商店街のお茶屋さん~運命の番にスルーされたので、心機一転都会の下町で店を経営する!~

柚ノ木 碧/柚木 彗

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「開店は9時です」

「うわ、この腕時計、電池が切れていて止まっていた…!」等という声が外から聞こえて来るが、マイペースに無視をして残った朝食を平らげ、仕事衣に着替える。

「よし、今日はコレでいいか」

 作業用にと本日は洗える綿生地の作務衣だ。
 夏用だからちょっとだけ涼しいが寝間着用に着ていた作務衣とは違い、長ズボンなのでちょっとだけ暑い。
 ちなみにお値段は税抜価格で三千円也。
 更に言うと生地代だけである。
 理由は自分でおりゃー!と気合をいれて縫ったからである。
 ふ。
 ミシンなんてモンを持っている。
 とは言えこの貸店舗に昔から置いてあった古い足踏みミシンなのだけど。
 この店舗、以前は『仕立屋』だったらしく古いミシンやらアイロン等が置いてあり、古い生地等も店舗の二階部分にダンボールに置かれていた。それらを有り難く頂戴し、現在もとても重宝しつつ、有り難く使用させて頂いている。

 こういうのなんて言うっけ、乙女男子?
 乙女男子って言うより俺って只の田舎者だけどな。

 ミシンなんて直線しか縫えないし。だからこその和装だけど。ボタンホールなんて出来ないし、そもそも古い足踏みミシンだから直線しか縫えない。工業用ミシンなのかね?
 折返しも出来ないから、縫い終わったら長めに糸を切ってから針でチクチク。
 …最初の頃は血塗れになったから、指サックを嵌めて守っている。
 尚、指サックは百均の品です。事務用の指サックだけど何でも使え、更に安い。
 ハッキリ言おう、最高です。
 洗える生地も最高です。

 問題は作務衣の型紙とか知らなかったので、一度自分サイズをネットで購入してからバラし、それを型紙代わりにして何枚も作務衣を縫った。
 お陰で夏用作務衣と冬用作務衣、春秋用作務衣は合計40枚もある。
 正直に言おう、縫い過ぎた。
 他にも洗える夏用の単位と浴衣があるが、これは5枚程。だがしかし、帯が一つしか無い。
 草履は仕事道具の一つだから色々あるのだが…うん、諸々反省。
 次は新しい帯を購入しよう。
 そう言えばネット通販で見掛けたけど、デニム生地の洗える着物があったなぁ。それに帯は付いていないかな。

 …残念、付属して居なかったか。
 足袋も何枚か必要だし、セットで安めの物を探してみるとネット通販で発見。綿100%だし、コレでいいか。
 失敗したら自宅用にすればいいし。
 足袋5枚セットとデニム生地の着物、それと帯を色違いで3つ程。
 ポチッとな。

 さて、と。
 表に待たせている人物はどうやら店先で待っているらしく、先程から気配がするがまだだ。45分。まだ待て。
「お腹すいたー」なんて声が聞こえて来るが「待て」だ。
 早く来るお前が悪い。

 これまたマイペースで居間から廊下を渡り、ドアを開けて店舗…

『小林茶屋』へと入り、窓等を開けて開店準備。
 準備終了次第暖簾を手に持ち、店舗を開店させる為に鍵を開ける。

 時刻は8時55分過ぎ。
 少しばかり早いがまぁ、良いだろう。
 待たせている客が煩いし、なぁ。

「お待たせ」

 カラカラと鳴るドアを開けると、待たせていた客の満面の笑み。

 く。
 イケメンめ……。
 癒やされるじゃないか、コンチクショウ。
 だがしかし、そのイケメンの笑顔の原因は俺の店の朝食です。
 癒やされるからいいけどね~。

「おはよう店長、今日の朝食は?」
「まだ作っていないけど、何時もの御飯と味噌汁に漬物、だし巻き卵か焼き魚。季節のお野菜」
「味噌汁の具は?」
「俺の朝食で良かったらすぐ出せる、具沢山だぞ。ワカメと豆腐、それとネギ。更には大根と人参、豚肉の細切れだ」
「豪華じゃねーか」
「だろ?で、今日はだし巻き卵か?それとも焼き魚?因みに鮭」
「悩む!両方は?」
「+100円で手を打とう」
「じゃ、それで頼む」
「あいよ、季節の野菜は小松菜と鰹節の和え物な」

 やった!と言う声を聞きながら、カウンターに移動して店舗の冷蔵庫から幾つかの材料を出す。
 因みに店舗の掃除は昨夜みっちりとやったので、今朝はテーブルの拭き掃除のみ。
 簡単ですまぬ。

 やって来たイケメン客はさっさとカウンター座席に座ってワクワクした顔をしている。
 まぁ、毎朝の光景だ。
 視線はガン見しているカウンターの調理場に釘刺しだけど。イケメン台無しである。

 そして、此処が俺の仕事場。
『小林茶屋』。
 お茶屋なのに何故か朝食定食出していますよ。
 強いて言えば目の前のイケメン、この店舗を貸してくれている大家である嵯峨憲真(さが けんしん)が原因である。

 このイケメンα大家、それまでは朝の11時とゆったりした時間帯に店を開けていた俺の店舗前で何故かぶっ倒れていたのである。
 しかも滅多に降らない都会の雪空の最中に。
 店を開けた瞬間、大男が店舗の入り口で大の字になってぶっ倒れていたから大声で叫んじまったよ。ご近所迷惑になってしまったよ。お陰様でご近所様が救急車を呼んでくれて、何故か俺まで救急車に連行されることになり、折角開けたばかりの店舗を臨時休業にしてから病院へ。
 で、医者に事情を聞かされたらさ。

 …イケメン大家、何と栄養失調でぶっ倒れたのである。

 おい。
 いい歳をした大のオトナ。しかも長身のイケメンさん。
 栄養失調ってなんだヨ。
 飽食の時代に栄養失調って。
 腕に刺されている点滴が情け無いったらありゃしない。

 それからというもの、このイケメン大家の親戚一同様(ご両親は事故で亡くなっていると、この時に知った)の願いで何故か俺の店舗で朝、飯食っている。
 勿論有料。
 俺、慈悲は無いの。
 無いけど金は必要。無いと日々の『おまんま(御飯)』が食えない。
 そんなワケで朝飯だけは店舗で食わせている。有料で。
 昼と夜は知らん。
 其処まで面倒見きれん。
 頑張れ、と笑顔を向けてやった。
 後日イケメン不破さんのお店、喫茶ロインで偶に夕食を食っているらしい。不破さんが教えてくれた。不破さんの喫茶店ってマグロ丼ぐらいしか無かったような…最近増えたのメニュー?ランチやら軽食も?ナニソレ今度お店行って食わして貰おう。え、近場だから配達もしてくれるって?
 まじか。今度頼みます。

 昼はどうしているのかね?別の店で食っているのか、それともコンビニやスーパーで済ませているのか。自炊と言うことは恐らくないと思っている。
 あったら栄養失調でぶっ倒れるなんて、今時無いだろうし。

 まぁいいっかと言う感じで、ついでだからと店舗の開店時間も早めにし。
 ご近所さんの喫茶ロインのイケメン店長の顔見たさに、毎朝努力中。勿論運命の番相手である末明さんの顔も見て堪能しております。
 毎朝来るイケメンα大家の朝食催促は開店時間に来いよって思うけど。

 はい、俺、美男美女美人さん鑑賞大好物なのです。
 可憐な可愛い人も鑑賞対象です。
 人間鑑賞、癒やされます。
 性格が難点な輩は寒冷地仕様の塩対応になりますけども。
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