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運命の始まり
手術は恋の始まり
しおりを挟むそれからいよいよ手術の為、ジュニアールが病院に入院する日がやって来た。
「ミディス。お父さんは、これから暫くお城にいませんが。ブックルがしっかり、貴女の傍に着いててくれますので何も心配しないで下さいね。使用人頭のキウイにも、頼んでおきましたのでブックルに言いずらい事はキウイにちゃんと言うのですよ」
今日のジュニアールはラフな紺色のジャケットに爽やかなピンク系のシャツを着て、黒いスラックス姿で茶系の靴を履いている。
ラフな格好になると、ジュニアールはまだ20代の若者の様に見える。
「お父さん、心配しなくていいよ。お父さんが元気になるのが嬉しいから、楽しみに待っているね」
「有難う、ミディス」
イディスはじっとジュニアールを見つめた。
「どうかしたのですか? そんなに見つめて」
「お父さん、すごく若返ったなぁって思って。ねぇ、この前病に行った時。素敵な人に、出会ったでしょう? 」
ニコっと満面の笑みを浮かべたミディスに、ジュニアールは優しい笑みを浮かべた。
「はい、ミディスが言った通りでした」
「よかった。私、その人なら新しいお母さんに大歓迎だから」
新しいお母さん。
そうミディスに言われて、ジュニアールはちょっと赤くなった。
そのまま病院に向かったジュニアール。
ジュニアールを見送りながら、ミディスはとても満足そうに笑っていた。
その頃、国立病院では…。
「セシレーヌ。本当に国王様の執刀、できるのか? 」
院長室でクラウドルがセシレーヌに言った。
「仕方ないじゃん…本人が頼むって言ってるんだから…」
いつものようにセシレーヌはシレっと答えた。
「一国の王様の命がかかっている手術だぞ。万が一の事があれば、責任重大だ。私なら、院長の名があるだけ多少の裁量は受けられると思う」
フン! と、セシレーヌは鼻で笑った。
「どうなったって、責任が私に全て来るなら。あんたにとって、望むところなんじゃないの? 院長の座はそのままだし、自分が止めたけど無理やり執刀を辞めなかったって。私だけを、悪者にして逃げることが出来るじゃん」
「何を言うんだ。そんな事、私は願っていない」
「本当はホッとしているんだろう? 身代わりが出来たから」
「セシレーヌ! いい加減にしないか! 」
つい怒鳴ってしまい、クラウドルはハッとなり申し訳なさそうに視線を落とした。
「…いいじゃん、別に私みたいなのどうなったっていいんだから。…国王様が死んだら、私も責任もって死んでやるから心配することないだろう? 」
「セシレーヌ…どうして、そんなに自分を傷つけようとするんだ? 私は、ずっとお前には感謝している。そんなハンデを背負っていても、この病院の為に尽くしてくれている。お前の腕前は、確かに国王様が仰る通りかなりの腕を持っていると私も思う。だから、今回の手術で万が一の事があり、お前の未来を閉ざしてしまう事が嫌なんだ…」
フイッと顔を背けたセシレーヌは、そのまま背を向けた。
「…ほっとけよ。…こんな醜い人間なんて、世間のお荷物でしかないんだ…。生き延びても、何も価値なんてない。…せめて人の役に立って、一人でも多くの人を助けられればって思っているだけ…」
そう言いながら、セシレーヌはそっと自分の胸に手をあてた…。
「…引き受けるからには、最善は尽くすから。心配しないでよ…国王様には、絶対に許されない事を私はしている…だから…せめてこの先、元気でいられるようにしてあげる事でしか償えないんだ…」
「セシレーヌ。まだ、あの事を気にしているのか? あれは、本人が望んだ医師の下でたまたまお前が該当しただけだぞ」
「それでも…許されないだろう? …愛する人を、殺したなんて知れば。誰だって、死刑にしたくなると思うから…」
「何を言っているんだ、そうじゃないだろう? 」
「もういいよ。…この先の人生、ずっと責められて生きて行くって決めているから」
それだけ言うとセシレーヌは院長室を出て行った。
その後ろ姿は、何だか悲しそうで…
クラウドルは胸がキュンと痛んだ。
午後になり。
ジュニアールが病院へとやって来た。
皇室専用の特別室が用意してあり、まるでホテルのスイートルームのような豪華な病室が最上階にある。
フカフカの青い絨毯が敷いてあり、ベッドも広々としたシングルベッドでフカフカ。
ベッドカバーは明るめの白で、カーテンは爽やかなグリーン系。
冷蔵庫と小さな電気コンロが用意してあり、お茶を沸かしたりちょっとした調理も出来るように用意されている。
トイレとバスが別々で、バスルームには広い浴槽がついている。
付き添いで誰かが来てもいいように、簡易ベッドも用意してある。
クローゼットもついていて、スイートルームよりも贅沢である。
病室へやって来たジュニアールは、カーテンを開けて窓を開け外を眺めた。
病院の最上階からは、遠くの港まで見渡せる。
今日は天気も良く港の船が行き交う動きが透き通るように、見渡せ気持ちがいい。
「国王様、お着替えは全てクローゼットに入れておきました。足りない物がございましたら、お申し付け下さい」
「ご苦労様です。後は一人で大丈夫ですから、貴方はお城へ戻って下さって結構ですよ」
コンコン。
ノックの音に、ブックルは病室のドアを開けた。
ドアを開けると、白衣を着たセシレーヌが不愛想な目をして立っていた。
ブックルは丁寧に一礼した。
セシレーヌはシレっと頭を下げた。
「これは、これは。セシレーヌ先生、今日からお世話になります。どうぞよろしくお願いします」
シレっとしたまま病室に入って来たセシレーヌは、ジュニアールに歩み寄ってきた。
そして近くまで来ると、何か言いたそうに目を泳がせた。
「セシレーヌさん。明日はよろしくお願いしますね」
そう言われて、セシレーヌはちょっと難しそうな目をしてジュニアールを見た。
「あ、あのさぁ…。なんで、私なの? 」
「え? 」
「だから、なんで私に手術を頼んだの? 私なんかに…なんで? 」
「貴女だから頼みました。貴女なら、信頼できますからね」
信頼している。
そう言われると、何となく嬉しい気持ちが込みあがってきたセシレーヌだが、ズキンと胸に痛みを感じて苦しそうな目を浮かべた。
「あんた正気かよ! 自分が生きるか死ぬかの手術なんだろう? 判ってんのかよ! 」
不愛想な顔をしているセシレーヌだが、見つめる目が苦しそうで。
そんなセシレーヌを見ると、ジュニアールも何故か胸がキュンと痛んだ。
言葉とは違う…
優しいエネルギーを感じる。
ジュニアールはそう思った。
「貴女を信じています。私の魂が、貴女なら大丈夫と言っているのです。心配していません」
そっと微笑むジュニアールを見ると、セシレーヌはまた痛みを感じて、そっと胸に手をあてた。
そんなセシレーヌを、ブックルがそっと見ていた…。
「あんたはこの国の国王だよ、国民全部の期待がっかってんだよ? 理事長の方が、私なんかよりずっと腕がいいし実績だってあるのに…。あんたが死んだら、国中の人が悲しむんだよ! 判ってんのかよ! 」
「はい、その事は十分に承知しております」
「だったら…私じゃなくて…」
ジュニアールはそっと微笑み、ポンとセシレーヌの肩に手を置いた。
肩に手お置かれると、その手からとても暖かいエネルギーが伝わって来るのを感じたセシレーヌはハッとなった。
「落ち着いて下さい、セシレーヌさん。私の事を、ここまで心配してくれるなんてとても嬉しいです。お優しいのですね、それ故に不安も大きいのでしょうが。安心して下さい、手術は必ず成功しますから」
まっすぐにセシレーヌを見つめるジュニアールの瞳は、とて自信に満ち溢れていた。
何も心配していない目をして、優しくセシレーヌを見てくれている…。
その目を見るのが辛くて、セシレーヌはスッと視線を落とした。
「…そこまで言って…死んだって、恨むんじゃねぇよ…」
「はい、そんな気は1%もありません。ですから、1つお願いがあるのです」
「はぁ? 何? お願いって」
「手術が成功して、私が助かったら。私の願いを叶えてもらえますか? 」
「あんたの願い? 」
「はい。貴女しか叶えることが出来ませんので。お願いできますか? 」
私しか叶えられないって、なんのこと?
そう思いながらも、優しい微笑みを向けてくれているジュニアールを見るののが辛くてセシレーヌは背を向けた。
「分かったよ、私が叶えられるならいいよ…」
「判りました。楽しみに、待っていますね」
セシレーヌの背中に、満面の笑みを浮かべるジュニアール。
そのまま何も言わずに、セシレーヌは病室を出て行った。
「国王様。あの先生は…」
ブックルが何かを言いかけると、ジュニアールはニコっと笑った。
「判っていますよ。…ミディスが言っていた、運命の出会いなのでしょう。ですが、それだけじゃありませんから。これは本当に奇跡の始まりなのですよ」
愛しそうな目をして微笑んでいるジュニアール。
ブックルもセシレーヌを見て何かを感じたようだ。
「まったく…なんなんだよ、あのオッサン。…なんでそこまで、私を信頼できるわけ? 」
ふと、足を止めたセシレーヌはそっと胸に手をあてた。
「…もしかして、あんたが導いているの? …もう一度、会いたかった? …愛している人だもんね…」
そう呟くセシレーヌは、ちょっと潤んだ目をしていた。
本当は執刀を断るためにジュニアールの下に来たセシレーヌだったが、すっかりジュニアールのペースにまかれてしまい逆に励まされてしまった。
自分の命がかかっている手術だと言うのに、あの余裕はどこから来るのだろうか?
自信がないわけじゃないけど…
「…あんたが愛したいた人…私が助けるから…」
セシレーヌは覚悟を決めて再び歩き出した。
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