44 / 78
モーリの話
しおりを挟む
王太子の結婚式にドロを塗られ、漆黒の絹布の取引を停止されたサトラリア王のニルスへの怒りは凄まじかった。
しかしどうしても漆黒の絹布を手に入れたいサトラリアは水面下でレインやボガード工房と接触していたそうだ。
レインは自身の領地での特産品で王太子の結婚式に泥を塗った事をとても憂いて、現状出来る最大限として、サトラリアでも生産が出来る様にと染料をコッソリとサトラリアに渡した。
ボガード工房より職人を借りてまで試行錯誤したもののサトラリアが出した結論は、
「現在のサトラリアの染色技術では漆黒の絹布の再現は出来ない。」
という全面降参であった。
そのタイミングでニルスはバーン織の利権を得ようとエリールを締め付け、ザイモック後継のアイリーンに手をつけた。
バーン織のことなんて全く知らなかったサトラリアには、ニルスが「黒染めの職人を囲い込んだ」と、更にサトラリアに嫌がらせを続けようとしているようにしか見えていなかった。
「社交ベタのヘタレ伯爵だと父を侮ったのが、ランス国王の失策だな。
エリールだけへの圧力なら父をここまでは掻き立てなかったのに、ね。」
モーリーがこちらを見て意味ありげに笑う。
レインはリーンを連れてウッドバーンに亡命してしまったし、自身の退位を迫られている。モーリーに返す言葉も父を庇う言葉も浮かばない。
アイリーンに手を出すとレインを刺激し過ぎる、母である王妃の言った通りである。
もしかしたら…モーリをも。
サトラリアに、憎いニルスへ頭を下げて取引再開を乞うよりも、手っ取り早く手に入れられるようにしてしまえばいい、そう持ちかけてたのは他ならないエリール後継のモーリウスだった。
「エリールがニルスの内にある限り、自由に貿易は出来ない。だったらどうやったら自由になれるか?を考えるのは領主として当たり前のこと。」
別に大したことではないとでも言いたげだった。
飄々と語るモーリウスの目はいつもの爽やかな青年の風貌は無かった。
「だけど、搾取する国がニルスからサトラリアに変わる事だけは避けなければならなかった。」
そこでモーリーとレインは、イヤ、ホセとアイリスを加えて、エリールは策を講じる。
それぞれの国が欲している物を簡単には与えられないように、必要な物を分けてしまった。
「…樽を動かす、だな。」
「うん、そう。あれ聞こえていたんだね。漆黒の絹布の染料は一滴残らずザイモックに送った。染色職人のナラもリーンもザイモックに送った。織り職人達はエリールにいる。
バーン織もそう。
バーン織の原料を鞣すことができるのは、ナラとリーンだけ。織るのはアイリスとリーン。バーン織は特殊な編み機を使うけど、それはエリールにある。
ウッドバーンは海洋国家だ。海岸線のないサトラリアには海軍ないからな。取りに行きたくても行けないだろ?エリールを抜けてニルスを抜けて、レモネイの港に着く頃には船なんか一艘も残ってないんだから。」
「その間エリールの産業を止めるのか?」
「止まらないよ。エリールはバーン織と漆黒の絹だけじゃない。今頃はみんなで冬に向けて羊毛を編んでるはずだし、もうすぐ杉綾の絹の機械織も始まる。」
一旦言葉を切ったモーリーは
しっかりと後の2人の目を見ながら宣言した。
「エリールはサトラリアに即時領地からの撤退を申し伝える。
さっさと国に帰って大人しく待っていろ。
フランクの即位までにはきちんと漆黒の絹布は届けてやる。
それから、ニルスにはニルス国営商会の解散と、今後の自由貿易権を要求する。
あっ、あと馬鹿なオッサンの退位、これはサトラリアと同じだな。」
異論を挟むことは許さない、これは決定事項だ、と言わんばかりのモーリ、いやエリール新領主からの提案だった。
「待て待て!勝手に決めるな!」
「お待ち下さい!流石にそれでは困ります!」
アリストとフランクは同時に叫んだ。
サトラリアの要望は、そもそもエリール領のサトラリアへの譲渡、ニルス国王の退位、王太子とサトラリア王女との婚姻の3項目。
このままではニルス国王の退位しか叶わない。
しかも自発的なエリールからの要望ではサトラリアの面目が立たない。
多大な軍費を掛けているのである。見返りが絹布だけとは流石に割りに合わない、とフランクは言い張った。
「…仕方ない。サトラリアの面目は立ててやる。」
モーリはサトラリアに妥協案を示した。
「エリールとサトラリアは完全自由無関税貿易を今後休戦中は行う、でどうだ?
漆黒の絹布だけではない。バーン織もエリール織も欲しいまま。エリールとウッドバーンも無関税貿易だから、ウッドバーン産の物も無関税になる。ウッドバーン産なら石炭などの地下資源、海洋資源も欲しいまま手に入る。
そちらの機械や工芸品も買ってやってもいい。
それからあくまでサトラリアが戦勝国だ。
休戦協定はサトラリア主導で行うと発表して構わない。
お前の結婚式にケチをつけた国王は謝罪して退位するんだ。
手土産としては十分だろ?
今後少しでもサトラリアを侮辱したら痛い目に遭うと諸国に教えてやればいい。
…ただし、姫と王太子の婚姻は取り下げろ。心のない政略結婚は2人の心を蝕む。
其方の妹が、愛のない婚姻に縛られるなんて可哀想だ。」
モーリはリーンと同じ事を言った。
心のない政略結婚は不幸を生む。
2人は望まない政略結婚をした結果を見ながら育ったからなのだろうか。
しかしどうしても漆黒の絹布を手に入れたいサトラリアは水面下でレインやボガード工房と接触していたそうだ。
レインは自身の領地での特産品で王太子の結婚式に泥を塗った事をとても憂いて、現状出来る最大限として、サトラリアでも生産が出来る様にと染料をコッソリとサトラリアに渡した。
ボガード工房より職人を借りてまで試行錯誤したもののサトラリアが出した結論は、
「現在のサトラリアの染色技術では漆黒の絹布の再現は出来ない。」
という全面降参であった。
そのタイミングでニルスはバーン織の利権を得ようとエリールを締め付け、ザイモック後継のアイリーンに手をつけた。
バーン織のことなんて全く知らなかったサトラリアには、ニルスが「黒染めの職人を囲い込んだ」と、更にサトラリアに嫌がらせを続けようとしているようにしか見えていなかった。
「社交ベタのヘタレ伯爵だと父を侮ったのが、ランス国王の失策だな。
エリールだけへの圧力なら父をここまでは掻き立てなかったのに、ね。」
モーリーがこちらを見て意味ありげに笑う。
レインはリーンを連れてウッドバーンに亡命してしまったし、自身の退位を迫られている。モーリーに返す言葉も父を庇う言葉も浮かばない。
アイリーンに手を出すとレインを刺激し過ぎる、母である王妃の言った通りである。
もしかしたら…モーリをも。
サトラリアに、憎いニルスへ頭を下げて取引再開を乞うよりも、手っ取り早く手に入れられるようにしてしまえばいい、そう持ちかけてたのは他ならないエリール後継のモーリウスだった。
「エリールがニルスの内にある限り、自由に貿易は出来ない。だったらどうやったら自由になれるか?を考えるのは領主として当たり前のこと。」
別に大したことではないとでも言いたげだった。
飄々と語るモーリウスの目はいつもの爽やかな青年の風貌は無かった。
「だけど、搾取する国がニルスからサトラリアに変わる事だけは避けなければならなかった。」
そこでモーリーとレインは、イヤ、ホセとアイリスを加えて、エリールは策を講じる。
それぞれの国が欲している物を簡単には与えられないように、必要な物を分けてしまった。
「…樽を動かす、だな。」
「うん、そう。あれ聞こえていたんだね。漆黒の絹布の染料は一滴残らずザイモックに送った。染色職人のナラもリーンもザイモックに送った。織り職人達はエリールにいる。
バーン織もそう。
バーン織の原料を鞣すことができるのは、ナラとリーンだけ。織るのはアイリスとリーン。バーン織は特殊な編み機を使うけど、それはエリールにある。
ウッドバーンは海洋国家だ。海岸線のないサトラリアには海軍ないからな。取りに行きたくても行けないだろ?エリールを抜けてニルスを抜けて、レモネイの港に着く頃には船なんか一艘も残ってないんだから。」
「その間エリールの産業を止めるのか?」
「止まらないよ。エリールはバーン織と漆黒の絹だけじゃない。今頃はみんなで冬に向けて羊毛を編んでるはずだし、もうすぐ杉綾の絹の機械織も始まる。」
一旦言葉を切ったモーリーは
しっかりと後の2人の目を見ながら宣言した。
「エリールはサトラリアに即時領地からの撤退を申し伝える。
さっさと国に帰って大人しく待っていろ。
フランクの即位までにはきちんと漆黒の絹布は届けてやる。
それから、ニルスにはニルス国営商会の解散と、今後の自由貿易権を要求する。
あっ、あと馬鹿なオッサンの退位、これはサトラリアと同じだな。」
異論を挟むことは許さない、これは決定事項だ、と言わんばかりのモーリ、いやエリール新領主からの提案だった。
「待て待て!勝手に決めるな!」
「お待ち下さい!流石にそれでは困ります!」
アリストとフランクは同時に叫んだ。
サトラリアの要望は、そもそもエリール領のサトラリアへの譲渡、ニルス国王の退位、王太子とサトラリア王女との婚姻の3項目。
このままではニルス国王の退位しか叶わない。
しかも自発的なエリールからの要望ではサトラリアの面目が立たない。
多大な軍費を掛けているのである。見返りが絹布だけとは流石に割りに合わない、とフランクは言い張った。
「…仕方ない。サトラリアの面目は立ててやる。」
モーリはサトラリアに妥協案を示した。
「エリールとサトラリアは完全自由無関税貿易を今後休戦中は行う、でどうだ?
漆黒の絹布だけではない。バーン織もエリール織も欲しいまま。エリールとウッドバーンも無関税貿易だから、ウッドバーン産の物も無関税になる。ウッドバーン産なら石炭などの地下資源、海洋資源も欲しいまま手に入る。
そちらの機械や工芸品も買ってやってもいい。
それからあくまでサトラリアが戦勝国だ。
休戦協定はサトラリア主導で行うと発表して構わない。
お前の結婚式にケチをつけた国王は謝罪して退位するんだ。
手土産としては十分だろ?
今後少しでもサトラリアを侮辱したら痛い目に遭うと諸国に教えてやればいい。
…ただし、姫と王太子の婚姻は取り下げろ。心のない政略結婚は2人の心を蝕む。
其方の妹が、愛のない婚姻に縛られるなんて可哀想だ。」
モーリはリーンと同じ事を言った。
心のない政略結婚は不幸を生む。
2人は望まない政略結婚をした結果を見ながら育ったからなのだろうか。
0
あなたにおすすめの小説
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました
iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。
両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。
両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。
しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。
魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。
自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。
一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。
初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。
恋人になりたいが、年上で雇い主。
もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。
そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。
そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。
レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか?
両片思いのすれ違いのお話です。
出来レースだった王太子妃選に落選した公爵令嬢 役立たずと言われ家を飛び出しました でもあれ? 意外に外の世界は快適です
流空サキ
恋愛
王太子妃に選ばれるのは公爵令嬢であるエステルのはずだった。結果のわかっている出来レースの王太子妃選。けれど結果はまさかの敗北。
父からは勘当され、エステルは家を飛び出した。頼ったのは屋敷を出入りする商人のクレト・ロエラだった。
無一文のエステルはクレトの勧めるままに彼の邸で暮らし始める。それまでほとんど外に出たことのなかったエステルが初めて目にする外の世界。クレトのもとで仕事をしながら過ごすうち、恩人だった彼のことが次第に気になりはじめて……。
純真な公爵令嬢と、ある秘密を持つ商人との恋愛譚。
もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
毎日19時に更新予定です。
学園では婚約者に冷遇されていますが、有能なので全く気になりません。〜学園でお山の大将されてても、王宮では私の方が有能ですから〜
織り子
恋愛
王都カラディナにある国立魔術学園では、満十六歳の生徒たちの社交界デビューを兼ねた盛大なパーティーが開かれていた。
侯爵令嬢タレイア・オルトランは、婚約者である第二王子アスラン・オグセリアの迎えを待つも、結局ひとりで会場へ向かうことになる。
学園では身分の差がないとはいえ、アスランが公然とタレイアを侮辱し続けてきたことで、彼女は生徒たちから冷笑と蔑視の的となっていた。しかしタレイアは、王城で政務を担ってきた聡明さと矜持を失わず、毅然と振る舞う。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる