騎士団長の秘密の部屋に匿われています!?

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║31║選ぶのは王位か、……愛の報告!?

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「父王は、自らの処分を我らに委ねた。それはすなわち――退位を意味する。今日をもって、彼は王の座を降りる」
王座の間に響いたクラウディオ兄上の言葉に、しんとした静けさが落ちた。
場にいるのは限られた者たち――兄王子たちと、少数の信頼できる騎士たち、そしてグレンと僕。
玉座に座っていた父が、ただ無言で肩を落とし、視線を逸らしているのが見えた。
あの父王が、かつて世界を征服しようと目論んだ男が、今はまるで抜け殻のようだ。
暴走しかけた僕の力を目の当たりにし、それをも受け止めたグレンの姿を見て、すべてを悟ったのだろう。
もう、抗う力も、言葉も残っていない。
その姿に、かつての恐怖も怒りも、不思議と湧かなかった。
ただ、哀れだと思った。
「王位は、誰が?」
レオニス兄上の問いに、クラウディオ兄上が一歩前に出る。
「第一王子である私が継ぐのが本来の筋だ。だが――」
そこで兄上は、ゆるやかに視線を僕へと移した。
「アストル。お前に、この国の未来を託したい。正式に、王位を継承してほしい」
息が、喉の奥で詰まる。まさか、本当にそんな言葉を告げられる日が来るなんて。
「……僕が?」
「お前は『異端』として扱われ、力を恐れられ、蔑まれてきた。だが――その力で人を救い、国をも救ったのは他ならぬお前だ」
兄上の声は静かに、けれど一片の揺らぎもなく胸に響いた。
「お前なら、この国を新たな形に導ける。理不尽を誰より知り、その痛みを抱えてきたお前だからこそ」
「……嬉しいです。そう言ってもらえて」
胸の奥がじんと熱を帯びる。でも、それでも僕は――
「けれど、僕には……もう別の望みがあります」
「別の望み?」
レオニス兄上が首をかしげる。
僕はグレンの方へ一歩近づき、その腕に手をそっと添えながら、ふたりの兄の前に立った。
「僕は、誰かをねじ伏せる力より、誰かと穏やかに笑って過ごす日々がほしい。……肩書きや立場に縛られず、普通の人として、グレンと暮らしていきたいんです」
クラウディオ兄上は静かに目を細め、レオニス兄上も真剣な眼差しをこちらに向けてきた。
「……甘い幻想でないか、アストル?」
「そうかもしれません。でも、もう僕は――争うためじゃなくて、守るために力を使いたいんです。毎日を無事に終えて、笑っておやすみって言える、それだけで幸せだから」
グレンが、僕の隣で小さくうなずいた。
「私も、同じ気持ちです。殿下の隣で、ただ静かに生きる日々を望んでおります」
「……グレン殿」
クラウディオ兄上が軽く眉をひそめる。
「あなたは、かつて最前線に立っていた騎士団長だ。そんな簡単に静かな暮らしが、できると?」
「静けさとは、ただ戦いを遠ざけることではありません」
グレンの低い声が、すっと空気を引き締めた。
「私にとっての平穏は、殿下が傍らで安らかに息づく日々。剣を置こうと、騎士としての誇りは決して失わぬまま、その未来を守り抜きます」
凛と響くその言葉に、部屋の空気がしんと静まり返った。
「……なるほどな」
クラウディオ兄上が、ふっと肩の力を抜く。
「ならば、我らに異論はない。アストル、お前の望みを優先しよう」
「兄上……」
「ただし――」
クラウディオ兄上の声が低く響き、場が再び張り詰めた。その眼差しが、まっすぐに僕とグレンを射抜く。
「二人で生きると決めるなら、それは甘い夢では済まされない。世間の視線も、責務も、すべて背負うことになる。その覚悟があるのか?」
グレンは一歩前に出て、短く、しかし迷いなく答えた。
「あります。殿下と共にある限り、いかなる困難も受けて立ちます」
その横で、僕も強く頷いた。
「僕も同じです。もう迷いません。これから先のすべてを、彼と共に背負います」
わずかな沈黙の後――クラウディオ兄上は静かに目を閉じ、そして口元を緩めた。
「……そうか。ならば、これ以上問うまい」
厳しい問いは、僕たちを試すためのものだったのだと悟る。張り詰めていた空気がやわらぎ、部屋に静かな安堵が広がっていった。
「ふふ……まったく。堂々と覚悟を口にするなんて、アストルもすっかり大人になったものだね」
レオニス兄上が、からかうように目を細める。
「でも……人前でそこまで惚気られると、兄としては少し目のやり場に困るなぁ」
「なっ……そ、そんなつもりじゃ……!」
一気に顔が熱くなる。慌てて否定するけれど、隣のグレンは微動だにせず、むしろ少し誇らしげに見える。
「私は、ただ事実を述べただけです」
「グレンまで、何をっ……!」
クラウディオ兄上が小さく肩を揺らし、珍しく声を漏らして笑った。その落ち着いた笑いに釣られるように、部屋の空気がやわらいでいく。
僕は姿勢を正し、あらためて二人の兄の前に立った。
「国をお二人に任せることになって……本当に申し訳なく思っています」
クラウディオ兄上は厳かな顔で頷き、静かに答える。
「気にするな。だが――代わりに、一つだけ義務を負ってもらう」
「……義務?」
恐る恐る問い返す僕に、兄上は涼しい顔で続けた。
「これからは、定期的に報告をするように」
「……えっ?報告って、何をですか?」
「決まっているだろう。お前とグレンの仲睦まじさを、だ」
王座の間が、一瞬しんと静まり返る。
「…………っはああぁ!?」
僕が叫ぶのと同時に、レオニス兄上が目を丸くし――そして腹を抱えて爆笑した。
「ク、クラウディオ兄上がそんな冗談を……!あはははっ、アストル、顔真っ赤だよ!」
「ち、違っ、な、仲睦まじさって……そ、そんなの、報告できるわけ――!」
必死に否定する僕を見て、レオニス兄上は涙を浮かべながらさらに笑い転げる。
「やだもう、面白すぎる!アストルの反応まで完璧すぎだよ……!」
どうしてこんな辱めを受けなきゃいけないんだ……と頭を抱えたその時。
隣に立つグレンが、淡々と口を開いた。
「……報告なら、私が書きましょう。毎日でも」
「や、やめてえええええっ!!」
思わず裏返った絶叫に、兄たちの笑い声がさらに響き渡る。めったに笑わないクラウディオ兄上までもが、口元を緩め、細めた瞳に愉快そうな光を宿していた。
グレンの肩に抱き寄せられながら、僕の羞恥心は爆発寸前になる。
――さっきまで勇ましく王に挑んでいたというのに。どうしてこんなことに!?
グレンがちらりと僕を見下ろし、わずかに目を細めた。
「……頼もしいかと思えば、今はとても可愛らしい」
「~~~~っ!!」
もう耐えられない!とばかりに、僕は顔を覆う。
玉座の間いっぱいに、幸せな笑い声が広がっていった。
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