政略結婚は不幸の種 知らない間に織物職人は第二王子の婚約者になっていました

枝豆

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私はリビングに移動して殿下を待っていた。
襲われかけたという恐れと無我夢中で振り下ろした鋏が突き刺さる感触とがごちゃごちゃになって体の中で渦巻いている。
とにかく寒い。指先が冷たいし、唇と身体が震えるのが抑えられない。
ベルーさんがかけてくれたガウンだけでは足りなくて、毛布を追加してもらってそれにおとなしく包まっている。

気付けにとお酒を勧められたが、酒を口に含む気にはなれなくて、濃いお茶を所望した。

廊下が騒がしくなり、荒々しく扉が開かれた。
「リーン!大丈夫か?何が起きた!」
殿下が駆け寄ってくれて毛布ごと私を抱きしめてくれる。
「すまない、そばにいなくて。」

殿下の腕と胸の中にすっぽりと包まれると私の中でごちゃごちゃになって居座っていた何かがスッと消えていく。
震えの代わりに温かい何かが胸の中に広がっていくのがわかる。
きっともう大丈夫。殿下が来てくれたから、大丈夫。

そう思えると涙が溢れてきた。
おかしいな、もう泣かないって決めたのに。
殿下の胸にギュッと顔を押し付けた。
腕にさらに力が込められるのを肩と背中で感じた。
我慢出来なくなって、子供のようにわんわん声を張り上げて泣いてしまう。
「大丈夫。怖かったな、よく頑張った。」
殿下は耳元で優しく声を掛けてくれて、震える身体を丁寧にさすってくれる。

「何者かが寝室に侵入したようです。」
ペルーさんが殿下に状況を説明して、殿下はアレンさんとマクシマスさんとに何か指示を出している。
その間も私の身体をしっかりと抱きしめていてくれた。

しばらくそうしていると、マクシマスさんが戻ってきた。
「カレンの姿が見えません。廊下番の交代の時間の少し前にカレンがやって来て、窓の下から物音がするから確認して欲しいと言ったそうです。」
「2人ともか?」
「ええ。交代の廊下番が来るまでほんのわずかな時間だったようで、その間はカレンとペルーとで大丈夫だから、と。」

「不覚だ、俺のミスだ。」
殿下の呟く声が耳元で聞こえた。

殿下にはどうする事も出来なかったと思う。
カレンさんは王妃様付きだったお方と聞いている。カレンさんを疑うことは王妃様、母親を疑うことに等しいはず。
殿下を除いて、一番私に寄り添ってくれていた王妃様からの推薦だったんだから。

王妃様とお会いした日の嬉しそうなカレンさんの顔を思い出した。
普段全く感情を見せなかったカレンさんと、どちらが本当のカレンさんだったんだろう。

殿下の腕の外では、普通に聞いたら怖い話が飛び交っている。たくさんの騎士が部屋に入っては出て行く。
指示を出しているのは大体がアレンさんだ。
「全ての門を閉じろ!総動員で侵入者を探せ!背後を調べるから見つけても殺すな!それからカレンの事を調べろ、徹底的にだ!特に賓客の離宮からは誰一人外へ出すな。」
「王太子殿下と宰相閣下に連絡を。王妃様にはまだ伝えるな。」
次々と出される命令に、次々と人が従っていく。

でも殿下だけは全く動かない。
私を腕の中に抱きこんでくれている。
「…行かないで。」
漏れ出てしまった本音に、言ってしまった後悔があふれる。
大丈夫って言わなきゃいけないのに、その一言がどうしても出せない。

…おかしいな。いつから私はこんなに弱くなっちゃったんだろう。

「安心して、どこにも行かない。ここにいるから。」
甘く甘く殿下の声が耳に入ってくる。吐息が頸に掛かるくらい殿下は近くにいてくれる。

それだけで安心出来る。

ううん、違う。

そうじゃないと安心出来ない。
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