マスク ド キヨコ

居間一葉

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 女性の視線が、私を捕えた。私は、びりりと背中に稲妻が走り、全身が動かなくなった。文字通り金縛りにあってしまったのである。女性は、私に向かって、私だけにわかるように微笑んだ。ぞっとするような美しさを感じた。私は息ができなくなった。
 同時に、私は強烈な恐怖を感じた。絶対に見てはいけないものを覗き見てしまった気がした。私は慌てて、友人のすぐ傍によると、鯉を見つめて心を落ち着かせようとした。パク、パク、と呑気に口を開け閉めしている鯉を見ながら、私も気づかないうちに、口で息をしていた。震えが止まらない。奥歯が音を立てている。私の運命の歯車が、ガチ、ガチ、とギアを入れ替え、ものすごいスピードで回り始めるのを感じた。
「おい」
 鈍感な友人が、私の腕を掴むと、強く揺すった。
「おい、見ろ、あれ」
 私は顔を上げたくなかったが、友人の不躾な声に押し負け、友人が指さす方向へ視線を向けた。
 また呼吸が止まった。
 先ほども話したように、私と友人が謎の神秘的な布を見つけたホールは、ホテルとは別館にある。ホテルからホールへ入るには、一度廊下の外に出る必要がある造りだ。つまり、先ほどの女性たちの首から下を隠していた、廊下の壁は、そこで途切れているということである。
 女性達はホールへ向かっていた。そして、その身体を隠していた壁が途切れると、女性達の全身がはっきりと見えた。
 女性達は、筋骨隆々の身体に、黒く照り光る肌をしていた。そして、胸元と下半身のごく一部だけを、白く網目状の極薄の布のようなもので覆っていた。首から上は、柔和な表情をした、多少こぎれいな、例えばデパートの子ども服売り場で、優しくズボンの裾上げをしてくれそうな、普通の中年女性である。それだけに、一歩歩くたびに躍動する、鍛え上げられた全身の筋肉の動きとのギャップに、僕は衝撃を受けた。
「ボディビルダーだ、それも女の」
 友人は檻の中の希少動物を見るかのような口調で、呑気に呟いている。
 私はまたも、先頭の女性に目を奪われた。他の女性達と比べても、容貌はもちろん、肉体美もダントツで極まっていた。私はもう、目を背けることも出来なかった。彼女が一歩歩むたびに、太ももの筋肉が隆起し、そうしてできた肉の溝の深さは、まるで深い水を湛える深海の海溝のようだった。それだけではない。今にも布地がずれて露わになりそうな、胸元の突起は、布地の網目越しにも、固く尖っているのが透けて見えた。

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