魔法学校に入学したので兄ちゃんに会いたい。

つる

文字の大きさ
3 / 7
兄ちゃん、お元気ですか。俺はピンチです。

夢と希望を持ってもいいじゃない1

しおりを挟む
 入学式にはウキウキワクワクツーステップしながら校門をくぐり、学校生活への期待を胸にちょっぴり緊張の面持ちで入学生待機列に加わる。
 講堂内に入るとプロジェクションマッピングのような魔法が飛び交い、入学生を歓迎した在校生や先生方がなにやら一芸やってくれる……そういう入学式を夢見ていたのだ。

 そんなものは本当に夢だった。
 大木が根を足代わりに、あっちへこっちへ大暴れ、枝は鞭のようにしなって周りの木に当たっては跳ね返る。

「これ! ちょっとっ……! 魔法学校ってこんななの!?」

 大暴れついでに俺たちに木の枝が襲いかかり、怖い顔の勇者は俺の襟首を捕み後方にポイッと捨てた。大木からの攻撃を避けるためにしてくれたのだが非常に雑だ。俺は尻餅をつき、尻の痛みやら理想と現実の違いやらの悲しみで声をはり上げた。

「おー、こんなもんだ」

 入学式の前にちょっと運動といわんばかりにダンジョンにおもむき、自己紹介でもしようかというときに大木に襲われる。それが『こんなもの』とは、魔法学校の過激さがうかがわれる。

「夢と希望が欲しいっ」
「あって悪ぃもんじゃねぇが、今は現実見てくれ」

 大木の枝を蹴りつけ攻撃を防いでいる勇者にそういわれ、俺は座り込んだまま手首をさする。そこにはいつもつけているバングルがあり、触ることでほんの少し落ち着くことができるからだ。

 少しだけ落ち着くことができたおかげで、俺は勇者のいう現実について考える。
 ダンジョンに入ってすぐの森の中、ずんずん進んでしばし。お姫様が昼寝をするような場所にいたのは暴れまわる大木だった。

 ここまで大した仕掛けもない一本道だっただけに急な展開に驚いたあと魔法学校の無情さを感じ、俺は尻餅をついたまま嘆いていたわけだ。
 しかし、勇者のいう通り魔法学校が『こんなもの』だというのなら、このままではまずい。

 このダンジョンはクラス決めのために用意されたものだ。このまま座り込んでいたら入学早々落第点をもらって、退学待った無しなんてこともあるかもしれない。
 なんと退学の危機がいっぱいある学校なのだとそれも嘆きたいところだ。けれど、嘆いているだけではピンチを切り抜けることはできない。

 こういうピンチのとき、何をすればいいか。
 兄がよく俺にいっていたことを思い出す。
 まず、少しでも落ちつく。次に状況を把握する。そうすれば現状はマシになるかもしれない。

 俺は兄の教えに従い目の前の光景をじっと観察した。
 勇者は枝がこちらに伸びるたび、枝を蹴りつけ攻撃を防いでいる。魔法を使っている様子はなく、だからといって余裕がなくて使えないという様子でもない。むしろ勇者は余裕があるように見えた。
 余裕があるのに、何故、木を倒してしまわないのだろう。倒さない理由があるのではないか。

 俺はさらにじっと見つめる。
 勇者に何度蹴りつけられても襲いかかってくる大木は、よく見れば俺たちだけを狙っているわけではなかった。周囲の木々にもその枝を打ち付けている。
 もしかしたら大木は俺たちに攻撃したいわけではなく、ただ単に暴れているだけで俺たちがたまたま現場に居合わせているだけなのかもしれない。

 では暴れる原因はなんだ。
 ダンジョンだからそういう風になっているというのなら、通りすぎるか倒してしまうかがセオリーというやつである。
 でも、俺より余裕で冷静な勇者はそれをしようとしていない。

 ならば俺も、木を倒すのではなく止める方向でいこう。
 俺はもう一度バングルに触れ、大きな釘を木の根に勢いよく打ち付ける絵を思い浮かべる。そして大木を睨みつけ力あることばを並べた。

「尖って穿ち、動きを阻害せよ!」

 すると勇者に蹴り飛ばされ続けていた枝の上に想像した通りの岩が出現した。片端は尖っていて、もう片端が真っ平らな……釘のような岩だ。
 岩はまた想像通り勢いよく木の根に刺さった。
 このまま貫通してくれれば狙い通りだ。
 けれど、魔法といえどすべてうまくいくわけではない。

「急ごしらえだろうに、うまくやるもんだな」

 木が暴れるせいで、地面に根を縫い止めることができなかったのだ。だが、俺は一人ではなかった。
 そう、勇者が……もはやボッチゆえの勇気ある者ではなくなった勇者がいる。
 勇者は俺の魔法を褒めたあと、岩の平らな部分に踵を落とした。そうすることにより木の根に岩を貫通させたのだ。

「よーし! 調子乗ってもういっちょ! 掴んで下がり、重石となれ!」

 ことば通り掴んだ手がそのまま重石となるイメージで、木の枝の動きを止めるために紡いだ魔法である。
 これはかなりうまくいったようで、石の手がいくつも木の枝に絡みつき、大木の動きを鈍らせた。

「これなら……そのまま木の動きを止めておいてくれ、あー……」

 勇者にはやはり大木を倒さない理由があったようだ。俺が大木の動きを鈍らせると、こちらに振り返りにやりと笑う。笑った姿が抗争前に悪い顔をするヤンキーのようで少し怖いが、俺も親指を立てて答えた。

幸仁ゆきひと! 春日井幸仁かすがいゆきひと!」

 たぶん、何かいいにくそうにしたのは俺の名前を知らないからだ。
 俺は頷く代わりに、自身の名前を高らかに告げた。
 これで俺と勇者はマブダチ候補である。俺も孤高の勇者から脱却だ。

「カスガイ……カスガイ、ユキヒト」

 いいにくそうに繰り返され、俺は重石に意識を向けつつ、口を開く。

「ユキでいい!」

「おう。それなら、俺はヒューでいい」

 やったぜ、これで俺も勇者……ヒューも友達だ。
 友達判定がゆるゆるであるが、敬称もつけず顔を合わせてあだ名を呼び合っているのだから、そういうことにしておきたい。

「土よ土、重石に重なり、さらに重さを増せ!」

 俺は上機嫌でさらに力あることばを重ねる。
 魔法はイメージだ。うまくイメージさえできれば、力あることばを使う必要はない。力あることばはイメージを助けるためのもので、使えば使うほど『これから魔法を使うんだなぁ』『魔法だからこういう事象もあり得る』『だからことば通りになるんだ』と思い込むことができる。

 兄曰く、想像の助けにもなるから力あることばは大事なんだとか。
 俺は想像力が豊かだったので、特に苦労したことはない。だから、兄のいうことは半分ほどしかわからないけれど、兄がいうからそうなのだ。

 俺は今日もブラコンを遺憾なく発揮して、得意げに力あることばを使う。
 そういう得意さも、魔法のうまさにつながるとこれも兄がいっていた。
 兄のいうことは正しい。おかげで俺の魔法はうまくいき、大木の動きが一瞬止まった。

「風よ!」

 大木の動きが止まるや否や、ヒューが一言、力あることばを音にする。
 魔法がイメージで使えるといっても、さすがにそれは省略が過ぎませんかとつっこみそうになっていた俺を横目に、突風がある一点を定めて吹き付けた。

「使えちゃうんだー!?」

 俺の驚きたるや、大木が襲ってきたときの比ではない。
 魔法学校って恐ろしいところだね、兄ちゃん……と俺は心の中で兄に呼びかけ、呆然と突風が吹き付けた場所を見る。
 そこには赤い石の破片があった。

「……妨害、か?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

レベル1の地図士は、世界の裏側を知ってしまった

あめとおと
ファンタジー
異世界に転移した主人公が得たスキルは【地図作成】。 戦闘能力ゼロ、初期レベル1。 冒険者ギルドでは「外れスキル」と笑われ、 新人向けの雑用クエストしか回ってこない。 しかしそのスキルは、 ダンジョンの隠し通路、未踏破エリア、消えた古代文明の痕跡まで“地図に表示する” という、とんでもない能力だった。 生き残るために始めた地味な探索が、 やがて世界の秘密と、国家すら動かす大冒険へ――。 これは、 戦えない主人公が“冒険そのもの”で成り上がる物語。 同作品を「小説家になろう」で先行配信してます。

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

ベテラン精霊王、虐げられ皇子の子育てに励みます

はんね
ファンタジー
 大陸で最も広大な領土と栄華を誇るアストラニア帝国。 その歴史は、初代皇帝ニコラスと精霊王バーティミアスが“疫病王ヴォラク”を討ち倒したことから始まった。ニコラスとバーティミアスは深い友情を結び、その魂を受け継ぐ皇子たちを永遠に見守り、守護する盟約を交わした。  バーティミアスは幾代もの皇帝を支え、帝国は長き繁栄を享受してきた。しかし、150年の眠りから目覚めた彼の前に現れた“次の皇帝候補”は、生まれたばかりの赤ん坊。しかもよりにもよって、十三番目の“虐げられ皇子”だった! 皮肉屋で老獪なベテラン精霊王と、世話焼きで過保護な月の精霊による、皇帝育成(?)奮闘記が、いま始まる——! 人物紹介 ◼︎バーティミアス 疫病王ヴォラクを倒し初代皇帝ニコラスと建国初期からアストラニア帝国に使える精霊。牡鹿の角をもつ。初代皇帝ニコラスの魂を受け継ぐ皇子を守護する契約をしている。 ◼︎ユミル 月の精霊。苦労人。バーティミアスとの勝負に負け、1000年間従属する契約を結びこき使われている。普段は使用人の姿に化けている。 ◼︎アルテミス アストラニア帝国の第13皇子。北方の辺境男爵家の娘と皇帝の息子。離宮に幽閉されている。 ◼︎ウィリアム・グレイ 第3皇子直属の白鷲騎士団で問題をおこし左遷されてきた騎士。堅物で真面目な性格。代々騎士を輩出するグレイ家の次男。 ◼︎アリス 平民出身の侍女。控えめで心優しいが、アルテミスのためなら大胆な行動に出る一面も持つ。

大賢者アリアナの大冒険~もふもふパラダイス~

akechi
ファンタジー
実の親に殺されそうになっていた赤子は竜族の長に助けられて、そのまま竜の里で育てられた。アリアナと名付けられたその可愛いらしい女の子は持ち前の好奇心旺盛さを発揮して、様々な種族と出会い、交流を深めていくお話です。 【転生皇女は冷酷な皇帝陛下に溺愛されるが夢は冒険者です!】のスピンオフです👍️アレクシアの前世のお話です🙋 ※コメディ寄りです

転生能無し少女のゆるっとチートな異世界交流

犬社護
ファンタジー
10歳の祝福の儀で、イリア・ランスロット伯爵令嬢は、神様からギフトを貰えなかった。その日以降、家族から【能無し・役立たず】と罵られる日々が続くも、彼女はめげることなく、3年間懸命に努力し続ける。 しかし、13歳の誕生日を迎えても、取得魔法は1個、スキルに至ってはゼロという始末。 遂に我慢の限界を超えた家族から、王都追放処分を受けてしまう。 彼女は悲しみに暮れるも一念発起し、家族から最後の餞別として貰ったお金を使い、隣国行きの列車に乗るも、今度は山間部での落雷による脱線事故が起きてしまい、その衝撃で車外へ放り出され、列車もろとも崖下へと転落していく。 転落中、彼女は前世日本人-七瀬彩奈で、12歳で水難事故に巻き込まれ死んでしまったことを思い出し、現世13歳までの記憶が走馬灯として駆け巡りながら、絶望の淵に達したところで気絶してしまう。 そんな窮地のところをランクS冒険者ベイツに助けられると、神様からギフト《異世界交流》とスキル《アニマルセラピー》を貰っていることに気づかされ、そこから神鳥ルウリと知り合い、日本の家族とも交流できたことで、人生の転機を迎えることとなる。 人は、娯楽で癒されます。 動物や従魔たちには、何もありません。 私が異世界にいる家族と交流して、動物や従魔たちに癒しを与えましょう!

神様の失敗作ガチャを引かされた俺(元SE)、ハズレ女神たちと寂れた異世界を「再創生(リ・ジェネシス)」する

月下花音
ファンタジー
過労死した社畜SE・天野創が転生したのは、創造神に見捨てられた「廃棄世界」。 そこで待っていたのは、ポンコツすぎて「失敗作」の烙印を押された三人の女神たちだった。 「麦が生えない? ……ああ、これ土壌パラメータの設定ミスですね」 「家が建たない? ……設計図(仕様書)がないからですよ」 創は持ち前の論理的思考と管理者権限を駆使し、彼女たちの「バグ(欠点)」を「仕様(個性)」へと書き換えていく。 これは、捨てられた世界と女神たちを、最強の楽園へと「再創生」する物語。

[完]異世界銭湯

三園 七詩
ファンタジー
下町で昔ながらの薪で沸かす銭湯を経営する一家が住んでいた。 しかし近くにスーパー銭湯が出来てから客足が激減…このままでは店を畳むしかない、そう思っていた。 暗い気持ちで目覚め、いつもの習慣のように準備をしようと外に出ると…そこは見慣れた下町ではなく見たことも無い場所に銭湯は建っていた…

泥まみれの英雄譚 〜その手が掴んだ温もりは〜

夢見中
ファンタジー
彼は異世界召喚に巻き込まれるが、そこで待っていたのは「ハズレ」の烙印と、城からの追放だった。

処理中です...