1 / 11
あんたがいればそれでいい
コーヒーと紅茶とたっぷりの砂糖
しおりを挟む
俺はクソ野郎だ。
稼いだ金はギャンブルその他エンターテイメントでその日のうちに消え、寝床は一日限りの恋人に甘えて間借りする。飯はその日のチームメイトにたかれれば上々だ。
長く付き合いがあるのは悪友ばかり、ごくごく少数精鋭である。絵に描いたようなクソ野郎だと数少ない悪友たちはよく茶化した。ろくな生き方もしていなければろくな死に方もしない。毎日変わるチームメイトにそんなことをいわれたこともある。
自他共に認めるクソ野郎の話を聞いて、ロドナーク・アルディは笑ってこういった。
『未だかつて俺ほどのクソ野郎を見たことがない』
友人でもなく恋人でもなくチームメイトですらない。
たまたま雨宿りしたコーヒーショップで会った男だ。ティーバックが突っ込まれたままの紙コップを傾け、味もわからなければ香りすら良くわからない茶を啜っているときに知り合った。
話しかけたきっかけはなんだったか。おそらく、似たような野郎どもが下世話なことを大声で話していたことからだ。昨晩お楽しみすぎてお口も上機嫌だった。ショップ内にいた全員が、そいつの話を聞いていただろう。
せっかちな俺は茶葉が蒸れる前に、味つきの湯を作るべく砂糖に手を伸ばしていた。ロドナークもちょうど砂糖に手を伸ばしているときで、譲り合ってまごついたところに例の話が耳に飛び込んだ。
二人して顔を見合わせ苦笑し、俺が先にスティックシュガーを手に取る。
「こんなところで他人の武勇を聞くことになるとは」
なんとなく呟いたことばをロドナークが拾った。
「詐欺まがいなコンサルティングの話ならよく聞くが、昼間から勇ましいな」
やれやれ品位をどこに置いて来たのやら。心の声が聞こえてきそうなロドナークはコーヒーにスティックシュガーを五本流しいれると、コーヒーミルクを二つ開けた。ざらざらゴリゴリとカップから聞こえてくる異音に、俺は自然と手元からロドナークの顔に目を向ける。
この世に訪れる朝という朝を殺してきたような顔だった。眉間には谷を作り、目の下のクマは暗く、疲れが目元と頬に皺を刻む。砂糖をかき混ぜているだけなのに陽の光を憎むように、影の中で恨み言を呟いているようにも見えた。明るい色なのだろう。黒い髪の間から覗く目は銀色に鈍く光る。
「けど、日替わりで住居と恋人と職場の仲間が変わる人間にはいわれたくねぇよなぁ」
ゴリゴリとカップの底を擦るのをやめ、俺に振り向いたロドナークは小さく笑って頷いた。
「噂のソロプレイヤーは私生活もソロだと聞いていたが、なるほど。フリースタイルゆえのソロか」
ロドナークの顔を正面から見て、俺はようやくそいつが同業者だと気がつく。
当時のロドナークはプロキシゲームというゲームの五対五戦闘部門の有名なプレイヤーだった。やたらと派手なチームリーダーと一緒に前線を走る戦闘狂の策士、変幻自在な地形操作を得意とする魔術師と天候操作を得意とする巫術師……極め付けに動く城塞と呼ばれる……術師しかいない珍しいチームに所属していたせいもあっただろう。
かくいう俺も当時から有名人だ。一度もソロで戦ったことがないのに、ひとつのチームに留まらず助っ人ばかりしているプレイヤーであることからソロプレイヤーと呼ばれていた。
「まぁ、確かにいわれたくないだろうよ。なんせ、未だかつて俺ほどのクソ野郎を見たことがない。他人のことなどいえた義理じゃないな」
「へぇ……俺もクソ野郎振りには自信があんだけどなぁ」
ロドナークは再び砂糖をコーヒーの中で磨り潰しながら、もう一度笑う。
「じゃあ、確かめてみるか?」
三徹目にして他人の代理でカードゲームの賭け事をまだ続けねばならず、休憩で入ったコーヒーショップでうっかりナンパしてしまったのだ。後にやはり笑いながらロドナークは俺に教えてくれた。
「それなら今夜、寝床借りにいくわ」
そんなこんなで紙ナプキンに書かれた住所を戦利品として別れた俺は、その晩、一人寝床を暖めることになった。
これが本当のソロプレイヤーってか。
稼いだ金はギャンブルその他エンターテイメントでその日のうちに消え、寝床は一日限りの恋人に甘えて間借りする。飯はその日のチームメイトにたかれれば上々だ。
長く付き合いがあるのは悪友ばかり、ごくごく少数精鋭である。絵に描いたようなクソ野郎だと数少ない悪友たちはよく茶化した。ろくな生き方もしていなければろくな死に方もしない。毎日変わるチームメイトにそんなことをいわれたこともある。
自他共に認めるクソ野郎の話を聞いて、ロドナーク・アルディは笑ってこういった。
『未だかつて俺ほどのクソ野郎を見たことがない』
友人でもなく恋人でもなくチームメイトですらない。
たまたま雨宿りしたコーヒーショップで会った男だ。ティーバックが突っ込まれたままの紙コップを傾け、味もわからなければ香りすら良くわからない茶を啜っているときに知り合った。
話しかけたきっかけはなんだったか。おそらく、似たような野郎どもが下世話なことを大声で話していたことからだ。昨晩お楽しみすぎてお口も上機嫌だった。ショップ内にいた全員が、そいつの話を聞いていただろう。
