国を割る姫  避けていた宿命が向こうから飛び込んで来るなんて想定外!

枝豆

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郭公の暮らし

鳥が鳴く日

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あれから3年半が過ぎた。

変わった事はあまりない。

朝起きて、家の事をし、シオンの世話をして、笛を吹く。

しいてひとつ変わったことといえば、御用聞きは代替わりし、タオではなく、エイレケという男が来るようになった事だろう。
このエイレケという男は、何故かまるで旧知の仲であるかのように、どこか馴れ馴れしく、どこか感慨深げに私に接してくる。


ある日、エイレケが山荘の改築をすると言い出した。
御用聞きでしかないこの男に、「将軍の別荘」を手直しする権限があるとも思えないが、それを指摘する権限は私にはない。

石垣が取り除かれて、以前将軍が取り付けた柵まで敷地が広がった。
窓や扉に付けられていた錠は外されて広く開けられるようになった。
使っていなかった部屋のいくつかに手が入った。

久しぶりに見る「草」以外の人には管理人ホンとして接しなければならない。

「この別荘は売り払われました。」
ある日エイレケが告げた。
「そうか、では出立の支度を…。」
「その必要はありません。あなたごと売り払われましたので。」

「私ごと…ですか。」
驚きが隠せない。信じられなかった。
幽閉された罪人を建物ごと買い取ったという人がいるわけがない。

しかしエイレケは
「はい、ホン殿ごと。新しいあなたの主人は間もなく参ります。」
と涼しい顔で言ってのけた。


しばらくして大量の荷が届けられた。
どうやら主人となる人は女御のようだ。
ひとつひとつの調度品は宮にあってもおかしくない、手の込んだ美しい物ばかり。

エイレケに言われるまま部屋を拵えていく。
ただ一つ頑丈な錠前が掛けられた長持だけは開けられず、そのまま部屋の隅に据え置いた。

それが終わった頃、今度は同じく男物の調度品が届いた。
どうやら夫婦らしい。
やはりエイレケの指示で、男物は今ままで私が使っていた部屋に据え置かれ、私が使っていたものは納戸にしまう事になった。

その夜、エイレケと共に新たな女主人がやってきた。
その時私は納戸にいるように言われた。
私ごとここに納めてしまうのだろう。

今までの平穏な暮らしが消え失せる事に不安は尽きない。
罪人となっても誰かに傅いた事などない。
新しい主人達との関係はどうなっていくのだろうか。

エイレケに呼ばれ、女主人の部屋に向かう。
開かれた戸の先にいたのは…ユエだった。

「ああ、ああ。」
溢れる涙を隠しもしないで、ユエは立ち上がって私に縋り付いてきた。

「ああ、よかった。ご無事だった。よかった、よかった。」
とユエはわんわんと泣いた。

理解出来ない状況に体が動かなかった。
なぜユエがここに来た。
なぜ私を見て泣いている。
まるでわたしが生きていて良かったと、安堵しているように見えるのは何故なのか。

そして…。
男主人が共に来る事を思い出した。
おそらくユエの新しい伴侶。

私はそっとユエを引き剥がした。

その仕草にユエの表情が固まる。
「…何故?許してはくださらないと。
やっと、やっと会えたのに…。」

意味がわからない。
許す?私がユエを?やっと会えた?
あの日正殿から理由を告げずに追い払って、そのままにしてしまったユエを、私が許す?

「違う。許されないのは私の方だ。」
新しい主人が来るのだろう?前の夫に縋り付いて泣いていてはいけない。

「違います。赦されたので私がここに来たのです。私の主人はただひとり、今も変わりません。」

「リーエン様からの伝言です。ここで美しく鳴け、と。」
ユエが包みを開くとそこにあったのはハンジュ様の琴だった。

「これを。」
エイレケが差し出したのは、納戸に納めたハンジュ様の笛だった。
3年半、毎日手習いをしてきた笛。

「ホン殿、随分上手くなりましたよね。最初の頃はひでぇのなんのって。」
エイレケの言葉はまるでここに来た時から私の笛を聞いていたかのような口ぶりだ。

「私もです。3年半、リーエン様に琴を教えて頂いたんです。」

赦された。
ここで鳴け。
目の前にあえて遠ざけるしか出来なかったユエがいる。
来ると思っていた男主人は、来ない、というかいない。

死を願わない人がいる、とあの日あの男が私に言った宿題の答えがそこにあった。

ああ、ああ。

感情が揺さぶられる。
気付けばいつぶりかわからない涙が溢れている。
泣いていることは優しく袖で頬を拭き取るユエの仕草で気付かされた。



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