商店街のお茶屋さん~運命の番にスルーされたので、心機一転都会の下町で店を経営する!~

柚ノ木 碧/柚木 彗

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「小林さん?」


 朝食セットをカウンターに乗せたまま、ぼんやりと先程の幼馴染とのメールのやり取りを思い出していたら嵯峨さんが此方を不思議そうに覗いて来た。


「ああ、ごめん」

「何か心配事でも?」

「いや、そう言う訳でもないのだけど。ちょっとな」


 本当はちょっとなんてものでは無い。
 所謂痩せ我慢。

 仮に。
 地元から都会へと出て行ったらしい『運命の番』であるあの人に、今会ったとしたら。


 …無視していいかな。


 だって今更なのですよ。
 過去なのですよ、過去。
 中学の時に初めて気が付いて、それから一体何年経過していると!?
 おまけに口を聞いたことなんて無いのですよ。遠くで見ただけですし、側にも寄りませんでしたから。俺、そこまで図々しく無いので。

 そう考えると中学から高校に大学と、最低でも7年以上経過しているし。社会人になってからと考えると既に10年経過しているわけで。

 そうして現在、俺から見て視線端…店の隅の方を向けません。

 何故なら其処に、回避したいのが現在進行系で居るわけですよ!
 此方を向いてニコニコしているのですよ、これがっ!

 夢や幻や、ましてホラーでも無かった!
 むしろホラーの方が生易しい気がして来た!!
 カモンホラー!

 あ、でも寝る前とか深夜とかに出て来るのは来世までご遠慮願います。やべえ、こんなこと考えていると夜トイレ行き辛い。風呂も一人で入るのがちょっと辛い。
 シャンプーする時、目を閉じるが怖くなるっつーの。
 え、大人になって頭洗う時目を瞑るのは俺だけ?

 今日銭湯にしようかな…って、この辺Ω専用の銭湯ちょっと遠いんだよなぁ~…男のΩって数が少ないから、普通の銭湯だと滅多に無い。コインシャワーとか個室の銭湯は怖いし、家の風呂が無難だよな。

 って、逃避しすぎ。
 ううう、流石の俺でも背中限定で冷や汗がダラダラと流れているわ、ソチラを向くのが嫌だし是非とも回避したい。何故居る。何故普通に此方を向いて微笑んでいる。
 微笑か。
 怖いわ!!
 あまりの強さに『!』っていう吃驚マーク乱立させとるわ!!

 っと、そんな場合じゃない。

 一応この店の【客】だからな。
 初めて来たのだから勝手がわからないのかも知れない。

 等と思っていたら、朝食セットを受け取った嵯峨さんが「うまっ!」とだし巻き卵を口に入れて感想を述べている。うんうん、美味しいは正義だよな。


「美味しそうだね、私にもそのセットを」


 ぐぁ、ヒムカ…本名、阿藤 日向夏(実家の幼馴染にフルネームを教えて貰った)さん。店の隅っこに居て機嫌が良さそうにニコッとしながら此方を向いて注文。


「はいよ」


 俺は内心呻いてしまいたくなるのを堪えつつ、素早く朝食セットを拵える。


 どうでも良いのだけど、何故かうちの店の常連面子の様子がおかしい。
 朝食セットを食っていた外人メンバーが何故か席をヒムカさん側へと微かに詰め寄り、一般人であるβがその周囲から外れて座っている。そうして、カウンター席には嵯峨さんとたった今来た不破さんとその奥さんもカウンター席に座った。

 えー…と、カウンターから何故かヒムカさんの姿が見え難くなったのだけど、何故この状態に?


「店長」

「はい?」


 おろ、店長なんて嵯峨さんから珍しく言われた。何時もは小林さんなのに。


「あの人が原因ですね」

「はい?」


 何が。
 いや、何がどうしてそう思った??


「頬が赤いですよ」


 うぇえええ!?
 マジかあああー!!
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