若松2D協奏曲

枝豆

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球技大会

練習 翠

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「とりあえずキーパーの翠を鍛えておいて。」
ザックリとした優ちゃんの指示だけで練習を開始した。

「とりあえずシュート打つから、取って。」
と言われて始めたんだけど。

「きゃっ!」
どうしても怖くて身体が竦む。
みんなが打ってくれるシュートはそんなに強くはないけれど、どうしても怖い。

「おい!ソコ!真面目にやれ!」
男子の体育の先生の津山先生に怒鳴られる。

真面目に…って真面目にやってるつもりだったんだけど。

「山本、お前が正キーパーか?」
「…はい。」
「…大丈夫なのか?だってお前吹部だろ?」
「そうですけど…。」

まあ、誰かがやらなきゃダメだしなぁ、と先生も言う。

「とりあえず目を瞑るのは危ないからやめろ。」
「はい。」
瞑りたくて瞑るんじゃないんだけど!とはさすがに言えない。

誰か寄越すから、そのまま続けてろ、と言って先生はどこかに行った。



先生に言われてやってきたのは、隣のクラスの知らない男子だった。
ジャージの名前は…香川、香川くん。

「津山にとりあえずケガしない動き方を教えろ、と言われた。」
「ごめんね。」

「まず、もう一歩前に立つ。」

香川くんは丁寧にキーパーの動き方を教えてくれた。

「いいか、ハンドボールはこのラインから中に人は入ってこない。この範囲のシュートはまずは気にしなくて良い。」

土のグラウンドに図を書いて説明してくれる。
サイドラインに近くなるとゴールに入るゾーンは狭くなるから、とりあえず立っていれば身体のどこかに当たる確率が高い。
「ただ、身体は打ってくるヤツに対して正面を向ける。つまりキーパーはボールに対して常に正面を向く事を心掛ける。」

香川くんの指示でゴールエリアラインに並んだみんながパスを回していく。
私はボールに合わせて身体の向きを変えていく。

「円を描くつもりで動くんだけど、中心は身体じゃなくて、手。」

身体を中心にしてしまうと、片方の手がゴールラインを割りがちになる。その手に当たったらゴールになる。
「あっ!だから一歩前?」
「そう。」

取るのは無理だろうから、身体で当たりに行け、と言われた。
「ちょっと投げてみてくれる?」
と香川くんがみんなに言う。

怖がって身体を引くと当たったボールは後ろに逸れる。
私の身体の後ろはゴールだから、点になる。
それを香川くんは自分にボールを当てながらまさに身を持って説明してくれた。

「気持ち当たりに行くだけで、シュートは前に落ちる。誰もゴール前には入って来れないから、落ち着いてそのボールを掴めばいい。」

怖いし痛いかもしれないけれど、しっかりとボールを見て身体で当たりに行くことが、大切。

「ただ、手はグー、な。」
パーじゃなくてグーにしろ、香川くんはそう言った。

「なんで?」
ちょっとでも手を広げていた方がいい気がする。

「指、持っていかれると突き指するぞ。山本さん吹部だろ?」

シュートをキャッチ出来るほど上手くなる必要はない、あくまでも球技大会のためなんだから、ケガしない事も大事!

「キーパー舐めてるとケガをする。ボール当たると痛いかもしれないけど、トランペット吹けなくなるよりは良いだろう?」

うん、確かにそうだ。

「わかった。グーにしておく。」
「よし、後は気合い!」
香川くんは、ボクシングのファイティングポーズをしながらニッコリと笑った。

「ほら、山本も。」
「は、はい。」
釣られて私もファイティングポーズ。

「気合い、なっ。」
「うん、気合い。」

よし、頑張ろ。

最初は手加減してもらって緩いシュートを投げてもらって、それに当たりに行く。
前に落としてそれを掴む。

「おっ、出来た!」
痛いけど、痛くない。
出来た満足感の方が大きい。
ぶつかって行った方が痛みは少ない…気がする。

勘違いの気のせいかもしれないけれど。

「香川くん、ありがとう。なんか出来そうな気がしてきた。」

香川くんは満足そうに頷いて笑ってくれた。
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