グリーンピアト物語~命を紡いで愛を紡ぐ・国王様の愛した女医さん~

紫メガネ

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2つの秘密

ペリロッドの想い

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 2日後。

 診察から2日経過して、エルファはまだ特に悪阻もなくいつもと変わらないまま過ごせていた。
 だが、新しい命がどんどん育っている事は実感できていた。
 まだ8週目で心拍を確認しただけに過ぎないが、何となく伝わってくるエネルギーをエルファは感じている。

 
 あの夜の子供。

 ここの所大好きな人からの電話はかかってこなくなった。
 やはり結婚してしまったから、相手の都合もあるのだろうとエルファは思っていた。


 だが。
 大好きな人の子どを授かってしまった以上、これ以上はシャルロとの結婚生活は続けられないと思っていた。

 離縁を申し出よう…

 そう思っていたが、言いだせるきっかけがなかった。
 
 忙しそうにしているシャルロに、時間を作ってもらう事もできないままで。

 これ以上の時間が過ぎてしまうのはダメだと思っていた。

 
 お腹の子を諦めてこのままシャルロと毛婚生活を続ける事も考えたが、宿った命を絶つ事はエルファはできないと思ったのだ。

 これは自分の犯した過ち。
 据えての責任は自分いあるとエルファは判断した。



 クローゼットに歩み寄ってエルファ。

 扉を開けてみると…


「あれ? …ない? どうして? 」

 何かがなくなっていて、エルファは驚いて目を見開いた。

 クローゼットの中には服や鞄が入っているが…


「どうして…」


 カチャっ…。

 ドアの開く音ににハッとして振り向いたエルファ。


 ドアの傍にはシャルロがいた。



「エルファさん。どうかしたのですか? 何か、探し物ですか? 」
「いえ…。この中に置いておいた鞄が見当たらないので…」


 黙ったまま歩み寄ってきたシャルロは、エルファの傍に来るとそっと手をとった。

 なに?…

 驚きつつも、何か心に引っ掛かるエルファは視線を落としたままだった。


「鞄は、僕が預かっています」

 預かっている? じゃあ、あの鞄をみつけたの?

 エルファは何も答えないまま俯いてしまった。


「妹さんがお城に押しかけてくる前に、貴女が深夜にお城を抜け出しこっそり妹さんに会っていた事。僕は知っています。その時、お金を渡したのですよね? 」

 
 なんで知っているの?
 気づていなかったのに…。

 握られているエルファの手が震えだしたのを感じたシャルロは、そっとエルファを引き寄せて抱きしめた。


「どうして、一人で苦しもうとするのですか? 僕が傍に居るのに…痛みも苦しみも、分かち合うと誓ったじゃないですか。…」
「…そんな事は…」

「貴女が悪いわけではありません。きっと、僕が隠し事をしているから無意識に壁を作っているのです」


 隠し事?
 どうゆう事?

 エルファはシャルロの腕の中で、ちょっとだけ視線を上げた。


「お話します。まだ、貴女に話していない事を…」


 そっと体を離したシャルロは、エルファの手を引いてソファーに向かいそっと隣り同士で座った。


 エルファはギュッと唇をかみしめて、俯いていた…。


「ちゃんとお話しします。貴女にお話していない事を…」

 そう言って、そっとエルファの手に手を重ねたシャルロ。


「実は、結婚式の前に貴女の父君であられるペリロッドさんにお会いしました」

 
 え? 父に? どうして? 
 俯いたままエルファは黙っていた…。


「縁談の書類を見た時から、僕は貴女の魂を感じていました。優しく清らかな貴女の魂を感じて、この人となら結婚しても楽しく暮らせるしずっと愛し合って行けると思いました。でも、貴女の父君が挙げられた条件を見てその条件の中に深い事情を感じたのです。その事は、結婚する前に知らなくてはならないと思ったので。ペリロッドさんを待ち伏せして、お話しました。…なかなか口割ってくれませんでしたが、ペリロッドさんは苦渋な目をして離してくれました…」



