また明日の約束は…5年後に…

紫メガネ

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瑠璃からの手紙に込められていた想い

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 その夜。
 法哉は宗田家を訪ねて行った。

「はいこれ、君に宛て手残されていた瑠璃からの手紙ですよ」

 玄関先で愛斗に一通の手紙を渡した法哉。
 
 受け取った愛斗は、瑠璃の丁寧な文字を見ると胸がジーンとして来た。

「瑠璃の遺品からでてきたのです。でも、この5年間は君が正常ではないようだったのでお渡しできませんでした。今なら、渡しても大乗だと思うので」
「有難うございます。あの、楓子と空斗は大丈夫ですか? 」

「心配なさらず。空斗がついているので、楓子は大丈夫ですよ。ちょっと、後味が悪い結末でしょうが。加絵さんも改心していたようなので、これで良かったのだと思います」
「そうですね」

「では、僕は仕事があるのでこれで失礼します。何かあれば、いつでも連絡ください」
「はい、わかりました」


 
 玄関で話している、法哉と愛斗を遠目で見ていた一也がいた。
 じっと法哉を見ていた一也は、何か気にしているような感じだ。





 寝る前になり。

 愛斗は瑠璃からの手紙を読んでみる事にした。


(愛斗さんへ。 先日は妹に会ってもらって有難うございました。やっぱり、妹の事を気にいってくれたでしょう?
私なんかよりもずっと、優秀で凛とした気品があるの。だから、愛斗さんは妹の楓子と結婚して欲しいのです。と言うのも、実は私…現在妊娠6ヶ月を過ぎています。気づかれていないかもしれませんが、赤ちゃんが後ろにいるので分かりにくいようです。お腹の子は、交際していた人の子供です。事故で亡くなってしまって、その後に妊娠に気づきましたが産む決意をしました。母が、父親がいなくてはと思って愛斗さんとお見合いをさせてくれたのですが。愛斗さんはまだ若いし、他の男の子供を育てさせるなんて重たい十字架を背負わせたくありません。私は一人で子供を産んで、育ててゆきます。なので、愛斗さんは何も遠慮しないで楓子と幸せになって下さい。 楓子の事は私が保証します。 足は不自由でも誰にも負けない優主な人間です。 愛斗さんなら、足が不自由な楓子でもちゃんと見てくれると信じて引き合わせました。 ごめんなさい、なんだか騙しているようで。 でも、楓子もキラキラした目をしていました。きっと2人も、惹かれ合ったと思いました。わがままでごめんなさい。愛斗さんと楓子の幸せを心か祈っております。 瑠璃)

 
 手紙を見終えた愛斗は、スーっと一本の糸が番ってゆくような気がした。
 瑠璃とお見合いした時は着物姿で気にならなかったが、次に会った時にふっくらした人なのだと思った。
 いつもゆったりとした体形が判らない服装で、太っているようなそうでもないような感じだった。
 靴はぺったんこの靴を履いていて、食事は結構な量を食べる方なのだと感じていたが、医師はハードな仕事だからそのくらいは普通なのだろうと思っていた。
 
 瑠璃から妹に会ってほしいと頼まれた時、話を聞を聞かされていて気になっていたのもあり会う事にした愛斗。
 
 楓子に会って本気の恋に目覚めた愛斗は、瑠璃にどうやって話したらいいのか考えているところだった。

 だがこうして瑠璃が残していてくれた手紙を読んで、やっと迷いは消えて行ったような気がした。
 

 忘れていた過去も思い出してきている。
 楓子と再び繋がって、想いはますます膨れ上がるばかりだった。


 
 手紙を読み終えた愛斗は、楓子の事が気になって電話をかけてみた。


 夜の遅い時間帯である為、小さな声で電話に出てくれた楓子。

「ゴメン、こんな時間に。…大丈夫か? 」
(はい、大丈夫ですよ。何も心配しないで下さい)
「ああ…。空斗君が退院したら、ちゃんと先の事を話したい」
(はい、私もそうしたいと思っています)
「楓子…有難う、結婚もしないで5年も頑張ってくれて」
(いえ…私だけの力では、ここまでこれなかったので…)
「もう、過去は見ないで未来を見て行こう」
(はい…)
「それじゃあ、おやすみ」
(おやすみなさい…)

 電話を切った愛斗はベッドのゴロンと寝ころんだ。

 2つ並んでいる枕に触れて、楓子の温もりを思い出すだけで胸がいっぱいになる。


 楓子の温もりを感じながら、その夜は眠りについた愛斗。



 
 病院では簡易ベッドで楓子は横になっていた。
 愛斗の電話でちょっと目が覚めてしまった楓子だったが、携帯電話を握りしめると愛斗の温もりが感じられるような気がした。

 眠っていた空斗はちょっとだけ目を開けた。
 どうやら楓子と愛斗の電話を聞いていたようだ。


 穏やかな笑みを浮かべて、再び眠りについた空斗。



 急展開を迎えた結末ではあるが、もう誰にも邪魔されることはなくなった。
 恨みつらみを残されるわけでもなく、真犯人死亡となり終わってしまったが、これで良かったのだと思えた。








 1週間後。

 傷の具合もよくなり元気になった空斗は無事退院した。
 しばらく自宅療養をしながら通院してから、保育園にはいくようにした。

 ずっと宗田家でお世話になっていた礼斗は、久東家に戻る事になった。
 一也はとても寂しそうに礼斗を送り出したが、別れずらそうだった。

 愛斗が久東家に車で送って行くといいだして、送ってもらい事になり、一也も一緒に着いてゆく事にした。




 宗田家から久東家は車で15分程の住宅地の片隅に立っている。

 広い囲いの中、立派な門構えがあり、門の前にはゴッツイ男性が両脇に一人ずつ立っていた。

 愛斗が車でやてくると、ゴッツイ男性がギロっと見てきた。

 
 車から降りてきた楓子と礼斗を見ると、ビシッと姿勢を正して一礼する2人。

「もう、おじちゃん達がそんな顔をしていると。みんな逃げちゃうよ」

 ぷーっと頬を膨らませて礼斗が怒った顔を見せた。

「すみません…」
 
 愛想笑いを浮かべて謝る男性に、礼斗はわざと怒った目をしたままでいた。


「送って頂いて有難うございました」

 車らか降りて来た愛斗に、楓子がお礼を言った。

「随分と大きな家なんだな」

 改めて見る久東家は、豪邸と呼ぶよりもお屋敷のようで、日本家屋と呼ぶにふさわしいほどの古風な建て具合で、どこかのドラマにでも出てきそうなくらいの豪邸である。
 庭も日本庭園と呼んでいいほどで、立派な松の木、砂利道が広がり、池もあり鯉も泳いでいて、池には石橋もかかっている。

「この家は叔父が跡をとって継いだ家です」
「え? じゃあ、楓子の家ってすごいお金持ちなのか? 」

「ご先祖が政治家で、祖父は代議士でした。今は叔父が弁護士になり、この家を護っているだけです」
「そうなんだ」


 楓子と愛斗が話していると、家の中から法哉が出てきた。


「こんにちは。楓子と礼斗を送って来てくれて、有難うございます」
「いえ、長い間お預かりしてしまって申し訳ございません」

「いえいえ。そのまま、ずっと置いてもらっても良かったですよ」
「え? 」

 ちょっと意地悪そうに笑った法哉。

「冗談ですよ」

 冗談か。
 にこにこしてて、結構ズバッと言うからなぁこの人。

「また改めて、ご挨拶に伺います」
「はい、いつでもお待ちしております」


 車の中からじーっと法哉を見ている一也がいた。

 法哉はふと、一也が診ている事に気づいてニコっと笑った。
 法哉が笑いかけると、一也は嬉しそうに笑い返した。





 楓子を送り届けた愛斗は、そのまま一也と一緒に帰って行った。




 久しぶりに帰って来た久東家。

 代々のご先祖様は、名の通る政治家や代議士ばかりで、春か先のご先祖は武家だったとも言われている。
 法哉の代になり家を建て直したばかりであるが、人の数よりも部屋の数が多く、立派な仏間は敷居で区切られており、親戚一同の集まりがあるときは敷居を外してテーブルを広げて宴のように行うとか。
 昔はこの家でご近所の結婚式も行われるほどだったとも言われている。

 
 リビングとキッチンも広く、どこかのサロンの様な感じで、テーブルもオシャレな木造で椅子も同じ木材で出来ている。

 和室の居間には掘りこたつもあって、座り心地の良い座椅子が置いてある。

 
 洗面所も広くてまるで銭湯のような感覚。

 洗面台と横には小さな窓があり空気の入れ替えも出来る。

 お風呂も浴槽が大浴場のような広さで、大理石を使っている。
 シャワーも楽に使えるタイプで、洗い場がとても広い。


 
 お風呂場と洗面所の隣に、洗濯室があり、ドラム式の洗濯機と乾燥機が置いてある。

 お手伝いさんが選択はやってくれているようだ。


 室内に選択干し場もあり、雨の日でも送風が流れて乾きやすくできる。



 法哉が仕事に使う書斎と寝室に浸かっている部屋があり、その他には物置やクローゼットだけの部屋もある。

 
 2階には、洋室が5部屋あり、楓子の部屋と礼斗と空斗の部屋、そして物置として納戸もある。
 まるで旅館の一室のような和室も2部屋あり、お客様が来た時に使ってもらえるように用意してある。
 天窓も付いていて部屋全体に光が入るようにもなっている構造。


 階段には手刷りも付いていて、ぁshが悪い楓子でも楽に上って行ける。


 楓子の部屋には全て手すりが着いていて、寝ているベッドは全自動式で起きるときはベッドを起こして起きる事も出来るようになっている。

 カーテンもリモコンで開いて、電気もリモコンでつけたり消したりできる。

 
 全て最新式で揃えている久東家。


 
 この広い家。
 楓子が宗田家に行ってしまうと法哉が一人になってしまう。


 
 法哉は仏間にやって来て、仏壇に手を合わせた。

 毎日亡くなった奥さんに手を合わせて、ご先祖様に感謝している法哉。
 
「やっと、楓子が幸せになれる日が来ました。有難うございます」

 ご先祖に感謝を述べながら、法哉は楓子が小さかった頃の事を思い出していた。


 楓子の母は法哉の姉で、歳の差が10歳あった。

 楓子の母が結婚したのは法哉が高校生になったばかりの頃で、瑠璃と楓子が産まれたのは法哉が高校を卒業する頃だった。
 
 まだ18歳になるくらいの法哉は叔父さんと呼ばれる事に抵抗があり、お兄ちゃんと呼んでほしいと言っていた。

 大学を卒業して法哉は検察官になったが、5年後には弁護士へ転職した。
 
 成長する瑠璃と楓子を見ていて、とっても可愛くて、特に楓子には特別な感情が芽生えていた。
 だが血が繋がっている楓子に恋する事は許されず、ずっと見守る事に徹していた。


 楓子が大学を卒業して、法哉と同じ検察官になる事を決めたと聞かされて嬉しさを感じた。
 瑠璃は医師を目指して無事に医師免許を取得して、順調に進んでいた。


 
 だがあの5年前の事は、法哉も非常にショックを受けていた。

 愛斗が記憶を無くして、母親と瑠璃を同時期に亡くした楓子は2人のお墓の前で手首を切って自殺を図った。
 偶然やって来た法哉が発見して、一命をとりとめた楓子だったが暫く口も聞いてくれず何も喋らない日々だったが、妊娠に気づいてから少しずつはなしをするようになってきた。

 そんな楓子に法哉は養女になってほしいと話した。
 それは、楓子を娘としてずっと傍に置いておきたいという法哉の気持ちだった。
 楓子に恋心を抱いていても血縁の関係でそれが叶わないまま、法哉は同僚だった女性と結婚したが、不治の病にかかり結婚からわずか4年余りで亡くなってしまった。
 楓子を傍に置く事で、その悲しみを癒されてゆき父親と言う形で楓子を手に入れたと自己満足をしていた法哉。


 しかし。
 愛斗の記憶が戻ってしまった事で、楓子はまた法哉の元からいなくなってしまうのかと思うと。
 ちょっと寂しい気持ちだった。

「幸せを祈っているのに、本当は手放したくないなんて複雑だなぁ…」

 痛い笑いを浮かべた法哉。

 

 その日は久しぶりに空斗も帰って来て、賑やかな夜を過ごした。
 まだ完全に治ったわけではない空斗に、法哉は安静にしてとは言うものの、礼斗がちょっかいをかけてしまうと走り出す空斗を見てやれやれと言っていた。

 お風呂の時間になると、楓子は空斗と一緒にお風呂に入り、零とは法哉と一緒にお風呂に入った。

 
 そして夜寝るときは、礼斗と空斗が一緒に寝て楓子は一人でゆっくり寝る事になった。

 
 礼斗は素だけにとまっていたことで、ちょっとだけ成長して一人でも寝れるようになったと言っている。
 しかし空斗は一人で寝る事はできないと言い出して、2人で寝る事にした。


 久しぶりの久東家は穏やかな夜を過ごした。


 
 

 宗田家では。
 礼斗が帰ってしまい、一也は寂しそうにしていた。
 そんな一也と一緒に今夜は寝る事にした愛斗。

 愛斗の部屋に一也を呼んで一緒に寝た愛斗。

「お父さん」

 一也がギュッと愛斗にしがみついて来た。

「どうした? 一也」
「あのね、僕ずっと知っているよ。お父さんの、本当の子供じゃないって事」

 じっと愛斗を見つめて来た一也は、まるで何もかもを見透かしているような目をしていた。

「一也。5年も一緒にいるんだよ、本当の親子じゃなくたって絆が深まっているだろう? 」
「うん、そうだね。でもね、僕とっても気にっている人がいるんだ」
「誰なんだ? 」
「まだ秘密にするね。でも、すぐに分かると思うよ」
「そっか。じゃあ、その日まで楽しみにしているよ」

 ヨシヨシと一也の頭を撫でた愛斗。

 そのまま、一也と愛とは眠りについた。



 
 翌日は、いつも通りに出勤した愛斗。
 一也も保育園に行って、礼斗と会えて喜んでいた。


 ずっと休んでいた楓子だが、法哉が空斗を見ていると言ってくれた事で出勤してきた。

「おはよう」
「おはようございます」

 いつもと変わらないように挨拶を交わした愛斗と楓子だが、言葉にしなくても以前とは違う穏やかさが流れていた。


 他の社員も、愛斗の雰囲気が依然とは変わり昔の愛斗のように戻って来たと喜んでいる。
 加絵の事は驚きだったが、愛斗が加絵とは結婚していなかった事に社員達もホッとしている。


 
 お昼休みになって。
 楓子はいつも通り屋上でお弁当を食べようと歩いて来た。

「久東さん」

 女子社員が2人、楓子に駆け寄って来た。

「久東さんですよね? 私、ずっと話してみたかったの。一緒にお昼食べない? 」

 楓子は突然の事に驚いたが、2人の女子社員に引っ張らてしまいカフェテリアに連れて来られてしまった。


 窓際の席に座って、一緒にお昼を食べ始めると、女子社員は楓子の弁当を見て驚いていた。

「久東さんのお弁当、すごくバランスがいいのね」
「自分で作っているの? 」

「はい…食材は、用意してもらっていますが…」

「え? 用意してもらっているって、ご主人に? 」

「あ、そうではないのですが。我が家には、お手伝いさんがいるので。お弁当の具材は、前の日に用意してくれるのです」


「お手伝いさんがいるの? 」
「すごい家なのね」

「いえ、そうではありませんが。私が働いているので、どうしても食事が偏るので」

「いいわね、お手伝いさんがいるなんて」
「ねぇ、今度遊びに行ってもいい? 」

「は、はい…」

 ちょっとぎこちなく話をする楓子だが、明るい女子社員と一緒に話していると少しづつ溶け込んでい行った。


 お昼ご飯を食べて、部署へ戻る途中、女子社員達は楓子が足を引きずっている事に気づき歩きを合わせてくれた。
 
 エレベーターに乗る前に「また一緒にお昼食べようね」と戻って行った女子社員達。


 こうして少しづつ、楓子に話しかけてくる女子社員も増えて来たが、男性社員も楓子に興味を持っている者が多く、女子社員に紛れて話しかけてくる男性社員もいた。


 さすがに男性社員が話しかえている姿を見ると、愛斗はちょっと焼きもちを焼いていた。

「早く仕事に戻れ! 」

 と言って見たり、楓子に急ぎの用を頼んでみたりと。

 
 早く結婚しないと他の男に盗られてしまう…なんて不安を感じたりもしていた。




 
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