若松2D協奏曲

枝豆

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さくらや

単発バイト 北斗視点

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7月と8月の書き入れ時、海の家「さくらや」は大勢の臨時バイトを雇う。

もちろん家族親戚総出で働くけれど、みんな普段の暮らしがあって毎日とはいかない。
叔父さんは本店のラーメン屋から離れられないから、ばあちゃんと、叔母ちゃんと従姉妹ねえちゃんが頑張っている。
俺は中学生の頃から手伝ってきて、今年も部活がない日は店に出る。

去年は皇が、今年は応援団仲間の仁志と悠太が日替わりで来てくれる。仁志は部活もやってないから重宝しそうだ。
それでも全然足りないから、知り合いのツテやバイト派遣を頼ってかき集めている。

ハッキリ言って海の家のバイトは重労働だ。
暑い、熱い、忙しい、の三重苦。特にうちはメインがラーメンだから尚更だ。

何十人かき集めても、髪を染めたイケイケ風の人達がすぐに来なくなるのは毎年の事で、7月末に一度給料を払うとそれっきりになる人もいる。
猛暑日の予報が出ると
「今日バイトちゃんと来てくれるかねぇ。」とばあちゃんがため息をつくのはお約束だ。

今年はラーメン店から借りた調理師の他にここ数年必ず住み込みで来てくれる県立大学の学生さんが2人と結婚したての従姉妹の姉ちゃんとの3人で基本は店を仕切り、他に厨房に4人、接客に6人バイトを入れるのが基本パターンで、貸シャワーをばあちゃんか叔母ちゃんかがしっかりと見張っている。

そのばあちゃんが熱中症で倒れて入院した。
だからちゃんと休んで水を飲めって叔母ちゃんと従姉妹ねえちゃん口酸っぱく言い続けていたのに、
「あたしゃそんなヤワじゃねぇ。」なんて大口叩いていたくせに、8月に入って連続猛暑日4日目にバッタリ倒れた。

浜通りの店と海の家、ばあちゃんの看病と三重苦になってしまった。

慌てて従姉妹ねえちゃんがシフトを組む。
急遽俺の母さんがやって来た。母さんはばあちゃんに、叔母ちゃんは本店と海の家との掛け持ちに、海の家と貸しシャワーは従姉妹ねえちゃんが仕切る。

会う約束をキャンセルする時に優に理由を話したら、
「私でも手伝える?」
と言ってくれて、涙が溢れそうになった。


「北斗、あんた接客な、悪いけど部活も休んで。」
「いや、部活は休みだから良いんだけど、あの2人は?」
県立大学の学生さんは帰省したそうだ。
「あんたがいるから大丈夫だと思ったんだよ。想定外だ!」
従姉妹ねえちゃんから余裕が消えた。そりゃそうだ、親世代がいない海の家は従姉妹ねえちゃんも俺もお初だ。

今年は、もうばあちゃんが海の家に出る事は出来ないだろう、ばあちゃんが退院して叔母ちゃんがコッチに戻るまで、帰省した学生さんが戻るまで、俺と従姉妹ねえちゃんとで踏ん張らないといけない。

本当なら、疾風達が来る日にはせめて優だけは休みにしてあげたかったけど、それは無理そうだ。
ごめん、と謝った俺に優は優しく
「気にしないで、北斗と一緒がいい。」
と言ってくれたのが俺のバッテリーになる。

そして、疾風達が来る予定の日の朝…。
4人来るはずの派遣バイトが1人も来ていない、目の前が真っ暗になった。
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