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行かないで
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陛下の執務室で書類を捲る。
これからエリール関連の書類は俺のところへ回すらしい。
父上は、
「あの娘を上手く使ってレインをこき使えばいい。」だと。
悪趣味にも程がある。
不快感を殺しながら書類を見ていく。
ふと1枚の書類が気になった。
エリール製品の輸出許可を求める書類。
クズとワイン。
どちらも送り先はザイモックで、既に許可が出ていた。
エリールには珍しい食品の輸出が目を引いた。
「ザイモックはエリール領ですよね?それでも許可が要るのですか?」
「ああ、ウッドバーンは自治国家だからな、扱いは外国貿易だ。」
クズ…どこかで聞いた?
ああ、温室で見たカズラだ。
瞬間頭の中で色々な出来事が混ざり合って爆発した。
クズはカズラ。カズラはクズ。
カズラは染料に混ぜる。
リーンが織っている布、バーンとエリールカズラの意匠。
ザイモックのために作られたバーン織。
…あの時聞こえないフリをしたモーリの言葉。「ホセが樽を動かす。」
樽…ワイン樽?染色職人がワイン?
女装した騎馬隊員。
近衛でも騎士でもなく、何故馬の扱いに長けているものが選ばれる?
あれ以来屋敷に籠って全く顔を見せない伯爵。いや、ウッドバーン総首長。
様々な事柄が絡み合って、1つの方向を示した。背中を冷たいものが駆け抜ける。リーン!まさか!
考え過ぎか?間違いであってくれ!
でも…?確かめなければ!
慌てて書類を捲る。
「どうしました?」
アレンが怪訝な顔をする。
「荷は?荷はいつ出る?」
「うん?エリールのクズとワインですか?
確か…ここに。」
アレンが何枚か書類を捲る。
「ああ、これですね。
一昨日エリールを出ています。」
「旅程は?今はどこだ?」
「今日、ヴァネッサの港から船で、ですね。」
ここからヴァネッサまでは半日。
もし考えた通りならば…?まだ間に合うか?もう遅いか?
リーンの姿を確かめなければ安心出来なかった。
「いくぞ!」
何もかも放り投げて駆け出した。
アレンが慌てて追いかけてくるが、気にしている余裕はない。
王城から王子宮まで走った。
部屋にリーンはいなかった。
ほとんど部屋に篭っているリーンの外出の隙を狙って、下女達が掃除に勤しんでいるだけだ。
机の上に綺麗に畳まれた布が目に入る。織り機から外されたそれは今朝までリーンが織っていたもの。
(出来たのか…?)
広げて愕然とする。
リーンが入れると言っていた鳥の絵柄は、胴の途中で不自然に途切れている事に目を疑った。
「リーンは!リーンはどこだ、どこに行った!」
俺の突然の剣幕に怯えながらも掃除婦の1人が
「王妃様に呼ばれて王妃宮に。」
と答えてくれる。
王妃宮!
ああ、いつの間に。
叔母上と父に気を取られてばかりいて、母を忘れていた。
母が動いたのなら!厄介なことになったのを悟る。
今度は王妃宮に急いだ。
しかし入り口の近衛に止められた。
「止めるな!通せ!母上はどこだ!」
「申し訳ありません、殿下。
殿下だけはここは通してはならないと王妃様のご命令です。」
「退け!ここを通せ!」
仕方なく剣を抜く。
「退け!」
俺の立場で城を守る為に侍ってくれる者たちに剣を向ける日が来るなんて考えたこともなかった。
(すまない。)心の中で詫びる。
「仕方ありません。王妃様も本気の様子です。」
衛兵達もすかさず剣を抜いた。
「御免!」
迷わず切り掛かってくるが、直ぐにわかった。
時間稼ぎだ、本気で仕留めには来ていない。俺の剣を受けては流し続ける。
ああ、くっそ!
こんな事をしていたらリーンは行ってしまう。
「アレン!お前が行け!馬か、馬車だ!クリスがいるはず!クリスを止めろ!」
なんとか衛兵達を堰き止めて、アレンがすり抜けて走れるだけの道を開ける。
「頼む!リーンを止めてくれ。」
アレンはいきなり執務を放り出して走り出した殿下の姿にただ驚いた。
何があった?
