魔法学校に入学したので兄ちゃんに会いたい。

つる

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兄ちゃん、お元気ですか。俺はピンチです。

夢と希望を持ってもいいじゃない1

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 入学式にはウキウキワクワクツーステップしながら校門をくぐり、学校生活への期待を胸にちょっぴり緊張の面持ちで入学生待機列に加わる。
 講堂内に入るとプロジェクションマッピングのような魔法が飛び交い、入学生を歓迎した在校生や先生方がなにやら一芸やってくれる……そういう入学式を夢見ていたのだ。

 そんなものは本当に夢だった。
 大木が根を足代わりに、あっちへこっちへ大暴れ、枝は鞭のようにしなって周りの木に当たっては跳ね返る。

「これ! ちょっとっ……! 魔法学校ってこんななの!?」

 大暴れついでに俺たちに木の枝が襲いかかり、怖い顔の勇者は俺の襟首を捕み後方にポイッと捨てた。大木からの攻撃を避けるためにしてくれたのだが非常に雑だ。俺は尻餅をつき、尻の痛みやら理想と現実の違いやらの悲しみで声をはり上げた。

「おー、こんなもんだ」

 入学式の前にちょっと運動といわんばかりにダンジョンにおもむき、自己紹介でもしようかというときに大木に襲われる。それが『こんなもの』とは、魔法学校の過激さがうかがわれる。

「夢と希望が欲しいっ」
「あって悪ぃもんじゃねぇが、今は現実見てくれ」

 大木の枝を蹴りつけ攻撃を防いでいる勇者にそういわれ、俺は座り込んだまま手首をさする。そこにはいつもつけているバングルがあり、触ることでほんの少し落ち着くことができるからだ。

 少しだけ落ち着くことができたおかげで、俺は勇者のいう現実について考える。
 ダンジョンに入ってすぐの森の中、ずんずん進んでしばし。お姫様が昼寝をするような場所にいたのは暴れまわる大木だった。

 ここまで大した仕掛けもない一本道だっただけに急な展開に驚いたあと魔法学校の無情さを感じ、俺は尻餅をついたまま嘆いていたわけだ。
 しかし、勇者のいう通り魔法学校が『こんなもの』だというのなら、このままではまずい。

 このダンジョンはクラス決めのために用意されたものだ。このまま座り込んでいたら入学早々落第点をもらって、退学待った無しなんてこともあるかもしれない。
 なんと退学の危機がいっぱいある学校なのだとそれも嘆きたいところだ。けれど、嘆いているだけではピンチを切り抜けることはできない。

 こういうピンチのとき、何をすればいいか。
 兄がよく俺にいっていたことを思い出す。
 まず、少しでも落ちつく。次に状況を把握する。そうすれば現状はマシになるかもしれない。

 俺は兄の教えに従い目の前の光景をじっと観察した。
 勇者は枝がこちらに伸びるたび、枝を蹴りつけ攻撃を防いでいる。魔法を使っている様子はなく、だからといって余裕がなくて使えないという様子でもない。むしろ勇者は余裕があるように見えた。
 余裕があるのに、何故、木を倒してしまわないのだろう。倒さない理由があるのではないか。

 俺はさらにじっと見つめる。
 勇者に何度蹴りつけられても襲いかかってくる大木は、よく見れば俺たちだけを狙っているわけではなかった。周囲の木々にもその枝を打ち付けている。
 もしかしたら大木は俺たちに攻撃したいわけではなく、ただ単に暴れているだけで俺たちがたまたま現場に居合わせているだけなのかもしれない。

 では暴れる原因はなんだ。
 ダンジョンだからそういう風になっているというのなら、通りすぎるか倒してしまうかがセオリーというやつである。
 でも、俺より余裕で冷静な勇者はそれをしようとしていない。

 ならば俺も、木を倒すのではなく止める方向でいこう。
 俺はもう一度バングルに触れ、大きな釘を木の根に勢いよく打ち付ける絵を思い浮かべる。そして大木を睨みつけ力あることばを並べた。

「尖って穿ち、動きを阻害せよ!」

 すると勇者に蹴り飛ばされ続けていた枝の上に想像した通りの岩が出現した。片端は尖っていて、もう片端が真っ平らな……釘のような岩だ。
 岩はまた想像通り勢いよく木の根に刺さった。
 このまま貫通してくれれば狙い通りだ。
 けれど、魔法といえどすべてうまくいくわけではない。

「急ごしらえだろうに、うまくやるもんだな」

 木が暴れるせいで、地面に根を縫い止めることができなかったのだ。だが、俺は一人ではなかった。
 そう、勇者が……もはやボッチゆえの勇気ある者ではなくなった勇者がいる。
 勇者は俺の魔法を褒めたあと、岩の平らな部分に踵を落とした。そうすることにより木の根に岩を貫通させたのだ。

「よーし! 調子乗ってもういっちょ! 掴んで下がり、重石となれ!」

 ことば通り掴んだ手がそのまま重石となるイメージで、木の枝の動きを止めるために紡いだ魔法である。
 これはかなりうまくいったようで、石の手がいくつも木の枝に絡みつき、大木の動きを鈍らせた。

「これなら……そのまま木の動きを止めておいてくれ、あー……」

 勇者にはやはり大木を倒さない理由があったようだ。俺が大木の動きを鈍らせると、こちらに振り返りにやりと笑う。笑った姿が抗争前に悪い顔をするヤンキーのようで少し怖いが、俺も親指を立てて答えた。

幸仁ゆきひと! 春日井幸仁かすがいゆきひと!」

 たぶん、何かいいにくそうにしたのは俺の名前を知らないからだ。
 俺は頷く代わりに、自身の名前を高らかに告げた。
 これで俺と勇者はマブダチ候補である。俺も孤高の勇者から脱却だ。

「カスガイ……カスガイ、ユキヒト」

 いいにくそうに繰り返され、俺は重石に意識を向けつつ、口を開く。

「ユキでいい!」

「おう。それなら、俺はヒューでいい」

 やったぜ、これで俺も勇者……ヒューも友達だ。
 友達判定がゆるゆるであるが、敬称もつけず顔を合わせてあだ名を呼び合っているのだから、そういうことにしておきたい。

「土よ土、重石に重なり、さらに重さを増せ!」

 俺は上機嫌でさらに力あることばを重ねる。
 魔法はイメージだ。うまくイメージさえできれば、力あることばを使う必要はない。力あることばはイメージを助けるためのもので、使えば使うほど『これから魔法を使うんだなぁ』『魔法だからこういう事象もあり得る』『だからことば通りになるんだ』と思い込むことができる。

 兄曰く、想像の助けにもなるから力あることばは大事なんだとか。
 俺は想像力が豊かだったので、特に苦労したことはない。だから、兄のいうことは半分ほどしかわからないけれど、兄がいうからそうなのだ。

 俺は今日もブラコンを遺憾なく発揮して、得意げに力あることばを使う。
 そういう得意さも、魔法のうまさにつながるとこれも兄がいっていた。
 兄のいうことは正しい。おかげで俺の魔法はうまくいき、大木の動きが一瞬止まった。

「風よ!」

 大木の動きが止まるや否や、ヒューが一言、力あることばを音にする。
 魔法がイメージで使えるといっても、さすがにそれは省略が過ぎませんかとつっこみそうになっていた俺を横目に、突風がある一点を定めて吹き付けた。

「使えちゃうんだー!?」

 俺の驚きたるや、大木が襲ってきたときの比ではない。
 魔法学校って恐ろしいところだね、兄ちゃん……と俺は心の中で兄に呼びかけ、呆然と突風が吹き付けた場所を見る。
 そこには赤い石の破片があった。

「……妨害、か?」
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