商店街のお茶屋さん~運命の番にスルーされたので、心機一転都会の下町で店を経営する!~

柚ノ木 碧/柚木 彗

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117 例の親子

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 side.嵯峨憲真


「俺の初恋って憲真なんだろうなって思ってさ」


 そう思ったら急に恥ずかしくなって、と真っ赤な顔を隠すように俯く眞宮。
 これはあれか。
 あざと可愛いと言うやつか。
 あざとい。
 漢字で書くと確か『小聡明い』だったか。
 昔はネガティブな意味だったが、近頃は恋愛観が変化したことでポジティブな意味へと変化したとか何とかと聞いたことがある。

 確かに可愛い。
 これは堪らない。
 俺の眞宮が可愛すぎる!!

 グッと変な音が喉から出る。
 咄嗟に右手を眞宮に伸ばしそうになるのを反対側の手である左手で抑える。

 そんな妙な行動をした俺を、眞宮は不思議そうに眺めている。

 そんなキョトンとした、少しだけ口を開いた表情で俺を見たらダメだ。気を許しているのだろうが、そういう顔は濃厚な情事をした翌日に見るとマズイ。
 此処連日、ヒート状態の眞宮をずっと独占状態(抱いたまま)だったと言うのに、眞宮が欲しくなってしまうのを何とか堪える。


「え、あー…そう言うことか」


「絶倫な憲真も連日はキツイよね。」等と呟いてうんうんと頷いている眞宮。
 これは勘違いしているな。
 眞宮は意外と鈍いというか、変な方向に勘違いすることが多いがまぁ、今回は指摘しない方が良いだろう。(絶倫と思われているのは遺憾だ。αならこんなものだろうし、ヒート中のΩを満足させないとαとは言えない)

 抱こうと思えば今すぐにでも出来ますよ?等とは言ったら眞宮が照れまくってしまうだろうし、そんな姿も可愛いがうっかり俺のスイッチが入ってしまったら疲れている眞宮が可愛そうだ。
 それでなくても勘違いしている姿も愛くるしいのに。

 ふと目に入った眞宮の項を見る。
 番の証となった噛み痕。噛んだ当初は出血もあり、時間が経つと真っ赤に腫れてきて焦ったが、徐々に癒えた。今はまだ生々しいが、今後歯形だけが残ることだろう。

 それに眞宮の顔、いや目の下の隈を見る。
 薄っすらとしているが、ヒートのせいで連日寝不足気味だった筈。
 そんな状態の眞宮には流石に言えない。一週間程だったとは言え眞宮を意図していたわけでは無いが事実上拘束していたわけだし、これ以上はお茶屋を経営している眞宮を独り占めするわけにはいかない。

 それにいい加減…。


「うわ!メールとか着信履歴がスマホに滅茶苦茶来ている!」


 デスヨネ。
 俺のスマホも連日満員御礼状態だったから、店舗経営をしている眞宮ならもっと多く連絡が来ていることだろう。


「常連さんも多いけど、不破さんと末明さんから大量のメール…」


 スマホ画面を見ながら「京夏君と落合君からも。げげげ、幼馴染からもか」と叫ぶ眞宮。先程までのほんのりとした幸せ空間から一気に日常へと変化してしまう辺り、思わず口角が上がり笑みの形を作ってしまう。


「笑うことないだろ~」


 ぷくっと微かに頬を膨らませるのは無意識なのか。子供の様に大きく膨らませたりはしない所がまた何と言うか、子供っぽいが愛らしいというか。直ぐに元の状態に戻るあたり、意識してやっている行為では無いのだろう。


「此方も幾つか連絡が来ています。今日はお互い大忙しですね」


 眞宮の方がきっともっと忙しいだろう。

 俺の方は不動産から幾つか連絡が入っている程度で、メールにて管理していた例の親子のアパートの引っ越しが完了したこと。部屋の掃除が完了したことを知らせるメールぐらい。
 …このアパート、因縁が付いたから権利を売ってしまおうか。
 親から譲り受けたものだったがもうだいぶ古くなって来ているし、立て直す程古いわけでも無い。ただ例の親子みたいな者が来て、再び眞宮に危害を加えようとして来る場合もある。
 いっそ二階建てのアパートから企業向けのビルディングに建て替えてしまおうか。警備会社とかが入ってくれたら二度と変な者は来られないだろうし、保険会社でも固いイメージが先行して例の親子みたいな人物は寄れないだろう。
 手放してしまって変な者達を呼び込むアパートになんてなってしまったら後悔してもしきれない。
 その辺の詳細は後程、不動産と話して決めようか。

 さて、と眞宮に視線を向けると「むぅ、確かに」等と言いながらスマホを片手にポチポチと返信をしている。


「そうそう、眞宮のお店の件ですが不破さんから連絡がありまして、もうお店を開いても大丈夫なようですよ」


 マジか、と呟く眞宮。
 途端、瞳がキラキラと輝く。

 ほんっと、この人は自分のお店をとても大事に思って居るんだな。


「お、本当だ。不破さんからメール来ている」


 スマホ画面を見ながら実に嬉しそうだ。



 ***


 ・解説
【例の親子】は嵯峨憲真が管理しているアパートについ最近引っ越してきた母子家庭親子のこと。憲真が独身のαだったことで母親が暴走して憲真をものにしようとした。
 尚、その件で娘が小林眞宮の店でトラブルを起こした。
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