この身体俺のでは無いようです!ー異世界転生ってここは何処!?ー

柚ノ木 碧/柚木 彗

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零の章

白兎神の憂鬱

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 何なのよアレはっ!
 私が苦労して!やっと紡いだ呪式と神力を合わせて彼の人を世界の輪から解き放ち、他の世界へと送り出したと言うのに。
 彼の人は蜘蛛の糸のように絡んだ数十、数百と言う術式と魔力と瘴気が纏っていた。
 全く見えなかった。
 気がついた時には全てが遅すぎた。

「唯一の救いは精霊の気のみ、ね」

 纏わり付いている瘴気から、まるで庇うように彼の回りを囲っていた。
 何の精霊の気なのかは判別出来ないし、精霊自身が瘴気を放った相手から属性が知られないように隠蔽していたように思う。
 更に彼の元々の魂による加護や資質の向上をさせ、向こうの世界で転生した折に形成し出来上がったのであろう。

「それにしても許せないわね」

 私こと、白兎神を謀る等とは。
 神罰を落として彼に罠を仕掛けた者に制裁を仕掛けてやりたい。
 だが、兎耳の白兎神は落胆する。
 今の彼女には神力を駆使する力が圧倒的に足りない。
 これが一昔前ならば、日本にある己の神社からの人々の祈りの力が満ち足りており、その力を昇華させて神力へと変換し駆使することが出来た。
 だが現在の日本には己の神社の数が減少、もしくは吸収や移転してしまい極端に減っている。
 これでは力が足りない。
 致し方ないとは言え耐えねばならない。

【おい】

「あきなの?」

 送ったばかりなのにどうやら帰還を?それ以前に帰って来れない筈ではと思っていると、

【いや、今はハクと名乗っているらしい。悪いが今は私が意識のみ飛ばして来た】

「私?」

【記憶の残骸の方だ】

 嗚呼、成る程。

【向こうの害悪に干渉された。よって制限され本来の力は出せない。計画も変更になる】

「仕方ないわ、悔しいかも知れないけれど諦めるしか」

【いや、もう1人此方に送れ。座標は後程計算して送る。対価は私の魂の弱体化】

「ちょっと待って!それって貴方の力で弱体化解除出来るってことでしょ?なら維持しないで解除して対処すればっ」

【…今から三年後、私が指定した死ぬ運命の男を送れ。瑤を補助に】

「ハク!」

【ハクが無意識に魔王を延命した。もう戻れない】

「でも!」

【ミサと連絡を取ると決めた】

「魔王の娘を救うつもり?」

【…ほっとけない】

 相変わらず優しいのだから。
 だから、今回の計画に私も加担することに決めた。
 対価はこの世界での神としての地位低下。
 元々地域密着型の土着の土地神なのだ、対して影響力は無い。
 お蔭で社の数は減った……が。
 それに対し、ハクの前世での対価の支払いは桁違いだ。
 直接干渉するのだから、その分桁が多くなる。
 あの異世界に介入するためには、"この世界の住まう者"は必ずしも対価が必要になってくる。
 崩壊に急速に向かう別の世界の救済。
 本来ならハクには無関係だった。
 でもハクは、いや、ハクの記憶がある方の前世の彼は天命が尽きる前に見えてしまった。この世界にいた人間が、あの世界に転移してしまった魔王が、かつて幼き時より見知っていた顔であった事を。
 そして今、その魔王の子供を救おうとしている。

「あの娘を救うなら、覚悟をしっかりと決めなさいよね?中途半端は出来ないわよ?」

 ちゃんと力をつけて、成長し、対価で払った弱体化を克服、または阻害するかそれに近い術を見つけ無くては魔王の娘を救うことは出来ない。
 途方も無い茨の道を進むことになるだろう。
 異世界でたった一人で。

【タマ様には申し訳ないって伝えてくれ】

「…考えなおせって言ってもムダなのね?」

【悪いな】

「…ミサは貴方が居る街の魔法薬師としているわ。」

【有難う祢々】

 そうしてハクの残骸の気配は消えた。
 元々ここに来た気配は気薄だったけれど。
 それにしてもミサねぇ。
 ミサことネミッサって今幾つだったかしら。
 確か○○年前にー…

 …あ。

「ぴょんって言うの忘れた」
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