せっかちな俺は茶葉が蒸れる前に、味つきの湯を作るべく砂糖に手を伸ばしていた。ロドナークもちょうど砂糖に手を伸ばしているときで、譲り合ってまごついたところに例の話が耳に飛び込んだ。
二人して顔を見合わせ苦笑し、俺が先にスティックシュガーを手に取る。
「こんなところで他人の武勇を聞くことになるとは」
なんとなく呟いたことばをロドナークが拾った。
「詐欺まがいなコンサルティングの話ならよく聞くが、昼間から勇ましいな」
やれやれ品位をどこに置いて来たのやら。心の声が聞こえてきそうなロドナークはコーヒーにスティックシュガーを五本流しいれると、コーヒーミルクを二つ開けた。ざらざらゴリゴリとカップから聞こえてくる異音に、俺は自然と手元からロドナークの顔に目を向ける。
この世に訪れる朝という朝を殺してきたような顔だった。眉間には谷を作り、目の下のクマは暗く、疲れが目元と頬に皺を刻む。砂糖をかき混ぜているだけなのに陽の光を憎むように、影の中で恨み言を呟いているようにも見えた。明るい色なのだろう。黒い髪の間から覗く目は銀色に鈍く光る。
「けど、日替わりで住居と恋人と職場の仲間が変わる人間にはいわれたくねぇよなぁ」
ゴリゴリとカップの底を擦るのをやめ、俺に振り向いたロドナークは小さく笑って頷いた。
「噂のソロプレイヤーは私生活もソロだと聞いていたが、なるほど。フリースタイルゆえのソロか」
ロドナークの顔を正面から見て、俺はようやくそいつが同業者だと気がつく。
当時のロドナークはプロキシゲームというゲームの五対五戦闘部門の有名なプレイヤーだった。やたらと派手なチームリーダーと一緒に前線を走る戦闘狂の策士、変幻自在な地形操作を得意とする魔術師と天候操作を得意とする巫術師……極め付けに動く城塞と呼ばれる……術師しかいない珍しいチームに所属していたせいもあっただろう。
かくいう俺も当時から有名人だ。一度もソロで戦ったことがないのに、ひとつのチームに留まらず助っ人ばかりしているプレイヤーであることからソロプレイヤーと呼ばれていた。
「まぁ、確かにいわれたくないだろうよ。なんせ、未だかつて俺ほどのクソ野郎を見たことがない。他人のことなどいえた義理じゃないな」
「へぇ……俺もクソ野郎振りには自信があんだけどなぁ」
ロドナークは再び砂糖をコーヒーの中で磨り潰しながら、もう一度笑う。
「じゃあ、確かめてみるか?」
三徹目にして他人の代理でカードゲームの賭け事をまだ続けねばならず、休憩で入ったコーヒーショップでうっかりナンパしてしまったのだ。後にやはり笑いながらロドナークは俺に教えてくれた。
「それなら今夜、寝床借りにいくわ」
そんなこんなで紙ナプキンに書かれた住所を戦利品として別れた俺は、その晩、一人寝床を暖めることになった。
これが本当のソロプレイヤーってか。
0
あなたにおすすめの小説
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
君に望むは僕の弔辞
爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。
全9話
匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意
表紙はあいえだ様!!
小説家になろうにも投稿
執着
紅林
BL
聖緋帝国の華族、瀬川凛は引っ込み思案で特に目立つこともない平凡な伯爵家の三男坊。だが、彼の婚約者は違った。帝室の血を引く高貴な公爵家の生まれであり帝国陸軍の将校として目覚しい活躍をしている男だった。
貧乏子爵のオメガ令息は、王子妃候補になりたくない
こたま 療養中
BL
山あいの田舎で、子爵とは名ばかりの殆ど農家な仲良し一家で育ったラリー。男オメガで貧乏子爵。このまま実家で生きていくつもりであったが。王から未婚の貴族オメガにはすべからく王子妃候補の選定のため王宮に集うようお達しが出た。行きたくないしお金も無い。辞退するよう手紙を書いたのに、近くに遠征している騎士団が帰る時、迎えに行って一緒に連れていくと連絡があった。断れないの?高貴なお嬢様にイジメられない?不安だらけのラリーを迎えに来たのは美丈夫な騎士のニールだった。
虐げられた令息の第二の人生はスローライフ
りまり
BL
僕の生まれたこの世界は魔法があり魔物が出没する。
僕は由緒正しい公爵家に生まれながらも魔法の才能はなく剣術も全くダメで頭も下から数えたほうがいい方だと思う。
だから僕は家族にも公爵家の使用人にも馬鹿にされ食事もまともにもらえない。
救いだったのは僕を不憫に思った王妃様が僕を殿下の従者に指名してくれたことで、少しはまともな食事ができるようになった事だ。
お家に帰る事なくお城にいていいと言うので僕は頑張ってみたいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる