1 / 3
プロローグ 処刑台
しおりを挟む意識が朦朧とした中、死刑執行人に腕を拘束した縄で引かれながら、私は静かに処刑台に向かう。
チラリと横目で処刑台の下を見れば、沢山の民衆が集まり、こちらに罵声や野次を飛ばしている。
台に上がると、10日も牢に入れられほとんど食事も与えられず衰弱しきった私には抗う力も既に無く、容易に膝まづかされた。
執行人がギロリとこちらに睨みをきかせ、帝国の紋章印が押された書状をつらつらと読み出した。
「ルヴィローズ・フォン・トワイライト。この者を妹君刺殺未遂とし、公爵位を剥奪。そして、これより打首の刑を執行する。
またトワイライト公爵家については、多額の賠償金の支払いと、ルヴィローズ廃嫡により、公爵家への責任は今後一切不問とする。」
ルヴィローズはこの乙女ゲームの強制イベントによって、今から断罪される。
元々の私は日本人だったがこの世界に転生した。
幼少期に記憶を取り戻してから、私は必死に断罪、処刑されないように手を尽くしてきた。
もちろん妹に対しても虐めるどころか優しく接していたつもりだし、妹の婚約者の王子との関係も邪魔なんてした記憶もない。
なのに何故…
「…ふっ。」
ゲームの強制力に適わなかった絶望と、これから自分の身に起こることを想像し、恐怖を通り越し思わず笑いがこぼれた。
「まあ!あんな状態でも笑ってるわ!」
「なんと恐ろしい。」
「悪魔のような女ね!」
私の態度に、尚又民衆は沸き立つ。
ああ、今から私は死ぬのか…
ふと前世と今世の両親を思い出す。
…どっちも最悪だったな。
お母さんもお母様も生きてさえいてくれたら…
上がった口角とは裏腹に、涙がつっと頬を流れた。
ぼんやり霞んだ視界のまま、少し顔を上げ民衆に目を向ける。
………
…え?!!
「どうしてここにいるの…?」
私の視界に、民衆に紛れ哀れみの目でこちらを見つめる友人の姿が映った。
見間違いかと思い、一度強く瞼を閉じて深呼吸をする。
重い瞼を開き、もう一度目を凝らしてみた。
平民特有の暗い紺色の髪。そして茶色の瞳をしているのに、平民には見えない程整った顔立ちをした同じ歳くらいの青年が立っている。
間違いなく私の大切な友人、アルだ。
平民は茶色の目。髪色は基本的に茶系や黒色が多いが、稀に紺色もいる。
この町には紺色は少ないので、暗い髪ながらこの群衆の中でもひどく目立つ。
いつも簡素なクリーム色のシャツを着ているのに、今日の彼は黒色のマントに身を包んでいた。
前世の記憶がある私には、彼が喪服姿で弔いに来たかのように見える。
家族と上手くいっていなかった私にとって、アルはこの世界に来て唯一心許せる存在で、何よりも大切な人だった。
きっとアルにとって私はただの話し相手の1人だったのだろうけど…
「アル…」
民衆の群がりを避けるように後方に立つアルをしばらく見つめ、変わらない彼の表情に私は肩を落とした。
「最期なんだから、いつもみたいに笑ってよ…。」
ポツリと呟いた自分の言葉にハッとする。
最期…
こんな、ボロボロで傷だらけで、酷い格好をしている私がアルにとって最後の姿…
なんて、情けないのだろう。
どうせ死ぬのなら、抵抗し騒ぎ立てたりせず、可憐に散りたい。
私は力を振り絞りしっかりと前を見据え全てを諦め死を受け入れた。
執行人に髪を捕まれ四つん這いにされると、後ろ首に冷たく鋭利な物が当たる感触が分かった。
酷く錆びた匂いが届く。
どうやら簡単には死なせて貰えないらしい。
斧が振り上げられ、思わず歯を食いしばった。
キィィィンーーーーー
首を切られたはずだが、何故か痛みはなく金属音が響き渡った。
恐る恐る頭を上げる。
「…あなたは…っ!!」
次の瞬間、執行人の斧は軽々と遠くに吹き飛ばされ、私は暖かで清潔な布に包まれた。
そこからは記憶が曖昧だ…
目の前の人物が私を抱き抱え何かを訴えている。
もうダメだ…
張り詰めた緊張の糸が切れ、私は深い眠りについた。
0
あなたにおすすめの小説
【長編版】悪役令嬢は乙女ゲームの強制力から逃れたい
椰子ふみの
恋愛
ヴィオラは『聖女は愛に囚われる』という乙女ゲームの世界に転生した。よりによって悪役令嬢だ。断罪を避けるため、色々、頑張ってきたけど、とうとうゲームの舞台、ハーモニー学園に入学することになった。
ヒロインや攻略対象者には近づかないぞ!
そう思うヴィオラだったが、ヒロインは見当たらない。攻略対象者との距離はどんどん近くなる。
ゲームの強制力?
何だか、変な方向に進んでいる気がするんだけど。
悪役令嬢に転生したけど、知らぬ間にバッドエンド回避してました
神村結美
恋愛
クローデット・アルトー公爵令嬢は、お菓子が大好きで、他の令嬢達のように宝石やドレスに興味はない。
5歳の第一王子の婚約者選定のお茶会に参加した時も目的は王子ではなく、お菓子だった。そんな彼女は肌荒れや体型から人々に醜いと思われていた。
お茶会後に、第一王子の婚約者が侯爵令嬢が決まり、クローデットは幼馴染のエルネスト・ジュリオ公爵子息との婚約が決まる。
その後、クローデットは体調を崩して寝込み、目覚めた時には前世の記憶を思い出し、前世でハマった乙女ゲームの世界の悪役令嬢に転生している事に気づく。
でも、クローデットは第一王子の婚約者ではない。
すでにゲームの設定とは違う状況である。それならゲームの事は気にしなくても大丈夫……?
悪役令嬢が気付かない内にバッドエンドを回避していたお話しです。
※溺れるような描写がありますので、苦手な方はご注意ください。
※少し設定が緩いところがあるかもしれません。
悪役令嬢に転生しましたが、全部諦めて弟を愛でることにしました
下菊みこと
恋愛
悪役令嬢に転生したものの、知識チートとかないし回避方法も思いつかないため全部諦めて弟を愛でることにしたら…何故か教養を身につけてしまったお話。
なお理由は悪役令嬢の「脳」と「身体」のスペックが前世と違いめちゃくちゃ高いため。
超ご都合主義のハッピーエンド。
誰も不幸にならない大団円です。
少しでも楽しんでいただければ幸いです。
小説家になろう様でも投稿しています。
わがままな婚約者はお嫌いらしいので婚約解消を提案してあげたのに、反応が思っていたのと違うんですが
水谷繭
恋愛
公爵令嬢のリリアーヌは、婚約者のジェラール王子を追いかけてはいつも冷たくあしらわれていた。
王子の態度に落ち込んだリリアーヌが公園を散策していると、転んで頭を打ってしまう。
数日間寝込むはめになったリリアーヌ。眠っている間に前世の記憶が流れ込み、リリアーヌは今自分がいるのは前世で読んでいたWeb漫画の世界だったことに気づく。
記憶を思い出してみると冷静になり、あれだけ執着していた王子をどうしてそこまで好きだったのかわからなくなる。
リリアーヌは王子と婚約解消して、新しい人生を歩むことを決意するが……
◆表紙はGirly Drop様からお借りしました
◇小説家になろうにも掲載しています
勘当された悪役令嬢は平民になって幸せに暮らしていたのになぜか人生をやり直しさせられる
千環
恋愛
第三王子の婚約者であった侯爵令嬢アドリアーナだが、第三王子が想いを寄せる男爵令嬢を害した罪で婚約破棄を言い渡されたことによりスタングロム侯爵家から勘当され、平民アニーとして生きることとなった。
なんとか日々を過ごす内に12年の歳月が流れ、ある時出会った10歳年上の平民アレクと結ばれて、可愛い娘チェルシーを授かり、とても幸せに暮らしていたのだが……道に飛び出して馬車に轢かれそうになった娘を助けようとしたアニーは気付けば6歳のアドリアーナに戻っていた。
何やってんのヒロイン
ネコフク
恋愛
前世の記憶を持っている侯爵令嬢のマユリカは第二王子であるサリエルの婚約者。
自分が知ってる乙女ゲームの世界に転生しているときづいたのは幼少期。悪役令嬢だなーでもまあいっか、とのんきに過ごしつつヒロインを監視。
始めは何事もなかったのに学園に入る半年前から怪しくなってきて・・・
それに婚約者の王子がおかんにジョブチェンジ。めっちゃ甲斐甲斐しくお世話されてるんですけど。どうしてこうなった。
そんな中とうとうヒロインが入学する年に。
・・・え、ヒロイン何してくれてんの?
※本編・番外編完結。小話待ち。
バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました
美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?
捨てられた悪役はきっと幸せになる
ariya
恋愛
ヴィヴィア・ゴーヴァン公爵夫人は少女小説に登場する悪役だった。
強欲で傲慢で嫌われ者、夫に捨てられて惨めな最期を迎えた悪役。
その悪役に転生していたことに気づいたヴィヴィアは、夫がヒロインと結ばれたら潔く退場することを考えていた。
それまでお世話になった為、貴族夫人としての仕事の一部だけでもがんばろう。
「ヴィヴィア、あなたを愛してます」
ヒロインに惹かれつつあるはずの夫・クリスは愛をヴィヴィアに捧げると言ってきて。
そもそもクリスがヴィヴィアを娶ったのは、王位継承を狙っている疑惑から逃れる為の契約結婚だったはずでは?
愛などなかったと思っていた夫婦生活に変化が訪れる。
※この作品は、人によっては元鞘話にみえて地雷の方がいるかもしれません。また、ヒーローがヤンデレ寄りですので苦手な方はご注意ください。
※表紙はAIです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる