商店街のお茶屋さん~運命の番にスルーされたので、心機一転都会の下町で店を経営する!~

柚ノ木 碧/柚木 彗

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 あの日、ヒムカさんと店内で会ってから二週間後と+数日。


「毎朝来るよね~」


 思わず愚痴が出る程、例のあの人であるヒムカさんが朝食を食いに来る。


「来ますね」


 そうして何故か、カウンターの内側に居る緑色のエプロンを付けた嵯峨さん。俺みたいな和装の出で立ち(作務衣や甚平)では無い。

 それにしても作務衣か。
 嵯峨さんの作務衣を着た姿を見てみたい気もするが、俺のサイズだと小さいだろうし、袖とか裾とか丈が足りないだろうなぁ。いっそ購入しちゃう?その前に単衣という手もあるな。
 洗える着物とかなら低価格だし、その前に着てくれるかどうか怪しいので内緒で購入だけしちゃうかな。格好良いだろうし、何より俺が見たい。
 物凄く見てみたい。
 問題はどうやって着てくれるかだ、うむむ…いっそ貸しを作ってとか軽く勝負をしてそのご褒美にどうだろう。
 勿論俺のご褒美なので、否定はさせません。ふははは。


 …勝負事は負けそうだから、軽い物にしないと駄目な気がする。


 閑話休題。


 何故カウンター内部に嵯峨さんが居るかと言うと、此処暫く毎朝来るヒムカさん対策の一つだ。
 何せヒムカさん、初日は兎も角翌日からカウンターに座って他の客が居るのに猛アタックを開始し初めたから。


「映画のチケットがあるのですが、一緒にどうですか」

「お断りします」

「一緒に食事でも」

「飯提供している店主に言う言葉ではねーな」


 朝御飯のみだけどね。
 そうして俺、客に対する言葉では無い。

 自覚はしているが出来るだけスルーしたいのだ。以前のように、此処で店を開く前の様に【番】のことで胸に痛みを伴って居た時とは全く違う今の状況、予想外過ぎて昔ならば即靡いていたな、ちょろい俺だが今では違う。
 立ち直ったと言うには違う気がするが、心機一転と店を持った為、更には新しい出会いが俺を一寸だけ強くしたのかも知れない。

 なーんて、な。
 嵯峨さんに出会っていなければきっと今もグダグダしていただろう。


「今度の休みの日に一緒に何処か出掛けませんか?」

「仕入れ忙しいので」

「釣りにでも行きません?」

「…友人と行くので」


 釣りって言うのはちょっと来るものがある。好きなのですよ。と言うか何処かで聞いたのか?小学校と中学生の時、暇があれば釣りに出掛けていたことを。

 …ん、あれ。
 そう言えば俺の地元ってドが付いちゃう田舎だから、釣り位しか遊びは無かったような。野球は人数が足りなくて出来なかったし、サッカーはよく知らん。後は何だろう。時期になると山菜やら何やらを取りに行くとか…うーん、野生児か。
 思い返すと野生児だったわ、俺等。

 女子達は知らん。女子達と俺、あまり交流が無かったので。
 ただド田舎から都会へ高校に入学した時、都会の女子の華奢さにドン引きした覚えがある。雪に埋もれる田舎の女子って人によるけど都会の女子より筋肉質な子が多い気がする。
 もしかして俺が居た田舎だけだったかも知れないけど。

 因みに友人と言うのは偶に来るαカップルの落合行広と一戸京夏の二人のことだ。今度一緒に釣りをする約束をした。勿論嵯峨さん付き。
 川釣りか釣り堀にでも出掛けようと楽しみにしているので、口説こうとする問題児はノーサンキューである。


「一緒に行っても!?」

「仲間内とワイワイしたいのでご遠慮願います」


 取り付く島がない~!等と言われたが知ったことでは無い。それ以前に貴方とは友人でも何でも無いのです、お店のお客さん止まりです。お客さんは神様ですって言う人では無いからその辺は諦めて下さい。俺としてはスルーしたい人ですので。ですから冷たい態度は当たり前なのです。

 何せうっかりヒートに突入したら嫌だからな!
 そのまま番になったら目も当てられない。
 中学の頃はスルーされたのだ、俺だってスルーしたい。

 こんな会話が此処二週間繰り広げられている状態。
 その度に素気無く断りを入れていたが、最近一部の常連客までもが面白がって「今日はいけるか」「頑張れよ」と励ます状況。


 …非常に迷惑。

 ※


 数日前から胃腸炎でぶっ倒れ中。
 痛くてきっついw
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