7 / 87
リーエンの災難
しおりを挟む
「エン、今日はたくさん歩きましょ。」
リーエンは馬屋から愛馬のエンを連れ出した。
「うん、天気も良いし、楽しみね。」
始めは軽く、次第に速足へ。
この辺りの山はかつて皇族の狩場だった事もあり、土地はなだらかに作り直されている。
育ったサルザックの峠に比べたら馬でも歩きやすい。
ずっと屋敷の中に篭っていると何がなくても気が滅入る気がする。
多少の不便さは覚悟していた中、少なくても馬を駆け回らせる事が出来るほどの敷地を拝領出来た事は救いだった。
日差しは柔らかくて気持ちがいい。
仄かに香ってくるのはなんの香りだろう。
爽やかな気持ちになってくる。
「リーエン様!」
馬で追いかけてきたのは警備頭のリュウだった。
何かあったのか、少し慌てているようだ。
「門扉の前に誰か来たようです。」
「無視よ。」
悩む必要なんてない、私が誰にも会わないで済むためにこの山荘が用意されたのだ。
何もすることなんてない。
「…しかし…沢伝いの細道を知っておりました。」
とリュウが付け足す。
この山荘はかつては皇族の為に作られているので、外部からの分かり易い道は、参道だけだが、入り口は一見すると道には見えないが、少し中に入ればそこは歩きやすく整えられた道になっているところが幾つかある。
沢伝いの道はそのひとつだった。しかし参道に近い場所であったため、柵で塞いだのだ。
暗にかつてこの狩場を使用した事がある、やんごとなき身分かその側近では…?とリュウは匂わせた。
「ますます無視よ!お父様に迷惑は掛けられない!」
リュウには来訪者が柵を越える事がなければ、と条件を付けて放置し、監視だけするように言付けた。
越えるようなことになれば…。
充分不審者で侵入者だ。その時は捕らえるしか無いが、出来る限りトラブルは避けたい。
「わかりました。」
とリュウは駆けていく。
「…戻りましょう。」
万が一侵入者と出くわすという事があってはならない。
ここに私がいる事を知られてはならない。
それより何より、楽しもうと思っていた心が沈んでしまっている。
…悔しいが、それがこの山荘を貰い受ける条件、娘を離したがらない父を帝都で活躍できる場に送り出す為の条件なのだから…。
「ツイてなかったわ。」
山荘へと引き返しながら、また明日乗れるかしら…と考える。
その時
ドォーーーン!!
と山を揺るがすような爆音がした。
「何事!?」
音のした方を見下ろすと黒い煙が立ち上っているのが目に入った。
リーエンの頭に真っ先に思い浮かんだのは、警備の手の者と来訪者との交戦だった。
柵を乗り越えたのかもしれない。
たかが侵入者と侮ったのが間違いだった!
リュウ達は火薬の類いの武器は持っていない。
と、なると、まさか!
「リュウ!シーフォン!」
後先考えずにリーエンはエンを嗾しかけて音のした方向へ駆け出していた。
ぐるりと柵で囲ってしまったため、そこへ行ける道はひとつしかない。リーエンはまずは沢へと降り、沢の中をエンに乗ったまま下っていく。
ふと火薬の匂いが鼻をついた。どうやらこの辺りらしい。
駆けていた馬を一旦止める。
「エン、行ける?」
と馬の様子を気にかけた。
エンが火薬の匂いに怖気付くかと思ったけれど、エンは気にしないようで、ゆっくりとではあるが歩に出した。
「賢いわね。」
リーエンは愛馬を褒める。この馬は山荘の厩に残されていた馬だ。少し癖はあるが、慣れればそれすらも愛しい。
勢いのまま突き進むのでもなく、しかし怖気つく事なく、油断なく、なんとも頼もしい限りである。
突如リーエンの前に1人の男の子が現れた。
歳の頃は10歳ほどか、まだ子供だ。
…この子が侵入者なのかしら?
その子供はリーエンの姿を見て、水に濡れるのも構わずに膝をついた。
「誰だ!」
「…名乗れぬ無礼をお許し下さい。ティバル将軍の娘御とお見受け致します。…どうか我が主君をお頼み申す。」
まだ小さな子供にしか見えないのに、堂々としかし丁寧に膝を折る様子がなんともちぐはぐだ。
リーエンはこの子供が自分の正体を知っている事に驚いて、続けて「主君」と言われた事への反応に一瞬遅れた。
「…えっ?主?」
チラリと子供の背後に視線を移すと、リュウとシーフォンの2人が、黒装束の男達数人と剣を交えて戦いながら、沢へと降りてきたのが見える。
その足元には倒れた1人の男と、馬。
馬は懸命に立ち上がろうとしているが、周りの水は赤い。
「倒れているのが、其方の主君か?」
声を掛けてその子のいた場所に視線を戻したが、その子の姿はもうなかった。
どこに…?消えた…?
