205 / 329
第4章
天然なコルネリアおばあちゃん
しおりを挟む
1時間ほど時が過ぎ、ノックと共に部屋の扉が開かれる。入ってきたのはもちろんリアナとロアだったが、二人は私たちと王太后の姿が目に入った瞬間その場で立ち止まり、信じられないとばかりに驚いた。
「まさか本当にこの短時間で治療し終えたのか?」
「戻っていた場合を考えてノックだけはしておきましょうとは言っていたけれど、本当に戻ってきていたとは驚きです。」
リアナとロアは空いている椅子に座って注意深く王太后を見てから、感心したような視線を私たちに向ける。
私たちはそれに対して不服顔を作り、頬を膨らませて見せる。
「リアナさん。どうして王太后様が患者であると言ってくれなかったんですか?」
「コルネリア様に言われたからだ。こちらも不都合はなかったからそのままいわずにいた。別段問題もなかっただろ?」
したり顔のリアナを殴ってやりたい衝動にかられたけれど、そんな事をしてもこちらが損なだけなので、ため息をついて落ち着く。
「どうしてわざわざ身分を隠すようにリアナに言い含めたのですか?突然明かされる私の身にもなってください。」
私たちが不満の矛先を王太后に向けると、王太后は別段気にするそぶりも見せず、当然といった顔で説明する。
「最初から身分を明かしていれば、普通に接することはなかったでしょう?そうなると色が見えづらくて、何を考えているのか、嘘か本当かがわからなくなってしまうのよ。」
そう言われて全ての事に納得した。
つまりは私たちが悪巧みをしているかそうでないかを観察するためにあえて身分を隠していたのだ。
リアナも王太后が心を読めることを知っていたから、治療して戻ってくれば信じるなんて約束をしたのだろう。
ただ、それでも王太后なのだから、監視の一人でもつけておくべきだとは思うけれど。
「どうして兵を一人も置かなかったのですか?もし私が逃げてしまったり、王太后様を殺してしまおうとしても、すぐに対処できなかったでしょう?」
私たちがそう疑問を言うと、リアナが説明してくれた。
「実は木陰に隠れさせてこっそり監視させていたんだ。誰もいないように見せるために前には出してはいなかったが、さすがにおひとりにさせるわけにはいかないからな。」
やはり監視はいたらしい。わざわざ隠れさせていたのは私たちが油断してボロを出す可能性を考慮しての事だという。
「私も初めて知ったわ。」
「コルネリア様はお優しいですから、あらかじめ教えておくとぽろっと口にしてしまうと思い、黙っていました。」
リアナが微妙な表情でそう言うけれど、それはつまり王太后は天然だから秘密をぽろぽろと漏らす残念な人と言っているようなものだ。
けれど、王太后はリアナの言葉の裏を知ってか知らずか、素直に納得してしまった。
「そうねえ。この前も侍女のエネリアの想い人の名前を想い人の前で言っちゃったし、気をつけなきゃねえ。」
それは、とんでもないやらかしをしていますね。
暴露された後に上手くいって結婚したらしいので良かったけれど、もしも不発に終わったなら目も当てられない。
本当に末恐ろしい天然のようだ。
「そんな事より、もうすぐ夕食の準備が整うようなので、食堂の方に向かうことにしましょう。」
ロアが話を締め、食堂に向かうために一同は部屋から出る。
リアナが向かいのディラン達の部屋に呼びかけると、すぐに全員が出てきた。そしてすぐに驚きに目を見開き、リーノとエラルダは跪いてルーナと同じく礼を取る。
「な、なぜ王太后様がこちらに?」
「まあまあ、こんなに大きく逞しくなって。もうあれから何年もたつから、昔の面影なんてちっともないわねえ。」
驚きおののくディランの質問には答えず、ディランの姿を上から下まで眺めて嬉しそうに笑う。
「リーノもエラルダも跪かないで立ちなさい。リーノも大きくなったけれど、あまり変わらないわねえ。もう20でしょう?」
「それは仰らないでくださいコルネリア王太后様。私も気にしていることですので。」
