もう絶対忘れない!

緋向

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5 バスルームにて

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同居生活から早くも2週間がたった。あの一件以来、孝哉が涼子に手を出してくることはなく(意地悪はほぼ毎日のようにされるが)涼子は、それなりに安心した生活を送っていた。

───初めは突拍子もないって思ってたけど、慣れたら案外居心地いいのよね。

ここは居心地がいい。家は広いし設備も充実。食べ物も文句なしの美味しさ。それに、何よりこの大自然である。街からはそう離れていないのに、騒がしい都会と隔離されたこの場所は、まるで秘密基地のようで、まさにストレスフリーなのだ。
「涼子ー?風呂そうじ終わったか?」
・・・・・・この男さえ居なければ。
涼子は恨めしそうに、明るいバスルームのドアから顔を覗かせている男を見た。
「まだでーす・・・」
ことさら不機嫌そうな声で、涼子は返事をした。孝哉の造形の良い顔がムッと歪む。こんな顔でもキレイなのだから、イケメンとは本当に得をする人種だと思う。
「なんだその嫌そーな顔と声は。お前がしたいって言ったんだろうが」
そう、この風呂掃除は、涼子が自分から申し出たものなのだ。あまりにも孝哉に至れり尽くせりすぎて、罪悪感を覚え、申し出た次第である。
───別に掃除するのが嫌な訳じゃないんだけど。
お前が嫌なんだよ!!!という心からの叫びは、胸にとどめておく事にしよう。
「もうすぐ終わるよ。ここの泡流したら切り上げるから」
卒なくそう言って背を向けると、孝哉はしばらくの間黙り、諦めたように「あっそ」と何の気なしの返事をした。
「掃除終わったら昼にしよう。今日はカツサンド作ったんだ。前涼子が美味しいって言ってたカツでだよ」
その甘い言葉に、涼子の全身が反応した。
──ええ!?あの清水亭で作ったという、ジューシーサクサクなカツが!?
清水亭というのは、前に孝哉が仕事で関わったらしいお肉専門店で、孝哉はおすそ分けされたと、家にそのカツを持ち帰ってきた。涼子は、一度食べただけで、そのカツの虜になってしまった。衣はサクサク、肉はしっとりジューシーかつ、あふれる肉汁がたまらないという、もはや神が生み出した産物!とまで言えるカツなのだ。
「今終わらせる!!」
やる気を出した涼子に、孝哉が軽く苦笑する。
「お前ホント食べることばっかだなぁ!」
「うっさいな!いいでしょ別に!」
キッと孝哉に向き直ると、自分を見る孝哉の目が、宝物を見るように優しい色を帯びていた。
「っ・・・!!」
予想外のその表情に、心臓が掴まれたような気分になる。
「とっ・・・りあえず!今流すから!」
この、正体不明の気持ちを誤魔化すように、涼子は勢いよくシャワーのスイッチを押した。
───その口を自分に向けたまま。

ザアアアアアアアア!!!
熱いシャワーが顔を直撃。水粒たちが攻撃してきてかなり痛いし熱い。
「ちょっ・・・涼子!?」
孝哉がシャワーのボタンを止め、急いでタオルを持ってきた。
涼子は、しばしの間呆然としていた。そして、はっと我に返って、濡れた顔を真っ赤にした。
───ま、マヌケすぎる!!!
涼子は恥ずかしすぎて、孝哉の顔が見れずにうつむいて、ただ孝哉にタオルで濡れた箇所を拭いてもらっていた。
「た、た孝哉さん!自分でできま・・・うわぷ!?」
孝哉からタオルを奪おうと、顔を上げると、タオルを顔に押し付けられた。
「はいはいお黙り。さっさと拭くからじっとしとけ!」
「でもこんなの・・・」
「何、恥ずかしいってか?あのなぁ涼子?俺は2週間前お前が気絶した後、お前が垂らした精液拭いてやったんだぞ。それに比べたらこんなの・・・」
「ぎゃああああ!やめて!分かりましたからあああ!じっとしてるからそれ以上言うなぁ!」
2週間前の出来事を蒸し返され、涼子はさらに真っ赤になって、卑猥な言葉を発した孝哉の口を塞いだ。孝哉は、少々気に入らないような顔をしつつも、丁寧に涼子の顔を拭いてやる。
───うぅ・・・情けない・・・。
まるで小さな子供か、または犬がされるような行為に、耳まで赤くなる。すると、何かに気づいたのか、孝哉の手が不意に止まった。不思議に思って孝哉を見上げると、孝哉の目は涼子の首から下を見つめている。涼子は、孝哉の見ている方向へと目をやり ・・・瞬時に、固まった。
孝哉が見ていたのは、自分の胸。しかも、シャワーに当たったせいで、涼子の淡いブルー色の下着がばっちりと透けていた。
涼子はほぼ反射的に、悲鳴をあげた。
「きゃーーー!!!なに見てんのよこの変態!!あっち向いてよ!」
涼子は、恥ずかしいやら憎たらしいやら様々な感情で再び真っ赤になり、手で自分の体を隠して身をよじった。自分の濡れた体をしっかりとガードし、孝哉の目の前でぎゃんぎゃん騒ぐ。
「変態おやじ!悪魔ぁ!!あんたってホント最低ですね!ちょっと聞いてんの!?」
孝哉はじっと涼子を見つめたまま動かない。その様子は、何かに耐えるような感じだった。涼子は、何も言わない孝哉のそんな様子に不安になる。
「あの・・・孝哉さん?」
孝哉は眉間にしわを寄せ、苦しげに息を吐いて、呟いた。
「っ・・・ごめん。限界」
「は?限界って何が・・・んんんんぅ!?」
言葉の意味が分からず、聞き返した涼子の唇に、柔らかい感触。目の前には、孝哉の端麗な顔。
涼子は、孝哉にキスされていた。
突然のキスに、驚愕の声をあげた涼子にはかまわず、孝哉はキスを続行する。
「なっ・・・ふぁ・・・た、孝哉さっ!?んぅっ」
「無防備な涼子が悪い」
孝哉は、角度を変えて涼子の唇を食み続け、軽く吸うと、上唇と下唇の間を舌先で舐めあげる。涼子は、巧みなその舌の動きに翻弄されつつも、頑として唇を開こうとはしなかった。
「口、開けろ。涼子」
涼子のその様子に痺れを切らしたのか、孝哉は切羽詰まった声ような声で涼子に囁く。それでも、涼子は首を振って、それを拒否した。
──2週間前みたいなのは絶対イヤ!
「っ・・・ぅ・・・んぅぅ・・・」
だが、そんな涼子の意思とは逆に、身体は与えられる快楽に逆らえない。
───イヤっ・・・なのに!ど、して・・・!!
「んぁっ」
唇に、孝哉の熱い吐息がかかり、涼子は驚いて、小さく声をあげた。口が開いた瞬間に、孝哉のぬるりとした舌がすばやく口内に侵入した。
「んっ・・・んんんっ!」
孝哉は、涼子を逃がすまいとするかのように即座に涼子の舌を絡めとると、激しく吸い、舌の上やら舌裏を、触れるか触れないかの微妙なラインでなでまわした。
「んくっ、あ・・・あぁ、くすぐった・・・」
あまりのくすぐったさに無意識に身体をよじったのがいけなかった。
「ひゃあ!?」
涼子は、使用していた洗剤のぬめりに足を滑らせ、バランスを崩してしまった。
「っ!?りょっ・・・」
孝哉の驚いた声がしてすぐに、ドスっと鈍い音がバスルームに響き、視界が急降下した。
「びっ・・・びっくりした・・・」
「っ・・・大丈夫か・・・涼子」
軽く息切れしながら、顔を上げると孝哉のわずかに歪んだ顔が目に入った。
「!!!!」
即座に状況確認。孝哉が涼子を庇うようにして倒れ込んだので、現在涼子は、孝哉の胸の中にいる。そんな状況に、かあっと一瞬にして顔が赤くなった。
「ご、ごめんなさっ・・・」
離れようとした涼子を、孝哉が逃がすわけもなく。涼子は、腕をがしっと掴まれ、再度孝哉の胸の中に引き込まれた。
「ひっ・・・!?」
目の前には、孝哉の端正な顔。それがみるみる意地悪なものへと変貌する。
背中が氷を入れられたかのように、凍えた。
「あ、の・・・た、孝哉さん?何を・・・」
「何って・・・」
聞くまでもないでしょう?と、聞こえた気がした。
ニッコリと、それはそれは美しい笑みをたたえた孝哉に、今度は全身が氷と化した。
「続き・・・しようか。涼子」


















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