迷っている暇はもう無かった。
戦さ場では一瞬の迷いが生命を分ける。
リーエンは脇差を抜いて、交戦している場に、エンごと突っ込んで行った。
リーエンは馬屋から愛馬のエンを連れ出した。
「うん、天気も良いし、楽しみね。」
始めは軽く、次第に速足へ。
この辺りの山はかつて皇族の狩場だった事もあり、土地はなだらかに作り直されている。
育ったサルザックの峠に比べたら馬でも歩きやすい。
ずっと屋敷の中に篭っていると何がなくても気が滅入る気がする。
多少の不便さは覚悟していた中、少なくても馬を駆け回らせる事が出来るほどの敷地を拝領出来た事は救いだった。
日差しは柔らかくて気持ちがいい。
仄かに香ってくるのはなんの香りだろう。
爽やかな気持ちになってくる。
「リーエン様!」
馬で追いかけてきたのは警備頭のリュウだった。
何かあったのか、少し慌てているようだ。
「門扉の前に誰か来たようです。」
「無視よ。」
悩む必要なんてない、私が誰にも会わないで済むためにこの山荘が用意されたのだ。
何もすることなんてない。
「…しかし…沢伝いの細道を知っておりました。」
とリュウが付け足す。
この山荘はかつては皇族の為に作られているので、外部からの分かり易い道は、参道だけだが、入り口は一見すると道には見えないが、少し中に入ればそこは歩きやすく整えられた道になっているところが幾つかある。
沢伝いの道はそのひとつだった。しかし参道に近い場所であったため、柵で塞いだのだ。
暗にかつてこの狩場を使用した事がある、やんごとなき身分かその側近では…?とリュウは匂わせた。
「ますます無視よ!お父様に迷惑は掛けられない!」
リュウには来訪者が柵を越える事がなければ、と条件を付けて放置し、監視だけするように言付けた。
越えるようなことになれば…。
充分不審者で侵入者だ。その時は捕らえるしか無いが、出来る限りトラブルは避けたい。
「わかりました。」
とリュウは駆けていく。
「…戻りましょう。」
万が一侵入者と出くわすという事があってはならない。
ここに私がいる事を知られてはならない。
それより何より、楽しもうと思っていた心が沈んでしまっている。
…悔しいが、それがこの山荘を貰い受ける条件、娘を離したがらない父を帝都で活躍できる場に送り出す為の条件なのだから…。
「ツイてなかったわ。」
山荘へと引き返しながら、また明日乗れるかしら…と考える。
その時
ドォーーーン!!
と山を揺るがすような爆音がした。
「何事!?」
音のした方を見下ろすと黒い煙が立ち上っているのが目に入った。
リーエンの頭に真っ先に思い浮かんだのは、警備の手の者と来訪者との交戦だった。
柵を乗り越えたのかもしれない。
たかが侵入者と侮ったのが間違いだった!
リュウ達は火薬の類いの武器は持っていない。
と、なると、まさか!
「リュウ!シーフォン!」
後先考えずにリーエンはエンを嗾しかけて音のした方向へ駆け出していた。
ぐるりと柵で囲ってしまったため、そこへ行ける道はひとつしかない。リーエンはまずは沢へと降り、沢の中をエンに乗ったまま下っていく。
ふと火薬の匂いが鼻をついた。どうやらこの辺りらしい。
駆けていた馬を一旦止める。
「エン、行ける?」
と馬の様子を気にかけた。
エンが火薬の匂いに怖気付くかと思ったけれど、エンは気にしないようで、ゆっくりとではあるが歩に出した。
「賢いわね。」
リーエンは愛馬を褒める。この馬は山荘の厩に残されていた馬だ。少し癖はあるが、慣れればそれすらも愛しい。
勢いのまま突き進むのでもなく、しかし怖気つく事なく、油断なく、なんとも頼もしい限りである。
突如リーエンの前に1人の男の子が現れた。
歳の頃は10歳ほどか、まだ子供だ。
…この子が侵入者なのかしら?
その子供はリーエンの姿を見て、水に濡れるのも構わずに膝をついた。
「誰だ!」
「…名乗れぬ無礼をお許し下さい。ティバル将軍の娘御とお見受け致します。…どうか我が主君をお頼み申す。」
まだ小さな子供にしか見えないのに、堂々としかし丁寧に膝を折る様子がなんともちぐはぐだ。
リーエンはこの子供が自分の正体を知っている事に驚いて、続けて「主君」と言われた事への反応に一瞬遅れた。
「…えっ?主?」
チラリと子供の背後に視線を移すと、リュウとシーフォンの2人が、黒装束の男達数人と剣を交えて戦いながら、沢へと降りてきたのが見える。
その足元には倒れた1人の男と、馬。
馬は懸命に立ち上がろうとしているが、周りの水は赤い。
「倒れているのが、其方の主君か?」
声を掛けてその子のいた場所に視線を戻したが、その子の姿はもうなかった。
どこに…?消えた…?
