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第5章

王都出発準備

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 「おまたせライム。」

 「おー待たせちまったみたいだな。どうした。緊急事態か?」

 レナとランベルとメイリーンが帰ってきたのはほとんど同じくらいの時間だった。

 レナは少し装備が変わっていたり、傷ついたところが直されていたので、この数日で次の行動に出られるための準備をしっかりとしていたようだ。

 けれどランベルの方は最後に見た時とほとんど変わっていなかった。それどころか今日は酒場に顔を出していたせいか物凄くお酒の臭いが漂ってきた。正直、嗅覚を切っていないと耐えられないくらいには臭ってくる。

 「ランベルはまず水でも飲んで酔いを醒ましなさい。」

 ランベルの歩みは少しおぼつかなく思える。それを指摘したメイリーンが元々は酒が入っていたのであろう大瓶に入った水をランベルに勧める。

 「そんなに酔ってないんだがな~。」

 「いいから早く飲みなさい。これから大事な話をするっていうのにそんな状態じゃ耳に入らないでしょ。」

 有無を言わさず突き出す大瓶をランベルは渋々ながら受け取ると、その半分を一気に流し込んで息を吐く。顔は相変わらず赤いままだったけれど、直に良くなっていくだろう。

 とりあえず全員の聞く態勢が整ったところで、私たちはここに来た理由とこれからの行動予定、そして一人で来た理由やオーランド男爵とこのあと合流することなどを説明した。

 メイリーンとニーナには予め簡単に伝えておいたけれど、詳しい説明はあまりしていなかった。王宮内の状況や今後どのような動きになるのかも伝えておく。今回のリアナを説得することの重要性や、説得できた場合の後の展開など、考えられることはすべて伝えておく必要があるだろう。

 「王太后が動くなんてもう何年もなかったことだと思うけど。それにエラルダさんが王太后の近衛騎士団に戻るなんて。」

 レナによると、王太后が離宮に入ってからは表舞台にはほとんど出ていないそうだ。大きな行事にすら時折顔を出す程度で、基本的には不干渉を貫いているらしい。

 「ただ、一度だけ、王太后が王都のお祭りのときに、ディランのことを良く話していたことがあった気がする。ディランがまだ王宮にいた頃で、たまたま私が父さんと王都に来ていた時の話だからうろ覚えだけど。もしかしたら王太后は前々からディランを応援していたのかもしれないね。」

 王太后関係の話はそれで終わり、今度はリアナを説得しに行くことについての話に切り替わる。

 「オーランド男爵はいつ頃来る予定なの?」

 「ハルフリート様と話をすると言っていましたから、それが終わってからという事になると思います。どんな話をするのかも、それがどれくらいで終わるのかも言わずに行ってしまいましたから、いつ来るかはわかりませんね。」

 「今日行くことは間違いないんだよな?」

 ようやく酒が抜けてきたランベルに、私たちは頷いて見せた。オーランド男爵がいつ来るかはわからないけれど、それほど時間がかかることもないと思う。

 「いつでも出られるようにしておいた方がいいと思います。リアナが今どのあたりまで近づいているのかもわかりませんし、騒ぎにならないように動くなら夜のうちに出る方が目立ちませんから。」

 「なら俺は部屋に戻って準備をしてくるかな。」

 ランベルはゆっくりと立ち上がり、部屋を出ていく。レナとメイリーンとニーナは同じ部屋を取っていたが、ランベルは廊下をはさんだ反対側の部屋をとっているようだ。そりゃ四人が同じ部屋なわけないよね。

 「私たちも準備しておいた方がいいよね。宿屋は出た方がいいのかな?」

 リアナの説得を試みた後は、そのまま一緒に王都に帰ることになるかもしれない。私たちの場合は先に帰ってきて王太后と会わなければいけないけれど、レナたちの動きは話し合いの結果次第という事になりそうだ。

 「一応出た方がいいと思います。」

 「なら荷物の整理をしないと。」

 それからはオーランド男爵が来るまで部屋の片づけや荷物の整理などをしていた。先に部屋を出て行ったランベルにも出ていく準備をしておくように伝えると「まじかよ」とぼやきながら部屋の片づけをしだした。部屋を少し覗いてみると酒瓶などが転がっていたので、片付けは少し大変かもしれない。

 「そうそう。ライム。はい、これ。」

 片付けを手伝っていると、レナが思い出したように鞄の中からいくつかの服を取り出して、私たちに渡す。それはドラゴンとの戦闘でボロボロになった冬と秋のローブだった。

 実は今まで人型になっている間は春用のローブを着ていた。まだまだ寒さが厳しくはあるものの、ぎりぎりしのげているローブ。けれど、やはり寒くなるのを想定して作った2つのローブに比べれば防寒性に関しては頼りない。これから王都の外に出るにあたってひそかに頭を悩ませていたことの一つだったけれど、この数日の間に直してくれていたようだ。

 「助かります。これほどすぐに直るとは思っていませんでした。」

 「私たちはそれほど忙しくはなかったからね。ただ、魔石に関しては全く手が出せないから、防御面に関しては期待しないでね。」

 ルーナのように魔石を作り出して付ける技術は持っていないレナには、壊れてしまった魔石をつけ直すことはできない。仕方のないことではあるけれど、少々頼りなく見えてしまう。

 「それでも寒さで動きが制限されてしまうよりはましです。ありがとうございます。」

 防御面に関しては頼りなくとも、そのほかは完璧に直っている。オーランド男爵が用意してくれたお茶で体の動きも前より良くなりつつあるので、それが阻害されないだけでも十分だろう。私は笑顔を見せてありがたく冬のローブに着替えた。
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