乙女ゲームやったことないのに悪役令嬢だそうでスルーした所

宝子

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 メルがフロリーと待ち合わせがあったため、リヴィは先にグランドン邸に戻って、辞典と首っ引きで呪文置き換えに取り組んでいた。

 とにかく、一分一秒でも惜しい毎日だったのだ。



 朝晩の農作業は魔族の名無しにつきあってもらっているため、まだマシなのだが、学校の勉強は自分でやるのが当たり前だし、身につかない勉強はしても意味がない。



(学校の勉強って……意味がないようであるからなー……文系にしろ理系にしろ……農業に使えない事ってほぼないし……関係ないような歴史とかの問題だって……気がついたら繋がってるもんねー……。今、やってる霊素のクッション問題だって……霊素って生命体全てにあるんなら……)

 リヴィは思わず口に出してぼそっと言った。

「結局、農作物全部関係してくんだよね……」





 そう思うと、将来的に農園やるとき、霊素に関しても何かの役に立つんじゃないかと思ってしまい、ついつい真剣に勉強してしまうリヴィであった。



(しかし、ワープロもパソコンもないのは痛いなあ……)



 今のところ、リヴィは藁半紙にペン書きで、呪文の置き換えを延々と行っている。本来なら大学でやる霊素呪文の構文は、想像以上に難しかったが、一回文法を覚えたらこっちのものだった。

 それでもいちいち辞典で確認を取りながら、延々延々、呪文を書き換えしていく。



 手順としては、秦代の白文を、一回、レ点などを入れて読みやすくして、それを読み下して、さらにそれを口語訳にしてという作業を、英語圏の高校生がやってるようなものであって、単純作業ともまた違う面倒さがあった。

 最初は、霊素について無知故に、全く意味の分からない分野だったが、分かってくると、自分の興味の範囲にも入るので、面倒であっても少しずつ面白くなってきた辺りであった。



 そんな訳で、リヴィは、黙々黙々と、難しいがやりがいをちょっとは感じる勉強に取り組んで、藁半紙何枚にも、読み下し文→口語訳 読み下し文→口語訳と書き換え、それをさらに、一定の霊素発動呪文に組み替えて、とやり続けた。



 眠気もあったが、頑張った。

(メルだって、寝ないで頑張ってるんだから、私も、もうちょっとだけ……)

 そろそろ両目は真っ赤に充血していたし、頭痛も酷くて具合が悪かったが、もうちょっと、もうちょっと、と頭をフラフラさせながらペンを動かし続けた。

 腱鞘炎になる日も近い。



 頭痛や眠気と闘いながら、必死に呪文に取り組んでいたため、リヴィは、メルが帰ってきた事に気がつかなかった。



 メルはメルで、絶望に真っ青になりながら、幽霊のように頼りない足取りでフワフワと歩き、クローゼットに向かった。制服から普段着に着替えるためである。



(フロリーストームを潰すのは、霊素呪文でクッション作っちゃえば何とかなるけど、今日これまでの結果を考えてみたら、私とリヴィってさ……)

 ずっと、ステータスageの事ばっかり考えて来たメルは、今更そのことに気がついた。







(原作で恋愛脳大ボケだったオリヴィアやアメリアの反動なんだろうか。二人とも、超絶恋愛音痴ってことになんない?)





 クローゼットに額をぶつけながら、メルは頭の中で呟いた。

(乙女ゲームで恋愛しないっていうか、恋愛音痴で出来ないっつーのに、向こうの野郎キャラの敵意回避って、どうすんのさ……。霊素とステータスageで何とかするっていったら、乙女ゲームをバトルRPGかアクションRPGにするってこと??)

 ゲームシナリオの書き換えは今まで頑張って来たが、「ゲームのジャンル変更」までは考えてなかったメルは、早速その難問に突き当たり、一体どこから手をつければいいのかと、軽く絶望で頭がイっていた。



(いや、今、考えるのは、やめておこう。今やらなきゃいけないことは、これ以上、ステータスを崩さない事と、なんとかして、霊素呪文を収穫祭までに完成させることよ。霊素呪文で、フロリーストームを解決出来たら、少なくとも達成感はあるし、ステータスだってまた上がるんだから、そっちに集中しないと)



 そう考え直して、メルは、普段着の軽い感じのワンピースに着替えて、リヴィがぶつぶつ言いながらへばりついている机に向かった。



 しかし、気を取り直そうとしたところで、今日受けたメルの衝撃は、この数年の中でも最大級のものであった。

 下手をしたら、ボート事故以来、初めてというぐらいの衝撃を受け、ただでさえ限界ぎりぎりの脳にかかっている負荷は、想像を絶するレベルであった。



 メルは幽霊のようなと言う事に語弊があるのなら、半病人同然の足取りで、リヴィが夢中で仕事をしているテーブルの方に着き、椅子を引こうと手を伸ばした。彼女は、手伝う気が満々だった。一学年下とはいえ、優秀な成績を誇るメルは、学力だけいえばリヴィに遜色がないのである。特に魔道と文系。



(う~……フラフラする。リヴィが頑張ってるんだから、私も頑張らなきゃ。二人で、乗り切るのよ。そしてリヴィはリヴィの、私は私の、夢を叶えて、異世界でも頑張って生きていくんだ)



 そう思って足を進めた瞬間、アラビア風の毛皮の絨毯に爪先を引っかけ、メルは前につんのめった。

 慌ててテーブルに手を突いて、バランスを取ろうとする。

 その途端に、手の側面が、引っかかった。



 リヴィが蓋を開けっぱなしにしていたインクの壺に。





「「タイム!!」」

 やはり同じ異世界人。やはり従姉妹。

 二人は同時に同じセリフを叫んだが、時の流れは止まらなかった。

 インクの流れも止まらなかった。

 インクは、あっという間にそこに積んで会った藁半紙をぐっしょりと濡らし、真っ黒に塗り替えた。



 そのとき、リヴィとメルは、世界が破滅する音を確かに聞いたと思った。

 この一週間、睡眠時間も食事の時間も削りに削って、若さも削ってやりこんでいた呪文関係が、一瞬にして真っ黒に消し飛んだ。



「………………」

 リヴィは無言で、メルを見上げた。

 昼下がりの午後の大海原のような茫洋とした顔だった。

 ぼんやりとしていて、何の感情も読み取れなかった。

 ただ呆然と、メルを見上げていた。



 メルは、リヴィのケバケバお水のような顔を見つめた。

 高級娼婦のような顔立ちをしている彼女が、茫洋とした大海原のような表情を取ると、申し訳ないのだが、気だるい色気が爆発していて、原作オリヴィアがなんであんな事になっちゃったのか、ちょっとだけ理解が出来た。



 何はともあれ、一族郎党ギロチンラストだけは回避しなければ、ならない。



 ギロチンラスト、一家無理心中首吊りを回避するために、今、出来る事。









「あ、ごめん。藁半紙、買ってくるわ」



 メルはそう言って背を向けて、大量にインク漬けになった藁半紙を買いに行く事にした。とにかく、動かなければ。



 そのメルのワンピースの背中を、はっしと、リヴィが掴んだ。

 リヴィは、棺桶から立ち上がる吸血鬼のような動きでゆらりと立ち上がり、充血した瞳をメルへと向けた。



「この藁半紙ね、高いのよ。言うなれば、一枚人一人の命ぐらい」



「……ン、そうだね。そうかも……」

 なまじ、普通の声でリヴィがそう言ったため、メルは、底知れない言葉の威力を感じて、素直にそう答えた。



「で、人一人の命って、どれぐらいの扱いか、メルは知ってる?」

「えっと……命の対価って、それは文学的になのか医学的になのか、それとも倫理……」



「地球一個分」





 リヴィは酷く真剣な顔で言い切った。



「地球一個分。この藁半紙一枚はね、地球一個分の高さなの!!!!!」



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