迷っている暇はもう無かった。
戦さ場では一瞬の迷いが生命を分ける。
リーエンは脇差を抜いて、交戦している場に、エンごと突っ込んで行った。
0
あなたにおすすめの小説
冷遇された聖女の結末
菜花
恋愛
異世界を救う聖女だと冷遇された毛利ラナ。けれど魔力慣らしの旅に出た途端に豹変する同行者達。彼らは同行者の一人のセレスティアを称えラナを貶める。知り合いもいない世界で心がすり減っていくラナ。彼女の迎える結末は――。
本編にプラスしていくつかのifルートがある長編。
カクヨムにも同じ作品を投稿しています。
前世の記憶しかない元侯爵令嬢は、訳あり大公殿下のお気に入り。(注:期間限定)
miy
恋愛
(※長編なため、少しネタバレを含みます)
ある日目覚めたら、そこは見たことも聞いたこともない…異国でした。
ここは、どうやら転生後の人生。
私は大貴族の令嬢レティシア17歳…らしいのですが…全く記憶にございません。
有り難いことに言葉は理解できるし、読み書きも問題なし。
でも、見知らぬ世界で貴族生活?いやいや…私は平凡な日本人のようですよ?…無理です。
“前世の記憶”として目覚めた私は、現世の“レティシアの身体”で…静かな庶民生活を始める。
そんな私の前に、一人の貴族男性が現れた。
ちょっと?訳ありな彼が、私を…自分の『唯一の女性』であると誤解してしまったことから、庶民生活が一変してしまう。
高い身分の彼に関わってしまった私は、元いた国を飛び出して魔法の国で暮らすことになるのです。
大公殿下、大魔術師、聖女や神獣…等など…いろんな人との出会いを経て『レティシア』が自分らしく生きていく。
という、少々…長いお話です。
鈍感なレティシアが、大公殿下からの熱い眼差しに気付くのはいつなのでしょうか…?
※安定のご都合主義、独自の世界観です。お許し下さい。
※ストーリーの進度は遅めかと思われます。
※現在、不定期にて公開中です。よろしくお願い致します。
公開予定日を最新話に記載しておりますが、長期休載の場合はこちらでもお知らせをさせて頂きます。
※ド素人の書いた3作目です。まだまだ優しい目で見て頂けると嬉しいです。よろしくお願いします。
※初公開から2年が過ぎました。少しでも良い作品に、読みやすく…と、時間があれば順次手直し(改稿)をしていく予定でおります。(現在、146話辺りまで手直し作業中)
※章の区切りを変更致しました。(9/22更新)
虐げられた私、ずっと一緒にいた精霊たちの王に愛される〜私が愛し子だなんて知りませんでした〜
ボタニカルseven
恋愛
「今までお世話になりました」
あぁ、これでやっとこの人たちから解放されるんだ。
「セレス様、行きましょう」
「ありがとう、リリ」
私はセレス・バートレイ。四歳の頃に母親がなくなり父がしばらく家を留守にしたかと思えば愛人とその子供を連れてきた。私はそれから今までその愛人と子供に虐げられてきた。心が折れそうになった時だってあったが、いつも隣で見守ってきてくれた精霊たちが支えてくれた。
ある日精霊たちはいった。
「あの方が迎えに来る」
カクヨム/なろう様でも連載させていただいております
この度娘が結婚する事になりました。女手一つ、なんとか親としての務めを果たし終えたと思っていたら騎士上がりの年下侯爵様に見初められました。
毒島かすみ
恋愛
真実の愛を見つけたと、夫に離婚を突きつけられた主人公エミリアは娘と共に貧しい生活を強いられながらも、自分達の幸せの為に道を切り開き、幸せを掴んでいく物語です。
幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~
二階堂吉乃
恋愛
同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。
1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。
一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。
魔法使いとして頑張りますわ!
まるねこ
恋愛
母が亡くなってすぐに伯爵家へと来た愛人とその娘。
そこからは家族ごっこの毎日。
私が継ぐはずだった伯爵家。
花畑の住人の義妹が私の婚約者と仲良くなってしまったし、もういいよね?
これからは母方の方で養女となり、魔法使いとなるよう頑張っていきますわ。
2025年に改編しました。
いつも通り、ふんわり設定です。
ブックマークに入れて頂けると私のテンションが成層圏を超えて月まで行ける気がします。m(._.)m
Copyright©︎2020-まるねこ
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる