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不審な者
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モーリ兄様の成人のお誕生日。
ママが近くにいない兄様のために、たくさんのおかみさんが領主館に集まっていた。
代行夫人のローラ様を筆頭に、ママも金物屋の奥さんも粉屋のおばあちゃんも。
みんなで部屋をかざり、みんなで料理を作り、みんなで食べる。
貴族のやり方ではないんだけど、レイン様がそれがいいんだって。
パパが新しいドレスを作ってくれて、朝からモーリ兄様と一緒に過ごす。
「ねえ兄様、また王都へ言っちゃうの?」
「今年は行かないよ。ううん、もう行かない。成人したからね、母上の言いなりでなくても良くなったんだ。」
「やったあ!じゃあ、リーンが編み物教えてあげる!」
その時母が迎えにきた。
「リーン、ごめんなさい。家に帰るわ。」
「えっ?まだパーティーしてないのに?」
「そうね、ごめんね。でも帰らないといけないの。」
ぷうー。
帰りたくなぁーい!
ギュッと兄様にしがみついた。
兄様は優しいから背中を撫でて慰めてくれる。
「お仕事ですか?そうでしたらリーンだけでも…。」
そうそう、兄様もっと言って!
リーンだけでも残って欲しいって。
「それが…フラン様から先触れがあって…。」
フラン様が来るの!
ヤダヤダ、怖い。
「…ママ、帰ろ。」
「うん、そうね、帰ろうね。」
「リーン…。」
もう一度兄様をギュッと抱きしめて
「せいじんおめでとう。これからもずっといっしょにいてね。」
頬にチュッとキスをして、キスをしてもらった。
「また来るね。」
と部屋から出た。
玄関ホールで領主代行夫人ローラ様にママが呼び止められて、何も考えずに扉を開けて外に出た。
「…ネズミがいる。」
低い、暗い、怖い声がした。
「なぜこの屋敷にネズミがいる。」
イヤイヤ、怖い怖い。
ママ、兄様、助けて。
身体が動かない。冬なのに、初雪の日なのに身体中から汗が出る。
パーン!
耳元で大きな音がして頬が急に熱くなってジンジンして。雪の上に投げ出された。
「やっ、い、ったぁ!」
背中に感じるのはヒールの踵?
グリグリと踏みつけられる。
思わず主を見上げる。
冷たい氷の目が見下ろしている。
「この泥棒ネズミがっ!死ね。」
いや、やめて痛い、痛い、痛い!
パッと目が覚めた。
なんか暑くて息苦しい…。
また夢を見てしまった、今夜は…成人の誕生日の…かな。うん、雪の日だったのはモーリ兄様の誕生日だったはず。
あれ?部屋が真っ暗だ。
いつもなら小さな燭台は残されているのに、灯火が消されたか燭台ごと隠されたか。
誰かが帳の中にいる息遣いを感じた。
私の背中の方から私の方を伺っている。
何かあったのかもしれない。
「…うん?カレンさん?」
カレンさんだと分かったわけじゃなかった、もし就寝中に寝室に立ち入る人がいるとしたら、殿下かカレンさんだと思っただけ。
ハッっと大きく息を呑む気配を感じた。
その時私の首に暖かい両手が掛かる。
えっ!?
首に掛けられた手はギュッと力をこめてきて、息が出来ない。
えっ!待って!止めて!
手でなんとか相手の腕を払おうともがいた。
けれど手の主は私の体に馬乗りになってきて、私の力では退けることができないでいた。
私は相手の手を払いのけることを諦めて、近くに何かないかと探る。
枕の横に籠がある。モーリ兄様がくれた毛糸が入っている籠に手が掛かり、籠が倒れた。
残っていた毛糸や追加した刺繍の道具が散乱した。
その時、私の手に触れたもの…。
(鋏!)
鋏を掴んで、首に掛かっている手に勢いよく突き刺した。
ぐっあっう。
苦しそうなうめき声がすると、不審な者は背後の扉、いつもは施錠されていて開かないはずの扉から廊下へと走り出した。
居間と繋がっている扉が開き、不審番をしていたと思われるベルーさんが部屋を覗き込んだ。
「アイリーン様!」
はあ、はあと荒い息を吐き出して、嘔吐いている私を見つけて駆け寄ってくれる。
それからペルーさんは大きく開かれたままの扉をみて追いかけようとした。
「待って!行かないで!」
ハッとしてペルーさんが止まる。
「何かおかしいです。ここにいてくれますか?」
「すみません、取り乱しました。そうですね、アイリーン様のそばにいるべきですね。」
振り下ろした鋏の感触と聞こえたうめき声、私は確かに誰かに鋏を突き刺した。
その時の感触を思い出すと背中に冷たい物が上ってきた。
ペルーさんが灯りをつけてくれる。
床に誰かの血の痕があった。
「アイリーン様のではありませんね?」
「はい、私のではありません。」
「カレンがきませんね。」
ペルーさんが言う。
「殿下は?」
「少しご用があるとお出かけになられました。アレン様とマクシマス様をお連れになられました。
廊下番がいたはずですが、やはりいないようです。」
巡回していた近衛が開くことのない扉が開いていることに気付いたのか、急いでやって来た。続けて廊下番をしていた2名もやってきた。
とりあえず殿下に急ぎ部屋に戻るように伝言を頼み、ペルーさんは扉を施錠した。
「何があったのですか?」
「よくわかりません。人の気配がして目が覚めました。首に手を掛けられて、手近にあった鋏を突き刺しました。」
「誰かわかりますか?」
「いえ、暗かったので。」
とりあえず場所を変えましょう、とペルーさんは私にガウンを掛けてくれた。
ママが近くにいない兄様のために、たくさんのおかみさんが領主館に集まっていた。
代行夫人のローラ様を筆頭に、ママも金物屋の奥さんも粉屋のおばあちゃんも。
みんなで部屋をかざり、みんなで料理を作り、みんなで食べる。
貴族のやり方ではないんだけど、レイン様がそれがいいんだって。
パパが新しいドレスを作ってくれて、朝からモーリ兄様と一緒に過ごす。
「ねえ兄様、また王都へ言っちゃうの?」
「今年は行かないよ。ううん、もう行かない。成人したからね、母上の言いなりでなくても良くなったんだ。」
「やったあ!じゃあ、リーンが編み物教えてあげる!」
その時母が迎えにきた。
「リーン、ごめんなさい。家に帰るわ。」
「えっ?まだパーティーしてないのに?」
「そうね、ごめんね。でも帰らないといけないの。」
ぷうー。
帰りたくなぁーい!
ギュッと兄様にしがみついた。
兄様は優しいから背中を撫でて慰めてくれる。
「お仕事ですか?そうでしたらリーンだけでも…。」
そうそう、兄様もっと言って!
リーンだけでも残って欲しいって。
「それが…フラン様から先触れがあって…。」
フラン様が来るの!
ヤダヤダ、怖い。
「…ママ、帰ろ。」
「うん、そうね、帰ろうね。」
「リーン…。」
もう一度兄様をギュッと抱きしめて
「せいじんおめでとう。これからもずっといっしょにいてね。」
頬にチュッとキスをして、キスをしてもらった。
「また来るね。」
と部屋から出た。
玄関ホールで領主代行夫人ローラ様にママが呼び止められて、何も考えずに扉を開けて外に出た。
「…ネズミがいる。」
低い、暗い、怖い声がした。
「なぜこの屋敷にネズミがいる。」
イヤイヤ、怖い怖い。
ママ、兄様、助けて。
身体が動かない。冬なのに、初雪の日なのに身体中から汗が出る。
パーン!
耳元で大きな音がして頬が急に熱くなってジンジンして。雪の上に投げ出された。
「やっ、い、ったぁ!」
背中に感じるのはヒールの踵?
グリグリと踏みつけられる。
思わず主を見上げる。
冷たい氷の目が見下ろしている。
「この泥棒ネズミがっ!死ね。」
いや、やめて痛い、痛い、痛い!
パッと目が覚めた。
なんか暑くて息苦しい…。
また夢を見てしまった、今夜は…成人の誕生日の…かな。うん、雪の日だったのはモーリ兄様の誕生日だったはず。
あれ?部屋が真っ暗だ。
いつもなら小さな燭台は残されているのに、灯火が消されたか燭台ごと隠されたか。
誰かが帳の中にいる息遣いを感じた。
私の背中の方から私の方を伺っている。
何かあったのかもしれない。
「…うん?カレンさん?」
カレンさんだと分かったわけじゃなかった、もし就寝中に寝室に立ち入る人がいるとしたら、殿下かカレンさんだと思っただけ。
ハッっと大きく息を呑む気配を感じた。
その時私の首に暖かい両手が掛かる。
えっ!?
首に掛けられた手はギュッと力をこめてきて、息が出来ない。
えっ!待って!止めて!
手でなんとか相手の腕を払おうともがいた。
けれど手の主は私の体に馬乗りになってきて、私の力では退けることができないでいた。
私は相手の手を払いのけることを諦めて、近くに何かないかと探る。
枕の横に籠がある。モーリ兄様がくれた毛糸が入っている籠に手が掛かり、籠が倒れた。
残っていた毛糸や追加した刺繍の道具が散乱した。
その時、私の手に触れたもの…。
(鋏!)
鋏を掴んで、首に掛かっている手に勢いよく突き刺した。
ぐっあっう。
苦しそうなうめき声がすると、不審な者は背後の扉、いつもは施錠されていて開かないはずの扉から廊下へと走り出した。
居間と繋がっている扉が開き、不審番をしていたと思われるベルーさんが部屋を覗き込んだ。
「アイリーン様!」
はあ、はあと荒い息を吐き出して、嘔吐いている私を見つけて駆け寄ってくれる。
それからペルーさんは大きく開かれたままの扉をみて追いかけようとした。
「待って!行かないで!」
ハッとしてペルーさんが止まる。
「何かおかしいです。ここにいてくれますか?」
「すみません、取り乱しました。そうですね、アイリーン様のそばにいるべきですね。」
振り下ろした鋏の感触と聞こえたうめき声、私は確かに誰かに鋏を突き刺した。
その時の感触を思い出すと背中に冷たい物が上ってきた。
ペルーさんが灯りをつけてくれる。
床に誰かの血の痕があった。
「アイリーン様のではありませんね?」
「はい、私のではありません。」
「カレンがきませんね。」
ペルーさんが言う。
「殿下は?」
「少しご用があるとお出かけになられました。アレン様とマクシマス様をお連れになられました。
廊下番がいたはずですが、やはりいないようです。」
巡回していた近衛が開くことのない扉が開いていることに気付いたのか、急いでやって来た。続けて廊下番をしていた2名もやってきた。
とりあえず殿下に急ぎ部屋に戻るように伝言を頼み、ペルーさんは扉を施錠した。
「何があったのですか?」
「よくわかりません。人の気配がして目が覚めました。首に手を掛けられて、手近にあった鋏を突き刺しました。」
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