 シャルロはエルファとの結婚を決めてから、どうしてもペリロッドに会いたくて裁判所へとやって来た。
 ペリロッドの担当する裁判がある日を狙って、裁判所へやって来たシャルロ。


 やっとペリロッドを捕まえることが出来たのは、あの夜を迎えてから三日後だった。



 裁判を終えて、出てきたペリロッド。
 グレーのスーツを着て、襟元にひまわりの金色のバッジをつけているペリロッド。
 彫りの深い紳士的な顔立ちのペリロッドを見て、シャルロはとても好感を持てた。
 

 突然現れたシャルロに、ペリロッドは驚いていた。

「突然申し訳ございません。どうしても、ペリロッドさんにお会いしたくて、お待ちしておりました」

 ペリロッドはシャルロを見て、想像していた以上に優しく包容力のありそうな雰囲気に感動していた。

「わざわざお越し頂くとは、恐縮でございます」


 ペリロッドが挨拶をすると、シャルロはにっこり微笑んだ。

「ここでは人目もあります。場所を変えましょう」




 
 帝国ホテルの1階にある個室カフェへと、シャルロとペリロッドはやって来た。

 
 個室カフェでお互い向き合って座っている、シャルロとペリロッド。


「ペリロッドさんを見ていると、何となくお嬢様の事が想像できます。とても素敵な人だと思います」
「恐縮です。とても身勝手な条件を出してしまい、申し訳ございません」


「いいえ。あの条件を出されたのは、何か深い理由があるのではありませんか? 」

 シャルロが尋ねると、ペリロッドは少し悲し気に目を細めた。


「話して頂けませんか? 何を聞いても、お嬢様との結婚を辞めたりしません。結婚式まで会う事は絶対にしませんし、深い事も探ったりしませんので」



 ペリロッドはじっとシャルロを見つめた。


 穏やかで優しい目をしているシャルロ。
 きっと、暖かいご両親の元、のびのびと育てられたのだろう・・・

 言葉使いが丁寧なのは、父親譲りだろうか?

 顔立ちは母親譲りのようだが、内面は父親とそっくりなシャルロ。


 見つめていると、不思議な気持ちになる。
 まるで吸い込まれてしまいそうな気持ちになる・・・
 この人なら信頼できる・・・・


 ペリロッドはそう思った。


「皇子様。大変無礼な事だとは、十分に承知しておりますが。今回、あのような形で縁談のお申し込みをさせて頂きましたのは。…娘を護りたいからなのです」
「護りたいとは、どうゆう事なのですか? 」


 ギュッと口元を引き締めたペリロッドは、小さく呼吸を整え真っ直ぐにシャルロを見た。

「妻が重い病で娘が小さい頃に亡くなり、私はずっと1人で育ててきました。しかし仕事が多忙で、どうしても1人では育てる事が難しくなり。同僚の勧めで娘が12歳の時再婚しました。相手も再婚で娘より2つ下の女の子がいたので仲の良い姉妹になれると思ったのですが。再婚した妻は、自分の子供ばかり可愛がり、娘にはとても辛く当たっていたのです。いつも、仕事で家に居なかったので私は何も知りませんでした。近所の方が教えてくれたのです。いつも娘には冷えたご飯を与えて、おかずも残りものばかりで。自分の娘には、暖かいご飯と贅沢なおかずを作っていたそうです。あまりにも可哀想で、見かねた近所の方が、娘にご飯を作ってくれる事もあったようで。しかし、それが解ると、後妻はいつも娘に酷い暴力をふるっていて。時々、大けがをしている娘に何があったのか聞きましたが。自分で転んだと言っていました」

 
 ペリロッドは一息ついた。

 シャルロは衝撃を受け、言葉が見つからなかった。


「そんな後妻も、13年前に病気で亡くなりました。後妻が亡くなり、娘への暴力もなくなると思っていたのですが。今度は、妻の連れ子である妹のフィーネが、寂しさ故に娘に酷い暴力をふるうようになったのです。私のいない間に、気に入らないと娘に殴るけるの暴行をはたらき、酷い時は棒で殴ったり、物を投げつけたりと…。娘が働いて稼いできたお金を、黙って持ち逃げした事もあったようです。帰って来て傷だらけの娘を見て、どうしたのか尋ねても娘は何も言いませんでした。きっと、今まで何を私に話しても解ってもらえないとあきらめてしまったからだと思います。…悪いのは、全て私です…」


 衝撃が大きくて、シャルロは気持ちを落ち着かせるのに精いっぱいだった。
 
 縁談の申し込みを見た時から、とても強い何かを感じていたが、そこまで酷い事をされていたとは…。


 
 ふと、シャルロはあの夜の女性を思い出した。

 ブラウスを脱いだ女性は、目を覆うような傷らだけの体をしていた。
 左目も眼帯で覆われ、手の甲にも痣が残っていた。

 一人で寂しそうにお酒を飲んでいた女性は、悲しみでいっぱいだった。


 もしかして…あの女性が?
 そう思ったシャルロだが、あえて口には出さなかった。


「フィーネを追い出すこともできず。…このままでは娘が死んでしまうのではないかと思い、結婚させようと考えたのです。ただ、普通の家庭に嫁ぐだけでは、フィーネが着きまとう確率もあります。娘の事をしっかりと守ってくれる人で、護りの硬い場所が良いと考えた時。皇子様との結婚が一番安心だと判断したのです」


 シャルロはゆっくりと目を開けた…。


「そうだったのですね。それでお嬢様の顔は結婚式まで見せないと言われたのですか? 」
「申し訳ございません。・・・」

「いいえ、謝る事はありません。僕は、無理やりな気持ちで、お嬢様と結婚を決めたわけではありませんから」


 シャルロはそっと、ペリロッドの手に手を重ねた。


「ペリロッドさん。お嬢様を僕に下さい。全力で一生お護りします。もう、絶対にお嬢様を傷つけさせませんから」
「皇子様…」

 込みあがる想いが溢れてきて、ペリロッドの目が潤んできた。


「僕は、この縁談の話を受けてから、まだ顔も知らないお嬢様に恋しているのです。こんな気持ちは初めてです。でも、とても幸せなんです。お嬢様の事を考えるだけで、胸が熱くなる。どんな人なんだろう? どんな顔をしているんだろう? どんな声をしているんだろう? そう考えるだけで、とても幸せです」

「それを聞いて安心しました。娘は、ずっと辛い思いをしてきました。暴力という恐怖に耐えて。・・・それ故に、自分の気持ちを口に出す事が得意ではありません。ですが、私は娘を誇りに思っています。妹のミフィーヌの事は、どんなに酷い事をされても絶対に悪く言いません。それだけ優しい子なのです」


「はい。それは十分に分かっています。僕のハートで感じていますから」
「有難うございます…」


 

 話し終えたシャルロは、エルファをじっと見つめた。



「僕は全部承知で、貴女と結婚しました。だから、一人で抱え込まないで下さい。…お金は愛ですよ、貴女が妹さんにお金を渡したのも愛の形です。間違っている事ではありません。でもね、愛は与えるだけではダメです。受け取る事もしなくては、循環できないのです。だから、あの鞄は僕が預かる事にしましました」


 
 エルファは何も言えなかった。
 何もかも見抜かれていた。

 夜中に戻ってきて、そ知らぬふりをしてベッドに入って来たエルファを体が冷えていると言ってシャルロはそっと抱きしめて温めてくれた。

 その晩は結婚して初めて、ぐっすり眠れた夜だった。

 虐待されていたことを知っていても、全部受け止めてくれるなんて普通にできる事ではないのに…。


 こんなに素晴らしい人を…裏切る事なんてできない…。
 そう思ったエルファ。

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