商店街のお茶屋さん~運命の番にスルーされたので、心機一転都会の下町で店を経営する!~

柚ノ木 碧/柚木 彗

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『うわ、ヒムカさんに会っちゃったか~』

 現在実家の幼馴染とメール中。
 店は既に閉店時間を過ぎて居て、そうして何故か我が家の小さな台所で嵯峨さんが緑のエプロンを付けて芋の皮剥きをしております。
 明日の朝の朝食セットで使うコロッケの下拵えをしようとしたら、何故か「手伝います」と嵯峨さんがくっついて来た。
 尚、朝からずっと嵯峨さんは俺の側を離れない。

 それは店の外にヒムカさんが居たからで。
 朝食セットを店で食ってから、何故か昼食時にも店の外に居たが店内には一歩も入って来ず。
 そんなヒムカさんを見て、嵯峨さんが物凄い警戒中。

 昼過ぎにはどうやら誰かが通報しちゃったか、商店街のパトロールに来たお巡りさんが職務質問をしているのがチラッと見えたなぁって思っていたら姿が消えた。
 有り難い。
 町のヒーローお巡りさん、助かりました。

 と言うかね、俺に何か用事でもあったのかね~って思わないわけでも無いのだけど、店の前を彷徨かれるのはご勘弁願いたい。幾ら同郷とは言え言葉を交わしたのは今朝が初なのです。そんな人に用事はないわけです。
 冷たいのですよ、俺は。

 運命の番だからって選ばなかったのはアチラなのだから、俺はノータッチですよ。
 身体が反応してヒートを起こそうが、今朝みたいに勝手に赤面してしまっていようが俺は無関係を貫きたいのです。そもそもまともな会話もしていないしね。

 実家の幼馴染が教えてくれなければ彼のフルネームさえ知らなかったのだから。


『実害はあった?』


 当然ありません。
 朝食セットを食った後、店の前を彷徨かれたぐらいですし。精々お巡りさんの世話になった位かな。


『成程、ヒムカさんらしいな。と言うかお巡りさんご苦労さまです。そして既に実害あったのかーい』


 んー?という事はこの幼馴染はヒムカさんの性格を知っている、と。


『噂程度だけどね、今のヒムカさん昔と違って引っ込み思案気味らしい。以前は思いやりがあって、リーダーシップを発揮する人だったらしいのに』


 ほう?と言うか、俺そんな噂も知らんけど。


『離婚したばかりだから、精神的にダメージ残っているだろうしね』


 だよなぁ。


『あーそうそう。嫁さんと離婚した騒動、あの後お袋が聞いちゃったらしいのだけど。と言っても今頃ご近所さん全員知っているとは思うけど』


 うわー田舎の噂ってあっという間に広がるからなぁ。しかもエグイ程。
 噂されて居ると当人だけが知らないって事が多いし。

 と言うことは、俺のことも田舎で噂されたことだろう。
 運命の番云々は誰にも知らせて居ないから広がることは無かった。でも俺がバース性の高校に入学したって言うのは知られている筈。中学の時に田舎でヒート起こしているし。

 当分の間田舎に帰省するのは止めておこうかな~…ヒムカさんが離婚した件で好奇の目に晒されそうだ。離婚の原因は俺とは無関係だけどな。


『ヒムカさんと元嫁さん、【番契約】して居なかったらしいぞ』

「はい?」


 え、何で。
 俺が見た時、指輪を嵌めていたでは無いか。
 幸せそうに可愛らしい女性の肩を抱いて歩いていたでは無いか。


『離婚したΩの嫁さんの方から「もし運命が現れたら困るから」って、籍だけ入れて居たって』


 何だよ、それ。


『酷い話だよな。それで元嫁さんの方に【運命の番】が現れたからって、ヒムカさん捨てられたって』


 何だ、その女。
 ヒムカさんを愛していたのでは無いのか?
 と言うかそんな女に俺は『運命の番』を取られたのか。


『どうなのだろうなぁ。始めのうちは愛情があったのかも知れないけど、ヒムカさんの元嫁さんってプライドが高いΩって言われていたからなぁ』


 プライドってオイ、どんなプライドだよ。


『んー…元嫁さんの幼馴染っていうのが俺の今付き合っている彼女なのだけど』


 唐突に惚気ぶっ込んで来た。
 あーはいはい、御目出度う御座います。


『まぁそう言うなよ。でさ、元嫁さんが昔ペラペラと言っていたらしいのだけど、「こんな田舎でΩは私だけだと思っていたのに、増えたって。しかも男の。巫山戯るな、絶対に優秀なαを男のΩになんて渡さないわよ」って言っていたって』

「それってまんま、俺のことじゃねーか」


 つまり初っ端から俺等の仲をぶっ壊してくれていたってことか。

 とは言えヒムカさんと俺、出逢っても居ないから(中学の時は遠くからだし、店内の件は客としてだからノーカウント。先日のヒートは会ったと言うよりフェロモンに当てられただけだから、此方もノーカウント)仲なんて始めから無いけど。更に今はもうどうでも良いけど。客と店主と言う関係以外無いし、これ以上関係は進まないだろう。

 あるとしたら…緑のエプロンを付けて芋の皮剥きを一心不乱にしている嵯峨さんを見詰める。

 俺の視線を感じたのか、「ん?」と呟いて此方を見返す嵯峨さん。


「皮剥き終わった?」

「もう少しです」

「良かったらお礼に飯食っていく?」


 腕奮っちゃうよ~、とは言え家庭料理程度だけどね。


「良いのですか!」

「食っていかないなら困るかな。作りすぎちゃったからって言う言い訳があるから」


 と言って笑うと、「ほら」と鍋に入っている野菜がたっぷり入った豚汁を嵯峨さんに見せるように傾ける。中身は勿論一人では食いきれない量。他にも今から椎茸と春雨、挽き肉が入った春巻きを揚げますよ~。

「是非、ご相伴に預からせて頂きます」と、何故か嵯峨さんに両手を合わせて拝まれる。
 何故に?と思ったら、


「芋の皮剥きをしていたら、無性に腹が減った…」


 照れて頭を掻いた嵯峨さんを見て何だか可愛くて、笑った。
 うん、俺。嵯峨さんなら客と店主、大家さんと契約者という関係から進みたいな。
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