召喚された聖女の兄は、どうやら只者ではないらしい

荷稲 まこと

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番外編 小話・裏話

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◇◇◇

 肌寒さに目が覚めた。窓の外はもう明るい。でも、今日は休日だ。二度寝したって構わない。再度目を瞑って手探りで毛布を探し、手繰り寄せようとした……が、それは一向に手元にやって来なかった。何かに引っ掛かっている。仕方なく瞼を開くと、俺のすぐ隣にこんもりと丸い毛布の山ができていた。

「……レオン?」

 声をかけると、山はびくっと跳ねた。中の人はどうも、起きているらしい。
 ははーん、さては記憶が残っているんだな?
 昨夜のレオンは確実に泥酔していた。じゃなきゃ、あんなに積極的になるはずがない。それをきちんと覚えていて、今猛烈に恥ずかしくなってるのだろう。
 そっとしておくのが、優しい夫としては正解だ。しかし残念ながら、俺は優しくはない。
 山に顔を寄せ、小さく言う。

「昨夜は楽しかったですね?」

 すると、山はやや間を開けて、忘れてくれ、と消え入るような声で答えた。

「忘れません。また飲もうな」
「……二度と酒は飲まん」
「なんでー」
「なんでもだ」

 うう、と小声で唸り、もう一回り小さくなる山。体を起こし、彼を包むように覆い被さる。

「レオンは楽しくなかった?」
「それは……」
「俺は楽しかったよ。新しいレオンにも会えて、嬉しかった。……忘れてほしいくらい嫌? あれは、違う人だったのかな」
「……いや」
「違わないなら、布団の中に俺も入れて。レオンに会わせて」

 小山はもこっと動き、しゅるしゅると衣擦れの音を立てながら平らになった。腕で作られた十五センチほどのトンネル。そこに、頭から入る。
 レオンは顔を赤くして剥れていた。笑ってなくても彼はかわいい。

「お前はずるい。優しいのと意地悪なのが極端すぎる」
「あー、俺もそれは自覚あるけど……仕様がないじゃん、かわいいから優しくしたいし、いじめたい」

 どちらも俺だよ、と続けて言うと、レオンは躊躇いがちに俺の胸に手のひらを当てた。

「……俺は、常日頃から……もっとお前に触れたいと思っている。それが酒で箍が外れて……」
「いいことじゃない?」
「心配になったんだ。あんな……みっともない姿、嫌われやしないかと……」
「ちょっと待て」

 聞き捨てならん。ずいっとレオンに顔をよせ、目を見つめる。

「レオンは俺のこと、みっともないって思ってるってこと?」
「は? なんでそうなる」
「だって、俺はレオンにがっついてるんですけど?」

 彼は驚いた顔をしてから、たしかに、と呟いた。

「だろ? 俺はいつも箍なんか外れて、つーか、ぶっ壊れてんじゃねえかな。それに、あれだあれ。いつだってレオンに酔ってんの。なーんて、くっさい台詞……」
「お前は結構くさいこと言うぞ」
「え、まじ? 恥ずかし……」

 そうなの? 全然自覚なかった。とんだキザ男じゃん、俺。
 
「恥ずかしくないんだと思ってた。<不屈の精神>の賜物かと」
「めちゃくちゃいじるじゃん」
「んふっ……ふふふっ」

 指で口元を覆い、笑いを堪えてるつもりなのかもしれないけど……白い歯がばっちり見えている。レオンじゃなかったら怒ってたぞ、まったく……。ほんと、俺は一生彼には勝てないだろうよ。
 腕を彼の方に伸ばし、おいで、と誘う。彼は俺の胸と顔の間で視線を何度か往復させた後、いそいそと肩口に頭を乗せてきた。本当は嫌なんじゃなくて、遠慮してるだけなんだよな。

「きっと、図々しいところも俺に似てくるから覚悟しとけ」
「……その場合、覚悟するのはお前の方じゃないか?」
「いやいや。俺はレオンがどんなに傍若無人な振る舞いをしようと、受け止める準備はできてっから。いつでもどんとこい」

 なんだそれ、と呆れたようにレオンは言う。本気だぞ、と返すとまた彼は笑いを堪えたのか、吐息を漏らし、ふるふると震えた。
 ぎゅう、と額を俺の胸に押し付けて、彼はぽつりと呟く。

「なあ、なんでか頭が痛いんだ」
「二日酔いだな。水持ってこようか?」
「水はさっき飲んだから、いい。そんなことより……」

 俺が眠るまでこのままでいろ、とレオンは小さな小さな声で命令した。
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