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17☆遠回り
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冷たい声が、僕の脳内に響き渡る。ついに、告げられてしまった。覚悟をしていたとはいえ、辛い。
「……ご飯、美味しくなかった?」
しばらくの沈黙の後に僕が発したのは、くだらない内容だった。我ながら何を言っているんだ、と思ったが、十夜は少し動揺したように見える。
「いや、ご飯は最高だったよ。毎日こんなご飯を食べることができたら、幸せだと思う」
そこまで言ってくれるとは。お世辞を言うような性格ではないから、恐らく本心だろう。
こう言ってもらえただけで、満足だ。もう思い残すことはない。
十夜は目を伏せ、観念したように告げる。
「俺は、お前を騙していたんだ」
「……知ってるよ」
こちらも白状すれば、十夜は目を見開いて、驚愕していた。
「この家も、前から準備してたんでしょ」
「……知ってたのか?」
コイツらしからぬ、呆けた顔で見つめられる。もっと、気まずそうな雰囲気になるかと思っていたのに、そんなに驚いたのだろうか。僕まで釣られて間抜け面になってしまう。
「知ってたのに、俺のためにご飯を……?」
「あ、それは……僕もお前に優しくしてやりたいって思って……」
最後にせめて、恋人らしいことをしたかった。そこまで言おうか悩んでいると、十夜が勢い良くガタッと立ち上がる。
「光輝、それは……認めてくれるってことか?」
「え……?」
何を認めると言うのか。言っている意味が分からなくて、首をかしげた。
「俺はこの想いを、貫いていいんだな?」
真剣な顔で言われたセリフに、ああ、そうか、と理解する。
十夜には恐らく、想い人がいたのだろう。僕と別れて、本来好きだった子への想いを貫くということだ。目の前ではっきり言われてしまうと、悲しい。
「うん……」
目を反らしながら答えると、立ち上がっていた十夜が近づいてきた。腕を掴まれ、ひょいっと椅子から立ち上がらせられる。何が何だか分からないまま、気づいた時には抱き締められていた。
「光輝……ありがとう」
「なっ……」
お礼を言われるのは良いが、抱き締められる意味が分からない。いったい何を考えているのか。
「離せよっ……!」
「光輝?」
腕の力が弱められた隙に、力を籠めて身体を押し離した。
「こういうことは、僕としちゃ駄目だろ!」
必死で抗議するが、目の前の十夜はぽかーんとしている。はっきり言わないと分からないのだろうか。
「……どういうことだ?」
「だから、お前、好きな子がいるんだろ!?こういうことは好きな子とやるものじゃないか……って……」
僕が言い終わらないうちに、十夜は頭を抱えだした。コイツがこんな、明らかに苦悩している姿は初めて見る。しばらくぶつぶつ何か言っていたかと思うと、最後に大きな溜息をついた。
「あぁ……はっきり言っていなかった俺が悪いのか……」
「何の話……?」
かなり動揺しているうえに何か反省しているらしい。触れてはいけない秘密に触れてしまったようで、ヒヤヒヤしながら声をかけた。すると、急に顔を上げて睨まれる。
「光輝」
「ひぃっ」
近づいてきた顔に怯えてしまったが、なんだか十夜も緊張しているような様子だ。
「お前が好きだ」
「……え……?」
「お前を、ずっと前から俺のものにしたかった」
その言葉を聞いた耳から、熱いものが身体中を駆け巡る。全身の血が激しく流れ出したような感覚だ。
(コイツが、僕のことを好きだって――!?)
とても信じられない。信じられないのだが、さすがにこんな状況で嘘をつくとは思えない。しかし、そう簡単には本気にもできない。
「うそ……」
頬に触れてきた手が熱く感じる。
「本当だよ。お前と一緒に住みたくて、この家を契約しておいたんだ」
「一年も前から……?」
「ああ」
いくらなんでも先走り過ぎだろ、と思うが、コイツならやりかねないとも思った。それが本当だとすれば、確かにすべてに合点がいく。
「マンションが完成して、なんとかお前と同居にこじつけようとしていた時に、あの一件があったんだ」
「あ……」
あの一件とは、プロデューサーの娘さんと遭遇した時のことだろう。
まさか、コイツの脳内にそんな計画があったなんて。
「上手く同居することはできたが……お前を傷つけてしまったな」
「ばか……早く言ってよ……」
今度こそ、十夜を信じることができた僕は、その場に崩れ落ちた。顔から火が出そうなほど熱い。
そんな僕を、十夜が包み込むように抱き締める。
「光輝、悪かった。今日からまたやり直そう」
「うん……」
僕もコイツも本当に馬鹿だ。なんて遠回りをしていたのだろう。
顔を上げると、優しい口づけが降ってきた。恥ずかしいのに、抵抗することができない。
もう気持ちを隠す必要の無くなった僕は、そのまま心地よい感触に身を委ねた。
「……ご飯、美味しくなかった?」
しばらくの沈黙の後に僕が発したのは、くだらない内容だった。我ながら何を言っているんだ、と思ったが、十夜は少し動揺したように見える。
「いや、ご飯は最高だったよ。毎日こんなご飯を食べることができたら、幸せだと思う」
そこまで言ってくれるとは。お世辞を言うような性格ではないから、恐らく本心だろう。
こう言ってもらえただけで、満足だ。もう思い残すことはない。
十夜は目を伏せ、観念したように告げる。
「俺は、お前を騙していたんだ」
「……知ってるよ」
こちらも白状すれば、十夜は目を見開いて、驚愕していた。
「この家も、前から準備してたんでしょ」
「……知ってたのか?」
コイツらしからぬ、呆けた顔で見つめられる。もっと、気まずそうな雰囲気になるかと思っていたのに、そんなに驚いたのだろうか。僕まで釣られて間抜け面になってしまう。
「知ってたのに、俺のためにご飯を……?」
「あ、それは……僕もお前に優しくしてやりたいって思って……」
最後にせめて、恋人らしいことをしたかった。そこまで言おうか悩んでいると、十夜が勢い良くガタッと立ち上がる。
「光輝、それは……認めてくれるってことか?」
「え……?」
何を認めると言うのか。言っている意味が分からなくて、首をかしげた。
「俺はこの想いを、貫いていいんだな?」
真剣な顔で言われたセリフに、ああ、そうか、と理解する。
十夜には恐らく、想い人がいたのだろう。僕と別れて、本来好きだった子への想いを貫くということだ。目の前ではっきり言われてしまうと、悲しい。
「うん……」
目を反らしながら答えると、立ち上がっていた十夜が近づいてきた。腕を掴まれ、ひょいっと椅子から立ち上がらせられる。何が何だか分からないまま、気づいた時には抱き締められていた。
「光輝……ありがとう」
「なっ……」
お礼を言われるのは良いが、抱き締められる意味が分からない。いったい何を考えているのか。
「離せよっ……!」
「光輝?」
腕の力が弱められた隙に、力を籠めて身体を押し離した。
「こういうことは、僕としちゃ駄目だろ!」
必死で抗議するが、目の前の十夜はぽかーんとしている。はっきり言わないと分からないのだろうか。
「……どういうことだ?」
「だから、お前、好きな子がいるんだろ!?こういうことは好きな子とやるものじゃないか……って……」
僕が言い終わらないうちに、十夜は頭を抱えだした。コイツがこんな、明らかに苦悩している姿は初めて見る。しばらくぶつぶつ何か言っていたかと思うと、最後に大きな溜息をついた。
「あぁ……はっきり言っていなかった俺が悪いのか……」
「何の話……?」
かなり動揺しているうえに何か反省しているらしい。触れてはいけない秘密に触れてしまったようで、ヒヤヒヤしながら声をかけた。すると、急に顔を上げて睨まれる。
「光輝」
「ひぃっ」
近づいてきた顔に怯えてしまったが、なんだか十夜も緊張しているような様子だ。
「お前が好きだ」
「……え……?」
「お前を、ずっと前から俺のものにしたかった」
その言葉を聞いた耳から、熱いものが身体中を駆け巡る。全身の血が激しく流れ出したような感覚だ。
(コイツが、僕のことを好きだって――!?)
とても信じられない。信じられないのだが、さすがにこんな状況で嘘をつくとは思えない。しかし、そう簡単には本気にもできない。
「うそ……」
頬に触れてきた手が熱く感じる。
「本当だよ。お前と一緒に住みたくて、この家を契約しておいたんだ」
「一年も前から……?」
「ああ」
いくらなんでも先走り過ぎだろ、と思うが、コイツならやりかねないとも思った。それが本当だとすれば、確かにすべてに合点がいく。
「マンションが完成して、なんとかお前と同居にこじつけようとしていた時に、あの一件があったんだ」
「あ……」
あの一件とは、プロデューサーの娘さんと遭遇した時のことだろう。
まさか、コイツの脳内にそんな計画があったなんて。
「上手く同居することはできたが……お前を傷つけてしまったな」
「ばか……早く言ってよ……」
今度こそ、十夜を信じることができた僕は、その場に崩れ落ちた。顔から火が出そうなほど熱い。
そんな僕を、十夜が包み込むように抱き締める。
「光輝、悪かった。今日からまたやり直そう」
「うん……」
僕もコイツも本当に馬鹿だ。なんて遠回りをしていたのだろう。
顔を上げると、優しい口づけが降ってきた。恥ずかしいのに、抵抗することができない。
もう気持ちを隠す必要の無くなった僕は、そのまま心地よい感触に身を委ねた。
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