商店街のお茶屋さん~運命の番にスルーされたので、心機一転都会の下町で店を経営する!~

柚ノ木 碧/柚木 彗

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78 此処の店の店長は不破

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「なんてこったい、小林店長が暴漢に襲われたって噂は本当だったんだ!」

「暴漢と言うか、何と言うか…」


 言い方は妙だが通り魔、だろうか?それとも暴漢?乱暴を働いたということだから、暴漢であっているのかな?
 目的は俺の店の様だったけれど店主である俺では無く、遊びに来ていた末明さんに向けられた。だから襲われたのは俺では無く末明さんが襲われたと思うのですが。

 それと噂って…早いなぁ伝わるの。
 噂の暴漢ではあるような無い様な所が微妙だけれど。
 何せ末明さんが未然に防いでくれたからね。
 お陰様で俺は無傷です。
 未明様々です。
 心の中で拝み倒そう。
 とか何とか心の中で言っていたら、末明さんがくしゃみをしていた。くちゅん!だって、何その可愛いくしゃみ。俺にはその可愛さは無理、出せない。
 とか思っていたら、そんな末明さんを見て不破さんがプルプル震えていた。「可愛い」と言う呟き付きで。夫夫仲は相変わらず良好のようで羨まけしからん。もう一度拝み倒すから俺にも何かご利益下さい、是非お願い致します。


「心配したぜぇ店長」

「おいおい、此処の店の店長は不破だろうが」

「だったな!」

「「「「わはははは」」」」


 不破さんの喫茶ロインが開店し、何処からか噂を聞き付けた状態で俺の店で朝食を食べている常連客が訪れて来た。とは言え朝早くから仕事をしている常連客達は流石に来て居らず、来たのは午後から仕事の人や本日仕事が休みの人々。
 例外として、定年退職をしてのんびりと悠々自適な生活をしている人ぐらいだろうか。


「朝来たら張り紙があったから此方に来たのだけど、まさか此処に居るとは思わなかった」と何があったのか心配したよと言う常連さんや、

「追い詰められた嵯峨に襲われたのかと思った」

「だな!」


 軽く冗談を飛ばす常連さんがガハハと笑う。

 と言うかですね、嵯峨さんが追い詰められたって何ですか。そう言ってみたら、「小林店長の可愛さや色気に当てられて堪えきれなくて襲いそうだ」と。

 何ですか俺、可愛くないです。ですがむしろ襲っていただ……ゲホ。
 朝から何を考えて居るのだ、俺。
 そりゃあ嵯峨さんならばオッケーですけど。
 了解取れれば俺から襲っちゃおうかなって思っていますけど。…Ωだから逆は難しいとは思いますがね、はい。

 世間では誘い受けなんて言う言葉を聞いたことはあるけど、俺の場合襲い受けになってしまいそうだ。体格的に無理な気がしないでもないけど、それは気合で何とか出来ないだろうか。よし、此れから身体を鍛えよう。目指せ、バッキバキ筋肉。
 そうして許可さえあれば襲っちゃおう。

 そんなアホな事を考えている最中、モーニング等を運んでいた不破さんが、


「嵯峨君にそんな度胸は無いだろ」


 と言ってから此方をチラリと見て苦笑する不破さん。小声で「失礼なこと言っちゃった、御免ね」と。此方に謝られても困ります。嵯峨さんに謝って下さい。一瞬ちょっと前までアホな事を思っていたからか、俺が襲いますからとウッカリ言いそうになってしまったでは無いですか。
 そうしてそんなうっかりは、お口チャックをして発言をしないようにしていると、


「まーなー」

「だよなー」

「礼儀正しいからなー」


 等という常連さん達。
 確かに今の今迄特に大して関係は進んで居ないけどー!
 関係進ませてとっとと狙い撃ちしたいのだけどー!
 恥ずかしいから中々出来ないのですがね、うぐぐぐ。

 さてさてそんな常連さん達が居る不破さんのお店喫茶ロインですが、普段よりも大混雑をしていて不破さんと末明さんにお手伝いさんの3名だけだと人数が足りず、急遽俺も泊めて貰ったお礼として働いております。喫茶店で働くのってこんな感じか~と、店内の様子を見て俺の所の小林茶坊とは違うなぁと思った。
 何せウチは日本茶を提供するお店『小林茶坊』。
 香ばしい珈琲豆の匂いは漂う空間では無いし、和の空間が主流。
 最近は中国茶等も置いているけど喫茶ロインの様な異国情緒漂う洋風空間では違うし、照明も落ち着いた色合いの空間では無くそのままの状態にしている。
 更には日本食では無いパンを使用したモーニングを出しているからか、オーブントースターで焼いたトーストの匂いが香ばしい。

 そんな最中、何時もよりも人数が多いから豆が足りなくなりそうだと店内の奥で不破さんが珈琲豆の焙煎をしている。


「良い匂いだねぇ」


 俺が珈琲豆の匂いを嗅いで居ると、「だろう?」と微笑む末明さんと不破さん夫夫。
 お店の隣の部屋では子守をしているベビーシッターさんが晃明君と雪羽ちゃんの相手をしていて、少し開いているドアの隙間から見える。

 これ、ワザと開けているのだとか。
 まだ親離れと言うか乳離をしていない双子の乳幼児達が、末明さんの姿が見えないと愚図りやすいのでその対策だと言っていた。確かにちょっと末明さんが遠い場所に行くと双子ちゃん達の誰かが愚図り、やがてもう一人も釣られて泣き出してしまう。
 因みにお父さんである不破さんはそうではないと不破さん当人がしょんぼりしながら話していた。

 お乳をあげる相手は偉大だと言うことだろう。多分。

 それにしても…。
 カウンターで食器を洗っている俺の側に来た末明さんはドアの隙間から双子達の様子を見ながら、


「返事来た?」
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