ある日突然Ωになってしまったけど、僕の人生はハッピーエンドになれるでしょうか

柚ノ木 碧/柚木 彗

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番外編 陽平と阿須那の優樹が不在のクリスマス

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 side.陽平

「いってきま~す。」

「ああ!待て、まだ待て優樹っ!」


 ドタドタと大慌てで玄関へと優樹を追い掛けて走って行く伴侶である阿須那の様子を伺いに、台所から顔を出して玄関までゆったりと歩いて行く。
 どうせ急いで行ってもまだ阿須那のお小言と言うか、心配事と言うか。細々と言っているだろうと思って行けば、案の定優樹が少し困った顔をして玄関に立っており、その前に阿須那が立って居て…。


「良いか、絶対に今日中に帰宅すること。それとお酒は未成年だから飲んだら駄目。それとコレが一番大事だ。いいか、αには付いて行くな、特に見知らぬ奴とかは絶対に駄目だ。」

「うん、わかった阿須那父さん。でも、あの、その、ね?」


 ゴニョゴニョとやや俯き気味で一瞬で耳まで真っ赤になっている我が義理息子は、阿須那の育て方が良かったのかどうかは解らないが、比較的穏やかな性格をしていてどちらかと言うと引っ込み思案気味で甘えん坊だ。
 典型的な一人っ子の性格と言われている我儘な素振りは無く、どちらかと言うと自身の意見を滅多に言わず大人しくしていることが多い。
 これは恐らく中学の時の亜藥村での一件である元祖母との事柄が心の中で引っ掛かっており、自分自身を出すのを躊躇っているのでは無いかと俺は思っている。だから比較的自分の意見を出して欲しいと、自主的に何でもやらせようとして居るのだが、目を離すと実親の阿須那が時折過保護な方向に突っ走って向かってしまうため、その度にどうしたものかと頭を悩ます。

 どうやら今回もその様だ。

 実は今年のクリスマス、優樹は学園のクリスマスパーティーに初めて参加することにした。
 毎年学園では盛大に生徒達でクリスマスパーティーと言う名の、一見すると解り難いが一種のαとΩの出会いの場を提供する。
 元々αとΩの専門の学園と言うだけあり、出来るだけ出会いをさせてやりたいと言う学園の主旨がある。元々数の少ないαに更に希少なΩ、もっともっと稀少な男Ωはほっとくと滅多なことでは出会いがなく、特に男性Ωは拍車が掛かって出会いが無いに等しい。
 男性だからと引っ込むΩが多いのだ。
 更にはα女性も婚活には向いていないとも言われている。
 理由は男性Ωと違い、所謂肉食系が多いからΩ側が逃げてしまう例が多いらしい。
 また、性格も激しいものも多いとか何とか…勝手な噂だとは思うが、そんなのは一握りだろうと俺は思っている。現に知り合いのα女性は活発で勝気だが、好きな男性の前ではどういった態度が良いのだろうかと一時期何度も相談をされて驚いたと同時に、笑ってしまった。

 こういう姿をそのまま相手にすれば即落ちるぞと伝えたら、本当に落としてしまったのは今でも笑い話だ。なお相手の男性も俺の知り合いだったから変に嫉妬されて大変だったが、阿須那の事を知っているので本気で嫉妬はしていなかった様だったが。

 さて、昔話は兎も角。

 学園のクリスマスパーティーは毎年様々な人々…主にαとΩだけだが…独り者が参加しに来るため、学園の者達だけではなく、隣町や遠方に住んでいて未だに番相手が居ない者達も参加するため…。

 まぁ、なんだ。
 前回のハロウィンパーティーと同じ様になる。

 ただクリスマスパーティーはαとΩの出会いの場を提供する場であるため、俺達βは不参加一択。また既婚者も同じく不参加一択。
 そのために幾ら親とは言え参加する権利はない。
 警備に付くとか裏方に付くとなれば別だが、俺は基本保健室常務の先生だから参加する義務も無いし、逆に校長先生や教頭先生から「参加させられなくて申し訳無い。」と沢山の謝りの言葉と前日にクリスマス用のケーキやらオードブルが自宅に届けられて恐縮した。
 気を使わせてほんっと、申し訳無い。
 とは言え学園に勤めているβ全員に毎年気を使って贈ってくれるらしいから、有り難く頂くことにした。何せ事前に調べたのか、阿須那の好物の品が幾つか入っていたからな~。
 流石人材育成教育に力を入れている学園だ。
 お陰様で阿須那の好感度が爆上がりだ。
 とは言え優樹のパーティー参加で速攻下降していったが。


 そんな訳でここ数日阿須那の神経がクリスマスが近付くにつれ、何時になくピリピリしていた。
 何せ俺との床の最中でも何かしら気にしていて、何時もよりも神経質になり妙に心配していたから困ったものだ。
 確かに優樹は可愛い一人息子だが、アイツには現在皇が居るだろうに。

 だからこそ心配なのかも知れんが。
 だがなぁ、優樹って結構ボケてる所があるから皇が居れば大丈夫じゃないか?彼奴等運命の番っぽいし、皇が居れば優樹を守ってくれるだろうし、俺は其処の所は信用しているぞ。アイツ芸能人だけど良いやつだし、何より優樹を大事にしてくれているし。ココ重要な?


「あの、皇さんと少し、少しだけ一緒に遅くなったら駄目、かな。」

「!!」


 あ。
 阿須那が目を…刮目せよ!じゃなくって、えーと驚きの余り見開いて止まった。
 いやまぁ、俺も驚いたけどよー。
 皇~お前、もう優樹を落としたんか?
 え、マジ?
 まさか既にもう番関係結んだとか言わないよな?
 な、な、な?もしそうならやべーよ。今の阿須那の顔、皇に見せたらアイツ死ぬんじゃねえ?精神的に。と言うか、幾ら素直な性格だとは思うが喋って良いことと悪いこと位そろそろ覚えようぜ?
 まぁ、それぐらい阿須那の事を信用して居るのだろうけど。


「そうか、ふーん…。」


 あ。やべ。
 阿須那がブツブツと「不破の貸しを一つ使うか…。」とか呟いているしーっ!いや、アイツ貸しがあっても人殺しまではしないよ?社会的な抹殺等、昔はしていたらしいけどね。でも現在のアイツはほら、来年早々に産まれる子供の為に必死でお父さんになるために勉強しているよ!?
 赤銅未明と共に生まれて来る子供のために講習とか何度も受けに行っているんだぜ!?
 だから止めて置いてあげて!

 よし、今だ!優樹行け!ココはお父さんに任せなさい!
 陽平父さんの屍を越えていけっ!

 大袈裟だと思うな、これから俺は…っ!


「ふ~ん、へ~…陽平は皇の味方って訳か、成程。」


 おおぅ、不機嫌全開の阿須那さんのお顔頂きました―ッ!
 あいっかわらず美麗ですね、綺麗ですね俺の嫁さんは。無意識にゴクリと喉が鳴ってしまいましたよ、ハハハ。やっべー好き過ぎるぞ俺。


「嫁…好きって……。」


 あ。
 ちょ、何その顔ーっ!
 プルプルして可愛い。嫁とか俺の好きって言葉に即反応しちゃう辺り堪らんっ!
 気が付いたら居なくなっていた優樹に、「優樹ってこういう所だけ空気を読むの早いなっ」と文句を言う阿須那に苦笑しつつ、


「それじゃ、俺達も祝うか。」


 阿須那を抱き寄せてから頬にキスを落としつつ、尻を撫でると「口が良い」と拗ねる。
 可愛いっつーの堪らんっ!!
 その後ちゃっかり唇にキスを落とすと、「昼前だからまだ駄目。」と若干お預けを食らったが、(学園のクリスマスパーティーは昼から)散々彼方此方触りまくっていたらお許しが出て昼日中から触れる事が出来た。昼からたっぷり突っ込…ゴホン、夕刻も過ぎた頃に阿須那はダウンしちまったのは残念だったがが。





 ※





 俺達夫夫が致して軽く眠ってから優樹が帰宅して来た。結構遅い時間に帰宅して来た事により阿須那の機嫌が下がるかと思ったが、何と優樹を送ってくれた皇とそのマネージャーと何故か杏花音が玄関に居て、


「カラオケ楽しかった―!また行こうね!」


 …どうやら優樹が遅くなると言っていたのは、学園のクリスマスパーティーは顔出しと料理目当てで行き、その後番やら相手がいるΩにとっては煩わしいからと、とっとと退場。
 その後皇の実家が主催している某高級ホテルの会場で開かれたクリスマスパーティーに招待され、全員で行って楽しみ、お土産を貰ってから更に京夏と杏花音の主導の元、ショッピングやらカラオケを楽しんで来たらしい。
 何故か、マネージャーと約1名学園のカフェで見たことがある人物を連れて。


「阿須那父さん、陽平父さん!見てみて!初めて食べたのだけどこのお菓子美味しい~!お土産に沢山貰って来ちゃった!」


 とても嬉しそうに微笑む優樹を見て、先程まで少し拗ねていた阿須那も安心したのかほっこりした笑顔を浮かべている。そして、その様子を見ている皇まで嬉しそうだ。


「ね?」


 杏花音がニヤリとした笑みを浮かべて此方を見ている。
 …さてはお前、何か入れ知恵したな?


「(だって折角のクリスマスだもの、叔父さん達夫夫に遠慮無く過ごして欲しいってものでしょ♪)」


 …どうやら俺は随分と物分りの良い身内(親戚)を持ったらしい。
 皇のマネージャーは若干疲れた顔付きで此方を見ているので、後で何かお礼をしなければならないだろう。


「このお菓子の作り方陽平父さんわかる?僕作ってみたい!」


 何故かキラキラした顔で此方を見詰めて来る優樹。
 そしてそのお菓子を摘んで同じくキラキラした期待を含んだ阿須那の顔。
 余程美味しかったのだろうなぁ、ああ可愛い。

 …この二人ほんっとーに親子だよなぁ。こういう時ホント、顔ソックリ。


「あーわかったわかった、後で調べてみるから作り方解ったら一緒に作るか?」

「うん!」

「はいは~い、お裾分け希望!」


 杏花音お前さてはソレが目当てだったのでは無いだろうなぁ?


「いやーだって、会場にあったのはメジャーなイチゴ味とチョコ味だったから、陽平叔父さんならオレンジ味とか別の味作ってくれそうだし?」


 確かにマカロンとかの手間が掛かるお菓子類は、忙しいと沢山の種類の味とかって置いていないだろうなぁ。それよりなら別のお菓子を制作するだろうし。


「僕ね、カシスとレモンがいいなぁ。」


 優樹、何故其処で皇をチラ見する。
 皇も皇で優樹を見て嬉しそうだ…ああ、うん。阿須那、俺の足を踏むな。嫉妬しなくても俺は阿須那しか見ていないからって、あーはいはい、優樹ですね、ハイ。
 頼むからグリグリしないで下さい。


「じゃ!叔父さんお裾分け頼むね~!」


 と、空気を読んで杏花音は皇達御一行を連れてさっさと帰って行った。
 …若干1名その姿をボンヤリ見ている人物が居るがって、息子だけどなーっ!阿須那の嫉妬が怖っ!正気に戻って義理息子ぉ!俺さっきから阿須那の足にグリグリされているっつーのぉ~!

 名残惜しげに片手上げて手を振っているし!
 皇もキャンピングカーから優樹を見ているしっ!
 お前等リア充かっ!
 俺もリア充だけどな!現在は伴侶に足をグリグリされているけどな!

 阿須那ーっ!
 嫉妬は程々にしろーっ!
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