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新年
延長戦後半
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ドンドン変わる話は右耳から入って左耳から抜けていった。
思い出していたのは、小6の時のこと。
「コイツ新しく入った上野、お前が打ち合いしてみろ。」
チビでヒョロヒョロ。こんなの瞬殺!
そう思ってなんも考えずに斬り込んだら、
バシっ!
胴に鈍い痛みと痺れ。
はっ!?
「もう一回!」
「もう一回!」
何度もやったけど、全部負けた。
それもそのはず、相手は「東平尾中の豆大将」九州大会準優勝校の2年生大将だった。
親父さんの転勤でコッチに引っ越して、新しい道場を探して、ウチに来た。
「見た目で判断した時点でお前の負け。」
親父の言葉が胸に刺さった。
…またしくじったんだな。
みんなの話を聴きながら、そんな事をボーッと考えていた。
「守りたかったんだ。新田だけじゃなくて仁志も。」
何をするかわからない奴。俺なら闘える、俺なら負けない。
驕ってた。仁志をナメてた。
「いてまえ打線に参加は出来ない。ちゃんとベンチで大人しくしてる。けど絵里の側からは離れなかった。」
自分に出来ること出来ないことをちゃんと見極めることが仁志には出来ていた。
弱いことを認める強さが仁志にはあった。
「…ごめん。」
「謝るのは俺にじゃねぇ。」
「…ごめん。」
「ずっと新田は仁志の事が好きなのかと思ってた。2人…なんだか楽しそうだったから。」
「富田がいるから、楽しかった。」
…新田。
わかってなかった。
俺じゃ足りなかった。
俺だけじゃ力不足だった。
「俺だけでいい。」
どんな理由があっても、そう思ったのは間違いだった。
「お前はどんな計画を立ててだんだ?」
って葛西が聞いてくる。
「今更…。」
仁志の覚悟を聞かされて、新田の気持ちを聞かされて、それ、今更話せ、って!?
「話してくれ。お前がどう考えていたのか。…先に進むために。」
って仁志、やっぱり強いな。
弱かったのは俺の方だ。
「アイツのことを知って、アイツの目が俺を向いている間にサッサっと証拠を固めて。
先に向こうから手を出してくれたら、あんな奴コテンパンに打ちのめしてやれる。
そうしたら新田と仁志はちゃんと向き合えると思ってた。」
「手を繋いでたのは?」
「最初、パーティーの時は牽制だった。アイツに新田の隣には俺がいると見せつける為だった。」
「それだけか?」
「それだけ…じゃなかった、と思う。」
「きっと絵里は差し出された手に、気持ちがあると思ったと思うよ。」
「気持ちは…あった。」
そう、気持ちはあった。
でも気付いたときに失恋したと思ってた。
だけど仁志は嫌だろうな、と思ってた。
「仁志は…見たくなくて俺達から離れたと思ってて。だけどアイツが仁志を狙わなくなるから丁度良いとも思ってて。」
「貴行が捕まって、絵里の前から消えた。そうしたらお前はどうするつもりだった?」
「…わからない。でも新田を仁志に返さないといけないとは思ってて。
新田がアイツへの手紙を俺に見せてきたりするから、まだ終わってないのかとも思ったり。
仁志は誤解して離れたままだったから、このまま新田をひとりにはしておけなくて…。
もうどうしたらいいかわからなくて。
仲直りのきっかけに、初詣企画して。
だけど仁志はカルタ会には来てくれないし。」
嶋田さんの家の新年会は誤算だった。
仁志はコッチに来てくれると思ってたのに、
みんなでまたワチャワチャと騒いで手打ちになると思ったのに、突きつけられたのは決定的な亀裂だった。
「富田、計画の破綻を認めるか?」
「…認める。本当にごめん、悪かった。」
俺は正座をして土下座して、謝った。
「もう、元通りにはならない。」
仁志の言葉が寒々しい道場にこだました。
「おい、仁志!」
葛西が仁志の言葉を止めてくれようとしてくれる。
それでも仁志の言葉は続けられてしまう。
仕方ない…。俺は仁志を傷付けた。
こんな事まで言わせて、告白までさせて、失恋までさせて…。
仁志が怒るのも当然だと、この先放たれる口撃に備えるように身構えた。
「お前らがちゃんと向き合って、付き合うと決めたら、友達として、そうだな…。側で2人の中を徹底的に邪魔してやる。
お前らが、邪魔だ!どっか行け!って心から思うまで、側で馬鹿なこといっぱいやって邪魔し続けてやる。」
隣で新田が泣きながら笑った。
…今なんて言った?
「富田、らしくなく間抜け顔になってるぞ。
陰キャの俺が美人モデルの横に居場所貰ったんだから、そうそう簡単に手放すと思うなよ。
俺はしぶといぞ。
でもな、お前達一回ちゃんとトコトン話せ。
黙って手を繋いだだけで気持ちが通じてるなんて幻想だ!
特に富田!お前は気持ちを話さなきゃダメ。
好きがただ漏れてる顔してるけどな、女の子が欲しいのは、言葉なの!」
仁志が笑ってた。いつもの仁志だった。
「…ありがとう。」
気付いたら泣いていた。
試合でボロ負けしても泣いた事なんかないのに…。
だから、涙の止め方なんか、俺知らないのに。
ゴシゴシと目を擦り続けるしか出来ない。
思い出していたのは、小6の時のこと。
「コイツ新しく入った上野、お前が打ち合いしてみろ。」
チビでヒョロヒョロ。こんなの瞬殺!
そう思ってなんも考えずに斬り込んだら、
バシっ!
胴に鈍い痛みと痺れ。
はっ!?
「もう一回!」
「もう一回!」
何度もやったけど、全部負けた。
それもそのはず、相手は「東平尾中の豆大将」九州大会準優勝校の2年生大将だった。
親父さんの転勤でコッチに引っ越して、新しい道場を探して、ウチに来た。
「見た目で判断した時点でお前の負け。」
親父の言葉が胸に刺さった。
…またしくじったんだな。
みんなの話を聴きながら、そんな事をボーッと考えていた。
「守りたかったんだ。新田だけじゃなくて仁志も。」
何をするかわからない奴。俺なら闘える、俺なら負けない。
驕ってた。仁志をナメてた。
「いてまえ打線に参加は出来ない。ちゃんとベンチで大人しくしてる。けど絵里の側からは離れなかった。」
自分に出来ること出来ないことをちゃんと見極めることが仁志には出来ていた。
弱いことを認める強さが仁志にはあった。
「…ごめん。」
「謝るのは俺にじゃねぇ。」
「…ごめん。」
「ずっと新田は仁志の事が好きなのかと思ってた。2人…なんだか楽しそうだったから。」
「富田がいるから、楽しかった。」
…新田。
わかってなかった。
俺じゃ足りなかった。
俺だけじゃ力不足だった。
「俺だけでいい。」
どんな理由があっても、そう思ったのは間違いだった。
「お前はどんな計画を立ててだんだ?」
って葛西が聞いてくる。
「今更…。」
仁志の覚悟を聞かされて、新田の気持ちを聞かされて、それ、今更話せ、って!?
「話してくれ。お前がどう考えていたのか。…先に進むために。」
って仁志、やっぱり強いな。
弱かったのは俺の方だ。
「アイツのことを知って、アイツの目が俺を向いている間にサッサっと証拠を固めて。
先に向こうから手を出してくれたら、あんな奴コテンパンに打ちのめしてやれる。
そうしたら新田と仁志はちゃんと向き合えると思ってた。」
「手を繋いでたのは?」
「最初、パーティーの時は牽制だった。アイツに新田の隣には俺がいると見せつける為だった。」
「それだけか?」
「それだけ…じゃなかった、と思う。」
「きっと絵里は差し出された手に、気持ちがあると思ったと思うよ。」
「気持ちは…あった。」
そう、気持ちはあった。
でも気付いたときに失恋したと思ってた。
だけど仁志は嫌だろうな、と思ってた。
「仁志は…見たくなくて俺達から離れたと思ってて。だけどアイツが仁志を狙わなくなるから丁度良いとも思ってて。」
「貴行が捕まって、絵里の前から消えた。そうしたらお前はどうするつもりだった?」
「…わからない。でも新田を仁志に返さないといけないとは思ってて。
新田がアイツへの手紙を俺に見せてきたりするから、まだ終わってないのかとも思ったり。
仁志は誤解して離れたままだったから、このまま新田をひとりにはしておけなくて…。
もうどうしたらいいかわからなくて。
仲直りのきっかけに、初詣企画して。
だけど仁志はカルタ会には来てくれないし。」
嶋田さんの家の新年会は誤算だった。
仁志はコッチに来てくれると思ってたのに、
みんなでまたワチャワチャと騒いで手打ちになると思ったのに、突きつけられたのは決定的な亀裂だった。
「富田、計画の破綻を認めるか?」
「…認める。本当にごめん、悪かった。」
俺は正座をして土下座して、謝った。
「もう、元通りにはならない。」
仁志の言葉が寒々しい道場にこだました。
「おい、仁志!」
葛西が仁志の言葉を止めてくれようとしてくれる。
それでも仁志の言葉は続けられてしまう。
仕方ない…。俺は仁志を傷付けた。
こんな事まで言わせて、告白までさせて、失恋までさせて…。
仁志が怒るのも当然だと、この先放たれる口撃に備えるように身構えた。
「お前らがちゃんと向き合って、付き合うと決めたら、友達として、そうだな…。側で2人の中を徹底的に邪魔してやる。
お前らが、邪魔だ!どっか行け!って心から思うまで、側で馬鹿なこといっぱいやって邪魔し続けてやる。」
隣で新田が泣きながら笑った。
…今なんて言った?
「富田、らしくなく間抜け顔になってるぞ。
陰キャの俺が美人モデルの横に居場所貰ったんだから、そうそう簡単に手放すと思うなよ。
俺はしぶといぞ。
でもな、お前達一回ちゃんとトコトン話せ。
黙って手を繋いだだけで気持ちが通じてるなんて幻想だ!
特に富田!お前は気持ちを話さなきゃダメ。
好きがただ漏れてる顔してるけどな、女の子が欲しいのは、言葉なの!」
仁志が笑ってた。いつもの仁志だった。
「…ありがとう。」
気付いたら泣いていた。
試合でボロ負けしても泣いた事なんかないのに…。
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