リーノは苦笑いでそう答える。
「エラルダは・・随分と老けちゃったわねえ。でも渋くて素敵よ。」
「光栄でございます。コルネリア王太后様。」
エラルダは微笑みながら軽く低頭する。
「それで、なぜ王太后様が」
「ディラン。私を昔のようには呼んでくれないの?」
ディランが先ほどと同じ質問をしようとすると、それを遮るように王太后が言葉をかぶせてくる。
ディランは困った顔浮かべてリアナやロアを見るけれど、二人とも首を横に振るのみで、助けに入ることはないようだ。
ディランもそれを察して、王太后の意思も変わらないということがわかり、ため息をついて項垂れた。
「・・・コルネリアおばあ様。」
「なあに?ディラン。」
ディランが折れると、王太后は満面の笑みでそれを迎える。
眉間にできたしわを揉みほぐしながらディランが目を細めながら王太后に再度質問をした。
「どうしてこちらに?」
「ライムちゃんに病気を治してもらっていたのよ。おかげで元気になったわ。」
その言葉を聞いた瞬間に王太后以外の全員が騒然となり、リアナとロアは周りに部外者がいないか目を光らせ、男性陣はばっとルーナと私たちの方に目を向ける。
「ひとまず中に。」
「どうしてそんなに慌てているの?」
「良いから早く入ってください、おばあ様!」
ディランの指示で全員が男性陣の部屋に入り、最後に入ったリアナが廊下を再度確認してから扉を閉める。
「それで、なぜ、おばあ様とリアナとロアがライムの事を知っている?」
ディランの鋭い視線が3人に向けられる。
その視線の意味を理解できていないのは王太后だけで、リアナとロアは深いため息とともに説明した。
ことのあらましを聞いた男性陣はみんな額に手を当てて天を仰ぎ、最後に王太后に目を向ける。
「話はわかりました。ですが、おばあ様。ライムがスライムであるというのは王宮全体が知るところではないでしょう?」
「そうねえ。」
「でしたら、予め知っている者以外の前ではこの話はしないようにお願いします。」
「ええ、わかったわ。」
「・・・本当にわかっておられますか?」
ディランが疑わしい目を向けると、王太后はこてりと首を傾げて見せる。
「どうしてそんなに信じられないの?」
「いえ、おばあ様は昔からほとんど変わられていないようですので。」
王太后の天然は昔かららしく、ディランはぽろっと重要なことを口に出してしまう王太后の事を信じられないようだ。
「なんだか知らないけれど、ちゃんと黙っているわよ。」
「でしたら、先程のように廊下で不用意にライムの話をしないでいただけますか?」
ここでようやく自分が何をやらかしたのか理解した王太后は、ちらちらと周囲を窺う。
「もしかして、不味かったかしら?」
王太后の問いに、全員が頷いた。
「もしも無関係の兵士が通っていたりすれば、口封じをしなければいけなくなりましたし、取り逃がして広まりでもすれば目も当てられません。」
「もっとご自分の影響力をお考えになってください。」
「処断されるのは周りなのですよ。」
「王太后様は昔から全く変わりませんなあ。」
「もう少しお考えになってからお話しくださいますようお願いします。」
全員から注意を受けて、小さくなる王太后。
なんだかかわいそうに見えたので、私たちは間に入ってみんなを抑えようとする。
「王太后様も悪気はないのですから、そこまでで許してあげてください。」
「ライムちゃん・・・。」
小さくなっていた王太后が間に入った私たちを抱え上げてぎゅっと抱きしめてきた。
「ライムちゃん、ありがとうね。これからは私の事おばあちゃんって呼んでいいのよ。さっきみたいにね。」
「いや、それはちょっと・・・。」
「おばあ様。本当にわかっておられますか?」
わかっておられないと思います。
笑顔で私たちを抱きしめる王太后はとってもかわいいおばあちゃんだけれど、ひしひしと不安が募る私たち。
割って入らない方が良かったかもしれないと思う私たちだった。
