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不甲斐ない男
強襲
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「シンエン殿!御免!」
バイセンシャンから戻ってすぐ、真っ直ぐフェイの元には戻らずシンエンの屋敷を訪ねた。
勝手に扉を開けて、勝手に上がり込んだ。
慌てて飛び出してきたのは、シンエンの妻だった。
「ティ殿、いきなりで済まない。マオはどこだ!」
「フーシン!ご容赦を。夫は今は城に上がっております。せめて夫の帰りを!頼みます。」
心の中では済まないと思いながらも、ティバルの与えてくれた策を実行する。
歩みは絶対に止めないと決め、「マオ!マオ!」と名前を叫びながら、手近な戸からどんどんと暴いていく。
「どこだ!母屋かそれとも離れか!?」
「ご容赦下さい。」
と言いながらテイの視線が流れるのを見逃さなかった。
「蔵か。」
「フーシン!おやめください!」
急に慌て始めたテイを残して、そのまま庭へと降りた。この先に蔵がある。
蔵の重たい扉を力任せに開いた。
薄暗い蔵の中に1人の女がちょこんと座っていた。
くるりと振り返ったその顔は痩せ細ってはいたが、間違いなくマオだった。
「マオ!」
「フーシン兄?」
切羽詰まった俺の声とは対照的に、ぽわんとした間の抜けた声で返された。
「ふふふ、フーシン兄、また父上様に怒られたの?」
マオは立ち上がってこちらに向かってゆっくりと歩いてきた。
…思い出した。
剣練や手習が手薄になってくるとよく父に叱られて家に閉じ込められた。俺は10歳、マオはまだ7つくらいか。
逃げ出すのは決まって幼馴染のシンサイの下。ここにくればシンエンが理屈で父に取りなしてくれた。
「…そう。また怒られた。」
ついあどけない様子に毒気を抜かれて、話を合わせてしまった。
「全くもう、何をしちゃったの?」
「ああ、…そう、約束を破ってしまった。」
「じゃあ悪いのはフーシン兄じゃないの。」
「ああ…そうかもしれない。」
「そうかもしれないじゃないわ。お約束を守るのは武士の基本でしょう。」
あの頃のマオだ。
大人振って、シンサイや俺に説教していたマオだった。
「でも大丈夫よ。とと様が仲直りさせてくれるわ。私からもお願いしてあげるね。」
「…大丈夫。マオなんかに頼まなくても自分でなんとかやってみせる。」
…そういつも答えていた。するとマオは…
「ダメよ。フーシン兄はいつもそうやって、父上様を余計に怒らせるじゃないの。マオがお願いしてあげるから、いい子だから大人しくしててね。」
そう、思い出した。
いつも俺を子供扱いするんだ。
良かった…。まだ俺はマオの中にいた。
涙が溢れた。膝から崩れ落ちたのはなぜだろう。
マオは優しくポンポンと俺の頭を叩く。
「もう男の子なのに泣かないの。」
とあどけなく慰めてくれる。
「マオ…川辺に花を摘みに行こう。菜の花が綺麗だよ。」
「嫌よ、葉の花は欲しいけど虫がいるもの。」
「…大丈夫、虫は俺が取ってやるから。」
そうだ。花は好き、だけど虫は嫌い。
虫を見つけると泣き出すマオだ。
「ちゃんと全部取ってくれる?」
「ああ、ちゃんと取ってやるから、行こう。」
「うーん、かか様が良いわよって言ってくれたらね。」
そう言って俺を追いかけてきたサイ殿に顔を向けた。
「かか様、フーシン兄がどうしてもわたしと菜の花を取りに行きたいんだって。仕方がないから付き合ってくるけど、良い?」
「…ええ、ええ、いってらしゃい。」
サイ殿も涙声だ。
「じゃあ、行ってくるね。ほらフーシン兄、いつまでも泣いてないでさっさと行くわよ。」
俺はサイ殿に深く頭を下げ、さっさと歩き出したマオの後を慌てて追いかけた。
バイセンシャンから戻ってすぐ、真っ直ぐフェイの元には戻らずシンエンの屋敷を訪ねた。
勝手に扉を開けて、勝手に上がり込んだ。
慌てて飛び出してきたのは、シンエンの妻だった。
「ティ殿、いきなりで済まない。マオはどこだ!」
「フーシン!ご容赦を。夫は今は城に上がっております。せめて夫の帰りを!頼みます。」
心の中では済まないと思いながらも、ティバルの与えてくれた策を実行する。
歩みは絶対に止めないと決め、「マオ!マオ!」と名前を叫びながら、手近な戸からどんどんと暴いていく。
「どこだ!母屋かそれとも離れか!?」
「ご容赦下さい。」
と言いながらテイの視線が流れるのを見逃さなかった。
「蔵か。」
「フーシン!おやめください!」
急に慌て始めたテイを残して、そのまま庭へと降りた。この先に蔵がある。
蔵の重たい扉を力任せに開いた。
薄暗い蔵の中に1人の女がちょこんと座っていた。
くるりと振り返ったその顔は痩せ細ってはいたが、間違いなくマオだった。
「マオ!」
「フーシン兄?」
切羽詰まった俺の声とは対照的に、ぽわんとした間の抜けた声で返された。
「ふふふ、フーシン兄、また父上様に怒られたの?」
マオは立ち上がってこちらに向かってゆっくりと歩いてきた。
…思い出した。
剣練や手習が手薄になってくるとよく父に叱られて家に閉じ込められた。俺は10歳、マオはまだ7つくらいか。
逃げ出すのは決まって幼馴染のシンサイの下。ここにくればシンエンが理屈で父に取りなしてくれた。
「…そう。また怒られた。」
ついあどけない様子に毒気を抜かれて、話を合わせてしまった。
「全くもう、何をしちゃったの?」
「ああ、…そう、約束を破ってしまった。」
「じゃあ悪いのはフーシン兄じゃないの。」
「ああ…そうかもしれない。」
「そうかもしれないじゃないわ。お約束を守るのは武士の基本でしょう。」
あの頃のマオだ。
大人振って、シンサイや俺に説教していたマオだった。
「でも大丈夫よ。とと様が仲直りさせてくれるわ。私からもお願いしてあげるね。」
「…大丈夫。マオなんかに頼まなくても自分でなんとかやってみせる。」
…そういつも答えていた。するとマオは…
「ダメよ。フーシン兄はいつもそうやって、父上様を余計に怒らせるじゃないの。マオがお願いしてあげるから、いい子だから大人しくしててね。」
そう、思い出した。
いつも俺を子供扱いするんだ。
良かった…。まだ俺はマオの中にいた。
涙が溢れた。膝から崩れ落ちたのはなぜだろう。
マオは優しくポンポンと俺の頭を叩く。
「もう男の子なのに泣かないの。」
とあどけなく慰めてくれる。
「マオ…川辺に花を摘みに行こう。菜の花が綺麗だよ。」
「嫌よ、葉の花は欲しいけど虫がいるもの。」
「…大丈夫、虫は俺が取ってやるから。」
そうだ。花は好き、だけど虫は嫌い。
虫を見つけると泣き出すマオだ。
「ちゃんと全部取ってくれる?」
「ああ、ちゃんと取ってやるから、行こう。」
「うーん、かか様が良いわよって言ってくれたらね。」
そう言って俺を追いかけてきたサイ殿に顔を向けた。
「かか様、フーシン兄がどうしてもわたしと菜の花を取りに行きたいんだって。仕方がないから付き合ってくるけど、良い?」
「…ええ、ええ、いってらしゃい。」
サイ殿も涙声だ。
「じゃあ、行ってくるね。ほらフーシン兄、いつまでも泣いてないでさっさと行くわよ。」
俺はサイ殿に深く頭を下げ、さっさと歩き出したマオの後を慌てて追いかけた。
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