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131 お味噌と氷柱
しおりを挟むside.嵯峨憲真
「朝からお味噌のいい匂いがする…」
両親と死に別れてから、ついぞ嗅いだことのない匂い。
それが眞宮と恋人になってから、共に居る時に嗅ぐことが出来るようになった匂い。
眞宮の店での匂いとか、俺の住んでいるマンションとか。
時折、共に朝まで過ごした時に眞宮の家でとか。
その場所で嗅ぐ、匂い。
「朝って味噌汁の匂いを嗅ぐと食欲がわくんだよ」と言って、何時も朝には味噌汁を作ってくれる。
…時折、その姿が亡き母とダブって見える時があり、母さんってこんな感じだったろうか。いやいや、比べるのは双方に失礼と言うもの。
生前母さんも眞宮と同じようなことを言っていたような。
家族の健康のためとか栄養がとか諸々言っていた気がするが、それは俺と似たようなタチでほっとくと食べるのを忘れがちな父のためでもあったのでは無いかと今なら思う。
特に好き嫌いがあるというわけでは無いのだが、気が付くと食べずに済ませてしまう。忙しいという程でも無いのだが。
そんな父も俺が小学校に入学する辺りには多少は改善されていたようだが。
それはさておき。
「同じメーカーの味噌を使用しているのかな」
眞宮が良く使っている味噌の匂いと同じ気がする。
田舎から送って来るのだと言っていたから、眞宮の実家の地元産なのだろう。もしくは蕗さんのお手製だったりして。味噌の粒が大きくて、ゴロゴロ入っていて美味しいんだよな。
そんなことを考えていたら腹が減って来た。
よし、起きるか。
横に敷かれている布団で眠っている眞宮を起こさない様、ゆっくりと身体を起こした。
*
部屋に設置されているファンヒーターのスイッチを入れ、部屋のカーテンを開ける。
部屋の中だと言うのに先程から息が白い。
ファンヒーターの設置温度は15度。その横にある室内温度は0の数値。寒い筈だ。
カーテンを開いた二階の窓から外を眺めると一面真っ白の銀世界が広がる。つい先日まで東京の色とりどりの世界から一転した世界の色。
「これは…凄い」
窓ガラスのすぐ傍に大きな氷柱が!
「憲真おはよ。って、随分氷柱の幅やら何やら大きいな。この部屋数日使っていたのか、それとも俺達が来るからって数日掛けて掃除してくれていたのかな」
背後から「あー寒っ」と言う声がして振り向くと、ぎゅうっと少し強めに俺の胸に抱きついて来た。
珍しい、眞宮が甘えて来ている。
これも実家に居る効果か?それとも昨夜の一件からだろうか。
朝から幸せ過ぎる!
「成程、元々あった煙突ストーブ、都内のバース性の学園に入学してから数年経過していたから使えなくなったのか、それとも安全性を考慮して撤去したのかな。新品のファンヒーターになっているし」
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