魔法学校に入学したので兄ちゃんに会いたい。

つる

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兄ちゃん、お元気ですか。俺はピンチです。

運命ってシャイだけど押しが強いよね2

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「私はリィエル・クランファ・エヴリーゼ、エヴリーゼ国の第一皇女です。先程は助けていただき、ありがとうございました」

 制服のスカートを軽くつまみ、小さく頭を下げる水色の子はまるでお姫様のようで……と思っていたら、本当にお姫様だった。

 現代日本の中流家庭で国のお姫様に偶然ばったり会うなんてことは、ほとんどない。大体は来訪しているところに見に行くくらいだ。頑張れば同じ学校に行けるかもしれないが、お姫様に会うために学校を決めるなんてこともほとんどない。

 普通にお姫様が大剣を持って戦い、お姫様らしい仕草で挨拶をしてくれるなんて、やっぱり世界が違う。
 俺も思わず履いていないスカートをつまんだ気分で、お姫様である水色の子、クランファさんに頭を下げた。

「お姫様って本当に居るんだ……!」

 頭まで下げて初めてお姫様がいるということの感動が襲ってくる。何せ、俺の知ってるお姫様や王子様は現実にはいないか、テレビの向こう側の存在だ。すぐに実感が持てなかった。

 感動のあまり声が出てしまった後で、失礼なことをいってしまったぞと実感するのも遅かった。灰色の子が冷たい目を俺に向ける。誤魔化して笑うしかない。

「そう、これが例の姫君だ」

 高貴な人に失礼をしたとあればファンタジーな世界では罪に問われたりとかするもので、入学前に打ち首だと冷や汗をかいていた俺にヒューが止めを刺す。『例の』というのは、けして褒めことばじゃない。

「例のとはなんですか」

 灰色の子の目がさらに冷たくなる。痛いくらいだ。しかしここでもヒューは正直だった。

「騎士制度を利用するために、争奪戦が起こっている」

 冷たい汗が止まらない。俺が悪いわけではない『例の』が何故か俺の立場をヤバくする。話していた内容はヒューのいった通りだが、ものにはいい方があるのだ。

「ほら、ラーファ。彼らもいっているではありませんか。選び放題です」

 灰色の子がヒューと俺を目から光線を出さんばかりに睨んでくる中、お姫様は楽し気に笑った。大剣を地面にさしながらのことばには怒りはなく、物騒なものを地面に刺すという行動も怖くない。脅されていると感じてもおかしくないのに、お姫様のあっけらかんとした笑い声のせいだろうか。

「だからリィ様、こういうのは……! いえ、それより失礼と……」

 むしろ灰色の子のように怒るのが普通だろう。灰色の子は今にも沸騰しそうな勢いでお姫様に詰め寄り、眉を吊り上げ怒っている。
 お姫様はそれでも笑うだけだった。

「ふふ、皇女なんてそうそう会えるものではないでしょう? 私のようなお転婆でなければ、学校に行っても遠くから見るに終わりますよ」

 お転婆なんてことばが現代社会でも使われることがあったのか。
 灰色の子にもお姫様にも怒られていないせいか、違う感動が俺を襲い始めた。お転婆なんてひと昔前に滅びたことばだと思っていたのに、魔法世界ではさらっと使うことができることばらしい。

 その証拠に灰色の子は怒ったままだし、ヒューはつまらなさそうに森に飛んでる蝶々を眺めている。
 三人があまりにも普通だから、蝶々ってこの世界にもいたんだなぁと蝶々と一緒に俺の気持ちもふわふわしてしまう。

「お分かりなのでしたら! 少しは大人しく……!」

「大人しくできたのなら、騎士の真似事などしません。ラーファ、私の妙な皇女ぶりは置いて、助けてくださった方への礼はないのですか」

 灰色の子いうことはもっともであるが、お姫様のいうことももっともである。こちらとしては『名乗るほどの者ではありません』と素早く立ち去りたい気分であっても、それが一般的な感覚だろう。

「あ……すみません。自分はラーファ・リグレ。先程はありがとうございました。ですが、皇女殿下に対する非礼は」

 蝶々に気を取られている男二人にこれはどうもご丁寧に……なんだか申し訳ない気持ちになって、俺は灰色の子リグレさんに小さく頭を下げた。

 ヒューは相変わらず蝶々の行方を追って、遠い目をしたままだ。お前は不敬罪とか周りの評判が恐ろしくないのか。渋い顔をすると、俺の気持ちを察してかヒューがこちらを見て目を細めた。あくまで何もしない気らしい。

「それは無粋というものです。ラーファ、私は非礼などと思っていません」

「ですが!」

「申し遅れましたが! 俺は、春日井幸仁……です」

 再びいい合いが始まりかけ、俺は慌てて二人に割って入るように口を開く。しりすぼみになったのは余計なお世話が過ぎるだろうかと途中で考えたせいだ。

「ああ……兄の話になって名乗り遅れたか」

 俺の気遣いも不自然さが名乗り出る勢いであったが、ヒューの興味のなさも相当だった。何が大切かは人それぞれだとは思うけど命は大切にしたほうがいいのでは……不敬罪に怯える俺はヒューの様子を何度も確認する。

 蝶々が飛び去ってしまったからか、お姫様たちの方に目を向けたが興味関心一切ありませんの顔をしていた。俺の顔がお湯を入れたまま放置したお茶のように渋くなる。

「……姫君とそのお付きなら、まぁ……大丈夫か」

 俺の渋い顔のせいか、ヒューの態度のせいか。いい合いを止め、女の子たちはすっかり静かになっていた。
 ヒューは彼女たちに向き直り笑いもせず告げる。

「ラグリゼア……ラグリゼアっていやぁ、大体わかると思うが」

 女の子二人は同時に目を丸くして顔を見合わせた。ヒューのいう『大体わかる』がわかるらしい。魔法の世界に来たばかりの俺はまったくわからないが、もしかしてヒューは有名人なのだろうか。

「あの、ヒューさん、俺はわからないんですが……」

 改まった敬語で尋ねてしまった俺に、ヒューはきょとんとして首を傾げた。

「別にわからなくても問題ねぇと思うが」

 おお友よ、なんて寂しいことをいうんだ友よ。
 なんて大げさに思ったが、会って少ししか経っていないのだ。そんなものだろう。

「なんだ、その拗ねたのか諦めたのかよくわからねぇ顔は……ユキ、お前、素直だとかいわれねぇ?」

 俺の思いはすべて顔に出てしまったらしい。ヒューが俺に目を向け呆れたような声を出した。

「そこがチャームポイントだと兄は申しておりましたが?」

 何か問題でも? と開き直ってみたが、顔に全部出ていると指摘されるのは妙に恥ずかしい。力強く胸を張ることもできず、俺は目力と語気の強さで押し切ろうとした。周りからはホスト系だとご好評の目力だ、食らえ。

「似てるような、似てないような……いや、可愛げがあるのは弟の方か」

 さっきまで素っ気ない顔をしていたのに急にルーズリーフヤンキーが笑いだすものだから、女の子たちは更にびっくりして二人して首を傾げてしまった。ごめんね、悪いルーズリーフ野郎じゃないんです。女の子たちよりほんのちょっとだけ付き合いが長い俺は心の中で謝る。

「まぁいずれは知ることだろうし、いっておくか。ユキ、俺はな、人間じゃねぇんだ」

 どおりで魔法レベルがおかしいわけだ。
 納得してから、俺は何度も首を傾げる。

「そんなさらっということなんですね……」

 俺が驚きの声を上げる前にリグレさんが愕然と呟いた。
 まったくもってその通りだ。驚きの事実についていけず、俺は口を開いてもう一度首を傾げた。

「魔法の世界、ちょっと常識が強すぎる……」
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