政略結婚は不幸の種 知らない間に織物職人は第二王子の婚約者になっていました

枝豆

文字の大きさ
63 / 78
結婚式のアレコレ

エリール式披露宴

しおりを挟む
花嫁アイリーンの念願のお披露目はエリール領主館でそれはそれは賑やかに行われた。

式次第?
そんなものはない。
高砂?
そんなものはない。

薄いシフォンをふんわりと束ねたガーランド、贅沢に飾られた花が辛うじて結婚の特別な披露宴の様子を醸し出しているだけで、それさえなければ本当にただのポットラック持ち寄りパーティーだ。

アレンはエリール式のパーティーに唖然として頭を抱えた。
ペルー、そしてアイリーン様の筆頭侍女となったカ…違う、ライラも固まってしまっている。カレ…違う、ライラは最初は式への参加を辞退していた。昔を知った顔に何か言われると、アイリーン様にご迷惑が掛かるから、と、王都で行われた公式行事には一切参加していない。
そこを無理やりエリールに引っ張ってきたのは他ならないアイリーン様だ。
エリールの民でカレンに会った事があるのはモーリウス様だけ。
昔のライラを知る者はいない。その心配は要らないわ、と。

繰り広げられる目の前の光景は皆が話したい放題食べたい放題、そしてやりたい放題だ。

毒見…?そんなのとっくに諦めた。
「あいよっ!」
と、どこからか湧いてくる料理は厨房も侍従も通す事なくドンドンと運ばれてくる。
余所見でもしようものならば、いつの間にかテーブルの上には新しい料理が載っている。
どこで作っているのかすらわからない。
誰が作ったのかもわからない。

ただ大皿に盛られた料理に毒を盛る、誰が食べるかわからない、作った本人でも口にしてしまうかも知れないという状況に、「そんな事あるはずがない。」とひたすら信じるしかない。

「ねえリーン、コレ美味しいよ。」
クリスが差し出したのは牧場のおかみさんの鶏肉の煮込みだと聞いた。
「あっ!コレ無理だと思ってたのに!」
アイリーン様の顔が綻ぶ。
「リリルナからレシピを聞いたんだって。」

大きく口を開けて、クリスから雛鳥のように料理を口に運ばれる。
「ん!美味しい!」
それを見てライラが悲鳴を上げた。
「アイリーン様!お行儀が!」
「いいの、いいの。コレがエリール式なの!」

そんな訳あるはずが無いのに、アイリーン様はやりたい放題だ。
クリスだけではなく、見知らぬ男も友人らしき女も、あれ美味しい、コレ美味しいと勧めあっては食べさせあっている。

…アイリーン様だけではない。

先ほどからハラハラと見守るのはエリールの奥方達の殿下への所業だ。

「エリール式の歓迎の意」だというそれは、皆が一杯ずつ殿下の盃に酒を入れていき、殿下はそれを飲み干さないといけない、という。

初めは律儀に挨拶をしながら盃を飲み干していた殿下も10杯目を越えた辺りから、何やらおかしくなられた。
頬は赤くなり、目がトロンとされている。
決して酒に弱くはない殿下だが、それはご自身でペースを守られるからだ。
目の前で注がれ、そのまま飲み干さなければならないとあって、普段よりも酔いが回るのが早い。

止めようかどうしようか迷うのは、殿下がニコニコと楽しそうに笑っておられるからなのだが…。

いくらなんでも飲ませ過ぎだろう、と思った時には遅かった。
どうやらアイリス様がトドメを刺したようだ。
アイリス様が殿下に飲ませたのは、薄茶色に透き通った見たことのない酒、しかも相当強く濃い酒のようだ。

何故なら、ホセもモーリウス様も居並ぶ男達は皆、その酒を水で割って飲んでいるからだ。
アイリス様は迷いなくそれをそのまま殿下の盃に並々と注ぎ入れた。

「ぐはっ!ゴホッ、ゴホッ…」
あまりの濃さに咽せる殿下を見て、女達はゲラゲラ笑っている。

「ほら、しっかりしないと!素晴らしい夜は何処かに行っちゃいますよ。」
としたり顔で囁くエリールの女達。

これではまるで祭りだ。

「…ああやって酔潰すんです。夫が妻に無体を働かないように。」
こっそりとローラが教えてくれた。

…確かに。
既に同じ寝台でお休みになられるお2人だが、最後の線は超えてはおられない。
初めはレイン様への遠慮だったが、フラン様とルーナ様との事を聞いた殿下は結婚まで控えられる事にしたようだ。

その分今夜はどうなることか…と思っていた。
ああ確かに。
あれならば、したくても無体な事は出来ないだろう。

「妊婦だったフランの時は出来ませんでした。」
悪阻で思うように食べられない、ましてや酒なんかもっての外。

「だからニルス式の着席パーティーだったんです。」
それは領民にどう映ったかと言われたら、結果は悲惨なものになったと言うしかない。
しかもその後のアイリス様の時は盛大なエリール式の披露宴だったに違いない。
それを見たフラン様はどう思ったのか…。

「だから今日は大目に見て下さい。」
そうローラに言われてはもはや何も言えない。
ここにいる誰もがみんな楽しそうに笑っているのだから。

「…と、いう訳ですから、アレン、あなたもですよ。」

はいっ、と渡された盃をつい受け取ってしまったのが運の尽き。
列をなしているエリールの女達がこちらを鋭く見つめている。

「お覚悟は宜しいですか?」
「あっ、待て!私は酔い潰れる訳にはいかない!」
新婚でもなければ、無体を働く相手もいない。
私は殿下をお守りしなければならない。

モーリウス様に助けを求めるように送った視線はヒラヒラと振る掌で遮られた。
ペルーとライラはアイリーン様の手ずからデザートを口へと運ばれている。

「大丈夫です。マクシマス護衛官には飲ませたりはしません。一冬ここで過ごせとも言いません。
カレンへの恨み辛みをライラにぶつけたりもしません。」

ってライラの正体はバレてるし。
おまけに言外に何か含んでいる気がする…のは気のせいか?
ここで一冬過ごしたのは、皇太后陛下だったはず。
とても楽しかったと晴れやかにエリールから戻り、幽閉生活を終えられたアンリ様の弾ける笑顔を思い出した。

「一冬接待に費やす事になった私の苦労を労って下さいませ。」

…それは八つ当たりというのでは?
ここにアンリ様を送り込んだのはアリストリア殿下と宰相閣下だぞ。
労れというのならば、飲むのはローラだろう?私がいくらでも酒は注いでやるんだが?

口を開く間も無く、持たされた盃に並々と注がれたのは、飲みなれたワインではなく、あの薄茶色の液体だった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました

iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。 両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。 両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。 しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。 魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。 自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。 一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。 初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。 恋人になりたいが、年上で雇い主。 もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。 そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。 そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。 レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか? 両片思いのすれ違いのお話です。

出来レースだった王太子妃選に落選した公爵令嬢 役立たずと言われ家を飛び出しました でもあれ? 意外に外の世界は快適です

流空サキ
恋愛
王太子妃に選ばれるのは公爵令嬢であるエステルのはずだった。結果のわかっている出来レースの王太子妃選。けれど結果はまさかの敗北。 父からは勘当され、エステルは家を飛び出した。頼ったのは屋敷を出入りする商人のクレト・ロエラだった。 無一文のエステルはクレトの勧めるままに彼の邸で暮らし始める。それまでほとんど外に出たことのなかったエステルが初めて目にする外の世界。クレトのもとで仕事をしながら過ごすうち、恩人だった彼のことが次第に気になりはじめて……。 純真な公爵令嬢と、ある秘密を持つ商人との恋愛譚。

もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

学園では婚約者に冷遇されていますが、有能なので全く気になりません。〜学園でお山の大将されてても、王宮では私の方が有能ですから〜

織り子
恋愛
王都カラディナにある国立魔術学園では、満十六歳の生徒たちの社交界デビューを兼ねた盛大なパーティーが開かれていた。 侯爵令嬢タレイア・オルトランは、婚約者である第二王子アスラン・オグセリアの迎えを待つも、結局ひとりで会場へ向かうことになる。 学園では身分の差がないとはいえ、アスランが公然とタレイアを侮辱し続けてきたことで、彼女は生徒たちから冷笑と蔑視の的となっていた。しかしタレイアは、王城で政務を担ってきた聡明さと矜持を失わず、毅然と振る舞う。

処理中です...