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焔ノ章
流石ミトラの精霊
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ディーネ達一行が、天空島へとやっとの思いで上空の大地へと降り立ったのは昇り始めてから二時間後の事であった。道中床や壁等に妙な細工等が施されており、壁が外れたり床が抜けたり等をし、その度に夫のキアフの咄嗟の判断で危機を回避したり、息子のアレフの梯子で昇ったり、はたまたミトラの高位精霊の助けを借りて回避したりして何とか天空島の大地へと辿り着けた。
「周囲安全確保!」
先発隊の第一陣である私達が此処まで何とか来れたと胸を撫で下ろし、ディーネは次にテキパキと指示をする。
周囲を抜かり無く警戒しつつも一先ずこの場は安全だろうと、まるで草原の中に居る様なこの場所を見渡す。少し先に大きな建物があり、まるで竜王の古城か、それとも女神の塔の様に古い建設物。これはもしかして古い言い伝承のある魔王の塔だろうか?そんな事を考えディーネは頭を振う。
魔王の塔はその昔、当時勇者だったアドニスが全ての塔を粉砕し、唯一残った塔を月へと送ってしまったと聞く。その塔がここに隠されていたとは思い難い。
だが邪神が隠蔽していたとしたら…
ここで考えてても致し方無い。これから確認出来るのだからな。
そう思い直してディーネは高い城の様な、塔の様な、はたまた住居の集合住宅の様な建物を眺める。
「何とも変な建物だよな」
こう話し掛けて来たのは夫のキアヌだ。
記録の為にサラサラとスケッチをしている。その精密ながらも素早く写す絵に、相変わらずこの人は妙な所が器用だなと感心する。
「ええ、私は最初魔王の塔かと思ったけど、女神の塔と言い魔王の塔と言い、あの様な形状では無い筈よね」
「言い伝えだと人が住めるような姿はして居ない筈だったかな」
うーんとキアヌは唸りつつ、数枚のスケッチをしたためて行く。
「かあさーん、武器の調整OK。後は水の確保も出来そうだよ」
息子のアレフが指さす先には小さな川が流れて居る。
「何と、こんな所に水が…」
「俺が見た所だとこの川の少し先に大きな水晶があって、其処から湧き出てるんだよね」
ミトラの高位精霊のエレマンノが水質を確かめており、「飲めるよ~」と両手でOKマークを作っている。
そこで周囲を見回っていた者達が戻って来てディーネ達に声をあげる。
「安全確保致しました!」
「分かった。ココで暫く休憩とする。水が確保出来る様だから補充する様に」
こうして少しだけ安堵出来る空間に、一同は腰を下ろすのだった。
* * *
「ねぇ」
「ん?」
アレフに声を掛けて来たのはカリナタ。
この先発隊唯一のエルフのハーフで魔法使い。その彼女が先程からどうも変なのよね~と首を傾げて居る。
「変って?」
「うーん何と言うか、やけに平和?」
「ああ、確かにな」
確かにこの場所は隠蔽されて居た癖に静かで、どちらかと言うと下手なグリンウッドの草原よりも穏やかだ。まるで誰かがこの場所をそういう風に考え作ったかの様に
「そこ、二人で何コソコソしてる。水の確保は済んだのか?」
其処へケンネルがサスケを肩に埋もれさせながら(毛皮に喜々として埋もれて居る)近寄って来る。
「あー私まだだった!行って来る~っと、アレフのも汲んで来る?」
「俺まだ飲んでないから大丈夫」
水筒を持って掲げると、わかったーとカリナタは元気一杯に走って行く。
「カリナタは相変わらずか」
「そうだな」
アレフが頷くとケンネルが少しふーむと鼻をヒクヒクとひくつかせる。
「ん?何か居るのか?」
「いや、此処には居ない。だが先程からからずっとサスケが気にしててな。どうやらあの建物周囲に複数の生物のが居る様だ。先程から風に乗って沢山の生物の匂いが届いて来る。勿論大物の魔物も潜んでいると思われる匂いもするな」
「成る程」
「今その事をディーネに報告しに行くつもりだ」
この周囲には何も居ないがな、此れから向かうなら用心に越したことは無いとケンネルが言う。
こう言った時ケンネル達クーシー族の鼻や耳は役に立つ。人族には全く気が付かない匂いや物音等は【人族至上主義】の皆は異端として扱うが、アレフにはその人々の思考が判らない。人には無い素晴らしいことなのに何故なのか。何故異端として扱うのか。
ディーネ達両親の教えもあり、人族至上主義の人々の方のが異端だとアレフは思っている。
こんなに嗅覚が優秀で素晴らしいのにな。
おまけにあの毛並みは某変な大精霊(ミトラ)ではないが、「最高の毛並み」だと思う。ケンネルはあまり手入れをしていないので時折毛並みが乱れて居る事があり、共に住んでいる恋人が時折ディーネに愚痴っている様だが。
「ではな」
そう言ってケンネルが去って行く最中、何故か彼の毛並みに埋もれて居た精霊のサスケが必死で風魔法を駆使して毛並みを整えている姿を見付け、「あの精霊、流石ミトラの精霊」と思ってしまったのは致し方が無い事かも知れない。
「周囲安全確保!」
先発隊の第一陣である私達が此処まで何とか来れたと胸を撫で下ろし、ディーネは次にテキパキと指示をする。
周囲を抜かり無く警戒しつつも一先ずこの場は安全だろうと、まるで草原の中に居る様なこの場所を見渡す。少し先に大きな建物があり、まるで竜王の古城か、それとも女神の塔の様に古い建設物。これはもしかして古い言い伝承のある魔王の塔だろうか?そんな事を考えディーネは頭を振う。
魔王の塔はその昔、当時勇者だったアドニスが全ての塔を粉砕し、唯一残った塔を月へと送ってしまったと聞く。その塔がここに隠されていたとは思い難い。
だが邪神が隠蔽していたとしたら…
ここで考えてても致し方無い。これから確認出来るのだからな。
そう思い直してディーネは高い城の様な、塔の様な、はたまた住居の集合住宅の様な建物を眺める。
「何とも変な建物だよな」
こう話し掛けて来たのは夫のキアヌだ。
記録の為にサラサラとスケッチをしている。その精密ながらも素早く写す絵に、相変わらずこの人は妙な所が器用だなと感心する。
「ええ、私は最初魔王の塔かと思ったけど、女神の塔と言い魔王の塔と言い、あの様な形状では無い筈よね」
「言い伝えだと人が住めるような姿はして居ない筈だったかな」
うーんとキアヌは唸りつつ、数枚のスケッチをしたためて行く。
「かあさーん、武器の調整OK。後は水の確保も出来そうだよ」
息子のアレフが指さす先には小さな川が流れて居る。
「何と、こんな所に水が…」
「俺が見た所だとこの川の少し先に大きな水晶があって、其処から湧き出てるんだよね」
ミトラの高位精霊のエレマンノが水質を確かめており、「飲めるよ~」と両手でOKマークを作っている。
そこで周囲を見回っていた者達が戻って来てディーネ達に声をあげる。
「安全確保致しました!」
「分かった。ココで暫く休憩とする。水が確保出来る様だから補充する様に」
こうして少しだけ安堵出来る空間に、一同は腰を下ろすのだった。
* * *
「ねぇ」
「ん?」
アレフに声を掛けて来たのはカリナタ。
この先発隊唯一のエルフのハーフで魔法使い。その彼女が先程からどうも変なのよね~と首を傾げて居る。
「変って?」
「うーん何と言うか、やけに平和?」
「ああ、確かにな」
確かにこの場所は隠蔽されて居た癖に静かで、どちらかと言うと下手なグリンウッドの草原よりも穏やかだ。まるで誰かがこの場所をそういう風に考え作ったかの様に
「そこ、二人で何コソコソしてる。水の確保は済んだのか?」
其処へケンネルがサスケを肩に埋もれさせながら(毛皮に喜々として埋もれて居る)近寄って来る。
「あー私まだだった!行って来る~っと、アレフのも汲んで来る?」
「俺まだ飲んでないから大丈夫」
水筒を持って掲げると、わかったーとカリナタは元気一杯に走って行く。
「カリナタは相変わらずか」
「そうだな」
アレフが頷くとケンネルが少しふーむと鼻をヒクヒクとひくつかせる。
「ん?何か居るのか?」
「いや、此処には居ない。だが先程からからずっとサスケが気にしててな。どうやらあの建物周囲に複数の生物のが居る様だ。先程から風に乗って沢山の生物の匂いが届いて来る。勿論大物の魔物も潜んでいると思われる匂いもするな」
「成る程」
「今その事をディーネに報告しに行くつもりだ」
この周囲には何も居ないがな、此れから向かうなら用心に越したことは無いとケンネルが言う。
こう言った時ケンネル達クーシー族の鼻や耳は役に立つ。人族には全く気が付かない匂いや物音等は【人族至上主義】の皆は異端として扱うが、アレフにはその人々の思考が判らない。人には無い素晴らしいことなのに何故なのか。何故異端として扱うのか。
ディーネ達両親の教えもあり、人族至上主義の人々の方のが異端だとアレフは思っている。
こんなに嗅覚が優秀で素晴らしいのにな。
おまけにあの毛並みは某変な大精霊(ミトラ)ではないが、「最高の毛並み」だと思う。ケンネルはあまり手入れをしていないので時折毛並みが乱れて居る事があり、共に住んでいる恋人が時折ディーネに愚痴っている様だが。
「ではな」
そう言ってケンネルが去って行く最中、何故か彼の毛並みに埋もれて居た精霊のサスケが必死で風魔法を駆使して毛並みを整えている姿を見付け、「あの精霊、流石ミトラの精霊」と思ってしまったのは致し方が無い事かも知れない。
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