グリーンピアト物語~命を紡いで愛を紡ぐ・国王様の愛した女医さん~

紫メガネ

文字の大きさ
15 / 27
運命の出会い

一夜の思い出

しおりを挟む
 それからシャルロと女性は、ポツリポツリと他愛ない話をしていた。

 女性は頷く事が多く、自分から話す事はあまりしない。
 しかし言葉はとても丁寧で、それでいて優しい物腰。
 
 なんとなく怖がっているような目線で、時折シャルロを見てくる女性だが、慣れてくるとちょっとだけ和らいだ目で見てくれるようになった。

 お酒も一杯目を飲み干し、2杯目を注文した女性。
 ペースは遅いが、飲んでいるお酒はわりと強そうに見える。


「あの。別の場所で、ゆっくりとお話ししませんか? 」

 女性が二杯目を半分ほど飲んだところで、シャルロが言った。

 ちょっと戸惑った表情を浮かべた女性だったが、少し恥ずかしそうにそっと頷いた。


 ホッとしたシャルロは、女性の分の伝票を手に取り席を立った。





 会計を済ませて店の外に出てきたシャルロと女性。


「あの…私の分は、お支払い致しますので」

 そう言って女性はお財布を取り出そうとしたが、シャルロがその手を止めた。

「いいですよ。今日は、貴女に出会えて嬉しいので僕がご馳走しますのでお気になさらないで下さい」
「あ…有難うございます…」

 はにかんだような笑みを浮かべた女性。
 だが笑うと、とても魅力的でシャルロの胸がキュンと鳴った。

「それでは行きましょうか。僕が案内しますね」


 シャルロは女性に手を差し伸べた。

 差し伸べられた手を見て、女性は戸惑った目を浮かべた。

「手を繋いてもらえますか? その方が、僕も安心しますので」

 そう言われても女性は手を握る事を躊躇っているようだ。

 
 何となくズキンと悲しい痛みが胸に響いてきたシャルロは、そっと女性の手をとった。

 ハッと驚いた女性…。
 見上げた視線は嬉しいけど、それを受け入れてはいけない…そんな目をしていた。
 眼帯をあてていない方の目は、とても綺麗な緑色の瞳をしている。
 その瞳の色がとても愛しくシャルロは感じた。

「どうぞ、何も気にする事はありませんから。僕の手を、握っていて下さい」

 
 そう言いながら、シャルロは女性の手をそっと取った。


 大きくて逞しいシャルロの手からは、とても暖かいエネルギーが伝わって来る。
 ギュッと握られていると安心できて、それでいてホッとさせられる。

 このままこの手を離さないで…

 女性はそう思った。


 これは夢なのかもしれない。
 もし夢なら、このまま永遠に覚めないでほしい…
 ずっとこのままでいて…。


 そう思いながら、女性はシャルロに手を引かれながらそのまま着いて行った。






 
 途中で車を拾って。

 2人が向かった先は、グリーンピアトで一番の高級ホテル「帝国ホテル」だった。


  ここは会員制で、貴族や平民でもお金持ちしか利用できないホテル。

 大理石や金で出来ている壁や床。
 高級そうなじゅうたんが敷いてあり、、丁寧にボーイさんが出迎えてくれる。
 ボーイさんも茶色い制服で、学ランのようなデザインでシャキッとしている。
 頭には学生帽のようなのを被っている姿は、どこかの兵隊にも見えるが気品が溢れている。

 
 1階にはガラス張りの上品なカフェがあるが、個室になっていて話し声が聞こえないようになっている。
 よくここでは、密会が行われている様子。



 車から降りると、シャルロは女性を丁寧にエスコートしてくれた。

 回転扉から中に入ると、待合室のソファーに女性を座らせ、フロントへ向かったシャルロ。

 座らされたソファーは空を飛んでいるように、フワフワと柔らかく女性は夢見心地で座っていた。

 天井からは綺麗なシャンデリアが吊るされていて、壁には有名画家が描いた肖像画が飾ってある。

 2階へ続くらせん階段には、綺麗な赤い絨毯が敷いてありおとぎ話の世界のような封印気が漂っている。

 
 これは夢なんだからと女性は思っているのか、特に驚く事もなく静かに待っていた。


 
「お待たせしました、では参りましょうか」

 フロントから戻ってきたシャルロが、女性の手を差し伸べた。

 素直に手を受け取り、女性はシャルロと一緒にエレベーターに乗って行った。



 ガラス張りのエレベーターは、祖tの夜景が綺麗に見える。

 どこにも止まることなく一直線に上ってゆき、そのまま最上階へと向かって行った。




 
 エレベーターが到着して扉が開くと、一面に広がるバラ模様のじゅたんが目に入った。

 そしてその先には白い大きな扉。



 シャルロにエスコートされながら、その扉を開けて入ってゆくと。

 そこは別世界の様に広い空間が広がり、壁は爽やかな白、絨毯は明るいグリーン系の高級絨毯、ガラスのテーブルに白いソファー。

 テーブルの上には、エルカムドリンクが置いてあり、ソフトドリンクとシャンパンがある。

 天井からは綺麗なシャンデリアが吊るされていて、広めのリビングのようにゆったりとくつろげるようになっている。


 奥にベッドルームが要されており、キングサイズの様に広くフカフカの布団にふんわりした枕が2つ並んでいる。


 入口手前にシャワールームとトイレが別々に設置されている。


 女性は夢見心地のままボーっと見ていた。


 シャルロはそのまま女性をソファーへと座らせた。


「気にいって頂けましたか? この場所」

 
 シャンパンをグラスに注ぎながらシャルロが言った。

「はい…」

 ちょっとボーっとしたまま女性は答えた。


 グラスを持って、シャルロも女性の隣に座った。


「もう一度乾杯しましょう」

 
 シャルロに差し出されたグラスを手に取った女性。


 カチンとグラスが重なった。


 女性はそっとグラスを口にあて、ちょっとだけシャンパンを飲んだ。

 そんな女性をじっと見つめているシャルロ…。


「ここは、とても夜景が綺麗に見えますので。…僕が、心から愛した人と一緒に来るのが夢でした」

 え?

 驚いて女性がシャルロを見ると、優しい笑みを向けてくれた。


「…何か、思い詰めていませんか? ずっと、酒場から気になっていたのです」

 グラスをテーブルに置いて、シャルロはそっと女性の左目に手をあてた。

 眼帯をあてている女性の目に触れると…。

 女性は不安そうな目でシャルロを見ていた。

「大丈夫ですよ。…もう、痛くないですから…」

 
 シャルロはそっと、女性の眼帯を外した。

 眼帯の下は綺麗になっていて、きっと痣があったかもしれないと思われるが痣は薄くなっていた。


 眼帯を外されると、女性の目が潤んできた。


「僕に話してくれませんか? 貴女が胸に閉まっている事を…一人で、抱え込まないで下さい…。僕にも、貴女の痛みを分けて下さい。全て受け止めますから」


 そう言われると、女性はグラスをテーブルに置いた。

「話しなんて…しなくていいです…」


 ギュッとシャルロの腕を掴んだ女性。
 その手はかすかに震えていた。


「今夜だけ…一緒にいてもらえますか? 」

 震えるような声でシャルロに尋ねた女性は、目を潤ませていた。


「今夜だけですか? 僕は、ずっとこの先も貴女と一緒に居たいです」

 そう言われると、女性はそっと視線を反らした。

「…私…愛がない結婚をしなくてはならないのです」
「愛のない結婚? 」

「父が大金を渡して、結婚をする事が決まりました。…私、その結婚相手とは関係を持たない事に決めています」


 そう言って、真っ直ぐにシャルロを見つめた女性は、シャルロの腕から手を離すと、ジャケットを脱ぎブラウスのボタンを外して、スルっと脱いでしまった。


 ブラウスを脱いだ女性は、キャミソールだけになった。
 見かけよりずっと痩せていて、白く透明かな触れる艶々の肌をしている。
 しかしその肌には、無数の打ち身の痣や何かで切られたような傷跡が残っていた。

 
 その姿を見ると、シャルロは胸がズキンと痛んだ。


 どうしてこんなに傷だらけなの?
 彼女が何をしたと言うの?


 シャルロが驚いていると、女性はそっと目を伏せた。


「いやですよね、こんな体…。貴女になら、この体を見せてもいいって思ったのですが…」

 目を伏せたまま、女性はブラウスを手に取ろうとしたが、その手をシャルロが止めた。

 ゆっくりと、女性はシャルロを見た…。
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

冷遇妃マリアベルの監視報告書

Mag_Mel
ファンタジー
シルフィード王国に敗戦国ソラリから献上されたのは、"太陽の姫"と讃えられた妹ではなく、悪女と噂される姉、マリアベル。 第一王子の四番目の妃として迎えられた彼女は、王宮の片隅に追いやられ、嘲笑と陰湿な仕打ちに晒され続けていた。 そんな折、「王家の影」は第三王子セドリックよりマリアベルの監視業務を命じられる。年若い影が記す報告書には、ただ静かに耐え続け、死を待つかのように振舞うひとりの女の姿があった。 王位継承争いと策謀が渦巻く王宮で、冷遇妃の運命は思わぬ方向へと狂い始める――。 (小説家になろう様にも投稿しています)

私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜

AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。 そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。 さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。 しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。 それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。 だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。 そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。 ※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...