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いってらっしゃい…本当の事を見て
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宗田ホールディングに入社して…愛斗を見た加絵は、初めて本気の恋をした。
だがいつも暗い感じで誰とも喋らない加絵は、愛斗に歩み寄る事すらできなかった。
そんな愛斗が結婚を約束した人がいると噂に聞き、嫉妬心が込みあがってきた加絵は愛斗の後を着けまわした。
病院前で瑠璃と待ち合わせをして、一緒にデートに向かう愛斗の姿を見て許せないと思いはじめた加絵。
瑠璃の事も着けまわして、瑠璃の母親が弁護士である事を突き止めた。
邪魔なストーカー女と、瑠璃の事を思いこみ、加絵は瑠璃も母親も殺してやろうと企んだ。
先ずは母親の事務所へ行き、依頼人のふりをして近づいた加絵。
そして瑠璃の事は何度か病院から出てきたところを、刺し殺そうとしたが、同僚が来たりタクシーに乗り込去って行かれたりと失敗の連続だった。
しぶといストーカー女!
そう思っていた時だった。
愛斗が朝早くにホテルから女性と出てきたところを目撃した加絵。
遠目で見た加絵は、その時一緒にいた女性を瑠璃だと思い込んだ。
早朝にホテルから一緒に出てくるなんて…ストーカー女、汚らわしい体を使ったのね!
加絵の中でますます怒りが込みあがり、殺意が強くなっていった。
その日は帰宅してから愛斗は、出勤してまっすぐ家に戻るだけで動きはなく、瑠璃も病院から出てこなかった。
翌日になって。
愛斗を見張っていた加絵は、出かけてゆく愛斗を見て後を着けた。
ジュエリーショップで指輪を選んでいる愛斗を見て、結婚か間近になったと思い込んだ加絵は殺意が増して焦りも出てきた。
そのまま愛斗をつけて行った加絵は、行かせるものか! と勢いに任せて、金属バットで愛斗を後ろから殴りつけた!
殴られて倒れた愛斗を見て、まるで獲物を捕らえたかのように笑い出した加絵。
そのままそ知らぬふりをして救急車を呼んで、一緒に病院まで行った。
運ばれた愛斗は怪我はたいしたことはなかったが、記憶喪失に泣ていると医師から言われ、勝ち誇ったかのように加絵は目をキラキラさせていた。
目覚めた愛斗に「私は貴方の婚約者。ずっと交際していたの、社内には内緒でね。今ね、私のお腹には赤ちゃんがいるの。もちろん、貴方と私の子供よ。この子の為にも、早く入籍して結婚式しようって話していたところだったのよ」
何も分からない愛斗にそう言い聞かせた加絵。
とりあえず信じ込んだ愛斗にホッとしたが、まだ邪魔者がいる事で、加絵は瑠璃と瑠璃の母親を殺害する計画を練った。
先ずは依頼人のふりをして頼んでいた案件で話があると、瑠璃の母親を呼び出した。
誰にも聞かれたくないからと言って、ビルの屋上に呼び出し、後ろから近づいてそのまま突き落として死亡させた。
そして瑠璃は。
夜遅く病院から帰るところを狙って、歩道を渡っている瑠璃に車で突っ込んで行きひき殺した。
乗っていた赤い車は、そのまま港まで向かい海の中へ捨て証拠は抹消した。
たとえ上がってきても誰のものかは判らないように、ナンバープレートを外して何形跡を残さなかった。
邪魔者は消えた。
ストーカー女もその身内もいなくなった。
加絵は完全犯罪を成し遂げたと、勝ち誇った。
その後は思うように事が運んで、身内だけで結婚式を行い、加絵は宗田家のお金が自由に使えるようになり愛斗名義のカードを複数奪い取り海外へ出国して好き勝手やり始めた。
妊娠中と嘘をついた加絵は、海外へ行っても複数の男と関係を持ち子作りに励んだ。
しかし、全く妊娠する気配もなく基礎体温を着けながらタイミングを見計らい関係を持っても妊娠に至らず焦っていた。
一度日本に戻った加絵は、婦人科を受診して検査をしてもらう事にした。
すると…
「貴女は妊娠する事は非常に難しいです。排卵傷害があり、卵管が塞がっていますので、自然妊娠はできない状態です。妊娠を望まれるなら、体外受精を行う事をお勧めします」
そう医師から言われてショックを受けた加絵。
愛斗を騙して結婚して2ヶ月経過しようとしていた。
既に加絵は妊娠4ヶ月から5ヶ月は経過している事になる。
早く何とかしなくては、偽造妊娠がバレてしまう…いや…いっそ流産した事にしてもいいかも…。
でもそうなると、それがきっかけで別れようなんて言われたら…。
加絵の中で葛藤していた。
その後はこっそり国内にいた加絵は、ホストクラブに行き若いホストに枕営業をさせて精子提供を企てた。
体外受精をするなら精子の提供者が必要。
そう思った加絵は、とにかく誰でも構わないと思い、男をひっかけては精子だけをもらう事に必死になった。
1ヶ月過ぎる頃。
加絵はやっと精子提供してくれる人に出会い、体外受精を試みた、高額を払い夫婦のふりをして体外受精に協力してもらったが…。
それも失敗に終わった。
2度ほど体外受精を試みたが、着床すらしないまま妊娠に至る事がなかった。
結婚してもう8ヶ月すぎようとしている時だった。
昭夫と砂羽からは、もうすぐ出産の頃じゃないか? と言われ、愛斗が何度か連絡をして来たが加絵は返事をしないままでいた。
今からまた体外受精をしても出産はほど遠い…どうしたら良いのだろう…。
そう思いながら婦人科にやって来た加絵。
そんな時、一人の男性が産まれて間もない赤ちゃんを連れて病院から出て来たのを見た加絵。
男が一人で赤ちゃんを連れて行っているって事は…母親は死んだのか? それとも別の病院に運ばれたのか…。
男性の跡を着けて行った加絵は、人通りの少ない道を歩いている男性に近づいていき、持っていたナイフで後ろから男性を刺した!
刺された男性が倒れこんだのを見た加絵は、泣いている赤ちゃんを奪って逃走した。
可愛いブルーの産着を着ている赤ちゃんは、産まれたばかりにしてはちょっと大きかった。
赤ちゃんと一緒に、母子手帳が入っていて、加絵は手帳を見た。
赤ちゃんの母親は…藤宮瑠璃と書かれていた。
名前を見た加絵はちょっと気になったが、瑠璃はもうこの世にいない事から同じ名前の別人と思って気にかけなかった。
そのまま赤ちゃんを奪て逃走した加絵は、宗田家に連絡して、海外で出産して赤ちゃんは無事に産まれたと報告した。
早産で大変だったことから連絡はできないままだったと言い訳をした。
奪った赤ちゃんは既に2ヵ月を過ぎていた。
母子手帳には早産と経歴が残っていて、帝王切開で生まれた事になっていた。
産まれた時の赤ちゃんは8ヶ月に入ったばかりだった為、暫く入院していたようだ。
そのまま奪った赤ちゃんを宗田家に連れて行き、既に2ヶ月経過している赤ちゃんをまだ1ヵ月と嘘をついて、名前は適当に「一也」と命名しているが、まだ出生届けは出していないと言って、後の事は任せると丸投げしてまた姿を消した。
出生届が偶然にも空白のまま、病院の証明印が押された状態で押されていた事からそのまま提出されて一也はこの世の人と鳴ったようなものだった。
それからもずっと家に戻らない加絵だった。
一也の入園式に呼び戻された時、加絵は愛斗に迫って行ったが全く反応しない愛斗に怒りを感じて姿を消した。
カードを止められ、お金も送ってもらえなくなり、愛斗から別れを告げられ捨てられることへの怒りが爆発した加絵は愛斗を殺そうとした。
だが加絵が刺したのは…。
ギュッと抱き着いている、まだ幼い空斗だった。
カラン…加絵の持っていたナイフが床に落ちた。
「…ごめんね…」
小さく呟いた加絵の頬に、スッと涙が伝った。
「…幸せにならなくてはいけないって、ずっと思っていたの。…あんな母親のようには、絶対にならない。お金持ちと幸せな結婚をして、可愛い子供が欲しかったの…」
キョンとした目をして加絵を見上げた空斗。
「おばちゃん、本当は子供が好きなんだね」
「好きとか嫌いとかじゃなくてね、自分が子供の頃にしてもらえなかった事を。産まれてきた子供には、沢山してあげたいって思っていたの。その為には、いっぱいお金がいるから。お金持ちと結婚しなくちゃならないって思っていたの」
「そうだったんだ。おばちゃんって、本当は優しいんだね」
「優しい? 何を言っているの? 今だって、アンタの事を殺そうとしてたんだよ」
「そうだけど。おばちゃんの本当の気持ちが、分かったんでしょう? 」
「まぁ、そうね…。あんたがこうして、ギュッとしてくれたからかな」
「そうなんだ。じゃあ、行ってらっしゃいだね」
ニコッと笑って空斗が言うと加絵は笑えて来た。
「行ってらっしゃいって、私に警察へ行けって事? 」
「うん。だって、おばちゃんが今行くところはそこなんだよね? 」
「そうね。でも、帰って来れられないわよ。行ってらっしゃいなんて」
「大丈夫だよ、帰ってこられるよ」
「何を言っているの。何人殺してきたと思うの? 帰ってこられても、きっとその時は、私はもうお婆ちゃんにばっていると思うわよ」
「そうなんだ。でも、僕が迎えに行くから安心してね」
迎えにくる?
何を言い出すの、きっとそんな時になったら私の事なん忘れているに違いないわ。
でも…
「有難う。…なんだか、最後に救われたような気がするわ。今まで生きてきた中で、とってもスッキリしているの。これでよかったってね」
「うん。そうだね」
「あんた、変わっているわね。まだ小さのに、しっかりしているし。今日だって、私が来ることをが判っていたようだもの」
ニコッと笑って空斗は何を答えなかった。
産まれる前に決めて来た事だから、知っていたんだよ。
だから、刺されないって知っていたもん。
心の中で空斗は呟いた。
加絵はナイフを拾った。
「じゃあね。きっと、も二度と会えないと思うけど。あんたはまだ子供なんだから、好きなだけ親に前なさい。わがまま言ったっていいくらいよ。沢山の愛をもらって、優しい大人になりなさいよ。私みたいな大人になんて、なってはだめだからね」
それだけ言うと、加絵は病室から出て行った。
空斗はそっと見送った。
だが…なんとなく悲しい空気が漂って切るような気がした。
改心した加絵は、来た時よりもスッキリとした表情で優しくなっていた。
午後から楓子が付き添いに来ると、空斗は何もなかったかのように一言も加絵の話はしなかった。
いつもと変わらない空斗。
その日の夕方。
人通りが多い駅前の巨大テレビにニュース速報が流れて来た。
(幼児殺害ミスで指名手配されていた服部加容疑者が、本日午後、金奈警察署に自首してきましたが、取り調べ中に目を話した隙に警察署の屋上から飛び降りて死亡しました…。警察によると、自首してきた服部容疑者はとても穏やかで取り調べにも素直に応じていたという事です。服部容疑者は、今回の事件の他にも過去にさかのぼり複数の人を殺害している事も判明しております。飛び降りた屋上には、メモ書きで「小さな天使ちゃん有難う」とかかれていたもようです)
通り行く多くの人が、ニュース速報に足を止める者もいる。
その中に愛斗もいた。
愛斗は加絵とは結婚していなかった事を、社内に報告していた。
最近、愛斗が変化してきた事を見ていた社員はやはりそうだったのかと納得していた。
ニュース速報を耳にして、愛斗はホッとしていたが、最後に自殺と言う形で終わってしまった事はちょっと後味が悪いと感じていた。
後に警察から連絡が入り、一也は加絵が5年前に見知らぬ男性を殺害して連れ去って来た赤ちゃんだと報告が入った。
しかし5年の間も一也は宗田家の子供として育っており、現在は昭夫と砂羽の養子と言う形で籍に入っている事から特別動かす事はしない方向性で進めているが、殺害された男性遺族側かどう言うかで流れは変わるかもしれないと言われた。
加絵は身内がおらず葬儀は行われず直葬される事になった。
病院で速報を知った楓子は複雑な気持ちだった。
逮捕され刑に服してくれていればまだ良かったが、自殺されては真相が判らない事も多くある。
だが、楓子の母親と瑠璃を殺害したのは加絵だと判明はしている。
これでやっと2人の無念が晴れると、少しはホッとしていた楓子。
空斗は寂しそうに窓の外を見ていた。
行ってらっしゃいと送り出したが、加絵は二度と帰ってこない道を選んでしまったんだと悲しい気持ちだった。
楓子が一人で重い気持ちでいるのではないかと、心配した法哉が夕方になり病院に来てくれた。
「楓子、これでやっと終わったんじゃないかい? もういいよね? 自分に正直なれば」
楓子は小さく頷いた。
「一也君の事なら、心配することはないよ。一也君は、どうやら瑠璃が生んだ子供のようだから」
「え? 姉さんが? 」
「ああ。加絵の家から母子手帳が見つかったんだけど、その手帳に書かれていた名前が藤宮瑠璃だったんだ」
「姉さん…妊娠していたの? 」
「そうゆう事だね。僕も、少しだけ相談されたけど詳しい事までは分からなかったんだけど。瑠璃は、ずっと交際していた人がいたんだよ。同じ医師で、お互いのタイミングを見て結婚しようって言っていたんだけど。その人が、交通事故で亡くなったんだ。何も怪我はないけど、ただ打ち所が悪くて即死だったって話していた。悲しくて立ち直れないけど、彼が目指していた医療を自分が開いてゆくと言って悲しみを乗り越えて進んでいたんだけど。暫くして妊娠している事に気づいたようなんだ。産む事を迷っていたけど、愛した人が残してくれた命を産んであげたいって、瑠璃が言ったんだ。それを聞いた、楓子のお母さんが結婚して父親がいた方がいいと言い出して愛斗君とのお見合いを進めたようだね」
「そんな話し、全然聞いてなかった。私だけ、何も知らなかったの? 」
楓子はちょっと悲しい気持ちになった。
「楓子に知らせなかったのは、心配かけたくなかったんだよ。瑠璃が結婚するって聞けば、祝福してくれるのは分かっていたけど。瑠璃は自分より、楓子に幸せになってほしいって言っていた。いつも、足の事で引け目を感じている楓子を幸せにしてあげたくて誰かの引き合わせたいと言っていたんだ。お腹の子供は、一人で育てたいって言っていたよ。血の繋がらない子供を育ててもらうなんて、そんな重たい十字架を背負わせたくないからっ言っていた。愛斗君とお見合いして交際していた時、瑠璃はもう妊娠6ヶ月を過ぎていたからね」
「そんなに? 確かに太ったかな? って思っていたけど、あまり家に帰ってこなくて気づかなかったわ」
「楓子の幸せが決まったら、話すつもりだったんだと思う。でも、その瑠璃が授かった子供が奇跡的に産まれていたんだね」
奇跡としか言えない。
瑠璃は、交通事故でひき逃げされて即死だった。
でも、赤ちゃんの事は聞いていなかったけど。
もしかして、相手の身内が引き取っていたのかな?
「とにかく、一也君は楓子とも血が繋がっているから。何も心配することはないよ。それに、僕と持ちが繋がっているからね」
そっか。
だからかな? 一也君を見た時、瑠璃に似ているって思ったのは。
それに、初めて会ったのに一也君はとってもなついてくれた。
なんとなく瑠璃と一緒にいるような気がしていたのは、血が繋がっているからなんだ。
不思議な繋がりに、楓子は奇跡が起こって偶然が重なったと思えていた。
だがいつも暗い感じで誰とも喋らない加絵は、愛斗に歩み寄る事すらできなかった。
そんな愛斗が結婚を約束した人がいると噂に聞き、嫉妬心が込みあがってきた加絵は愛斗の後を着けまわした。
病院前で瑠璃と待ち合わせをして、一緒にデートに向かう愛斗の姿を見て許せないと思いはじめた加絵。
瑠璃の事も着けまわして、瑠璃の母親が弁護士である事を突き止めた。
邪魔なストーカー女と、瑠璃の事を思いこみ、加絵は瑠璃も母親も殺してやろうと企んだ。
先ずは母親の事務所へ行き、依頼人のふりをして近づいた加絵。
そして瑠璃の事は何度か病院から出てきたところを、刺し殺そうとしたが、同僚が来たりタクシーに乗り込去って行かれたりと失敗の連続だった。
しぶといストーカー女!
そう思っていた時だった。
愛斗が朝早くにホテルから女性と出てきたところを目撃した加絵。
遠目で見た加絵は、その時一緒にいた女性を瑠璃だと思い込んだ。
早朝にホテルから一緒に出てくるなんて…ストーカー女、汚らわしい体を使ったのね!
加絵の中でますます怒りが込みあがり、殺意が強くなっていった。
その日は帰宅してから愛斗は、出勤してまっすぐ家に戻るだけで動きはなく、瑠璃も病院から出てこなかった。
翌日になって。
愛斗を見張っていた加絵は、出かけてゆく愛斗を見て後を着けた。
ジュエリーショップで指輪を選んでいる愛斗を見て、結婚か間近になったと思い込んだ加絵は殺意が増して焦りも出てきた。
そのまま愛斗をつけて行った加絵は、行かせるものか! と勢いに任せて、金属バットで愛斗を後ろから殴りつけた!
殴られて倒れた愛斗を見て、まるで獲物を捕らえたかのように笑い出した加絵。
そのままそ知らぬふりをして救急車を呼んで、一緒に病院まで行った。
運ばれた愛斗は怪我はたいしたことはなかったが、記憶喪失に泣ていると医師から言われ、勝ち誇ったかのように加絵は目をキラキラさせていた。
目覚めた愛斗に「私は貴方の婚約者。ずっと交際していたの、社内には内緒でね。今ね、私のお腹には赤ちゃんがいるの。もちろん、貴方と私の子供よ。この子の為にも、早く入籍して結婚式しようって話していたところだったのよ」
何も分からない愛斗にそう言い聞かせた加絵。
とりあえず信じ込んだ愛斗にホッとしたが、まだ邪魔者がいる事で、加絵は瑠璃と瑠璃の母親を殺害する計画を練った。
先ずは依頼人のふりをして頼んでいた案件で話があると、瑠璃の母親を呼び出した。
誰にも聞かれたくないからと言って、ビルの屋上に呼び出し、後ろから近づいてそのまま突き落として死亡させた。
そして瑠璃は。
夜遅く病院から帰るところを狙って、歩道を渡っている瑠璃に車で突っ込んで行きひき殺した。
乗っていた赤い車は、そのまま港まで向かい海の中へ捨て証拠は抹消した。
たとえ上がってきても誰のものかは判らないように、ナンバープレートを外して何形跡を残さなかった。
邪魔者は消えた。
ストーカー女もその身内もいなくなった。
加絵は完全犯罪を成し遂げたと、勝ち誇った。
その後は思うように事が運んで、身内だけで結婚式を行い、加絵は宗田家のお金が自由に使えるようになり愛斗名義のカードを複数奪い取り海外へ出国して好き勝手やり始めた。
妊娠中と嘘をついた加絵は、海外へ行っても複数の男と関係を持ち子作りに励んだ。
しかし、全く妊娠する気配もなく基礎体温を着けながらタイミングを見計らい関係を持っても妊娠に至らず焦っていた。
一度日本に戻った加絵は、婦人科を受診して検査をしてもらう事にした。
すると…
「貴女は妊娠する事は非常に難しいです。排卵傷害があり、卵管が塞がっていますので、自然妊娠はできない状態です。妊娠を望まれるなら、体外受精を行う事をお勧めします」
そう医師から言われてショックを受けた加絵。
愛斗を騙して結婚して2ヶ月経過しようとしていた。
既に加絵は妊娠4ヶ月から5ヶ月は経過している事になる。
早く何とかしなくては、偽造妊娠がバレてしまう…いや…いっそ流産した事にしてもいいかも…。
でもそうなると、それがきっかけで別れようなんて言われたら…。
加絵の中で葛藤していた。
その後はこっそり国内にいた加絵は、ホストクラブに行き若いホストに枕営業をさせて精子提供を企てた。
体外受精をするなら精子の提供者が必要。
そう思った加絵は、とにかく誰でも構わないと思い、男をひっかけては精子だけをもらう事に必死になった。
1ヶ月過ぎる頃。
加絵はやっと精子提供してくれる人に出会い、体外受精を試みた、高額を払い夫婦のふりをして体外受精に協力してもらったが…。
それも失敗に終わった。
2度ほど体外受精を試みたが、着床すらしないまま妊娠に至る事がなかった。
結婚してもう8ヶ月すぎようとしている時だった。
昭夫と砂羽からは、もうすぐ出産の頃じゃないか? と言われ、愛斗が何度か連絡をして来たが加絵は返事をしないままでいた。
今からまた体外受精をしても出産はほど遠い…どうしたら良いのだろう…。
そう思いながら婦人科にやって来た加絵。
そんな時、一人の男性が産まれて間もない赤ちゃんを連れて病院から出て来たのを見た加絵。
男が一人で赤ちゃんを連れて行っているって事は…母親は死んだのか? それとも別の病院に運ばれたのか…。
男性の跡を着けて行った加絵は、人通りの少ない道を歩いている男性に近づいていき、持っていたナイフで後ろから男性を刺した!
刺された男性が倒れこんだのを見た加絵は、泣いている赤ちゃんを奪って逃走した。
可愛いブルーの産着を着ている赤ちゃんは、産まれたばかりにしてはちょっと大きかった。
赤ちゃんと一緒に、母子手帳が入っていて、加絵は手帳を見た。
赤ちゃんの母親は…藤宮瑠璃と書かれていた。
名前を見た加絵はちょっと気になったが、瑠璃はもうこの世にいない事から同じ名前の別人と思って気にかけなかった。
そのまま赤ちゃんを奪て逃走した加絵は、宗田家に連絡して、海外で出産して赤ちゃんは無事に産まれたと報告した。
早産で大変だったことから連絡はできないままだったと言い訳をした。
奪った赤ちゃんは既に2ヵ月を過ぎていた。
母子手帳には早産と経歴が残っていて、帝王切開で生まれた事になっていた。
産まれた時の赤ちゃんは8ヶ月に入ったばかりだった為、暫く入院していたようだ。
そのまま奪った赤ちゃんを宗田家に連れて行き、既に2ヶ月経過している赤ちゃんをまだ1ヵ月と嘘をついて、名前は適当に「一也」と命名しているが、まだ出生届けは出していないと言って、後の事は任せると丸投げしてまた姿を消した。
出生届が偶然にも空白のまま、病院の証明印が押された状態で押されていた事からそのまま提出されて一也はこの世の人と鳴ったようなものだった。
それからもずっと家に戻らない加絵だった。
一也の入園式に呼び戻された時、加絵は愛斗に迫って行ったが全く反応しない愛斗に怒りを感じて姿を消した。
カードを止められ、お金も送ってもらえなくなり、愛斗から別れを告げられ捨てられることへの怒りが爆発した加絵は愛斗を殺そうとした。
だが加絵が刺したのは…。
ギュッと抱き着いている、まだ幼い空斗だった。
カラン…加絵の持っていたナイフが床に落ちた。
「…ごめんね…」
小さく呟いた加絵の頬に、スッと涙が伝った。
「…幸せにならなくてはいけないって、ずっと思っていたの。…あんな母親のようには、絶対にならない。お金持ちと幸せな結婚をして、可愛い子供が欲しかったの…」
キョンとした目をして加絵を見上げた空斗。
「おばちゃん、本当は子供が好きなんだね」
「好きとか嫌いとかじゃなくてね、自分が子供の頃にしてもらえなかった事を。産まれてきた子供には、沢山してあげたいって思っていたの。その為には、いっぱいお金がいるから。お金持ちと結婚しなくちゃならないって思っていたの」
「そうだったんだ。おばちゃんって、本当は優しいんだね」
「優しい? 何を言っているの? 今だって、アンタの事を殺そうとしてたんだよ」
「そうだけど。おばちゃんの本当の気持ちが、分かったんでしょう? 」
「まぁ、そうね…。あんたがこうして、ギュッとしてくれたからかな」
「そうなんだ。じゃあ、行ってらっしゃいだね」
ニコッと笑って空斗が言うと加絵は笑えて来た。
「行ってらっしゃいって、私に警察へ行けって事? 」
「うん。だって、おばちゃんが今行くところはそこなんだよね? 」
「そうね。でも、帰って来れられないわよ。行ってらっしゃいなんて」
「大丈夫だよ、帰ってこられるよ」
「何を言っているの。何人殺してきたと思うの? 帰ってこられても、きっとその時は、私はもうお婆ちゃんにばっていると思うわよ」
「そうなんだ。でも、僕が迎えに行くから安心してね」
迎えにくる?
何を言い出すの、きっとそんな時になったら私の事なん忘れているに違いないわ。
でも…
「有難う。…なんだか、最後に救われたような気がするわ。今まで生きてきた中で、とってもスッキリしているの。これでよかったってね」
「うん。そうだね」
「あんた、変わっているわね。まだ小さのに、しっかりしているし。今日だって、私が来ることをが判っていたようだもの」
ニコッと笑って空斗は何を答えなかった。
産まれる前に決めて来た事だから、知っていたんだよ。
だから、刺されないって知っていたもん。
心の中で空斗は呟いた。
加絵はナイフを拾った。
「じゃあね。きっと、も二度と会えないと思うけど。あんたはまだ子供なんだから、好きなだけ親に前なさい。わがまま言ったっていいくらいよ。沢山の愛をもらって、優しい大人になりなさいよ。私みたいな大人になんて、なってはだめだからね」
それだけ言うと、加絵は病室から出て行った。
空斗はそっと見送った。
だが…なんとなく悲しい空気が漂って切るような気がした。
改心した加絵は、来た時よりもスッキリとした表情で優しくなっていた。
午後から楓子が付き添いに来ると、空斗は何もなかったかのように一言も加絵の話はしなかった。
いつもと変わらない空斗。
その日の夕方。
人通りが多い駅前の巨大テレビにニュース速報が流れて来た。
(幼児殺害ミスで指名手配されていた服部加容疑者が、本日午後、金奈警察署に自首してきましたが、取り調べ中に目を話した隙に警察署の屋上から飛び降りて死亡しました…。警察によると、自首してきた服部容疑者はとても穏やかで取り調べにも素直に応じていたという事です。服部容疑者は、今回の事件の他にも過去にさかのぼり複数の人を殺害している事も判明しております。飛び降りた屋上には、メモ書きで「小さな天使ちゃん有難う」とかかれていたもようです)
通り行く多くの人が、ニュース速報に足を止める者もいる。
その中に愛斗もいた。
愛斗は加絵とは結婚していなかった事を、社内に報告していた。
最近、愛斗が変化してきた事を見ていた社員はやはりそうだったのかと納得していた。
ニュース速報を耳にして、愛斗はホッとしていたが、最後に自殺と言う形で終わってしまった事はちょっと後味が悪いと感じていた。
後に警察から連絡が入り、一也は加絵が5年前に見知らぬ男性を殺害して連れ去って来た赤ちゃんだと報告が入った。
しかし5年の間も一也は宗田家の子供として育っており、現在は昭夫と砂羽の養子と言う形で籍に入っている事から特別動かす事はしない方向性で進めているが、殺害された男性遺族側かどう言うかで流れは変わるかもしれないと言われた。
加絵は身内がおらず葬儀は行われず直葬される事になった。
病院で速報を知った楓子は複雑な気持ちだった。
逮捕され刑に服してくれていればまだ良かったが、自殺されては真相が判らない事も多くある。
だが、楓子の母親と瑠璃を殺害したのは加絵だと判明はしている。
これでやっと2人の無念が晴れると、少しはホッとしていた楓子。
空斗は寂しそうに窓の外を見ていた。
行ってらっしゃいと送り出したが、加絵は二度と帰ってこない道を選んでしまったんだと悲しい気持ちだった。
楓子が一人で重い気持ちでいるのではないかと、心配した法哉が夕方になり病院に来てくれた。
「楓子、これでやっと終わったんじゃないかい? もういいよね? 自分に正直なれば」
楓子は小さく頷いた。
「一也君の事なら、心配することはないよ。一也君は、どうやら瑠璃が生んだ子供のようだから」
「え? 姉さんが? 」
「ああ。加絵の家から母子手帳が見つかったんだけど、その手帳に書かれていた名前が藤宮瑠璃だったんだ」
「姉さん…妊娠していたの? 」
「そうゆう事だね。僕も、少しだけ相談されたけど詳しい事までは分からなかったんだけど。瑠璃は、ずっと交際していた人がいたんだよ。同じ医師で、お互いのタイミングを見て結婚しようって言っていたんだけど。その人が、交通事故で亡くなったんだ。何も怪我はないけど、ただ打ち所が悪くて即死だったって話していた。悲しくて立ち直れないけど、彼が目指していた医療を自分が開いてゆくと言って悲しみを乗り越えて進んでいたんだけど。暫くして妊娠している事に気づいたようなんだ。産む事を迷っていたけど、愛した人が残してくれた命を産んであげたいって、瑠璃が言ったんだ。それを聞いた、楓子のお母さんが結婚して父親がいた方がいいと言い出して愛斗君とのお見合いを進めたようだね」
「そんな話し、全然聞いてなかった。私だけ、何も知らなかったの? 」
楓子はちょっと悲しい気持ちになった。
「楓子に知らせなかったのは、心配かけたくなかったんだよ。瑠璃が結婚するって聞けば、祝福してくれるのは分かっていたけど。瑠璃は自分より、楓子に幸せになってほしいって言っていた。いつも、足の事で引け目を感じている楓子を幸せにしてあげたくて誰かの引き合わせたいと言っていたんだ。お腹の子供は、一人で育てたいって言っていたよ。血の繋がらない子供を育ててもらうなんて、そんな重たい十字架を背負わせたくないからっ言っていた。愛斗君とお見合いして交際していた時、瑠璃はもう妊娠6ヶ月を過ぎていたからね」
「そんなに? 確かに太ったかな? って思っていたけど、あまり家に帰ってこなくて気づかなかったわ」
「楓子の幸せが決まったら、話すつもりだったんだと思う。でも、その瑠璃が授かった子供が奇跡的に産まれていたんだね」
奇跡としか言えない。
瑠璃は、交通事故でひき逃げされて即死だった。
でも、赤ちゃんの事は聞いていなかったけど。
もしかして、相手の身内が引き取っていたのかな?
「とにかく、一也君は楓子とも血が繋がっているから。何も心配することはないよ。それに、僕と持ちが繋がっているからね」
そっか。
だからかな? 一也君を見た時、瑠璃に似ているって思ったのは。
それに、初めて会ったのに一也君はとってもなついてくれた。
なんとなく瑠璃と一緒にいるような気がしていたのは、血が繋がっているからなんだ。
不思議な繋がりに、楓子は奇跡が起こって偶然が重なったと思えていた。
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