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しおりを挟む慌ただしく父さん達が温泉旅行と言う名前の新婚旅行に出掛けて行ってから、僕は1階の玄関から居間に足を向ける。扉を開けてキョロキョロと左右に目線を向けると、阿須那父さんが言っていた通り居間のテレビの横にネットワークカメラが一台鎮座していた。
「本当にあったし。」
何だかなぁと思いつつ、そのカメラの上にハンドタオルを被せておく。
レンズ部分が被せたハンドタオルで隠れた事を確認し、もしかして他にもあるのでは無いだろうかと一通り探してみたが特に何も見当たらない。
どうやらこのカメラ一台だけ居間にあるようだ。
「全く、プライベートゼロにしてどうするのさ。」
物凄く嫌なんだよ、監視されているみたいで。ってネットワークカメラだから確かに監視だけどさ。心配なのはわかるけど、僕は犬や猫みたいなペットではありません。
それと先程父さん達が残していった数々の防犯グッズ。
ブザーは何かあった時の為には助かると思うから身に着けるけど、スタンガンは電力弱めとは言え何だか怖い。うっかり間違えて自分自身に使ってしまえば自滅以外無いわけで。
それでも一応何かあったら怖いからと玄関横にでも置いておくことにした。
「何だかな、フラグ立ったみたいで嫌だな。」
出来ればそんなフラグはバッサリと折りたいけど、そもそもそんなフラグ等ご遠慮したいし来ないで欲しい。いや、欲しいではなく来るなだよねぇ。
ブツブツ文句を言っていると、懐に入れていたスマホが鳴る。慌てて手に取ると、杏花音さんからメールが一通届いている。
『やっほー!優樹君のお父さん達、新婚旅行もう行った~?』
何とも彼女らしい元気な文章が書かれている。
「うん、ついさっき出掛けていったよ。出掛ける時一騒動あって、防犯グッズと家にネットワークカメラ一台置いて行った。っと、コレでいいかな。」
簡単に返信してテレビを付けて何かニュースでも入っていないかなとリモコンを操作していると、またスマホが鳴る。杏花音さんかな?とスマホの画面を見ると、皇さんからLIN○でメッセージが一件入っていた。
『近くに居る。寄って良いか?』
パッと居間の窓から外を覗くと、玄関の近くに例のキャンピングカー。
これは居ると言うよりもう目の前だよね?と思わず心の中で突っ込みつつ、身体はバタバタと急いで玄関へと向かう。
ついさっき部屋の中で皇さんのフェロモンの多さに落ち着かなかった癖に、何だかとても求めている様な気がして気恥ずかしい。それでも身体は止まること等なく、玄関へ辿り着くと問答無用で玄関の鍵を開け扉を開いた。
其処に驚いたようにして此方を向いて立つ、皇さん。
「倉敷。」
確認をしないで開けるなんてって言われてしまうだろうか。
それでも玄関に僕が来た時に皇さんの何時ものレモンのような香りがふわっと香って来て、扉の前に誰が立っているのか即わかったので確認をしないで開けてしまった。
ちょっとだけ咎めるような顔付きを浮かべた様な気がして、気分が少し凹む。
学校で少しの間会えたけれど、それはとても短時間で。
抱きしめられて制服や鞄にフェロモンの上書きをして貰ったけれど。
部屋に皇さんの匂いが濃厚に漂ったけれど。
匂いよりも何よりも、皇さん本人に会いたくなってしまったからで……。
「…不用心だぞ、倉敷。」
「うん。」
妙な間が空いて、注意をされる。
「連絡が来てから窓の外を見たら皇さんのキャンピングカーが見えて、玄関まで来たら皇さんの匂いがしたから、その、つい…。」
驚いた顔をして此方を見詰めて来る皇さん。
何故驚くのかな?
言い訳したのが不味かったかな。
「フェロモンを抑えていたのだが…。」
そんなに匂いがするか?と自身の匂いを嗅いで確認をしながら首を傾げている。
不思議そうにしている皇さんに僕は小首を傾げる。
「結構するよ?」
「…。」
黙って此方を見詰めて来る皇さん。
ジィっと伺うような雰囲気で、僕が居間から廊下に出た瞬間彼のフェロモンを感じ取れた。確かに微かな匂いのようには思うけれどなんで?と不思議に思っていたら、
「やはり『運命』なのだな。」
と言って玄関先で抱き締められた。
「運命?」
匂いぐらいで運命?と思っていると、
「普通βやαは微弱に出る位のフェロモンなら感じない。だが『運命の番』相手であるΩは、微かな匂いでも番相手であるαの匂いを感じ取るのだと言う。」
そうなのかな。
でも僕が『運命の番』だと言われても実感はないし、良くわからない。
陽平父さんや皇さんがよく言うけど、僕には判断がつかない。確かに皇さんのフェロモンにはクラクラするぐらい惹き付けられる程いい匂いだと思うけど。
と言うか抱きつかれている今もクラクラ目眩がするし、ちょっとヤバい。ニオイの発生源である皇さんの首筋に無意識にスリスリと擦り寄ってしまい、抑えが効かない。
更には皇さんから「倉敷可愛い…。」と、ちょっとデレ気味な皇さんの美声が僕の耳元で微かに聞こえてしまい、背筋がズゾゾゾと良くわからない、どこか体の芯が甘く痺れの様なモノが走る。
何だか身体が変な感覚がするけど、でも、でも!
はう…いい匂い。
「皇くーん、流石に何時までも人様の家の玄関先でラブシーンって言うのは不味いかな?」
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