「まさか本当にこの短時間で治療し終えたのか?」
「戻っていた場合を考えてノックだけはしておきましょうとは言っていたけれど、本当に戻ってきていたとは驚きです。」
リアナとロアは空いている椅子に座って注意深く王太后を見てから、感心したような視線を私たちに向ける。
私たちはそれに対して不服顔を作り、頬を膨らませて見せる。
「リアナさん。どうして王太后様が患者であると言ってくれなかったんですか?」
「コルネリア様に言われたからだ。こちらも不都合はなかったからそのままいわずにいた。別段問題もなかっただろ?」
したり顔のリアナを殴ってやりたい衝動にかられたけれど、そんな事をしてもこちらが損なだけなので、ため息をついて落ち着く。
「どうしてわざわざ身分を隠すようにリアナに言い含めたのですか?突然明かされる私の身にもなってください。」
私たちが不満の矛先を王太后に向けると、王太后は別段気にするそぶりも見せず、当然といった顔で説明する。
「最初から身分を明かしていれば、普通に接することはなかったでしょう?そうなると色が見えづらくて、何を考えているのか、嘘か本当かがわからなくなってしまうのよ。」
そう言われて全ての事に納得した。
つまりは私たちが悪巧みをしているかそうでないかを観察するためにあえて身分を隠していたのだ。
リアナも王太后が心を読めることを知っていたから、治療して戻ってくれば信じるなんて約束をしたのだろう。
ただ、それでも王太后なのだから、監視の一人でもつけておくべきだとは思うけれど。
「どうして兵を一人も置かなかったのですか?もし私が逃げてしまったり、王太后様を殺してしまおうとしても、すぐに対処できなかったでしょう?」
私たちがそう疑問を言うと、リアナが説明してくれた。
「実は木陰に隠れさせてこっそり監視させていたんだ。誰もいないように見せるために前には出してはいなかったが、さすがにおひとりにさせるわけにはいかないからな。」
やはり監視はいたらしい。わざわざ隠れさせていたのは私たちが油断してボロを出す可能性を考慮しての事だという。
「私も初めて知ったわ。」
「コルネリア様はお優しいですから、あらかじめ教えておくとぽろっと口にしてしまうと思い、黙っていました。」
リアナが微妙な表情でそう言うけれど、それはつまり王太后は天然だから秘密をぽろぽろと漏らす残念な人と言っているようなものだ。
けれど、王太后はリアナの言葉の裏を知ってか知らずか、素直に納得してしまった。
「そうねえ。この前も侍女のエネリアの想い人の名前を想い人の前で言っちゃったし、気をつけなきゃねえ。」
それは、とんでもないやらかしをしていますね。
暴露された後に上手くいって結婚したらしいので良かったけれど、もしも不発に終わったなら目も当てられない。
本当に末恐ろしい天然のようだ。
「そんな事より、もうすぐ夕食の準備が整うようなので、食堂の方に向かうことにしましょう。」
ロアが話を締め、食堂に向かうために一同は部屋から出る。
リアナが向かいのディラン達の部屋に呼びかけると、すぐに全員が出てきた。そしてすぐに驚きに目を見開き、リーノとエラルダは跪いてルーナと同じく礼を取る。
「な、なぜ王太后様がこちらに?」
「まあまあ、こんなに大きく逞しくなって。もうあれから何年もたつから、昔の面影なんてちっともないわねえ。」
驚きおののくディランの質問には答えず、ディランの姿を上から下まで眺めて嬉しそうに笑う。
「リーノもエラルダも跪かないで立ちなさい。リーノも大きくなったけれど、あまり変わらないわねえ。もう20でしょう?」
「それは仰らないでくださいコルネリア王太后様。私も気にしていることですので。」
リーノは苦笑いでそう答える。
「エラルダは・・随分と老けちゃったわねえ。でも渋くて素敵よ。」
「光栄でございます。コルネリア王太后様。」
エラルダは微笑みながら軽く低頭する。
「それで、なぜ王太后様が」
「ディラン。私を昔のようには呼んでくれないの?」
ディランが先ほどと同じ質問をしようとすると、それを遮るように王太后が言葉をかぶせてくる。
ディランは困った顔浮かべてリアナやロアを見るけれど、二人とも首を横に振るのみで、助けに入ることはないようだ。
ディランもそれを察して、王太后の意思も変わらないということがわかり、ため息をついて項垂れた。
「・・・コルネリアおばあ様。」
「なあに?ディラン。」
ディランが折れると、王太后は満面の笑みでそれを迎える。
眉間にできたしわを揉みほぐしながらディランが目を細めながら王太后に再度質問をした。
「どうしてこちらに?」
「ライムちゃんに病気を治してもらっていたのよ。おかげで元気になったわ。」
その言葉を聞いた瞬間に王太后以外の全員が騒然となり、リアナとロアは周りに部外者がいないか目を光らせ、男性陣はばっとルーナと私たちの方に目を向ける。
「ひとまず中に。」
「どうしてそんなに慌てているの?」
「良いから早く入ってください、おばあ様!」
ディランの指示で全員が男性陣の部屋に入り、最後に入ったリアナが廊下を再度確認してから扉を閉める。
「それで、なぜ、おばあ様とリアナとロアがライムの事を知っている?」
ディランの鋭い視線が3人に向けられる。
その視線の意味を理解できていないのは王太后だけで、リアナとロアは深いため息とともに説明した。
ことのあらましを聞いた男性陣はみんな額に手を当てて天を仰ぎ、最後に王太后に目を向ける。
「話はわかりました。ですが、おばあ様。ライムがスライムであるというのは王宮全体が知るところではないでしょう?」
「そうねえ。」
「でしたら、予め知っている者以外の前ではこの話はしないようにお願いします。」
「ええ、わかったわ。」
「・・・本当にわかっておられますか?」
ディランが疑わしい目を向けると、王太后はこてりと首を傾げて見せる。
「どうしてそんなに信じられないの?」
「いえ、おばあ様は昔からほとんど変わられていないようですので。」
王太后の天然は昔かららしく、ディランはぽろっと重要なことを口に出してしまう王太后の事を信じられないようだ。
「なんだか知らないけれど、ちゃんと黙っているわよ。」
「でしたら、先程のように廊下で不用意にライムの話をしないでいただけますか?」
ここでようやく自分が何をやらかしたのか理解した王太后は、ちらちらと周囲を窺う。
「もしかして、不味かったかしら?」
王太后の問いに、全員が頷いた。
「もしも無関係の兵士が通っていたりすれば、口封じをしなければいけなくなりましたし、取り逃がして広まりでもすれば目も当てられません。」
「もっとご自分の影響力をお考えになってください。」
「処断されるのは周りなのですよ。」
「王太后様は昔から全く変わりませんなあ。」
「もう少しお考えになってからお話しくださいますようお願いします。」
全員から注意を受けて、小さくなる王太后。
なんだかかわいそうに見えたので、私たちは間に入ってみんなを抑えようとする。
「王太后様も悪気はないのですから、そこまでで許してあげてください。」
「ライムちゃん・・・。」
小さくなっていた王太后が間に入った私たちを抱え上げてぎゅっと抱きしめてきた。
「ライムちゃん、ありがとうね。これからは私の事おばあちゃんって呼んでいいのよ。さっきみたいにね。」
「いや、それはちょっと・・・。」
「おばあ様。本当にわかっておられますか?」
わかっておられないと思います。
笑顔で私たちを抱きしめる王太后はとってもかわいいおばあちゃんだけれど、ひしひしと不安が募る私たち。
割って入らない方が良かったかもしれないと思う私たちだった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
518
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる