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しおりを挟む「ふーむ遠縁ながらも流石陽平叔父さん中々の育メンぶり、感服致す所存。」
「なにそれ。」
僕は杏花音さんの発言に軽く苦笑し、はむっと渡された豆腐のハンバーガーに齧り付く。
ううーん、この醤油ベースのソースが好きだなぁ。ちょっと酸味があるからレモンでも入っているのかな?それとも他のだろうか。匂いがレモンっぽくないし。もしかしてお酢かな?林檎のお酢。
そして噛めば噛むほど豆腐の感触と言うよりお肉っぽいし、中に玉ねぎも入っているから感触が楽しい。甘味もあるしね。サラダもシャキシャキしていて歯ごたえが良い。
ついペロッと完食しちゃったよ。それでも何時ものようにポテトは無理だなぁ。
お腹がいっぱいだ。
「ふふふ、古風な言い方をしちゃうほど、陽平おじさんを尊敬しているのだよ、明智くん。」
「え、それ何処の江戸川乱歩。」
京夏さんが「おお、文学少年?」とかって呟いて居るけど、偶々スマホで検索しただけだよ。アニメの某探偵さんの名前が「小五郎」って言うからあれ?何かどっかで聞いたような?と思って調べてみたら、色々わかって面白かったから。
小説の方は読んだことは無いのだけどね。
「むしろ二十面相って言って~。」
「ごめん、そっち知らない。」
「ぐぎゃーっ!ジェネレーションギャップぅ~!」
「いやいや同い年。」
「でしたー!でも時折会話が世代のズレを感じるでござる。」
「それはここ最近杏花音さんが好きで使っている、古臭い言い回しをワザトするからでしょ。」
「ござるゴザル、ニンニン。」
シュバッと口で効果音を言って忍者がよく使う?と思われる、両手の指を組むのをやって披露している。
最近杏花音さんは例の年上の彼を落とすために積極的に彼に会いに行っているらしいのだけど、その彼が日本映画や昔のドラマ、特に侍や忍者映画に嵌っているらしく何度か一緒に出掛けて観覧とか、ネットで映画を見たりしていると自慢げに言っていた。当然彼女も嵌り、最近クラスの女子や僕等に古臭い言い回しをしたりして遊んでいる。
そうそう、最近やっと僕は「杏花音さん」と言えるようになった。
その前はよく一戸さんと言っていて、お兄さんと同時に振り返るから等々呼び名を変えたんだ。
杏花音さんからは嬉しそうに了解され、逆にお兄さんの京夏さんからは「酷いっ!ボクを捨てるのねっ」と言って泣き真似をされた。
直後落合先輩が「同士よ!」といって謎のコンビ漫才を繰り広げられたから放置したけど、追々下の名前で呼んでみようかなとは思っている。だって同い年だしね。
ただ、落合先輩はそのままで居よう。
年上だし、なんとなーくだけどその方のが良い気がする。
αだしちょっと、ちょっとだけ心に壁があるのは仕方がないと言っておく。
悪い人では無いのだけど、時折逆らえない何かがある。今もチラッと僕の方を見ているし。杏花音さんの台詞じゃないけど、くわばらくわばら。
「お腹いっぱい、ってやっぱりポテト残しちゃったなぁ。」
毎度のことなのでと思って京夏さんや落合先輩に渡そうと思っていると、
「一戸先生に渡した方が良いんじゃない?」
「そう言えばそっか。」
さっき残したら俺が食うからと言われていたなと思い出す。
でもなぁ…。
「今日の陽平父さんのお弁当は阿須那父さんが作っていたから、そっち優先だと思うんだよな。」
お弁当を食べた後にポテトは重すぎ無いかな?
今朝珍しく阿須那父さんからお弁当箱を貰って浮かれていたし。
ほんっと珍しいからなぁ。阿須那父さんが陽平父さんに手作りのお弁当作って渡すなんて。
この学園は食堂とカフェがあるから滅多にお弁当を持って行くなんて陽平父さんはしていない。学生もだけど先生方も食堂では無料で提供されて居るって聞いたし。それなら全メニュー制覇したいと、僕はお弁当は作って貰わなくてもいいよって言って断っている。
それでも時折、【本当に偶に】だけど、阿須那父さんが陽平父さんにお弁当を作って渡している時がある。
もしかして何らかの記念日なのかな?と思うのだけど、滅多に教えて貰えていないので普段はわからない。だけど今日は何となく予想は付くかな。
GW前だから、ええと確か。
父さん達が付き合うかどうかの中間地点で、大人になってから初デートをした日、だったかな。
…残念ながら僕付きだったけど。
そして当時の僕は父さん達がデートだとは全く気が付いて居なかった訳で。
我ながら絶句。
鈍感だって気が付いたのはこの時だったよなぁ。
父さん達と帰宅して、疲れたーでも楽しかったーって思って部屋でゴロゴロしている時に「あれ?」って気が付いた。
…僕の馬鹿。
メッチャ邪魔じゃん、お邪魔虫じゃんって。
枕に抱き着いてベッドでのたうち回ったよねぇ……。
お陰で確り覚えておりますとも、ええ。僕ってば残念使用でもう、もうっ。
あれ、じゃぁ今日のお弁当ってもしかして…。
あーうん、アレじゃ人に見せられないよね。
阿須那父さんが陽平父さんに渡していた時、僕に見られない様に速攻で蓋閉めていたから多分結構ベタ系のお弁当だと思う。
…前に偶々見掛けた時、思いっきりハートマークが付いていたから。
阿須那父さん恥ずかしがる癖に、そういうことするの結構好きだよね。「乙女か!」って前に阿須那父さんの会社の上司の安倍川さん、えーと蒼志さんのお母さんに前に家に遊びに来た時に酔っ払って僕に散々愚痴っていたから。
因みに安倍川さんの酔った時の口癖は、「おばさん、阿須那君(ちゃん)が乙女過ぎて困っちゃう。」だったり。
そう言う安倍川さんの方がよっぽど女性らしいと思うのだけどなぁ。
ま、何が言いたいのかと言うと、陽平父さんは阿須那父さんのベタ系弁当を人に見せたくなくて部屋を出て言って、僕の病院付添の事柄を報告した後に一人隠れてお弁当を食べるつもりかなってことです。それか、帰宅してからゆっくり食べるつもりとか。
後半のような気がする……。
ゆっくり味わいそうだし。
最近特に仲が良いもん。夜トイレに行って帰って来ると抱き着いていたのに大慌てで離れたりして。気を使わせているなぁと思うけど、コレばかりは一緒に住んで居るのだから仕方がない。
僕、家出たほうが良い、かなぁ…。
新婚の二人の邪魔して居る気がする。否、確実にそうだよなぁ。
それにこの学園、結構きっちりと寮完備されているし。生徒達は無料で諸々サービス受けられるし、何よりオメガだからと発情期が来たら隔離施設を使えるし。家みたいに発情期が来たら自室に閉じこもって父さん達の手を煩わせることも無いし。
…何で僕もっと早く気が付かなかったのだろう。
そりゃあ父さん達にもっと甘えたかったからって言う理由もあるのだけど。
「ねぇ、杏花音さん。」
「ん~?」
「僕、家を出た方が良いかなぁ。」
「え。どうしたの優樹君。お父さんズ大好きなのに!」
お父さんズって。
確かに【父さん】は阿須那父さんに陽平父さんの二人だけどさ。
「父さん達新婚なのに色々と気を使わせていて。最近特に二人の仲が良いから、邪魔になっているなって思って。」
落合先輩と京夏さんの二人が顔を見合わせている。
「ん~?」
「それって…。」
何だかゴニョゴニョ話しているけど、時折この二人、落合先輩と一戸京夏さんは双子の筈の杏花音さんと京夏さんよりも仲が良すぎるんだよなぁって思っていたら、
「寮に入ったらより長く皇に会えるから?」
「皇ってさ、滅茶苦茶優樹のこと気にしているからな~。」
「ぶはっ!」
え、何、なに、その色々超えまくった回答はーっ!?
「いやーだって。てっきり皇に会えないからここ数日鬱ぎ込んで居るって思っていたし。」
「皇って有名人だから、授業に出てくれないと優樹って会えないからねぇ。」
いやいや、そんなニヤニヤして此方を見られても困るよ!
杏花音さんも「ああ、成程~。」じゃないからね?僕そんなことちっとも思って無かったしっ。
考えても居なかったよ!
「でもさー此処3日程皇居ないからなぁ。」
「寮にも帰って来ていないし。」
「マジで何しているん?って事情聞いている?」
僕も知らない。だって三日程連絡取れない。どうして過ごしているのとか、ご飯ちゃんと食べて居るのかとか、仕事が忙し過ぎて睡眠時間ちゃんと取れているのかとか考えてしまう。
「ほうほう、つまり優樹は心配し過ぎてオカンな気分なんだね。」
「何オカンって?!」
「優樹君が皇ッチのお母さん説。」
京夏さんがウンウン頷いて勝手に僕をお母さんにしているけど、無理過ぎでしょうその説。
「兄さん、幾ら何でもそれは無いわ~。」
杏花音さんが京夏さんの言葉に思いっきり否定する。
だよねぇ、幾らオメガでも同い年の相手にオカンは無いよ。
…トマト入りカレーは渡したけど。
もしかして皇さん僕のカレーに当たった、とか。でもそれなら翌日普通に学校に居たりしないよね。食中毒ってこんな数日経過してから起こるものでは無い筈だし。
「ほうほう、皇君にお手製トマト入りカレーを進呈したと。マジか、ナニソレ羨まケシカラン。食いたいそのカレー。彼だけにカレーとな…。」
「杏花音、最後の親父ギャグ笑えない。」
「マジか!」
僕が呟いていた言葉に反応し、良くわからない親父ギャグを放った杏花音さんに兄の京夏さんが痛恨の一撃を加えている。
「杏花音、意中の人を口説く前に『親父ギャグ』は禁止って前に言っただろ。派手に自爆するから。」
「でした―…。」
「さてはお前既に何度かやらかして自爆しているな?」
「言わないで下さい、お兄様。後生で御座いますわ。」
「そう言うなら治そうな。」
「そんな風邪を治すみたいに言わないでってば。っと、風邪といえばご飯食べたけど優樹君体調どう?」
あ、思いっきり話しを反らした。
これは相当自爆しているのでは?と思って京夏さんを見れば、両手の平を上に上げて困ったねと言わんばかりのジェスチャー。家でも相当やらかしているんだろうなぁ杏花音さん。
「うん、特になんとも無いかな?」
取り敢えず困っている杏花音さんに合わせておこうと話を合わせると、僕のスマホが振動する。
ちょっと待ってねと言ってスマホの画面を見ると………自然と口角が上がってしまう。
「あ、旦那からっすか。」
「マジか。流石皇の旦那。」
「良かったね~優樹君。」
スマホの画面から目線を外すと、京夏さんに落合先輩、杏花音さんの三人が妙に生温い視線で僕を見詰めていた。
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