だったが、成長していくごとに増大し、今では、学校の街路樹を打ち倒したり、大聖堂の屋根を吹っ飛ばしたりと、全くとんでもない出来事ばかり起こしている。
その上、自分自身でコントロールしたくても、自身の体内の霊素が魔力が合わないということについては、クインドルガの現在の魔道学で、解決することは望み薄であった。
フロリーは、自分が、将来の王妃の立場でありながら、不本意に災害を起こして人を傷つけていくのかもしれないと、内心では恐れていた。
それは家族であるドラモンド王室全員が危惧している事であった。皆が皆、フロリーストームの次第に高まっていく威力について、言い知れない不安を抱いていた。事と場合によっては、フロリーを王室から外し、孤独に戻してしまう事になるかもしれないからだ。だが、厳然とドラモンドの血筋を引き、だからこそ人間離れした高い魔力を持ち、それを自分で制御出来ない人間を、どうして「外」に出す事が出来るだろうか?
フロリーの高すぎる魔力故の災害は、それこそが、生粋のドラモンドである証拠、そして、歴代ドラモンド王をも追い越すほどの巨大な才能を持っている証拠なのである。
家族達は、大変に、フロリーを愛した。
彼らは、王家の人間として、何も弱音のような事は言わなかった。フロリーも、少なくとも人前で泣きじゃくるような事はしなかった。
ただ彼らは、本当にわずかであっても希望があるなら手探りで、フロリーの霊素障害を解決しようとしていた。
それは内々で行われた事であり、王室の人間同士だけで、フロリーの霊素の問題をしらみつぶしに調べ、それを外部に漏らさないようにした上で、悲しい顔は見せず、次に起こる災害から守ろうとした。
そして、フロリーを責める事はしなかった。
霊素における問題は、別に、フロリーのせいではないからである。
フロリーは、自分が好きで霊素障害を持って生まれた訳ではないし、わざと災害を起こしたい訳でもない。
むしろ彼女は、反対に、健康で優しい精神を持っていたし、言わないでいいことは言わず、やらないでいいことはやらないで、平穏にいき、両親達のあとをついで立派にクインドルガを統治したいと思っていた。
無論、それは、力を与えられた人間にとって最も大事な事であった。言うべきを言い、言わなくていいことは言わない。やるべきはやり、やらなくていいことはやらない。そのための判断力を身につける事こそが、ノアとフロリーという子ども達に与えられた教育であった。
そういう訳で、フロリーは、「愛され、必要とされているから」、その場にいるべき人間として迎え入れられ、そのための治療と教育を受ける事になったのだ。
王室の人間達は、魔道において、いわば手術のような事を行い、霊素の取り替えを計画していたが、それはすぐには出来るような事ではなかった。霊素を取り替えるといったところで、「霊素」は自然界の固有の素体。確かに、木石から霊素を引き剥がしたりすることは出来るが、同じ事を人間にする訳にはいかない。
そんな事をしたら、相手が死んでしまうかもしれない。
だから、王室の人間が、望んでいたのは、「霊素」を作り出すという荒唐無稽な方法であった。もちろん、どこからともなく勝手に霊素という自然固有の不可思議な物質が、人間のために勝手に発生してくれる訳がない。それは、どこからともなく空から宝石が降ってくるというぐらいありえない話である。
そんな夢想に近い希望を持ちながら、ジョージもジェシカも、ヘンリーもアイラも、ノアも、そしてフロリー本人だって、そんなかすかな希望を持ちながら、霊素の研究を行っていた。
その研究が、滅多に外部に語られる事がなかったのは、フロリーストーム問題を無闇に外部につつかせたくはないということと、もしもその研究が成功したならば、(成功していなくてもとっかかりだけでもつかめたのなら)、ドラモンドの専売特許にして持ち出し禁止にするためである。
フロリーは、そのことを十分に理解していたため、王室の人間として、自分に関する研究を口外にすることはなかったし、常に、自分の行動については、責任がもてないストームの事であっても、愛情や礼儀、誠意は忘れないように心がけていた。
いつだって、ノアや、ほかの大勢の人間が自分を見ている、見守っている、その事を忘れないように。
そして、心密かに思っているアメリアに、いつか、認めてもらえるように、そのために。
言うべきは言い、言わなくていい事は言わずにいた。
ただ、そのときそのとき、やるべきことをやるように、心がけていた。
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