よくわからないまま付いてきて、王妃宮の前での大立ち回りまで始まる始末。
殿下がおかしくなったかとさえ頭によぎったが、殿下の言葉に状況を理解し、無我夢中で走り出した。
なぜ!殿下にさえ何も言わずに行ってしまわれるとでもいうのか?
宮の壁に沿って走り抜ける。馬車ならどこかの入り口に付けられているはず。
立ち塞がる衛兵は申し訳ないが斬りつける。
相手が手加減してくれているのはわかるのだけれど、文官の私には手加減はしてやれない。
「すまん、殿下の一大事だ、許せ。」
謝りながら斬って、走った。
見慣れない馬車が厨房の勝手口に付けられているのを見つけた!
あれだ!
「クリス!」
駆け寄ろうとした時、馬車を護衛していた衛兵にまた止められた。
今度は剣を折られて身体ごと羽交い締めだ。
「離せ!殿下のご命令だ!あの者を行かせてはならぬ!」
勝手口から人が出てきた。
ローラとアイリーン様!
「お待ち下さい、アイリーン様!行ってはなりません。」
声に気付いたアイリーン様がハッとした顔をするのが見える。
クリスが腰に下げた剣に手を掛けて身構える。
アイリーン様の足が止まった。
まだ間に合う!アイリーン様は迷われている!
「アイリーン様、殿下はこちらに向かっておられます。しばらくお待ちを!アイリーン様!」
こんなに大きな声が出せたのかと自分でも驚くほどに声を張り上げる。
しかしローラは迷う素振りもなく馬車に乗り込んだ。
「お待ちを!アイリーン様。せめてせめて殿下に…。」お別れを…と紡ぎたかった言葉はアレンの目から溢れ出した涙で続かなかった。
「放せ!くそっ、放せ!」
めちゃくちゃに身体を捩り、拘束から抜け出そうと足掻いた。
なぜ離れなくてはならないのか!
あんなにあんなに幸せそうなお二人だったのに。
ローラに手を引かれ、クリスに押されてリーン様は馬車に押し込まれた。
「アイリーン様ーーーー!」
間をおかずクリスが御者台に飛び乗る。
あっけなく馬車は走り去った。
ピィーーーーー。
馬車が走り出すと共に、高く長く笛の音が響いた。
王宮勤めなら誰もが知っている作戦終了の合図だ。
「ああ、殿下…。もうしわけ、ありませ、ん。」
アレンはその場に崩れ落ちた。
これからエリール関連の書類は俺のところへ回すらしい。
父上は、
「あの娘を上手く使ってレインをこき使えばいい。」だと。
悪趣味にも程がある。
不快感を殺しながら書類を見ていく。
ふと1枚の書類が気になった。
エリール製品の輸出許可を求める書類。
クズとワイン。
どちらも送り先はザイモックで、既に許可が出ていた。
エリールには珍しい食品の輸出が目を引いた。
「ザイモックはエリール領ですよね?それでも許可が要るのですか?」
「ああ、ウッドバーンは自治国家だからな、扱いは外国貿易だ。」
クズ…どこかで聞いた?
ああ、温室で見たカズラだ。
瞬間頭の中で色々な出来事が混ざり合って爆発した。
クズはカズラ。カズラはクズ。
カズラは染料に混ぜる。
リーンが織っている布、バーンとエリールカズラの意匠。
ザイモックのために作られたバーン織。
…あの時聞こえないフリをしたモーリの言葉。「ホセが樽を動かす。」
樽…ワイン樽?染色職人がワイン?
女装した騎馬隊員。
近衛でも騎士でもなく、何故馬の扱いに長けているものが選ばれる?
あれ以来屋敷に籠って全く顔を見せない伯爵。いや、ウッドバーン総首長。
様々な事柄が絡み合って、1つの方向を示した。背中を冷たいものが駆け抜ける。リーン!まさか!
考え過ぎか?間違いであってくれ!
でも…?確かめなければ!
慌てて書類を捲る。
「どうしました?」
アレンが怪訝な顔をする。
「荷は?荷はいつ出る?」
「うん?エリールのクズとワインですか?
確か…ここに。」
アレンが何枚か書類を捲る。
「ああ、これですね。
一昨日エリールを出ています。」
「旅程は?今はどこだ?」
「今日、ヴァネッサの港から船で、ですね。」
ここからヴァネッサまでは半日。
もし考えた通りならば…?まだ間に合うか?もう遅いか?
リーンの姿を確かめなければ安心出来なかった。
「いくぞ!」
何もかも放り投げて駆け出した。
アレンが慌てて追いかけてくるが、気にしている余裕はない。
王城から王子宮まで走った。
部屋にリーンはいなかった。
ほとんど部屋に篭っているリーンの外出の隙を狙って、下女達が掃除に勤しんでいるだけだ。
机の上に綺麗に畳まれた布が目に入る。織り機から外されたそれは今朝までリーンが織っていたもの。
(出来たのか…?)
広げて愕然とする。
リーンが入れると言っていた鳥の絵柄は、胴の途中で不自然に途切れている事に目を疑った。
「リーンは!リーンはどこだ、どこに行った!」
俺の突然の剣幕に怯えながらも掃除婦の1人が
「王妃様に呼ばれて王妃宮に。」
と答えてくれる。
王妃宮!
ああ、いつの間に。
叔母上と父に気を取られてばかりいて、母を忘れていた。
母が動いたのなら!厄介なことになったのを悟る。
今度は王妃宮に急いだ。
しかし入り口の近衛に止められた。
「止めるな!通せ!母上はどこだ!」
「申し訳ありません、殿下。
殿下だけはここは通してはならないと王妃様のご命令です。」
「退け!ここを通せ!」
仕方なく剣を抜く。
「退け!」
俺の立場で城を守る為に侍ってくれる者たちに剣を向ける日が来るなんて考えたこともなかった。
(すまない。)心の中で詫びる。
「仕方ありません。王妃様も本気の様子です。」
衛兵達もすかさず剣を抜いた。
「御免!」
迷わず切り掛かってくるが、直ぐにわかった。
時間稼ぎだ、本気で仕留めには来ていない。俺の剣を受けては流し続ける。
ああ、くっそ!
こんな事をしていたらリーンは行ってしまう。
「アレン!お前が行け!馬か、馬車だ!クリスがいるはず!クリスを止めろ!」
なんとか衛兵達を堰き止めて、アレンがすり抜けて走れるだけの道を開ける。
「頼む!リーンを止めてくれ。」
アレンはいきなり執務を放り出して走り出した殿下の姿にただ驚いた。
何があった?
よくわからないまま付いてきて、王妃宮の前での大立ち回りまで始まる始末。
殿下がおかしくなったかとさえ頭によぎったが、殿下の言葉に状況を理解し、無我夢中で走り出した。
なぜ!殿下にさえ何も言わずに行ってしまわれるとでもいうのか?
宮の壁に沿って走り抜ける。馬車ならどこかの入り口に付けられているはず。
立ち塞がる衛兵は申し訳ないが斬りつける。
相手が手加減してくれているのはわかるのだけれど、文官の私には手加減はしてやれない。
「すまん、殿下の一大事だ、許せ。」
謝りながら斬って、走った。
見慣れない馬車が厨房の勝手口に付けられているのを見つけた!
あれだ!
「クリス!」
駆け寄ろうとした時、馬車を護衛していた衛兵にまた止められた。
今度は剣を折られて身体ごと羽交い締めだ。
「離せ!殿下のご命令だ!あの者を行かせてはならぬ!」
勝手口から人が出てきた。
ローラとアイリーン様!
「お待ち下さい、アイリーン様!行ってはなりません。」
声に気付いたアイリーン様がハッとした顔をするのが見える。
クリスが腰に下げた剣に手を掛けて身構える。
アイリーン様の足が止まった。
まだ間に合う!アイリーン様は迷われている!
「アイリーン様、殿下はこちらに向かっておられます。しばらくお待ちを!アイリーン様!」
こんなに大きな声が出せたのかと自分でも驚くほどに声を張り上げる。
しかしローラは迷う素振りもなく馬車に乗り込んだ。
「お待ちを!アイリーン様。せめてせめて殿下に…。」お別れを…と紡ぎたかった言葉はアレンの目から溢れ出した涙で続かなかった。
「放せ!くそっ、放せ!」
めちゃくちゃに身体を捩り、拘束から抜け出そうと足掻いた。
なぜ離れなくてはならないのか!
あんなにあんなに幸せそうなお二人だったのに。
ローラに手を引かれ、クリスに押されてリーン様は馬車に押し込まれた。
「アイリーン様ーーーー!」
間をおかずクリスが御者台に飛び乗る。
あっけなく馬車は走り去った。
ピィーーーーー。
馬車が走り出すと共に、高く長く笛の音が響いた。
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