溺愛ゲーマー

つる

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気まぐれマジシャン 4

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「大会に参加するんですか……?」
 俺が問うと、濡れた犬みたいな顔をしていたラークさんの顔が一瞬にして明るくなる。ラークさんは大型短毛の猟犬のような人で、普段は強そうで怖そうなのだが、たまにびっくりするほど可愛い。チョウラクノドカの癒し系なのだ。
「そう」
「今回チョウには遠慮してもらって、出ようかと思って」
 その癒し系のことばをノドさんが補足した。首を傾げウインクまでしてちゃめっけや可愛げをだし、ラークさんの隣にそっと寄り添う姿はこちらの気分を少々害する。わざとらしく見えるせいだ。悲しいことにノドさんには何をしても怪しく見えるという特殊技能があり、ウインクしたり首を傾げたりすると『悪いことでも思いついたのかな』と思ってしまう。
「そうそう、オレ、応援係! でもディーディーがインしてるしヒマなら一緒に出よっかなぁーっていってたらいるじゃん? なんか参加しそうじゃん? 楽しそうじゃん?」
 じゃんじゃんとテンポよく歌うように話すチョウラクノドカ賑やかし担当のチョウさんが指を鳴らす。まるでいいことを思いついたかのように親指と中指を弾いたが、いまいちいい音が鳴らない。そう、実はチョウさんの指はなっていなかった。
「ディーが参加するなら絶対楽しいに決まってるし、ちょっかいをかけようとなったわけだ」
 ノドさんがそういってチョウさんと『ねー』といわんばかりに二人で頭をこつんとぶつける。這いあがれないくらい深く狭い落とし穴に落としたくなるので可愛い子ぶるのは辞めてほしいものだ。
 それにしてもチョウラクノドカの三人は俺を過大評価している。俺が参加したって大会で優勝するわけでもなければ、いつ動画を回しても面白いことをしているわけでもない。俺はただの地味で執念深いサポーターなのだ。執念深い部分がちょっとだけ面白い部類に入るというだけである。
 だが、今はそんなことをいっていられない。それなりに結果を残す必要が……これをプロになるための一歩とするなら、派手でなくてもそれなりに名を残す必要がある。
「できるならちょっかいはかけないでほしいんですが」
 できる限り苦い顔を作り正直な気持ちを述べたが、チョウラクノドカの三人は意に介さない。付き合いが長い故の弊害だ。
「えー? そのウサちゃんにいいとこ見せたくないの?」
 大会参加予定でもないのに真っ先に口を尖らせたのは、チョウさんだ。癒し系のラークさんや天然で怪しいノドさんと違い、わざとあざとい仕草をしてはこちらを煽る。やることなすことチャランポランと音をたてているくらいなのに、チョウさんは時々こうしてこちらの反応を見ては遊ぶ。少々性質の悪い男だが、その仕草が似合う上にたまに親しい人に意地悪をするだけでいつもは軽くて気のいいお兄さんだから気にならないのだ。
「逆に悪い所を見せるかもしれないので……」
 しかし今はチョウさんと挨拶を交わしている場合でもない。

 もちろん、好感を持っている人には良い顔を見せたいし役に立ちたいものだ。けれどプロにならなければ、その人の姿を見かけなくなる可能性がある。俺がその人を見続けたいのなら、プロになったほうがいい。
 実のところ、俺としては一番近くで見続ける必要はないというかむしろ遠くで観覧していたいのだが、そうして遠くから眺めていることもできなくなる可能性があるわけで、いや、そもそも一緒に遊びたいだけでプロにどうしてもなりたいとか研究者に絶対なりたくないとか本人の意思が一番大事なわけでツーシーに近しい人が何かするならまだしも俺がどうこうするのは烏滸がましいの極みではと思わなくもなく……葛藤する時間がほしいものだ。
 とにもかくにも動き出してしまった今はツーシーがいなくなる可能性を排除する必要があって……簡潔にいうと三人に今絡まれるとまぁまぁ困る。
 チョウラクノドカという三人組は大変面白く、総合的に気のいいお兄さんたちなのだが……戦うとなると強くて面倒だ。
「謙虚~! 実に謙虚ッ! 悪い所っていうか性格が悪い所でしょう? 大丈夫大丈夫、常に悪いから、ね?」
 天然物の怪しい男であるノドさんは、チョウラクノドカの中でも付き合いが長いので俺に遠慮がない。『謙虚』といいながら玩具みたいに手を叩いて笑顔を浮かべるという腹立たしいことすることも平気でやる。
 ノドさんに慣れきってる俺は『またそうやって俺を乗せようとして……』という呆れた気分になるだけで、痛くも痒くもない。
『そんなことはない』
 そんなチョウさんの大げさな煽りにムッとしたのは俺ではなくツーシーだった。

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