異世界の勇者に逮捕されました!?

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20 ひと時の幸せ

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それからは、二人での新しい生活が始まった。
もう監視は必要なくなったので、俺は一人で出勤し、その間アルクは家で留守番をしている。もちろん、合鍵を使って自由に出入りもできるようにしていた。

「ただいまー」
「おかえりー」
仕事を終えて家に帰ると、アルクが出迎えてくれる。それが嬉しくて仕方がない。
「わぁ、美味しそうな匂い……」
しかも、アルクはご飯も作ってくれるのだ。この間少しキッチンの使い方を教えただけで、あっという間にマスターしてしまった。彼は本当に才能の塊だ……。

「今日はオムライスを作ってみたんだ」
テーブルの上には美味しそうなオムライスが並べられている。レシピ本を見て作ってくれたのだろう。とても美味しそうだ。しかし、玉子の上に乗せられたケチャップの文字を見て驚く。
そこには、『I LOVE YOU』と書かれていた。
「こ、これって……」
「ケチャップでこういう風に書くってテレビで見たんだけど、間違ってたかい……?」
不安げに見つめてくるアルクに、思わず抱きついてしまう。
「間違ってないよ!嬉しい……」
感動していると、アルクが照れ臭そうに頭を撫でてきた。
「喜んでくれてよかった」
アルクの鼓動が伝わってくる。もしかして、俺がどういう反応をするのか緊張していたのだろうか。そう思うと、胸が熱くなった。
「本当に嬉しいよ、ありがとう」
「ふふ、じゃあ冷めないうちに食べようか」
「うん!いただきます!」
手を合わせてスプーンを手に取る。そして、一口食べると、ふわふわとした玉子が口の中でとろけ、甘さと旨味が広がった。
「うわー!おいしい!」
「本当?良かった」
素直な感想を伝えると、アルクは安堵のため息を漏らす。
「アルクは何でもできちゃうんだなぁ」
「そんなことはないさ。でも、真尋が僕の作ったご飯を食べてくれたら嬉しいな」
「毎日食べたいよ」
「ふふっ、それは光栄だな」
アルクの笑顔を見ると胸が高鳴る。こんな幸せな日々が続くといいなと思いながら、最高のオムライスを口に運んだ。

***

それから二週間ほど経ったある日のこと。
「ただいまー」
いつも通り家に帰ると、アルクの様子がおかしいことに気づいた。
ソファーに座っているのだが、何だか元気が無いように見える。心配になって駆け寄ると、彼はこちらを見上げた。
「アルク、どうかしたのか?」
「ああ、真尋お帰り……ちょっと考え事をしてただけだから、大丈夫だよ」
そう言って微笑んでくれるが、やはりどこかぎこちなく感じる。
「ごめん、夕飯の準備がまだだったね。すぐに作るよ」
「待ってくれ」
俺は、立ち上がって台所に向かおうとするアルクの腕を掴む。
「アルク、何かあったんだろう?話してくれないか?」
真っ直ぐ見つめると、アルクが視線を落とした。
「実は……今日自分の世界に行ってきたんだ」
「そうだったのか……それで、何があったんだ?」
「結論から言うと、魔獣の狂暴化が収まっていたんだ」
「えっ、それって……」
もしかして、アルクの世界を救うことができたということではないだろうか。
「やったじゃないか、アルク」
嬉しいことのはずなのに、何故かアルクの顔は暗いままだった。
「もちろん、僕も喜んだよ。これで平和が訪れる。だけど……」
「……どうしたんだ?」
アルクは拳を握りしめていた。その手が微かに震えている。
「もう、僕の役目は終わったんだ……」
「えっ……」
「真尋と一緒に居られるのはあと少しなんだって考えたら、辛くて……」
アルクは俯いて黙り込んでしまった。俺も何も言えずにその場に突っ立っていることしかできない。

そうだ、俺達は仮の恋人なのだ。本当の恋人じゃない。いつか別れが来ることは分かっていたはずだ。
でも、あまりにも幸せすぎて忘れてしまっていた。
「アルク……」
気がつくと彼の身体を抱き寄せていた。
「真尋……?」
離れたくない。ずっと一緒にいたい。でも、そんなことを言ってはいけないのだ。彼には帰る場所があるのだから。
「俺も寂しいよ……。でも、帰らないといけないんだろう」
「……そうだね」
アルクの声が掠れる。抱きしめた腕に力が入ってしまう。すると、アルクが背中に手を回してきた。
「ねえ、真尋、今夜は我慢せずに思い切り抱いてもいいかな?」
「……えええっ!?」
突然の言葉に驚いてしまう。今までも割と激しめだったと思うのだが、それでも一応セーブしていたというわけか……。
とはいえ、アルクがこんなことを言うなんて。それだけ俺のことを想っていてくれたのだろう。そう考えると、嬉しい気持ちが込み上げてくる。
「いいよ。俺もアルクにめいっぱい愛されたい……」
「ありがとう……」
優しく唇を重ねられ、ゆっくりとキスをされた。今までならただ幸せな時間だったが、今は別れが心に重くのしかかる。
だが、今はそんなことを考えずに、彼と過ごす貴重な時間を心から楽しもうと思った。
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