マスク ド キヨコ

居間一葉

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 振り返ると、中年の女性達が十人ほど、楽しげにおしゃべりをしながら廊下を歩いているのが、ところどころにあるガラス窓から覗けた。私達からすれば、自分たちの母親より更に一回りほど年上の女性達である。ガラス窓は大人の顔から胸の高さくらいに設置されている。そのため、背の低い私達から見えるのは、彼女たちの顔だけであった。時節柄であろう、その女性達は全員、口に白いマスクをつけている。
「ねえねえ、今日、何食べる?」
「そうねえ、やっぱり生きのいいピチピチのがいいわね」
「うんうん、踊り食いとかできたら最高よね」
 夕飯の相談でもしているようだった。その声はまるで小学校のクラスメイトの女子達のように、若々しく生きる喜びに満ちていた。
 友人は、その女性達に対して、特に興味を抱かなかったようだった。すぐにまた池の傍に座り込むと、今度は近くの枯れかかった芝を引きちぎって、それを鯉に食べさせようと躍起になりだした。
 一方私は、一団の先頭を歩く女性の横顔を、ぼーっと目で追っていた。女性は長く、まっすぐで、黒々とした髪をしていた。肌は褐色に日焼けしており、鼻筋は高くすっとしていた。眉も細いが黒々としており、目尻はぐっと力強く上がっている。
 美しかった。私はその時、生まれて初めて、自分の母親より年上の女性を美しいと感じた。以前、図鑑か漫画かで見た、古代エジプトの伝説的な美貌の女王の事を思い出した。頭にコブラのティアラをつけた女王だ。
「ああ、早く食べたい。お腹すいちゃった。今なら一呑みにできそうよ」
 先頭の女性はそう言うと、他の女性達の方を振り向いた。その時、彼女がつけているマスクが、内側から、もぞっと動いた。そして、そのマスクの下端から、何か赤色のものがはみ出るのを、私は見逃さなかった。
「あらあなた、お下品よ」
「そうそう、いくらマスクをつけてるからって。人目があるかもしれないじゃない」
 別の女性たちが、笑いながらたしなめた。先頭の女性は、ふふ、と小さく笑うと、「舌を出して笑った」。そして、前に向き直った。その時であった。

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